第44話 試作五号、正式採用
月影渓谷からシズナへ戻った俺――ジョウゴたちは、そのまま銀麦亭ではなく、バルガの工房へ向かっていた。
理由はもちろん、《試作五号》の実戦試験結果を確認するためだ。
今日の戦闘では、月影渓谷南側に生息するLv13のロックリザードを相手に、これまで使ってきた《鉄刀・試作四号》と、新しく完成した《試作五号》の両方を実際に使用した。
通常攻撃。
受け流し。
《片手平突き》。
そして《魔力刃補助》。
同じ種類の魔物を相手にそれぞれを使ったことで、かなり分かりやすい比較データも取れている。
何より。
試作五号は。
壊れなかった。
それどころか。
予想以上だった。
バルガ「早く見せろ!」
ジョウゴ「今工房に入ったばかりだろ」
バルガ「実戦で使ったんだろ!?」
ジョウゴ「使った」
バルガ「ロックリザード斬ったんだろ!?」
ジョウゴ「斬った」
バルガ「魔力刃も!?」
ジョウゴ「使った」
バルガ「だったら早く!」
カイト「今日のバルガ、いつも以上だな」
レント「自分で作った武器の実戦結果だから当然だろう」
ミナ「私もちょっと気になる」
ジョウゴ「俺もだよ」
俺は腰から《試作五号》を外し、作業台へ置いた。
鞘から抜く。
淡い青色を帯びた刃文。
外見上。
欠け。
曲がり。
大きな傷。
なし。
バルガ「鑑定するぞ」
ジョウゴ「ああ」
表示。
《試作五号》
《分類:刀》
《品質:希少》
《状態:良好》
《耐久値:91%》
《魔力経路安定度:99.1%》
《魔力調整核:正常》
《魔力遮断刻印:正常》
《星蒼導流鋼芯:正常》
《構造変形:検出されず》
一瞬。
誰も喋らなかった。
最初に口を開いたのはミナだった。
ミナ「……九十一%?」
ジョウゴ「ああ」
カイト「今日結構斬ったよな?」
ジョウゴ「ロックリザード三体。それに魔力刃も何度か」
レント「硬い外殻にも当たっていた」
バルガ「それで九十一……」
バルガが画面を食い入るように見る。
そして。
ニヤリ。
バルガ「成功だ」
その声は。
いつもの大声ではなかった。
低く。
静か。
職人として。
確信したような声だった。
◇◇◇
まず。
通常斬撃。
試作四号。
ロックリザードの外殻を直接斬った場合、刃そのものは弾かれた。
しかし関節や腹部など、外殻の薄い場所なら十分に通用する。
これは以前から分かっていた。
一方で五号。
同じ外殻へ斬撃を入れた時。
完全に切断することはできなかった。
ただし。
わずかに。
食い込んだ。
バルガ「通常状態で?」
ジョウゴ「ああ」
バルガ「魔力刃なし?」
ジョウゴ「なし」
ミナ「私も見てたけど、四号より明らかに深かったよ」
レント「切断力が上がっている」
バルガ「刃の硬さだけじゃねぇな」
ジョウゴ「重心と剛性もあると思う」
五号。
試作四号よりわずかに軽い。
しかし。
ただ軽くしたわけではない。
俺の手元で制御しやすくしながら、斬撃時には刀身の重量が自然に乗るよう調整している。
つまり。
振りやすい。
そのうえ。
軽すぎない。
カイト「何か難しいな」
ジョウゴ「簡単に言えば」
俺は五号を持つ。
ジョウゴ「振りたい場所へ持っていきやすい。でも当たった時はちゃんと刀の重さが乗る」
カイト「なるほど」
ミナ「前より分かりやすい」
レント「カイト向け説明」
カイト「どういう意味だよ!」
◇◇◇
次。
受け流し。
これも。
かなり良かった。
ロックリザードの前脚による攻撃を直接受け止めるのではなく、刃の棟側を添えて軌道を変えた。
試作四号でも可能だった。
しかし五号は。
手元へ重心が近いため。
角度を。
細かく。
変えられる。
ジョウゴ「たぶん俺の戦い方だと、ここが一番大きい」
バルガ「魔力より?」
ジョウゴ「ああ」
バルガ「……」
バルガ。
少し。
意外そう。
ジョウゴ「魔力機構は強い。でも常に使うわけじゃない」
バルガ「まあな」
ジョウゴ「普通に斬って、流して、崩して。それがやりやすい方が重要」
試作五号。
最大の特徴。
魔力調整核。
星蒼導流鋼。
魔力遮断刻印。
でも。
それ以前に。
刀。
俺はそこを一番気に入っていた。
バルガ「……そっちを先に言われるとは思わなかった」
ジョウゴ「不満?」
バルガ「逆だ」
バルガは笑った。
バルガ「刀として良くなきゃ意味ねぇ」
ジョウゴ「だろ?」
バルガ「おう」
そこは。
意見が合った。
◇◇◇
そして。
最大の比較。
《魔力刃補助》。
実戦開始前。
青月石へ蓄積していた魔力。
《蓄積魔力:100%》
ロックリザードとの戦闘後。
《蓄積魔力:46%》
俺自身のMP。
戦闘開始時。
《MP:85/85》
戦闘終了時。
《MP:79/85》
ミナ「六しか使ってない」
カイト「少なっ」
レント「四号なら?」
ジョウゴ「同じ回数使えば、たぶん十以上」
魔力刃の出力によって差は出る。
だから完全な比較ではない。
でも。
明らかに。
消費量は減っている。
バルガ「青月石が半分以上肩代わりしたか」
ジョウゴ「ああ」
バルガ「再充填は?」
ジョウゴ「試した」
ミナ「休憩中にジョウゴが少しずつ魔力入れてたよ」
ジョウゴ「一気に満タンにするより、余裕がある時に補充できる」
レント「つまり戦闘と戦闘の間で充電できる」
カイト「充電式刀」
ジョウゴ「……間違ってないのが困る」
確かに。
そう言われると。
充電式。
ではある。
◇◇◇
ただし。
問題もあった。
バルガ「何か不満あるか?」
ジョウゴ「ある」
バルガ「あるのか!?」
ジョウゴ「だから実戦したんだろ」
俺は柄。
鍔元。
魔力調整核の位置を指す。
ジョウゴ「長時間使うと、ここが少し気になる」
バルガ「重さ?」
ジョウゴ「それもあるけど、魔力刃を連続で使った後」
ミナ「温かくなってた?」
ジョウゴ「ああ」
魔力調整核。
青月石。
蓄積。
放出。
それを繰り返す。
すると。
発熱。
ごく僅か。
でも。
俺には分かった。
バルガ「熱か」
レント「危険?」
ジョウゴ「今のところは」
実戦後。
《魔力調整核温度:許容範囲》
警告もない。
性能低下もない。
ただ。
連戦。
長時間。
もっと高出力。
そうなれば。
分からない。
バルガ「放熱構造が必要か」
ジョウゴ「五号に?」
バルガ「いや」
一拍。
バルガ「次だ」
ジョウゴ「もう六号考えてるのかよ」
バルガ「改善点が見つかったんだぞ!」
カイト「始まった」
ミナ「やっぱり六号」
レント「予想通り」
ジョウゴ「五号を少し使わせてくれ」
◇◇◇
もう一つ。
魔力遮断刻印。
こちらも。
正常に動作した。
戦闘中。
俺は一度だけ。
意図的に。
通常より高い魔力を流した。
もちろん。
最大出力ではない。
ただ。
遮断値の近く。
そこまで。
そして。
《過剰魔力流入を検出》
《魔力遮断刻印:作動》
《魔力供給を遮断しました》
正常。
再起動まで。
三十秒。
その間。
魔力刃。
使えない。
でも。
普通の刀としては。
使える。
ジョウゴ「ここも重要」
バルガ「魔力機構が止まっても戦える」
ジョウゴ「ああ」
もし。
魔力武器としてしか使えなかったら。
三十秒。
武器なし。
みたいなもの。
それでは困る。
でも。
五号。
違う。
魔力機構。
故障。
停止。
それでも。
刀。
残る。
ジョウゴ「最初に言った通り」
バルガ「普通の刀としても使えること」
ジョウゴ「そう」
バルガ。
頷く。
◇◇◇
そして。
システム。
ポーン。
《《試作五号》実戦運用データを確認しました》
全員。
視線。
画面。
《耐久性能:基準達成》
《通常刀剣性能:基準達成》
《魔力経路安定性能:基準達成》
《魔力調整核:正常動作》
《魔力遮断刻印:正常動作》
《実戦運用条件を達成しました》
俺は。
少し。
息を吐く。
そして。
次。
《《試作五号》の試作運用評価が確定しました》
《評価:SS》
「……」
俺。
止まる。
ミナ「SS!?」
カイト「またSS!?」
レント「武器にも評価あるのか」
バルガ「SS……」
灰色谷。
救出作戦。
SS。
ルクの長期クエスト。
SS。
そして。
今度は。
刀。
試作評価。
SS。
ジョウゴ「ちょっと出来すぎじゃない?」
バルガ「何言ってんだ!」
バルガ。
俺の肩。
掴む。
バルガ「何回失敗したと思ってんだ!」
ジョウゴ「痛い痛い」
バルガ「一号から!」
ジョウゴ「分かった」
バルガ「何回作り直した!」
ジョウゴ「分かったって」
バルガ「だったら胸張れ!」
「……」
俺。
試作五号。
見る。
確かに。
簡単。
では。
なかった。
一号。
二号。
三号。
四号。
そして。
素材。
魔力。
東方刀《月白》。
全部。
そこまで。
やった結果。
五号。
「……そうだな」
俺。
少し。
笑う。
ジョウゴ「SSか」
ミナ「おめでとう!」
カイト「やったな!」
レント「ああ」
バルガ「当然だ!」
ジョウゴ「バルガもな」
バルガ「……おう!」
◇◇◇
さらに。
通知。
《地域武器技術審査条件を達成しました》
《シズナ鍛冶師ギルドへの正式申請が可能になりました》
バルガ「行くぞ!」
ジョウゴ「今?」
バルガ「今!」
ジョウゴ「もう遅い」
バルガ「明日!」
ジョウゴ「そこは明日でいい」
バルガ「よし!」
切り替え。
早い。
◇◇◇
そして。
もう一つ。
《装備変更を確認しました》
《主武器として登録しますか?》
表示。
俺の前。
《鉄刀・試作四号》
現在主武器。
その下。
《試作五号》
選択。
俺は。
少しだけ。
止まった。
四号。
十分。
強い。
何度も。
戦った。
南洞窟。
アーマードミノタウロス。
月影渓谷。
全部。
助けられた。
でも。
五号。
その四号の先。
だから。
迷う理由はない。
《YES》
選択。
ポーン。
《主武器を変更しました》
《旧主武器:鉄刀・試作四号》
《新主武器:試作五号》
ミナ「変えた?」
ジョウゴ「ああ」
カイト「五号が主武器?」
ジョウゴ「今日から」
バルガ「名前!」
ジョウゴ「試作五号」
バルガ「もっと何かあるだろ!」
ジョウゴ「試作品だし」
バルガ「SSだぞ!」
レント「性能に名前は関係ない」
バルガ「ロマンがあるだろ!」
カイト「そこは分かる」
ジョウゴ「カイトまで」
とはいえ。
確かに。
いつまでも。
試作。
というのも。
少し。
違う気がする。
でも。
「まだ」
俺。
バルガ「何が?」
ジョウゴ「正式審査」
バルガ「……」
ジョウゴ「通ったら考える」
バルガ「約束だぞ!」
ジョウゴ「ああ」
◇◇◇
銀麦亭。
夕食。
今日の実戦配信。
結果。
CROSS LIVE。
《最大同時視聴者数:148,731》
かなり多い。
コメント要約。
《試作五号への反応:非常に高い》
《鍛冶工程への質問多数》
《魔力調整核への関心多数》
《ジョウゴの受け流しへの質問多数》
「また講座やる?」
ミナ。
ジョウゴ「受け流し?」
ミナ「コメント」
ジョウゴ「そのうちな」
カイト「俺も覚えたい」
ジョウゴ「盾で?」
カイト「盾でも流せるって言ってただろ」
ジョウゴ「言った」
カイト「教えて」
「……」
俺。
考える。
カイト。
今。
防御力53。
《ガードスタンス》。
真正面から。
受けられる。
でも。
流す。
覚えたら。
さらに。
盾。
長持ち。
本人。
負担。
減る。
ジョウゴ「いいよ」
カイト「本当か!?」
ジョウゴ「ああ」
ミナ「次はカイトの盾講座?」
レント「面白そうだ」
カイト「よし!」
◇◇◇
その時。
ポーン。
CROSS社。
神崎。
『ジョウゴ様。本日の配信、お疲れさまでした』
『試作五号の実戦試験について、非常に高い視聴反応が確認されています』
『特に武器製作から実戦までを継続して追う形式が好評です』
俺。
読む。
『今後も通常のAWO生活を優先していただき、その中で刀研究が進展した際に配信していただく形で問題ありません』
ジョウゴ「……ありがたいな」
ミナ「何?」
ジョウゴ「刀配信増やせ、じゃなくて今まで通りでいいって」
レント「CROSSはその辺り一貫してる」
カイト「本業優先、ゲームも普通に遊べってこと?」
ジョウゴ「そういうこと」
それが。
いい。
配信のために。
刀。
作るわけじゃない。
視聴者のためだけに。
冒険するわけでもない。
俺が。
AWOで。
遊ぶ。
その一部。
配信。
それでいい。
◇◇◇
俺は。
腰。
試作五号。
触る。
今日から。
主武器。
まだ。
名前。
試作。
でも。
俺にとっては。
もう。
ただの試作品ではない。
戦える。
使える。
信用できる。
一本。
ジョウゴ「次は鍛冶師ギルドか」
バルガ「明日だ!」
いつの間にか。
バルガ。
また。
隣。
ジョウゴ「だから近い」
バルガ「正式審査!」
ジョウゴ「分かってる」
バルガ「通ったら名前!」
ジョウゴ「覚えてたのか」
バルガ「当然!」
ミナ。
笑う。
ミナ「どんな名前にする?」
ジョウゴ「まだ考えてない」
カイト「星とか月とか入れる?」
レント「青月石を使っているからな」
バルガ「格好いいやつにしろ!」
ジョウゴ「自分で使う刀だから自分で決める」
バルガ「俺も作った!」
ジョウゴ「じゃあ相談」
バルガ「よし!」
こうして。
《試作五号》は。
実戦試験を。
無事。
突破した。
評価。
SS。
そして。
今日から。
俺の新しい主武器。
次は。
シズナ鍛冶師ギルド。
そこで。
この刀に使われた新しい技術が。
正式に。
AWO世界の技術として認められるか。
審査される。
さらに。
その先では。
《試作五号》ではない。
この刀自身の。
新しい名前。
それを。
決める時も。
近づいていた。




