第41話 焼き入れと魔力調整核
翌日。
俺――上塚賢吾は、いつも通り銀行での仕事を終え、帰宅すると夕食と風呂を済ませた。
昨日、《試作五号》は刀身素体まで完成した。
星蒼導流鋼を芯に使い、その外側を高密度鉄、黒鉄、蒼鉄の複合材で包んだ新しい刀身。
鑑定結果では、《魔力経路安定度98%》という今までで最も高い数値が出ている。
ただし、それはまだ焼き入れ前だ。
ここから熱処理を行い、刀として必要な硬さと粘りを引き出さなければならない。
さらに、その後には青月石を利用した《魔力調整核》の本装着も待っている。
「今日は重要だな」
俺はVR機器を装着する。
《リアルコンディションチェックを開始します》
《睡眠状態:良好》
《栄養状態:問題なし》
《水分状態:問題なし》
《体温:正常範囲》
《身体活動:良好》
《フルダイブ可能》
問題なし。
ジョウゴ「ログイン」
意識がAWOへ切り替わった。
◇◇◇
銀麦亭。
客室から一階へ下りる。
バルガ「遅ぇぇぇぇぇ!」
ジョウゴ「今日は何時間待ってた?」
バルガ「朝から!」
ジョウゴ「もう驚かない」
ミナ「ジョウゴ、おかえり!」
カイト「バルガ、今日ずっと落ち着かなかったぞ」
レント「銀麦亭と工房を往復していた」
マリア「床が減るんじゃないかと思ったよ」
バルガ「減らねぇよ!」
ジョウゴ「それだけ待ってたなら昼飯は?」
マリア「ちゃんと食べさせたよ」
ジョウゴ「ありがとうございます」
バルガ「俺は子供じゃねぇ!」
マリア「放っておいたら鍛冶だけしてるだろ?」
バルガ「……」
カイト「黙った」
ミナ「図星だね」
今日も平常運転だった。
バルガ「とにかく工房だ! 今日は焼き入れだぞ!」
ジョウゴ「ああ」
俺も今日は長話をするつもりはない。
試作五号。
ここからが一つの山場だ。
◇◇◇
バルガの工房。
作業台には、昨日完成した刀身素体が置かれている。
《試作五号・刀身素体》
まだ刃は付いていない。
しかし形状はすでに刀だ。
試作四号よりわずかに切先側が軽くなるよう調整し、俺が受け流しや切り返しを行いやすい重心を狙っている。
ジョウゴ「一晩置いて変化は?」
バルガ「ほとんどねぇ」
鑑定。
《魔力経路安定度:97.9%》
ジョウゴ「0.1しか落ちてない」
ミナ「ほぼそのまま」
バルガ「自己安定性が効いてる」
レント「問題は焼き入れ後だな」
バルガ「そういうことだ」
焼き入れ。
高温まで加熱した刀身を急冷し、硬さを出す工程。
ただし今回は普通の鋼ではない。
内部に《星蒼導流鋼》の魔力経路を持っている。
熱。
急激な冷却。
その二つが経路へどう影響するか。
完全には分かっていない。
ジョウゴ「前に《魔力同調焼入れ》をやったよな」
バルガ「ああ」
ミナ「私が魔力流しながら冷やしたやつ?」
ジョウゴ「そう」
星蒼複合鋼の試作時。
焼き入れ中にミナが一定量の魔力を流すことで、魔力経路の乱れを防ぐどころか、逆に安定させる結果が出た。
その技術は現在、《魔力同調焼入れ》として研究対象になっている。
バルガ「今回もやる」
ミナ「分かった」
ジョウゴ「ただし、前と同じ量でいい?」
バルガ「いや」
バルガが刀身素体を見る。
バルガ「今回は芯が違う。星蒼導流鋼は魔力を通しすぎる」
ジョウゴ「弱め?」
バルガ「ああ。今までの七割くらい」
ミナ「細く長く流す感じ?」
バルガ「それだ」
ミナ「任せて!」
◇◇◇
まず、刀身へ焼刃土を塗る。
刃側。
薄く。
棟側。
厚く。
場所によって冷却速度を変えるためだ。
俺も何度か作業しているが、ここはバルガの方が圧倒的に上手い。
ジョウゴ「やっぱり均一だな」
バルガ「何年やってると思ってんだ!」
ジョウゴ「褒めただけ」
バルガ「もっと褒めろ!」
カイト「扱い面倒だな」
レント「今さらだ」
バルガ「聞こえてるぞ!」
焼刃土が整う。
次。
炉。
刀身。
ゆっくり。
加熱。
赤。
橙。
温度。
俺とバルガ。
二人で見る。
バルガ「まだだ」
炎。
刀身。
芯。
魔力。
内部。
感じる。
ジョウゴ「星蒼導流鋼、少し反応してる」
ミナ「私にも分かる」
バルガ「熱で魔力が動いてる。まだ流すな」
ミナ「うん」
さらに加熱。
そして。
バルガ「……今だ」
刀身を炉から出す。
赤熱。
光。
そこへ。
バルガ「ミナ!」
ミナ「いくよ!」
魔力。
弱く。
細く。
青。
刀身の中へ。
星蒼導流鋼。
赤い鋼の中。
青い線。
ジョウゴ「流れてる」
バルガ「そのまま!」
そして。
冷却槽。
刀身。
入れる。
ジュワァァァァァァッ――!
大量の蒸気。
青白い光。
赤。
青。
混ざる。
ミナ「魔力経路、ちょっと揺れてる!」
ジョウゴ「切先?」
ミナ「ううん、中央!」
バルガ「流量落とすな!」
ミナ「分かった!」
冷却。
続く。
魔力。
流れる。
星蒼導流鋼。
自己安定。
揺れ。
しかし。
完全には崩れない。
ジョウゴ「戻ってる」
ミナ「うん!」
そして。
蒸気が収まる。
バルガ「止め!」
ミナが魔力供給を止めた。
工房。
静か。
俺たちは。
刀身を見る。
「……」
まだ。
分からない。
バルガ「出すぞ」
刀身を冷却槽から取り出す。
曲がり。
なし。
大きな割れ。
なし。
外見。
問題なし。
そして。
鑑定。
《試作五号・焼入れ刀身》
《硬度:非常に高い》
《粘性:非常に高い》
《重量:軽》
《魔力伝導:非常に高い》
《魔力経路安定度:98.6%》
《魔力経路自己安定:維持》
《焼入れ状態:良好》
ミナ「上がってる!」
カイト「98.6!?」
レント「焼き入れ前は97.9だった」
ジョウゴ「ああ」
バルガ「魔力同調焼入れ成功だ!」
俺も。
思わず笑った。
ジョウゴ「ここまで上がるか」
バルガ「星蒼導流鋼と相性がいいんだ」
ミナ「私も役に立った?」
ジョウゴ「かなり」
ミナ「やった!」
◇◇◇
次は焼き戻し。
焼き入れで硬くなった刀身を、そのままにしておけば脆い。
だから再度低い温度で熱を入れ、粘りを戻す。
今度は魔力を流さない。
星蒼導流鋼が自己安定するかも確認する。
時間をかけ。
温度を見て。
冷ます。
そして。
《焼き戻し完了》
《硬度:高》
《粘性:非常に高い》
《魔力経路安定度:98.5%》
ジョウゴ「ほぼ落ちてない」
バルガ「いいぞ」
これで。
刀身そのものの熱処理。
大きな問題なし。
◇◇◇
次。
研ぎ。
刃。
少しずつ。
形成。
最初は粗く。
その後。
細かく。
俺も手伝う。
ただ。
刀身内部の芯。
星蒼導流鋼。
そこへ近づきすぎないよう注意する。
ジョウゴ「芯の位置は?」
バルガ「中央。刃側まで出ることはねぇ」
ジョウゴ「なら大丈夫」
研ぐ。
削る。
刃。
光。
少しずつ。
刀になる。
◇◇◇
数時間後。
作業台。
そこには。
一振りの刀身。
銀色。
そして。
刃文。
淡い青。
試作四号より。
少し鮮明。
ミナ「綺麗……」
カイト「前より青いな」
レント「魔力流してない状態でこれか」
ジョウゴ「ああ」
星蒼導流鋼。
芯。
青月石はまだ付けていない。
それでも。
内部の魔力が。
僅かに。
刃文へ影響している。
◇◇◇
次。
魔力調整核。
試作一号。
青月石。
黒鉄枠。
銀星砂導電層。
魔力遮断刻印。
それを。
正式に。
鍔元へ。
バルガ「ここから精密作業だ」
ジョウゴ「取り外し式だよな?」
バルガ「ああ」
柄。
鍔。
刀身。
その境界。
専用の小型収容部。
そこへ。
魔力調整核を差し込む。
固定。
ただし完全固定ではない。
必要なら。
交換できる。
カイト「本当にパーツ交換できる武器になってる」
レント「今までの刀とはかなり違うな」
ジョウゴ「外見は刀だけどな」
ミナ「中身は魔導武器?」
ジョウゴ「半分くらい」
バルガ「刀だ!」
ジョウゴ「俺もそう思ってる」
バルガ「ならいい!」
◇◇◇
魔力調整核。
装着。
星蒼導流鋼。
接続。
魔力遮断刻印。
確認。
そして。
柄。
鍔。
仮組み。
まだ最終仕上げではない。
しかし。
握れる。
ジョウゴ「……」
俺は。
初めて。
試作五号を持ち上げる。
「軽い」
試作四号より。
ほんの少し。
でも。
違う。
手元。
重心。
狙い通り。
ジョウゴ「重心、四号より手前」
バルガ「一センチちょいだ」
ジョウゴ「いい」
振る。
ゆっくり。
横。
縦。
切り返し。
止める。
軽すぎない。
でも。
動く。
受け流し。
やりやすそう。
カイト「見た感じそんなに違う?」
ジョウゴ「触ると違う」
バルガ「ジョウゴ用だからな!」
ジョウゴ「そこは変わらないな」
◇◇◇
そして。
魔力。
テスト。
全員。
少し離れる。
ジョウゴ「まず通常起動」
バルガ「青月石に蓄積残ってる」
ジョウゴ「分かった」
俺。
魔力。
流す。
ほんの少し。
すると。
魔力調整核。
青月石。
光。
そして。
星蒼導流鋼。
芯。
刃。
スゥゥゥ――。
青白い光。
今までより。
静か。
安定。
《魔力刃補助:ON》
《起動消費MP:0》
《蓄積魔力使用》
《魔力経路安定度:99.1%》
「……99.1」
俺。
ミナ「九十九!?」
カイト「ほぼ百!」
レント「一気に上がったな」
バルガ「青月石込みだ!」
魔力調整核。
働いている。
刀身。
魔力。
安定。
そして。
俺。
軽く振る。
青い軌跡。
残る。
ジョウゴ「変な抵抗がない」
バルガ「魔力の流れ?」
ジョウゴ「ああ。四号より滑らか」
さらに。
通常斬撃分。
魔力。
試す。
《蓄積魔力消費》
《本人MP消費:1》
「一?」
ミナ「前は二くらい使ってたよね?」
ジョウゴ「ああ」
試作四号。
起動1。
斬撃2前後。
五号。
青月石の蓄積魔力がある間。
本人MP。
かなり少ない。
カイト「省エネ刀」
ジョウゴ「言い方」
レント「でも合ってる」
◇◇◇
その時。
ポーン。
《特殊武器製造進行》
《新規刀剣の主要機構が完成しました》
《刀身》
《魔力調整核》
《魔力遮断機構》
《星蒼導流鋼芯》
《主要構造適合:確認》
さらに。
《未完了》
《柄・鍔最終調整》
《研ぎ仕上げ》
《実戦耐久試験》
《武器名称未確定》
カイト「あと少し」
ミナ「名前も?」
ジョウゴ「まだ《試作五号》でいい」
バルガ「完成したら名前つけるぞ!」
ジョウゴ「試作品だぞ」
バルガ「五号はもう試作の域超えてる!」
ジョウゴ「実戦してない」
バルガ「ぐっ」
レント「そこはジョウゴが正しい」
◇◇◇
俺は。
魔力刃を解除する。
《魔力刃補助:OFF》
青い光。
消える。
刀。
普通の状態。
でも。
見た目。
刃文。
淡い青。
俺は構える。
通常。
振る。
止める。
また振る。
「これ」
俺。
「魔力なしでも四号よりいい」
バルガ「だろ!」
ただし。
まだ。
完成ではない。
刃。
柄。
最終調整。
そして。
実戦。
それを経て。
本当に。
武器として完成する。
◇◇◇
その時。
CROSS LIVEは。
今日は配信していない。
だから。
工房。
俺たちだけ。
静か。
こういう日もいい。
ミナ「ジョウゴ」
ジョウゴ「何?」
ミナ「完成したら配信する?」
ジョウゴ「実戦試験はするかも」
カイト「視聴者喜びそう」
レント「刀研究人気高いらしいからな」
ジョウゴ「でも」
俺は刀を見る。
ジョウゴ「先に俺たちで確認したい」
ミナ「うん」
全部。
配信にする必要はない。
これは。
俺が。
AWOで使う武器。
まず。
自分で。
確かめたい。
◇◇◇
バルガ。
作業台へ。
バルガ「明日仕上げるぞ」
ジョウゴ「ああ」
バルガ「そのあと実戦!」
ジョウゴ「ああ」
バルガ「それから六号!」
ジョウゴ「早い」
バルガ「何でだ!」
ジョウゴ「五号完成してない」
バルガ「完成したら次だ!」
ジョウゴ「少し休め」
バルガ「職人は止まらねぇ!」
カイト「この人だけ運動不足警報いらないな」
ミナ「逆に休息不足警報が必要そう」
レント「NPCにも実装されるかもしれない」
ジョウゴ「それ言うな」
三人。
俺を見る。
ミナ「ジョウゴが言った」
ジョウゴ「俺は何も予言してない!」
工房。
笑い声。
そして。
作業台。
そこに。
《試作五号》
仮組み。
刀身。
静かに。
青い刃文。
光る。
試作一号から。
積み重ねて。
ここまで。
来た。
あと。
少し。
次は。
最終仕上げ。
そして。
実戦。
《試作五号》が。
本当に。
俺の新しい刀になるか。
それを確かめる時が。
近づいていた。




