第34話 三人もレベル十二へ
翌日。
俺――上塚賢吾は、仕事を終えて帰宅すると、いつものように夕食と風呂を済ませ、それから翌日の準備まで終えてからVR機器の前に座った。
昨日、俺はLv12へ到達し、《片手平突き》という新しい職業スキルを覚えた。
そして、そのスキルを訓練場で試した結果、システムアシストに任せるだけではなく、自分の動きを加えて調整できることも分かった。
だからこそ、もっと試したい気持ちはある。
しかし、その前にやるべきことがあった。
「まずは三人をLv12にするか」
ミナ、カイト、レントは、あと少しでレベルが上がるところまで来ている。
そして全員がLv12になれば、ようやく《月影渓谷》へ向かう最低条件を満たせる。
もっとも、推奨Lvは12から16なので、レベルだけを理由に突っ込むつもりはない。
情報を集め、装備を確認し、それでも問題ないと判断してから向かう。
「ログイン」
視界が切り替わる。
◇◇◇
《リアルコンディションチェックを開始します》
《睡眠状態:良好》
《栄養状態:問題なし》
《水分状態:問題なし》
《体温:正常範囲》
《身体活動:良好》
《フルダイブ可能》
「今日も問題なし」
そのままログインすると、俺は銀麦亭の二階にある客室へ現れた。
そして一階へ下りると、すでに三人がいつもの席に集まっていた。
「ジョウゴ!」
ミナが手を振る。
「今日は上げるぞ!」
カイトも気合十分だ。
一方で、レントは相変わらず落ち着いており、テーブルの上に三枚の依頼書を広げていた。
「候補を見ておいた」
「助かる」
俺が席につくと、レントが依頼書を順番に見せる。
一つ目は南街道のゴブリン討伐。
二つ目は西側林地での素材採集護衛。
そして三つ目は、北東草原に出現したフォレストウルフの群れを排除する依頼だった。
「どれも推奨Lv10から12くらいか」
「ああ。それに三人とも必要経験値は少ない」
レント自身も、Lv12まで残り七%しかない。
カイトも九%、そしてミナも十一%なので、普通に一件こなせば三人とも上がる可能性が高い。
「じゃあ、これ」
俺は三枚目を選んだ。
「フォレストウルフ?」
ミナが依頼書を覗き込む。
「戦いやすいし、群れなら経験値もまとまって入る。それに、昨日のホーンラビットよりは連携訓練になる」
「つまり」
カイトが笑う。
「レベル上げ兼訓練?」
「そういうこと」
「ジョウゴらしい」
ミナも笑った。
◇◇◇
冒険者ギルドで依頼を受けた俺たちは、そのまま北東門から草原へ向かった。
今回は配信をしていない。
正式配信者になったとはいえ、毎回配信する必要はなく、むしろこうして普通に遊ぶ時間も大切だと思っている。
そのため、今日は視聴者のコメントもなければ、CROSS LIVEの表示もない。
「静かだね」
ミナが言う。
「配信ないと?」
「うん。でも、こういうのも好き」
「俺も」
カイトも頷く。
「変なコメントに葡萄ジュースいじられないし」
「そこ?」
レントが淡々と返した。
「重要だぞ」
「誰にとって?」
「俺にとって」
そんな話をしながら歩いていると、やがてレントが足を止めた。
「いた」
低い声。
俺たちもすぐに切り替える。
前方の草むら。
その向こうに、複数の影が見えた。
「数は?」
「七」
「多いな」
「だから経験値にはちょうどいい」
カイトが盾を構える。
「よし!」
そして草むらから、フォレストウルフの群れが姿を現した。
Lv10が三体。
Lv11が三体。
そして一体だけ、少し大きい個体がいる。
《フォレストウルフ・ハンターLv.12》
「リーダー格か」
「昨日と同じ感じだな」
カイトが言う。
「でも油断するな」
「分かってる!」
◇◇◇
群れが一斉に動く。
するとカイトが前へ出て、盾を斜めに構えた。
「来い!」
一体目が突っ込み、続いて二体目も来る。
しかしカイトは真正面から全てを受けるのではなく、一体目を盾で止めながら身体を少しずらし、二体目の進路を外へ流した。
「お」
俺は思わず声を出した。
前より動きが良い。
「どうだ!」
「上手くなった」
「だろ!」
ただし、その瞬間。
三体目。
「右!」
レントの声。
「うおっ!」
カイトが慌てて盾を向ける。
ガン!
「まだまだだな」
「今褒めた直後だぞ!」
「だから油断するなって」
◇◇◇
一方で、俺の方にもLv11のフォレストウルフが走ってくる。
昨日なら普通に見切って斬っていた。
しかし今日は。
「試してみるか」
新しいスキル。
《片手平突き》
システム補助が身体に入る。
踏み込み。
照準。
刺突。
ただし、俺はそのまま任せない。
フォレストウルフが少しだけ右へ身体をずらした瞬間、それに合わせて自分で手首と肩の角度を調整する。
すると刀の軌道もわずかに変わった。
「――っ!」
突き。
刃先が首元へ入る。
《クリティカル》
《フォレストウルフLv.11を討伐しました》
「やっぱり使える」
システムが作る基本軌道。
そこへ、自分の判断を重ねる。
昨日の訓練場よりも、実戦の方が違いが分かりやすい。
◇◇◇
「ジョウゴ!」
ミナの声。
見ると、フォレストウルフ・ハンターが後方へ回り込もうとしている。
「レント!」
「分かってる」
矢が飛ぶ。
しかしハンターは跳んで避けた。
「速い」
俺は前へ出る。
そして今度はスキルを使わない。
相手の目。
肩。
前脚。
呼吸。
全部を見る。
するとハンターが急に左へ踏み込み、そのまま噛みつきに来た。
《見切り》
半歩。
外側。
そして刀の棟を相手の肩口へ軽く当てる。
《受け流しLv.1》
勢いを逃がす。
そのまま。
《崩し》
身体が傾いた。
「今!」
ミナ。
《ライトボルト》
光が直撃する。
さらに。
レント。
矢。
《クリティカル》
「グルァッ!」
ハンターが地面へ転がった。
◇◇◇
その頃、カイトも二体を相手にしながら踏ん張っていた。
「まだいるぞ!」
「分かってる!」
盾。
剣。
そして一体を押し返した瞬間、カイトが反撃へ出る。
「これで!」
一閃。
《フォレストウルフLv.10を討伐しました》
続いてレントが別の一体を射抜く。
《フォレストウルフLv.11を討伐しました》
「あと四!」
ミナ。
「そのうち一体ハンター!」
「先に普通の個体!」
俺。
群れを減らす。
その方が安全だ。
◇◇◇
数分後。
残り。
ハンター一体。
「全員いける?」
俺。
「HP問題なし!」
カイト。
「MPも余裕!」
ミナ。
「矢も十分」
レント。
「じゃあ終わらせる」
ハンター。
低い姿勢。
そして今度は俺へ。
走る。
速い。
でも。
見える。
《片手平突き》
発動。
システム補助。
しかし途中で、自分から踏み込みを少し浅くする。
相手の突進距離。
ギリギリ。
そこで。
突く。
シュッ!
刀。
胸。
《クリティカル》
《フォレストウルフ・ハンターLv.12を討伐しました》
そして。
一瞬遅れて。
ポーン。
ポーン。
ポーン。
「来た!」
ミナ。
「俺も!」
カイト。
「上がった」
レント。
◇◇◇
《ミナ》
《Lv.11 → Lv.12》
《HP 170 → 180【+10】》
《MP 121 → 131【+10】》
《力 22 → 23【+1】》
《すばやさ 31 → 33【+2】》
《防御力 27 → 29【+2】》
《技量 45 → 49【+4】》
《運の良さ 18 → 19【+1】》
「MP131!」
ミナが目を輝かせる。
「回復かなり増えたね!」
「そうだな」
「これならいっぱい回復できる!」
「いっぱい使う状況にしないようにしよう」
「そこは相変わらずだね」
◇◇◇
そして。
《カイト》
《Lv.11 → Lv.12》
《HP 240 → 257【+17】》
《MP 54 → 56【+2】》
《力 43 → 47【+4】》
《すばやさ 28 → 29【+1】》
《防御力 48 → 53【+5】》
《技量 33 → 35【+2】》
《運の良さ 11 → 12【+1】》
「防御53!」
カイトが叫ぶ。
「五十超えた!」
「本当に壁になってきたな」
レント。
「壁じゃない! 戦士!」
「移動する壁」
俺。
「ジョウゴまで!?」
ミナが笑う。
◇◇◇
最後。
《レント》
《Lv.11 → Lv.12》
《HP 180 → 190【+10】》
《MP 70 → 74【+4】》
《力 31 → 33【+2】》
《すばやさ 44 → 48【+4】》
《防御力 26 → 27【+1】》
《技量 51 → 56【+5】》
《運の良さ 16 → 17【+1】》
「技量56」
俺。
「かなり上がったな」
「すばやさ48もある」
ミナ。
「もうジョウゴより速い?」
「数値なら」
俺は現在44。
「でも」
レント。
「動き方は別」
「そう」
そこは変わらない。
速さという数字。
そして実際の身体操作。
両方が合わさって初めて使える。
◇◇◇
「新スキルは?」
カイト。
「俺たちも何かある?」
確認。
まず。
《僧侶Lv.12》
《新規職業スキル習得》
《リカバリー》
「回復?」
ミナ。
説明。
《リカバリー》
《軽度の状態異常および一部能力低下を軽減する》
《消費MP:6》
「状態異常!」
「便利」
レント。
「毒とか?」
「軽度なら」
俺。
「生活状態にも効く?」
カイト。
「それは別じゃない?」
「試す?」
「俺で?」
「二日酔いになって」
「絶対嫌だ!」
◇◇◇
続いて。
《戦士Lv.12》
《新規職業スキル習得》
《ガードスタンス》
「来た!」
カイト。
《ガードスタンス》
《一定時間、防御性能とノックバック耐性を上昇》
《移動速度がわずかに低下》
《消費MP:5》
「完全に壁」
ミナ。
「だから戦士!」
「でもかなり合ってる」
俺。
「ボス戦では使えるな」
「アーマードミノタウロスで欲しかった!」
「今後使える」
◇◇◇
そして。
《弓使いLv.12》
《新規職業スキル習得》
《クイックショット》
「速射」
レント。
《クイックショット》
《通常射撃より短い準備動作で矢を放つ》
《命中補正は通常射撃より低い》
《消費MP:3》
「技量56なら相性よさそう」
俺。
「試したい」
「帰ったら訓練場?」
「少しだけ」
「みんな訓練好きになってない?」
ミナ。
「ジョウゴの影響」
カイト。
「俺のせい?」
三人。
「うん」
◇◇◇
シズナへ戻り、冒険者ギルドへ依頼を報告する。
《フォレストウルフ群れ討伐》
《依頼達成》
《評価:A》
《報酬獲得》
《経験値獲得》
これで。
俺。
Lv12。
ミナ。
Lv12。
カイト。
Lv12。
レント。
Lv12。
「揃った」
ミナ。
「月影渓谷!」
しかし。
「まだ」
俺。
「えー」
「まず情報」
「やっぱり」
カイトが笑う。
◇◇◇
俺たちはそのまま受付で《月影渓谷》について追加情報を集めた。
すると、古い採掘記録だけではなく、最近の冒険者報告もいくつか出てきた。
そこによると、月影渓谷は昼でも岩壁の影が濃く、場所によっては薄暗い。
そのためムーンバットなどの夜行性魔物が昼間でも活動しているらしい。
さらにナイトウルフは単独より群れで出現することが多く、ロックリザードは岩肌と色が似ているため奇襲に注意が必要だという。
そして。
「大型反応」
俺は最後の報告書を見る。
「やっぱり詳細不明?」
レント。
「ああ」
《推定サイズ:大型》
《確認位置:渓谷北部》
《足跡のみ》
《交戦記録なし》
「ボス?」
ミナ。
「まだ分からない」
「じゃあ北部は避ける?」
カイト。
「最初は」
俺。
「目的は青月石だから」
大型反応を調べに行く必要はない。
まず青月石。
そして安全。
「南側の採掘跡から探す」
「了解」
◇◇◇
さらに。
必要な装備。
「暗いならランタン」
レント。
「予備も」
俺。
「回復薬」
ミナ。
「多め」
「盾整備」
カイト。
「今日やる!」
「矢は?」
「補充する」
俺は自分の試作四号を見る。
《耐久値:良好》
問題なし。
そして。
新スキル。
《片手平突きLv.1》
実戦でも使えた。
ただし、月影渓谷では大型や岩場に適応できるか分からない。
「明日は準備」
ミナ。
「明後日?」
「問題なければ」
「月影渓谷!」
「だからまだ確定では」
「行く気はあるんでしょ?」
「ある」
「じゃあ行く!」
元気だな。
◇◇◇
その夜。
銀麦亭。
食事。
四人。
全員Lv12。
少し前まで。
南洞窟十一階は遠かった。
月影渓谷も危険だった。
でも。
一歩ずつ。
依頼。
採集。
ボス。
鍛冶。
訓練。
それを積み重ねて。
今。
次の場所が見えてきた。
「青月石」
俺。
「見つかるといいな」
「見つける!」
ミナ。
「試作五号!」
カイト。
「それバルガの台詞」
レント。
その瞬間。
銀麦亭の扉。
バン!
「試作五号ォ!」
「ほら来た」
「聞こえたの!?」
バルガ。
「青月石の準備はどうだ!」
「明日装備確認」
「じゃあ明後日!」
「勝手に決めるな!」
「俺も行く!」
「それは駄目」
「なんでだ!」
「推奨Lv12から16」
「俺は鍛冶師だ!」
「戦闘職じゃないだろ!」
「ハンマーがある!」
「前にも聞いた!」
マリアさんが厨房から顔を出す。
「バルガさん」
「おう!」
「宿の中でハンマー振ったら出禁だよ」
「振らねぇよ!」
「ならいいよ」
「マリアさん強い」
ミナが笑う。
◇◇◇
俺は水を飲みながら、現在の状況を確認する。
全員。
Lv12。
新しい職業スキルも増えた。
そして次の目的地は。
《月影渓谷》
そこにあるかもしれない。
《青月石》
試作五号を完成へ近づけるために必要な素材。
ただし。
素材だけを見て進めば。
危険を見落とす。
だから。
まず準備。
そして情報。
そのうえで冒険。
「次は月影渓谷だな」
「おー!」
三人。
そして。
「俺も!」
バルガ。
「お前は留守番」
「なんでだぁ!」
こうして。
俺たちは全員Lv12へ到達し。
次なる探索地――。
《月影渓谷》へ向かう準備を、本格的に始めることになった。




