第32話 試作五号設計会議
翌日。
現実世界。
午後五時四十八分。
「お先に失礼します」
「お疲れさま」
俺――上塚賢吾は、いつも通り銀行での仕事を終えた。
今日も残業はなし。
帰宅して夕食を取り、風呂を済ませる。
そして翌日の準備まで終わらせてから、自室へ入った。
「……設計会議か」
昨日。
AWO内で新しい特殊素材が正式登録された。
《星蒼導流鋼》
高密度鉄。
黒鉄。
蒼鉄系素材。
銀星砂。
青月石系素材。
それらを複合し、内部に安定した魔力経路を形成する特殊鋼。
さらに。
《特殊武器開発条件を一部達成》
《既存技術:《複合鍛造刀》》
《新規素材:《星蒼導流鋼》》
《魔力経路技術:《青月導流構造》》
《新規刀剣試作が可能になりました》
つまり。
《鉄刀・試作四号》の先。
試作五号。
「問題は材料だな」
設計できても、量産できるほど素材はない。
特に青月石。
南洞窟第十階層の宝箱から手に入れた一個しか確認できていない。
無駄遣いはできない。
「まあ、まず話し合いか」
VR機器を装着する。
《リアルコンディションチェックを開始します》
《睡眠状態:良好》
《栄養状態:問題なし》
《水分状態:問題なし》
《体温:正常範囲》
《身体活動:良好》
《フルダイブ可能》
「ログイン」
◇◇◇
銀麦亭。
「おかえり、ジョウゴ」
「ただいま、マリアさん」
「待ってるよ」
「誰が?」
聞くまでもなかった。
マリアさんが工房方向を見る。
「バルガさん」
「ですよね」
「今日は昼から何度も来てるよ」
「……何度も?」
「『まだか!』って」
「俺がログインする時間をNPCに理解させるの難しいな」
俺にとっては仕事終わり。
でも、AWOの住人であるバルガからすれば、俺が突然現れたり消えたりしているように見える。
「急ぐか」
工房へ向かった。
◇◇◇
バンッ。
「来たか!」
「扉開けた瞬間に叫ぶな」
バルガ。
待っていた。
しかも。
「……何これ」
作業台。
紙。
紙。
紙。
紙。
大量の設計図。
「試作五号!」
「多すぎない?」
「考えられるだけ考えた!」
嫌な予感しかしない。
「ジョウゴ!」
後ろ。
ミナ。
カイト。
レント。
「みんないるのか」
「呼ばれた」
レント。
「俺も」
カイト。
「私は魔力担当だって!」
ミナ。
「今日は鍛冶しないぞ」
俺。
「設計だけだ!」
バルガ。
「本当に?」
「たぶん!」
「たぶんって言った」
◇◇◇
作業台。
一枚目。
《試作五号・案一》
刀身全体を《星蒼導流鋼》で製作。
「却下」
「早ぇ!」
「素材足りない」
「……それはそうだ」
二枚目。
《試作五号・案二》
芯金だけ星蒼導流鋼。
外側は従来の複合鋼。
「これは?」
「悪くない」
俺。
星蒼導流鋼の目的は。
魔力経路。
なら。
刀身全部を特殊素材にする必要はない。
「内部に通せばいい」
「俺もそう思った」
バルガ。
三枚目。
《試作五号・案三》
刃側へ星蒼導流鋼を集中。
「これは?」
「魔力刃向き」
ミナ。
「でも」
俺。
「刃側だけに魔力が偏る」
「刀身のバランスが崩れる可能性がある」
バルガ。
「却下?」
「保留」
◇◇◇
四枚目。
俺は止まる。
「これは?」
構造が違う。
鍔元。
そこに。
小さな青月石。
そこから一本の経路。
刀身内部。
切先まで。
《青月石》
↓
《星蒼導流鋼・芯》
↓
《銀星砂分散層》
↓
《刀身》
「……なるほど」
レント。
「何が違う?」
カイト。
俺は紙を指差す。
「魔力を直接刀身全体へ流さない」
「青月石を通す?」
ミナ。
「そう」
青月石。
魔力を一度受け止める。
蓄積。
安定。
そこから。
星蒼導流鋼の経路へ。
「高速道路みたい」
ミナ。
「前は交通整理だったな」
カイト。
「今回は道路まで増えた」
レント。
「例えが交通系に固定されてない?」
「分かりやすいからいいだろ」
◇◇◇
俺は試作四号を抜く。
《鉄刀・試作四号》
今でも十分強い。
魔力刃。
耐久。
重量。
バランス。
実戦で使える。
「五号で何を改善する?」
俺。
「全部!」
バルガ。
「却下」
「なんでだ!」
「目的を決める」
試作品。
何を検証するための武器なのか。
そこを曖昧にしたくない。
「第一」
俺。
「魔力刃の安定」
「おう」
「第二」
「MP効率」
「おう」
「第三」
「耐久性」
「当然」
「第四」
「普通の刀として使えること」
バルガが止まる。
「そこ重要か?」
「一番重要」
「魔力武器だぞ?」
「刀だ」
俺は即答する。
「魔力が切れたら使えません、は困る」
「なるほど」
レント。
「ジョウゴらしい」
「MP81しかないからな」
ミナ。
「私より40少ない」
「僧侶と比べるな」
◇◇◇
つまり。
《試作五号・開発目標》
《1:通常刀として高性能》
《2:魔力経路の自己安定》
《3:魔力刃起動時のMP効率改善》
《4:魔力流入による刀身負荷軽減》
《5:実戦時の重量・重心を試作四号から大きく変えない》
「五つ」
カイト。
「多くない?」
「全部必要」
「バルガと似てきた?」
「やめて」
「どういう意味だ!」
◇◇◇
「次」
素材。
バルガが一覧を出す。
《高密度鉄》
在庫あり。
《黒鉄》
在庫あり。
《蒼鉄》
少量。
《青鉄砂》
低純度×8。
良質×3。
《銀星砂》
南洞窟産。
少量。
《青月石》
極少量。
「青月石が問題」
俺。
「ああ」
試験で少し削っている。
残りはある。
しかし。
「失敗できない」
「じゃあ取りに行く?」
ミナ。
「どこへ?」
「南洞窟」
「十階ボスの宝箱は初回報酬だった」
「そっか」
同じボスを倒せば必ず手に入るわけではない。
「冒険者ギルドで情報を探す」
レント。
「青月石の産地」
「それが先だな」
◇◇◇
その時。
バルガ。
「一つ案がある」
「珍しく慎重な顔」
「俺だって真面目な時はある!」
「普段も鍛冶には真面目だろ」
「そうだ!」
バルガは設計図を指差す。
「青月石を刀身へ混ぜない」
「……」
「部品にする」
「部品?」
ミナ。
「鍔元」
俺。
気付いた。
「そうだ」
青月石。
魔力を受けるために使う。
なら。
鋼材へ混ぜ込む必要はない。
「取り外し可能?」
「できる」
バルガ。
「柄と刀身の間に、小型の魔力調整部品として入れる」
「壊れたら交換できる」
「そういうことだ!」
これは大きい。
青月石を刀身へ混ぜ込んだ場合。
刀が破損すれば全部失う。
でも。
独立部品なら。
「再利用できる」
「しかも」
バルガ。
「別の石が見つかったら交換できる」
「拡張性」
レント。
「ゲーム装備っぽくなってきたな」
カイト。
「元からゲームだよ」
◇◇◇
ポーン。
《特殊武器設計》
《新規構造候補を検出》
「システム反応」
表示。
《仮称:魔力調整核》
《武器内部へ流入する魔力を一時蓄積・調整する補助構造》
《適合素材》
《青月石:適合度・高》
「魔力調整核」
ミナ。
「名前ついた」
「まだ仮称」
俺。
さらに。
《魔力調整核を交換式構造として設計可能》
「採用」
俺。
「早ぇ!」
バルガ。
「これは利点が大きい」
「俺も賛成だ!」
◇◇◇
設計。
刀。
柄。
鍔。
刀身。
魔力。
俺が握る。
柄から流す。
鍔元。
《魔力調整核》
青月石。
そこで一度受ける。
そして。
《星蒼導流鋼》
芯。
切先へ。
必要に応じて刃側へ。
「ミナ」
「なに?」
「魔力流す側から見てどう思う?」
「うーん」
ミナが設計図を見る。
「入口が一つなら、流す量を調整しやすいと思う」
「やっぱり」
「でも」
「でも?」
「急にいっぱい流したら?」
俺とバルガ。
「……」
「どうなる?」
カイト。
「分からない」
俺。
「壊れる?」
レント。
「可能性はある」
青月石にも。
容量がある。
「安全機構が必要」
俺。
「何だそれ」
バルガ。
「一定以上の魔力が入ったら遮断」
「できるのか?」
「システム技術としてあるか調べる」
◇◇◇
バルガの工房資料。
魔法武器。
魔導具。
魔力炉。
いろいろ探す。
「これ」
ミナ。
《魔力遮断刻印》
《一定以上の魔力流入時、経路を一時遮断する魔導刻印》
「ある」
「採用!」
バルガ。
「今度はお前が早い」
「爆発は嫌だからな!」
「そこは同意」
試作五号。
さらに安全性。
《魔力調整核》
《魔力遮断刻印》
《星蒼導流鋼芯》
構造が固まっていく。
◇◇◇
そして。
ポーン。
《特殊刀剣設計進行》
《設計完成度:71%》
「七十一」
ミナ。
「まだ三割ある」
「足りないのは?」
表示。
《不足項目》
《素材量》
《魔力調整核・実証試験》
《魔力遮断刻印との適合確認》
《星蒼導流鋼芯の刀剣加工試験》
「作る前に試験だな」
俺。
「明日!」
バルガ。
「今日は?」
「まだ時間ある!」
「何時?」
現実時間。
「……」
「ジョウゴ?」
ミナ。
「そろそろログアウト」
「えー」
バルガ。
「現実の睡眠時間」
「また現実!」
「明日仕事!」
「また仕事!」
カイトが笑う。
「バルガからしたら謎だよな」
「仕方ない」
AWO。
もう一つの世界。
でも。
俺には。
元の世界もある。
◇◇◇
銀麦亭。
「夕食食べてから落ちる?」
ミナ。
「軽めに」
「私はデザート」
「食べたばっかりだろ?」
「別腹!」
食事。
《満腹度:56%》
俺。
問題なし。
ミナ。
《満腹度:71%》
デザート。
《満腹度:84%》
「セーフ!」
「最近それが口癖になってる」
「食べ過ぎ付いてない!」
「そこを基準にするな」
カイト。
葡萄ジュース。
「俺もセーフ!」
「お前は何から逃げてるんだ」
「二日酔い」
「もう酒飲んでないだろ」
◇◇◇
翌日。
俺たちは再び冒険者ギルドへ向かった。
目的。
青月石。
「情報検索」
受付職員へ聞く。
「青月石について調べたいんですが」
「青月石ですか?」
「はい」
「少々お待ちください」
資料。
鉱石図鑑。
採掘記録。
過去の依頼。
そして。
「あ」
「あります?」
「古い記録ですが」
一枚。
《青月石・採取報告》
《場所:シズナ南方山岳地帯》
《採取地点:月影渓谷》
「月影渓谷」
レント。
受付職員が続ける。
「ただし」
「はい」
「現在は通常の採掘地として使われていません」
「理由は?」
地図。
シズナ南方。
南洞窟より。
さらに先。
《月影渓谷》
《推奨Lv:12~16》
「レベル帯高いな」
カイト。
「俺たち11」
そして。
受付職員。
「最近、魔物が増えているという報告もあります」
「種類は?」
「夜行性魔物が中心です」
資料。
《ムーンバットLv.12》
《ナイトウルフLv.13》
《ロックリザードLv.13》
さらに。
《詳細不明の大型反応あり》
「最後」
ミナ。
「嫌なやつ」
「大型」
俺。
「今は行かない」
即決。
「やっぱり」
カイト。
「Lv12にはしておきたい」
「できれば13」
レント。
「そうだな」
青月石は欲しい。
でも。
素材のために全滅したら意味がない。
◇◇◇
「ということで」
俺は依頼掲示板を見る。
「レベル上げ」
「普通の依頼!」
ミナ。
「また普通!」
カイト。
「普通でいい」
レント。
依頼。
《シズナ南街道・魔物討伐》
《推奨Lv10~12》
《対象:ホーンラビット》
《討伐数:15》
「これ」
「ウサギ?」
ミナ。
「角付き」
カイト。
「弱そう」
「油断するな」
「分かってるって!」
受注。
《南街道・ホーンラビット討伐》
◇◇◇
こうして。
試作五号。
設計完成度。
《71%》
必要素材。
青月石。
産地。
《月影渓谷》
推奨Lv12~16。
俺たち。
Lv11。
「まず」
俺は南門へ向かう。
「Lv12」
「おー!」
ミナ。
「新スキル!」
カイト。
「《片手平突き》だったな」
レント。
「ああ」
レベルが上がれば。
新しいシステムスキル。
そして。
その先には青月石。
さらにその先には。
《試作五号》。
急がない。
一つずつ。
準備する。
調べる。
試す。
それから進む。
俺たちは南街道へ歩き出した。
ただし。
「ホーンラビットって美味しいのかな?」
ミナ。
「討伐前から食う話するな」
「食材ドロップあるかも!」
「満腹度気をつけろよ」
「大丈夫!」
その返事が。
一番。
大丈夫じゃない気がした。




