第42話 試作五号、完成 翌日。
俺――上塚賢吾は、いつも通り銀行での仕事を終えて帰宅した。
夕食を取り、風呂を済ませ、家事と翌日の準備まで終える。
そして自室へ入ると、VR機器の前に座った。
昨日。
《試作五号》は、ようやく主要部分まで完成した。
《星蒼導流鋼》を内部の芯として使い、その周囲を高密度鉄、黒鉄、蒼鉄の複合材で包んだ刀身。
さらに、鍔元には青月石を利用した《魔力調整核》を組み込み、一定以上の魔力が流れた場合には《魔力遮断刻印》が作動する。
試験では、青月石に蓄積された魔力だけで《魔力刃補助》を起動できた。
そのうえ、蓄積魔力が残っている間は、斬撃時に俺自身が消費するMPも、試作四号のおよそ半分まで減少していた。
「でも、まだ完成じゃない」
柄。
鍔。
最終研ぎ。
そして重心調整。
最後に実際に振って、俺の身体に合うかを確認する。
そこまでやって初めて、一本の武器として完成だ。
俺はVR機器を装着した。
《リアルコンディションチェックを開始します》
《睡眠状態:良好》
《栄養状態:問題なし》
《水分状態:問題なし》
《体温:正常範囲》
《身体活動:良好》
《フルダイブ可能》
ジョウゴ「今日も問題なし。ログイン」
意識がAWOへ切り替わった。
◇◇◇
銀麦亭。
客室から一階へ下りる。
すると。
バルガ「遅ぇ!」
ジョウゴ「はいはい」
バルガ「今日は反応薄くねぇか!?」
ジョウゴ「毎回だから慣れた」
ミナ「ジョウゴ、おかえり!」
カイト「今日で完成するか?」
レント「バルガはするつもりらしい」
バルガ「当然だ!」
ジョウゴ「実戦試験前までな」
バルガ「そこまで行けば完成みてぇなもんだろ!」
ジョウゴ「駄目」
バルガ「なんでだ!」
ジョウゴ「実戦で折れたら完成とは言えない」
バルガ「縁起でもねぇ!」
そう言いながらも、バルガ自身、本当に完成したとはまだ思っていないはずだ。
職人なら。
作っただけでは終わらない。
実際に使えるか。
そこまで見て初めて評価できる。
マリア「ジョウゴ、先に何か食べるかい?」
ジョウゴ「軽くお願いします」
バルガ「先に工房!」
マリア「バルガさん」
バルガ「……食ってからでいい」
カイト「強い」
ミナ「マリアさん最強」
マリア「何の話だい?」
ジョウゴ「何でもありません」
◇◇◇
食事を済ませ。
俺たちはバルガの工房へ向かった。
作業台。
中央。
昨日仮組みした《試作五号》。
まだ柄巻きは途中。
鍔も試験用。
刃も最終仕上げ前だ。
それでも。
もう。
刀にしか見えない。
銀色の刀身。
淡く青みを帯びた刃文。
鍔元には、《魔力調整核》を収める専用構造がある。
ジョウゴ「昨日から変化は?」
バルガ「見ろ」
鑑定。
《試作五号・仮組状態》
《魔力経路安定度:99.0%》
《魔力調整核:正常》
《魔力遮断刻印:正常》
《刀身変形:なし》
《接合部異常:なし》
ミナ「一晩経っても九十九%」
レント「ほぼ変化なし」
ジョウゴ「自己安定性、かなり効いてるな」
バルガ「ここまで安定すりゃ十分だ」
確かに。
それでも、俺は刀を手に取った。
まず。
何もせず。
握る。
「……」
重心。
柄。
手の中。
少し。
違和感。
バルガ「どうだ?」
ジョウゴ「鍔元が少し重い」
バルガ「魔力調整核の分だ」
ジョウゴ「昨日より気になる」
バルガ「仮柄だったからな」
魔力調整核。
青月石。
黒鉄枠。
銀星砂導電層。
どうしても普通の鍔より重量が増える。
ただ。
重い。
というより。
「手元に寄りすぎてる」
バルガ「駄目か?」
ジョウゴ「いや」
俺は振る。
縦。
横。
斜め。
止める。
切り返す。
軽い。
かなり。
でも。
試作四号とは違う。
ジョウゴ「受け流しにはいい」
バルガ「ならいいじゃねぇか」
ジョウゴ「ただ、斬り抜く時に少し軽すぎる」
ミナ「軽い方が速いんじゃないの?」
ジョウゴ「速い。でも、切先側の重さも必要なんだ」
カイト「重い方が斬れる?」
ジョウゴ「単純にはそうじゃないけど、刀の重さを使う部分もある」
レント「身体で全部振らなくても、刀自身が走る」
ジョウゴ「そう」
レント。
分かってる。
弓でも。
道具の性質を使う。
力だけで動かすわけじゃない。
バルガ「じゃあ切先側を少し重くするか?」
ジョウゴ「ほんの少し」
バルガ「どれくらい?」
俺は試作四号を抜く。
右手。
試作五号。
左手。
試作四号。
交互。
振る。
止める。
また振る。
ジョウゴ「四号より手元寄り。でも昨日ほどじゃなくていい」
バルガ「細けぇ」
ジョウゴ「俺用なんだろ?」
バルガ「そうだった!」
なら。
妥協しない。
◇◇◇
鍔。
変更。
試験用に使っていた厚めの鍔から、少し軽いものへ交換する。
ただし。
魔力調整核の保護。
そこは必要。
だから。
鍔自体を薄くするのではなく。
外周部。
余分な重量を削る。
さらに。
柄頭。
内部金具。
少しだけ軽量化。
バルガ「これ以上軽くすると耐久が落ちる」
ジョウゴ「じゃあそこまで」
再度。
組む。
握る。
振る。
「……」
ミナ「どう?」
ジョウゴ「近い」
バルガ「近い?」
ジョウゴ「あと少し切先」
バルガ「今度は前か!」
ジョウゴ「一グラムとかそのくらい」
バルガ「分かるか!」
ジョウゴ「分かる」
バルガ「お前面倒くせぇ!」
カイト「職人泣かせ」
レント「専用品だから仕方ない」
結局。
切先側。
刀身そのものは弄らない。
代わりに。
鎺。
鍔元と刀身の接続位置。
ほんのわずかに調整。
それだけで。
重心が数ミリ前へ移る。
俺は。
もう一度。
振る。
縦。
横。
返し。
突き。
停止。
そして。
受け流しを想定した斜めの動き。
「……これ」
バルガ「どうだ?」
ジョウゴ「いい」
バルガ。
一瞬。
止まる。
そして。
バルガ「よっしゃ!」
ジョウゴ「まだ刃」
バルガ「分かってる!」
◇◇◇
最終研ぎ。
ここは。
一番。
静かな作業になった。
荒砥。
中砥。
仕上げ。
刃。
少しずつ。
出す。
削りすぎれば。
戻らない。
俺も。
横。
手伝う。
刃角。
均一。
そして。
切先。
特に慎重。
刀身内部。
星蒼導流鋼。
中心。
そこへ影響しないように。
時間。
かかる。
でも。
急がない。
研ぎ。
続く。
そして。
最後。
布。
拭く。
刀身。
光。
銀。
青。
刃文。
以前より。
はっきり。
ミナ「綺麗……」
カイト「これ、本当に試作品?」
レント「見た目だけなら完成品だな」
ジョウゴ「見た目だけなら」
バルガ「そこ否定すんな!」
◇◇◇
柄。
最後。
柄巻き。
これも。
試作四号と同じではない。
魔力調整核。
鍔元。
交換式。
だから。
柄を全部外さなくても、調整核へアクセスできる構造にする必要がある。
バルガ。
そこ。
かなり工夫した。
鍔元近く。
小さな固定金具。
外す。
魔力調整核。
抜ける。
交換。
戻す。
固定。
カイト「武器っていうより機械みたいだな」
ジョウゴ「中身は結構そう」
ミナ「でも見た目は普通の刀」
ジョウゴ「それがいい」
外から。
見れば。
刀。
でも。
内部。
魔力経路。
調整核。
遮断刻印。
全部。
組み込まれている。
◇◇◇
最後。
鞘。
試作四号のものは。
微妙に合わない。
バルガ「新しく作る」
ジョウゴ「今日は間に合う?」
バルガ「木工職に頼んである」
ジョウゴ「いつの間に」
バルガ「昨日!」
準備。
早い。
しばらくすると。
工房へ。
木工職人。
NPC。
完成前の鞘。
最終調整。
刀身。
合わせる。
鞘走り。
確認。
抜く。
納める。
引っ掛かり。
なし。
「いい」
俺。
◇◇◇
そして。
作業台。
一振り。
完成。
システム。
ポーン。
《特殊武器製作を確認》
《鑑定処理中》
全員。
見る。
《試作五号》
《分類:刀》
《品質:希少》
《製作者:バルガ/ジョウゴ》
《魔力工程協力:ミナ》
《主要素材:高密度鉄・黒鉄・蒼鉄・星蒼導流鋼・銀星砂・青月石》
《重量:軽》
《耐久性:非常に高い》
《魔力伝導:非常に高い》
《魔力経路安定度:99.2%》
《特殊機構:魔力調整核》
《特殊機構:魔力遮断刻印》
《特殊効果:魔力刃補助》
《特殊効果:蓄積魔力補助》
《特殊効果:魔力経路自己安定》
《専用調整:ジョウゴ》
「……」
俺。
止まる。
バルガ。
口。
開いてる。
ミナ「品質、希少!」
カイト「耐久、非常に高い!」
レント「安定度99.2%」
バルガ「来た……」
ジョウゴ「何?」
バルガ「来たぞ!」
そして。
さらに。
ポーン。
《地域武器技術更新》
《複合鍛造刀》
《新規派生構造を確認》
《星蒼導流鋼芯》
《交換式魔力調整核》
《魔力遮断刻印》
《登録審査対象》
「審査」
俺。
バルガ「また鍛冶師ギルドだ!」
ジョウゴ「実戦終わってからでいい」
バルガ「今出す!」
ジョウゴ「駄目」
バルガ「なんでだ!」
ジョウゴ「実戦耐久試験が終わってない」
バルガ「完成って出たぞ!」
ジョウゴ「システム上はな」
レント「ジョウゴが納得してない」
ミナ「たぶん実際に斬るまで無理」
カイト「いつものやつ」
そう。
完成表示。
それは。
作れた。
という意味。
使える。
とは。
まだ。
限らない。
◇◇◇
俺は試作五号を持つ。
工房裏。
試し斬り場。
まず。
魔力なし。
木杭。
構える。
重心。
良い。
踏み込み。
通常。
「ふっ!」
斬。
スッ。
木杭。
斜め。
ずれる。
落ちる。
「……」
軽い。
でも。
軽すぎない。
刃。
走る。
切先。
残る。
次。
受け流し。
カイト。
木剣。
カイト「俺?」
ジョウゴ「軽く打って」
カイト「分かった」
木剣。
振る。
俺。
試作五号。
刃ではなく棟側。
添える。
流す。
スッ。
以前より。
明らかに。
動かしやすい。
ジョウゴ「いい」
カイト「それだけ?」
ジョウゴ「かなりいい」
バルガ「もっと褒めろ!」
ジョウゴ「まだ魔力」
◇◇◇
魔力調整核。
青月石。
事前蓄積。
残量。
《蓄積魔力:82%》
ジョウゴ「起動」
俺。
少し。
魔力。
送る。
青月石。
反応。
内部。
星蒼導流鋼。
刃。
スゥゥゥ――。
青白い光。
試作四号。
より。
穏やか。
でも。
光。
濃い。
《魔力刃補助:ON》
《起動消費MP:0》
《魔力経路安定度:99.4%》
ミナ「さらに上がった」
レント「使用中の方が安定する?」
ジョウゴ「魔力が流れることで経路が固定されるんだと思う」
バルガ「魔力同調系と同じだな」
木杭。
新品。
俺。
構える。
斬。
スッ――。
音。
ほとんど。
ない。
木杭。
一瞬。
そのまま。
そして。
上半分。
滑る。
落ちる。
「……」
カイト「切れすぎじゃない?」
ミナ「前より速かった」
レント「抵抗が少ない」
俺。
刀身。
見る。
《本人MP:85/85》
「MP減ってない」
ミナ「蓄積魔力だけ?」
ジョウゴ「ああ」
《蓄積魔力:76%》
六%。
消費。
本人。
ゼロ。
「これ」
俺。
「かなり強い」
思わず。
口。
出る。
でも。
同時に。
危険。
感じる。
ジョウゴ「だからこそ実戦必要」
バルガ「またそれか!」
ジョウゴ「ここまで性能上がると、変なところに負荷が集中してる可能性もある」
バルガ「……」
バルガ。
止まる。
そして。
バルガ「確かに」
納得。
早い。
やっぱり。
職人。
◇◇◇
実戦。
場所。
相談。
ミナ「南街道?」
カイト「Lv10くらいの魔物?」
レント「それだと耐久試験にならない」
ジョウゴ「Lv12から13くらい」
俺たち。
全員Lv12。
ちょうどいい。
月影渓谷。
ロックリザード。
Lv13。
硬い。
耐久。
切れ味。
魔力。
全部。
試せる。
でも。
グランドロックリザード。
そこは。
避ける。
ジョウゴ「月影渓谷の南側」
ミナ「ロックリザード」
ジョウゴ「ああ」
カイト「また行くの?」
ジョウゴ「第三支坑には入らない」
レント「外側だけなら問題ない」
バルガ「俺も行く!」
ジョウゴ「駄目」
バルガ「なんでだ!」
ジョウゴ「戦闘試験だから」
バルガ「見たい!」
ジョウゴ「配信する」
バルガ「じゃあ配信見る!」
ジョウゴ「その方がいい」
◇◇◇
CROSS LIVE。
通知。
神崎さん。
『次回配信予定が決まりましたらお知らせください』
ちょうどいい。
俺。
返信。
『新武器の実戦試験を予定しています』
『通常のAWO配信として実施します』
少しして。
『承知しました』
『安全を優先してお楽しみください』
いつもの。
CROSS社。
無理に。
数字。
求めない。
ありがたい。
◇◇◇
俺は試作五号を鞘へ納める。
カチッ。
音。
収まる。
腰。
下げる。
試作四号も。
予備。
持つ。
まだ。
五号だけ。
頼らない。
ミナ「二本持っていくの?」
ジョウゴ「ああ」
カイト「五号壊れた時?」
ジョウゴ「その時も」
レント「比較もできる」
ジョウゴ「そういうこと」
四号。
五号。
実戦。
同じ相手。
比較。
それで。
本当に。
五号。
完成。
言える。
◇◇◇
その夜。
銀麦亭。
食事。
ミナ。
《満腹度:72%》
ミナ「今日はデザート一個!」
ジョウゴ「普通になってきたな」
ミナ「成長!」
カイト。
葡萄ジュース。
カイト「俺も成長!」
ジョウゴ「それは酒やめただけ」
カイト「大事!」
レント。
いつもの。
静か。
そして。
俺。
腰。
新しい刀。
試作五号。
「……」
少し。
重さ。
感じる。
四号。
初めて完成した時。
嬉しかった。
でも。
今回。
違う。
長かった。
素材探し。
月影渓谷。
青月石。
星蒼導流鋼。
青鉄砂。
魔力調整核。
遮断刻印。
ミナ。
バルガ。
仲間。
全部。
積み重ね。
一本。
なった。
バルガ「ジョウゴ!」
工房から。
まだ。
声。
聞こえる。
バルガ「明日絶対壊すなよ!」
ジョウゴ「壊れるかどうか試すんだよ!」
バルガ「壊すなぁぁぁ!」
カイト「どっちだよ」
レント「職人としては正しい」
ミナ「壊れないか試してほしい。でも壊してほしくない」
ジョウゴ「難しいな」
俺たちは。
笑う。
そして。
次。
月影渓谷。
《試作五号》。
初実戦。
作る段階。
終わった。
次は。
戦場。
そこで。
この刀が。
本当に。
俺の武器として使えるか。
確かめる。
試作五号。
最初の一戦が。
いよいよ。
始まろうとしていた。




