第33話 レベル十二と片手平突き
シズナ南門。
俺――ジョウゴたちは、《南街道・ホーンラビット討伐》の依頼を受けて街を出た。
《依頼》
《南街道・ホーンラビット討伐》
《推奨Lv10~12》
《討伐数:15》
現在。
俺たちは全員Lv11。
そして俺は、次のLv12で剣士の新しい職業スキルを覚える。
《片手平突き》
名前だけなら。
「普通の突きだよな」
「普通って言った?」
ミナが隣から顔を覗き込む。
「言った」
「ジョウゴが言う普通は信用できない」
「どういう意味だ」
「この前も普通の依頼って言って、新素材見つけた」
カイト。
「その前も普通に洞窟行って青月石拾った」
レント。
「その前は普通に配信して視聴者十八万人」
「……」
俺は少し考える。
「最後は俺のせいじゃないだろ」
「否定する場所そこ?」
ミナが笑った。
◇◇◇
南街道。
シズナ周辺では比較的安全な道だ。
馬車。
旅人。
冒険者。
ところどころに広い草原があり、その中に低い岩場や小さな林が点在している。
「ホーンラビットってどんな相手?」
ミナ。
「ウサギ」
カイト。
「それは名前で分かる」
レントが周囲を見ながら答える。
「額に角を持つ小型魔物。攻撃は突進中心」
「速い?」
「かなり」
「じゃあカイト向き?」
「盾で受ければな!」
俺は依頼情報を確認する。
《ホーンラビット》
《特徴》
《小型》
《高機動》
《直線突進》
《額角による刺突攻撃》
《危険度は低いが、集団戦では側面攻撃に注意》
「集団で来るなら囲まれないようにする」
「了解」
◇◇◇
十分ほど歩いたところで。
レントが止まる。
「前」
「何体?」
「三」
草。
ピョコ。
耳。
「可愛い!」
ミナ。
《ホーンラビットLv.10》
《ホーンラビットLv.10》
《ホーンラビットLv.11》
「確かに見た目は」
白い毛。
丸い身体。
長い耳。
そして。
額から。
鋭い角。
「……角長くない?」
カイト。
その直後。
「キュッ!」
一体。
地面を蹴る。
「来た!」
ドン!
「うおっ!」
カイトの盾へ角が突き刺さる。
「思ったより重い!」
「小さいからって油断するな」
「した!」
「正直だな!」
◇◇◇
二体目。
俺。
速い。
低い。
正面。
「なるほど」
直線。
かなり速い。
でも。
動き出し。
肩。
前脚。
視線。
《見切り》
一歩。
横。
ホーンラビットが俺の脇を通り抜ける。
「今」
刀。
斜め。
一閃。
《ホーンラビットLv.10に大ダメージ》
反転。
「キュッ!」
もう一度突進。
今回は。
刀を立てる。
《受け流しLv.1》
角へ。
軽く触れる。
力の向き。
外側。
スッ。
突進が逸れる。
身体が横倒し。
「そこ」
一閃。
《ホーンラビットLv.10を討伐しました》
《依頼進行:1/15》
「やっぱり小型相手でもやること同じ」
ミナ。
「基本はな」
◇◇◇
レント。
矢。
ヒュッ!
《クリティカル》
《ホーンラビットLv.10を討伐しました》
《依頼進行:2/15》
「小さいから当てにくい?」
カイト。
「前よりは」
レントが弓を下げる。
「技量51あるし」
「ステータスの暴力」
「違う」
俺。
「狙い方は本人の技術」
「ジョウゴ、その話好きだな」
「重要だから」
数値が高い。
だから当たる。
それだけなら。
レントがここまで安定して急所を狙える理由にはならない。
システムは補助。
動かすのは本人。
◇◇◇
三体目。
ミナ。
「私もやる!」
「前出るなよ」
「分かってる!」
杖。
《ライトボルト》
光。
「キュッ!」
直撃。
怯む。
「カイト!」
「おう!」
盾。
ドン。
《ホーンラビットLv.11を討伐しました》
《依頼進行:3/15》
「いい感じ」
「あと十二」
「思ったより多いな」
カイト。
「十五体依頼だから」
◇◇◇
探索。
さらに四体。
《依頼進行:7/15》
さらに二体。
《9/15》
「あと六!」
ミナ。
「順調だな」
その時。
俺の視界。
《経験値》
《Lv.12まで:残りわずか》
「近い」
「次で上がる?」
カイト。
「たぶん」
「じゃあ俺が倒さない方がいい?」
「パーティー経験値だから関係ない」
「あ、そうだった」
◇◇◇
その後。
草原の奥。
レント。
「いる」
「何体?」
「六」
「ちょうど」
依頼残数。
六。
「まとめて終わるな」
カイトが盾を構える。
「でも」
レント。
「一体大きい」
「大きい?」
草が揺れる。
現れた。
《ホーンラビットLv.10×3》
《ホーンラビットLv.11×2》
そして。
《ホーンラビット・リーダーLv.12》
「リーダー」
ミナ。
「大きい」
普通の個体より一回り。
角。
太い。
長い。
「これ倒せば経験値も多そう」
カイト。
「先に雑魚から」
「了解!」
◇◇◇
六体。
同時。
「散るな!」
俺。
カイト。
前。
「来い!」
盾。
一体。
二体。
ドン!
「三体目横!」
レント。
矢。
牽制。
進路を逸らす。
俺。
右。
一体。
突進。
避ける。
斬。
《ホーンラビットLv.10を討伐》
《依頼進行:10/15》
左。
もう一体。
《見切り》
足。
角。
流す。
《受け流しLv.1》
崩れ。
「ふっ!」
《11/15》
「ミナ!」
「《ライトボルト》!」
リーダー。
直撃。
だが。
「効き浅い!」
そのまま。
ミナへ。
「速い!」
俺。
間に入る。
刀を鞘側へ。
角。
受けない。
身体を捻る。
肩を外す。
そして。
《崩し》
角の根元。
軽く押す。
勢い。
横へ。
「キュッ!?」
リーダーが地面を滑る。
「今!」
レント。
矢。
脚。
《ホーンラビット・リーダーLv.12にダメージ》
◇◇◇
カイト。
「こっち終わる!」
盾。
剣。
《12/15》
レント。
《13/15》
ミナ。
光。
《14/15》
残る。
リーダー。
「最後!」
カイト。
リーダーが地面を蹴る。
今度は。
俺へ。
一直線。
「来い」
刀。
構える。
ただし。
斬らない。
正面。
ギリギリ。
直前。
半身。
角。
通過。
そして。
首元。
「斬!」
一閃。
《クリティカル》
《ホーンラビット・リーダーLv.12を討伐しました》
《依頼達成:15/15》
ポーン。
「来た」
《経験値を獲得しました》
《必要経験値に到達》
《LEVEL UP!》
◇◇◇
《ジョウゴ》
《Lv.11 → Lv.12》
《HP 205 → 217【+12】》
《MP 81 → 85【+4】》
《力 38 → 41【+3】》
《すばやさ 41 → 44【+3】》
《防御力 31 → 33【+2】》
《技量 46 → 50【+4】》
《運の良さ 13 → 14【+1】》
「技量50」
レント。
「追いつかれそう」
「お前はもう51だろ」
「Lv12になればまた伸びる」
「そうだった」
さらに。
ポーン。
《剣士Lv.12》
《新規職業スキルを習得しました》
《片手平突きLv.1》
「来た!」
ミナ。
「使ってみて!」
「ここで?」
「敵もういないよ?」
「だから使う相手がいない」
「あ」
カイト。
「木?」
「街に戻って訓練場」
「真面目」
◇◇◇
「他のみんなは?」
確認。
ミナ。
《Lv12まで:19%》
カイト。
《Lv12まで:16%》
レント。
《Lv12まで:14%》
「結構近い」
「次の依頼で上がるかも」
「その前に報告」
依頼は終わった。
寄り道しすぎない。
◇◇◇
シズナ。
冒険者ギルド。
《南街道・ホーンラビット討伐》
《15/15》
《依頼達成》
《評価:A》
《報酬獲得》
《経験値獲得》
「お」
カイト。
経験値バー。
《Lv12まで:9%》
ミナ。
《11%》
レント。
《7%》
「全員あと少し」
「次で確実だな」
◇◇◇
そして。
訓練場。
「本当に来た」
ミナ。
「スキル確認は必要」
木製標的。
俺は試作四号を抜く。
「まず」
新スキル。
《片手平突きLv.1》
《片手剣系武器による直線刺突》
《発動時、踏み込み・照準・刺突動作へシステム補助》
《消費MP:2》
「MP使うんだ」
カイト。
「職業スキルだから」
「普通の突きならゼロ?」
「そう」
俺は構える。
「使う」
《片手平突き》
その瞬間。
身体。
動く。
足。
自然に踏み込む。
腰。
肩。
腕。
刀。
直線。
シュッ!
標的。
中心。
ドン!
《スキル成功》
《高精度命中》
「おお!」
ミナ。
「速い!」
カイト。
「どう?」
レント。
「……」
俺は刀を引く。
「変な感じ」
「弱い?」
「違う」
強い。
速い。
正確。
システムアシストが。
最適と思われる動きを補助している。
でも。
「俺の突きじゃない」
三人。
「……ああ」
ミナ。
「そういう意味」
◇◇◇
「もう一回」
今度は。
スキルなし。
構える。
呼吸。
間合い。
足。
腰。
背中。
肩。
腕。
全部。
一つにする。
一歩。
スッ――。
突き。
ドン。
標的。
同じ中心。
「見た目そんなに違わない」
カイト。
「でも違う」
レント。
「踏み込み」
俺。
「ああ」
システムの《片手平突き》。
速い。
無駄が少ない。
ゲームとしては優秀。
ただ。
「動作が固定されてる」
「固定?」
ミナ。
「相手に合わせて変えにくい」
現実の突きなら。
間合い。
相手の姿勢。
武器。
足。
位置。
全部によって変える。
深く踏むこともある。
浅く踏むこともある。
身体を低くすることもある。
突きながら角度を変えることもある。
でも。
《片手平突き》
は。
システムが理想と判断した形へ補助する。
「初心者には?」
カイト。
「かなり強いと思う」
「じゃあ便利じゃん」
「便利」
俺は頷く。
「ただ、俺は使いどころを選ぶ」
◇◇◇
もう一度。
《片手平突き》
今度は。
意識して。
システム補助へ逆らわない。
シュッ!
速い。
「やっぱり速度ある」
レント。
「MP2なら連発できる?」
ミナ。
「今85だから四十回くらい」
「四十回も!?」
「全部使えばな」
「使う?」
「使わない」
「ですよね」
◇◇◇
「じゃあ」
カイト。
「スキルとリアル技術、どっちが強い?」
「条件次第」
「また難しい答え」
「本当にそうだから」
例えば。
直線。
動かない標的。
決まった距離。
そこなら。
システムスキルはかなり強い。
でも。
相手が人型。
剣を持つ。
動く。
フェイント。
間合い。
駆け引き。
そこでは。
「自分で動いた方が対応できる」
「なるほど」
ミナ。
「じゃあスキルいらない?」
「いや」
俺。
「使えるなら使う」
「使うんだ」
「道具だから」
俺は刀を見る。
「使えるものを捨てる理由はない」
システム。
現実の技術。
どちらか一つ。
ではない。
合わせればいい。
◇◇◇
そこで。
「ジョウゴ」
レント。
「スキル発動の途中で自分の動き入れられる?」
「……」
俺は止まる。
「試してみる」
「危なくない?」
ミナ。
「標的相手なら」
構える。
《片手平突き》
発動。
システム補助。
踏み込み。
だが。
途中。
俺自身で。
手首。
角度。
わずかに変える。
「っ」
刀。
中心から。
少し右。
ドン!
《スキル成功》
《動作補正を検出》
「できた」
レント。
「システムが止めなかった」
「そうだな」
もう一度。
発動。
今度は踏み込みを浅く。
《片手平突き》
補助。
俺。
制御。
シュッ。
《スキル成功》
《動作補正を検出》
「……面白い」
俺。
システムスキル。
完全固定ではない。
「アシストの中で動ける」
「それって」
ミナ。
「ジョウゴに向いてない?」
「かもしれない」
◇◇◇
さらに。
試す。
通常。
スキル。
自分の突き。
スキル途中補正。
比較。
十回。
二十回。
「ジョウゴ」
カイト。
「楽しそう」
「研究だから」
「バルガみたい」
「やめろ」
「また言われてる」
ミナが笑う。
◇◇◇
その時。
ポーン。
「ん?」
《片手平突きLv.1》
《特殊使用条件を検出》
《システム補助に対する継続的な手動補正を確認》
「何?」
レント。
表示。
《スキル熟練処理中》
《片手平突きLv.1:熟練度上昇》
「熟練度?」
「使い方でも上がるのか」
そして。
《称号条件進行》
《システム補助と手動技術の併用》
「称号まで?」
ミナ。
「まだ条件進行だけ」
俺。
でも。
AWOは。
また何か。
見ている。
◇◇◇
「ほどほどにしよう」
俺は刀を納める。
「終わり?」
「今日は」
現実時間。
まだ余裕はある。
でも。
「青月石の月影渓谷は?」
カイト。
「まだ」
「Lv12になったのに?」
「俺だけ」
「あ」
三人Lv11。
推奨。
《月影渓谷:Lv12~16》
「全員12にしてから」
「慎重」
「当然」
◇◇◇
銀麦亭。
夕食。
マリアさんが料理を運んでくる。
「今日は何してたんだい?」
「訓練場」
「また?」
「新しい技を覚えたので」
「へぇ」
ミナ。
「突き!」
「見せなくていいよ」
マリアさん即答。
「宿の中ではやらない」
「安心したよ」
◇◇◇
食事。
カイト。
「明日は俺たちのLv12」
「たぶんな」
レント。
「適正依頼一つ」
ミナ。
「その次は月影渓谷!」
「情報集めてから」
三人。
「やっぱり」
「何だよ」
俺は水を飲む。
現在。
《ジョウゴ Lv12》
《剣士》
《片手平突きLv.1》
新しいシステムスキル。
ただ。
俺にとって。
それは完成した技ではない。
システムが用意した。
一つの型。
そこへ。
自分の動きを加える。
間合いを変える。
軌道を変える。
タイミングを変える。
「これ」
俺は小さく呟く。
「もっと使えるな」
「何が?」
ミナ。
「《片手平突き》」
「気に入った?」
「面白い」
現実の技術と。
AWOのシステム。
二つを。
どちらかに合わせるのではなく。
組み合わせる。
それができるなら。
まだ試せることは多い。
そして。
その先。
《月影渓谷》
《青月石》
《試作五号》
新しい刀。
次の冒険。
全部。
少しずつ近づいている。
「まず三人をLv12」
「任せて!」
ミナ。
「明日上げる!」
カイト。
「俺はあと7%」
レント。
「早そうだな」
こうして。
俺はLv12へ到達し。
新たなスキル《片手平突き》を手に入れた。
ただし。
システムが教えてくれた技を。
そのまま使うつもりはない。
教えてくれるのは動きまで。
どう使うかを決めるのは、俺自身なのだから。




