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Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第二章 CROSS社契約編

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第35話 月影渓谷へ

 翌日。


 俺――上塚賢吾は、銀行での仕事を終えるとまっすぐ帰宅した。いつものように夕食を取り、風呂を済ませ、翌日の準備まで終える。AWOへ入るのは、それからだ。


 昨日、俺たちは全員Lv12へ到達した。そして次の目的地として決めたのが、《月影渓谷》だった。


 目的は《青月石》。


 現在、バルガと進めている《試作五号》の設計では、魔力を一度受け止めて安定させる《魔力調整核》が重要な部品になる。その素材として、青月石は非常に相性がいい。


 ただし、月影渓谷の推奨レベルは12から16。俺たちは最低ラインにようやく届いたばかりだ。しかも渓谷北部では正体不明の大型魔物らしき足跡まで確認されている。


 だから今日は、いきなり突入するつもりはない。


「まず準備だな」


 VR機器を装着すると、いつもの確認表示が視界に浮かぶ。


《リアルコンディションチェックを開始します》


《睡眠状態:良好》


《栄養状態:問題なし》


《水分状態:問題なし》


《体温:正常範囲》


《身体活動:良好》


《フルダイブ可能》


「問題なし」


 そのままログインすると、視界が銀麦亭の客室へ切り替わった。


 階段を下りると、ミナ、カイト、レントの三人はすでにいつもの席に集まっていた。


「ジョウゴ、おかえり!」


「おかえり」


「今日は準備の日だな!」


 ミナ、レント、カイトがそれぞれ声をかけてくる。


「ああ。装備確認して、必要な物を揃える」


「月影渓谷は今日行かないの?」


 ミナが少し残念そうに言う。


「行くとしても、入口までだな。暗くなる前に地形だけ確認したい」


「慎重だなぁ」


「知らない場所で慎重なのは普通だろ」


 俺がそう返すと、カイトが笑った。


「ジョウゴの普通は信用できないけどな」


「まだ言うのか」


 そこへ、マリアさんが料理を運んできた。


「出かけるなら、先にちゃんと食べていきな」


「ありがとうございます」


 月影渓谷まではそれなりに距離がある。満腹度を考えても、食事を取ってから出る方がいい。


 ミナも当然のように席についたが、料理を見た瞬間に表情が明るくなった。


「今日のスープ美味しそう!」


「月影渓谷の話よりそっちか」


「どっちも大事だよ!」


 その答えに、誰も反論できなかった。


 食事を終えた俺たちは、まずシズナの道具屋へ向かった。


 月影渓谷は、名前の通り岩壁に囲まれた場所が多く、昼でも日陰が濃いらしい。そのため、ランタンは必須だった。


「一人一個?」


 ミナが棚に並んだランタンを見る。


「最低でも二個は欲しい」


「二個?」


「一個壊れた時の予備」


「なるほど」


 レントも頷く。


「それなら予備油も必要だな」


「買っておこう」


 結果として、ランタンを二個、予備油を数本、火種、それから簡単なロープも購入した。


「ロープまでいる?」


 カイトが聞く。


「渓谷だからな。段差とか崖がある可能性がある」


「確かに」


「あと採掘道具」


「俺、持ってないぞ」


「今日はバルガから借りる」


 そう言っていると、後ろから大きな声が飛んできた。


「借りるんじゃねぇ!」


「うわ」


 振り返ると、そこにはバルガがいた。


「いつからいたんだ」


「青月石って聞こえた時からだ!」


「盗み聞きみたいに言うな」


「これ持ってけ!」


 バルガは大きな袋を俺へ押し付けた。中には小型のつるはし、採掘用ハンマー、袋、ふるい、簡易鑑定具まで入っている。


「多いな」


「青月石を見逃すなよ!」


「分かってる」


「青い石なら全部持ってこい!」


「鑑定してからにする」


「持ってきてから鑑定しろ!」


「重量制限あるんだぞ」


 そこだけは譲れないらしい。


「あとこれ」


 バルガがさらに小さな木箱を渡してきた。


「何?」


「試験用の魔力検知板だ。青月石みたいな魔力を溜めやすい鉱石が近くにあると、薄く光る」


「そんな便利なのあったのか」


「昨日作った!」


「昨日?」


「ああ!」


 バルガは胸を張る。


「試作五号のためだ!」


「仕事早いな」


「鍛冶だからな!」


 そこは素直に感心した。


 魔力検知板は小さな板状の魔導具で、中央に細い線が刻まれていた。これなら採掘候補を絞る助けにはなりそうだ。


「ただし、完全に青月石だけに反応するわけじゃねぇ」


「他の魔力鉱石にも反応する?」


「そうだ。だから最後は鑑定しろ」


「了解」


 準備を終えると、次は武器と防具の確認だった。


 カイトは盾の縁を修理し、レントは矢を補充する。ミナは回復薬とMP回復薬を多めに持ち、俺は《鉄刀・試作四号》の耐久値を確認した。


《鉄刀・試作四号》


《耐久値:良好》


 問題ない。


 そして新しく覚えた《片手平突きLv.1》も、昨日の実戦で一度使っている。月影渓谷では岩場が多いため、狭い場所で直線的に攻撃できる突きは役に立つかもしれない。


「準備できた?」


 ミナが聞く。


「ああ」


「じゃあ行こう!」


「今日は入口周辺まで」


「分かってるよ」


 そう言いながらも、顔は完全に冒険へ行く時のものだった。


 シズナの南門を抜け、俺たちは南街道を進む。


 月影渓谷は、南洞窟よりさらに南東寄りに位置している。途中までは整備された街道を進めるが、そこから先は細い山道になるらしい。


 しばらく歩くと、周囲の景色が少しずつ変わってきた。


 平原だった地形が緩やかな丘陵になり、やがて地面に大きな岩が増えてくる。さらに進むと、遠くに灰色の岩山が見え始めた。


「あれかな?」


 ミナが指差す。


「たぶん」


 レントが地図を確認する。


「位置も合ってる」


 さらに三十分ほど進むと、街道脇に古びた案内板があった。


《この先 月影渓谷》


《採掘地跡》


《魔物注意》


「着いたな」


 カイトが盾を背負い直す。


 ここから先は道幅が狭くなる。左右には高い岩壁が立ち始め、日の光も少しずつ入りにくくなっていた。


「まだ昼なのに暗いね」


 ミナが上を見る。


「岩壁が高い」


 レント。


「ランタンはまだいい。自然光があるうちに進めるところまで行こう」


「了解」


 俺たちは警戒しながら先へ進んだ。


 すると、数分もしないうちにレントが手を上げた。


「止まって」


 全員が止まる。


「何かいる?」


「あそこ」


 岩壁。


 一見すると、ただの黒い影にしか見えない。


 しかし。


 パタッ。


 わずかに動いた。


《ムーンバットLv.12》


 さらに一体。


《ムーンバットLv.12》


「二体」


「暗いところに溶け込んでるな」


 俺も刀へ手をかける。


 すると一体が翼を広げ、こちらへ飛んできた。


「来る!」


 レントが矢を放つ。


 しかしムーンバットは急旋回して回避した。


「速い」


「空飛ぶ相手か」


 カイトが盾を構える。


 二体目も動き、今度は上から急降下してきた。


「ミナ!」


「《ライトボルト》!」


 光が走る。


 暗い岩壁が一瞬だけ明るくなり、その光を嫌がるようにムーンバットが進路を変えた。


「光に弱い?」


「少なくとも嫌ってる」


 俺は一体の動きを追う。


 飛ぶ。


 曲がる。


 また上がる。


 そして、急に下降。


「そこ」


《見切り》


 進路が読めれば。


 あとは待つ。


 ムーンバットが俺の頭上へ突っ込んでくる。


 半歩。


 横。


 刀。


「斬!」


 一閃。


《ムーンバットLv.12に大ダメージ》


 完全には倒せない。


 だが、地面へ落ちた。


「カイト!」


「任せろ!」


 盾で逃げ道を塞ぎ、剣を振る。


《ムーンバットLv.12を討伐しました》


「一体!」


 もう一体はレントが狙う。


「ミナ、光」


「分かった!」


《ライト》


 ミナの杖から柔らかな光が広がる。


 するとムーンバットの姿が岩壁から浮かび上がった。


「見えた」


 レント。


 矢。


 シュッ。


《クリティカル》


《ムーンバットLv.12を討伐しました》


「なるほど」


 俺は倒れた魔物を見る。


「暗所では視界が一番の問題か」


「ランタン大事だね」


「ああ」


 戦闘自体は問題なかった。


 しかし、見えないまま数を増やされたら面倒だ。


 そのまま少し進むと、地形が開けた。


 大きな岩壁の間。


 奥へ続く細い道。


 そして横には、古びた採掘小屋の跡がある。


「ここが南側採掘跡かな」


 レント。


 地図。


「合ってる」


 俺は周囲を見る。


 魔物の気配は今のところない。


「今日はここまでにする?」


 ミナが聞く。


「いや。入口周辺だけ少し確認しよう」


 採掘跡。


 壊れた木箱。


 錆びた道具。


 古い線路のようなものまである。


「昔はかなり掘ってたんだな」


 カイト。


「青月石もここから?」


「記録では、この周辺」


 俺はバルガから借りた《魔力検知板》を取り出す。


 反応なし。


 別の場所。


 反応なし。


 さらに岩壁沿い。


「……ん?」


 薄い。


 本当にわずかだが。


 線が青く光った。


「反応した」


「ほんと?」


 ミナが近づく。


「弱いな」


 レント。


「この辺に何かある」


 岩壁。


 灰色。


 所々に青白い筋。


「これ?」


 カイトが指差す。


「まだ分からない」


 俺は小型ハンマーを取り出し、岩肌の一部を軽く叩く。


 カン。


 少し削れる。


 その中。


 青い粒。


「鑑定」


《魔力を含む青色鉱石片》


《詳細鑑定には採取が必要です》


「採るか」


 慎重に周囲を削る。


 すると、小指の爪ほどの青い石が一つ外れた。


《青輝石》


《魔力含有量:低》


《魔力蓄積性:低》


「違った」


 ミナ。


「でも検知板は反応する」


「魔力鉱石全般だからな」


「なるほど」


 それでも。


 ここに魔力鉱石があるということは。


 青月石が存在する可能性も低くはない。


「もう少し奥も見る?」


 カイト。


「今日はここまで」


「早いな」


「初回だから」


 地形。


 敵。


 明るさ。


 採掘跡。


 入口周辺の情報は取れた。


 それだけでも十分だ。


「明日から本格探索」


 俺がそう言うと、ミナが嬉しそうに頷いた。


「青月石探し!」


「そして」


 カイト。


「試作五号!」


「それは見つかってから」


「でもバルガ絶対待ってるぞ」


 レント。


「帰った瞬間来そう」


「……ありそう」


 俺たちはシズナへ戻った。


 そして。


 銀麦亭。


 扉を開ける。


「戻ったか!」


「本当にいた」


 バルガ。


「青月石は!?」


「今日は入口確認だけ」


「何ぃ!?」


「代わりにこれ」


 俺は《青輝石》を渡す。


「違う石だな」


「検知板の動作確認はできた」


 バルガは石を鑑定し、しばらく眺めた。


「まあいい」


「珍しく素直」


「明日は?」


「本格探索」


 その瞬間。


 バルガの目が光った。


「青月石!」


「見つかるとは限らない」


「見つけろ!」


「無茶言うな」


 しかし。


 俺自身も少し楽しみだった。


 月影渓谷。


 暗い岩壁。


 見えにくい魔物。


 そして、まだ正体の分からない大型の足跡。


 その奥に。


 試作五号へ繋がる《青月石》が眠っているかもしれない。


 今日は入口まで。


 けれど、明日からは違う。


 俺たちの月影渓谷探索が、いよいよ本格的に始まる。

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