第30話 青鉄砂を探して
翌日。
俺――上塚賢吾は、銀行での仕事を終えて帰宅した。
夕食を済ませ、風呂に入り、家事と翌日の準備を終える。
そこでようやく、自分の時間だ。
「青鉄砂……か」
昨日。
北東草原で薬草採集依頼を終えた直後、バルガから新しい素材の話を聞いた。
《青鉄砂》
蒼鉄の微細な粒子を含む砂。
青露草の群生地付近で見つかる可能性があるらしい。
そして現在。
俺たちが研究している《星蒼複合鋼》には、蒼鉄を使用している。
「使えるなら調べる価値はある」
それに。
《ジョウゴ:Lv.10》
《次レベルまで:92%》
あと少し。
探索中に魔物と戦えば、Lv11へ到達する可能性が高い。
「今日は素材探索とレベル上げだな」
VR機器を装着する。
《リアルコンディションチェックを開始します》
《睡眠状態:良好》
《栄養状態:問題なし》
《水分状態:問題なし》
《体温:正常範囲》
《身体活動:良好》
《フルダイブ可能》
「よし」
ログイン。
◇◇◇
銀麦亭。
「おかえり、ジョウゴ」
「ただいま、マリアさん」
一階へ下りる。
「遅いぞ!」
「時間通りだ」
待っていたのはカイト、ミナ、レント。
そして。
「ジョウゴ!」
「……やっぱりいる」
バルガだ。
「なんだその反応は!」
「予想通りだっただけ」
「準備できてるぞ!」
バルガの足元。
採掘道具。
袋。
小型ハンマー。
スコップ。
ふるい。
……ふるい?
「本気だな」
「当たり前だ!」
バルガは胸を張る。
「青鉄砂ってのはな、普通の鉱石とは違う!」
「砂だから?」
「そうだ!」
バルガがスコップを持ち上げる。
「掘って、集めて、選別する!」
「砂金採りみたいだな」
「砂金?」
「いや、こっちの話」
危ない。
現実の知識を説明しすぎるところだった。
◇◇◇
「青鉄砂って何に使うの?」
ミナが聞く。
「まだ分からん!」
「またそれ!?」
カイト。
「だから探すんだ!」
いつものバルガだった。
俺は昨日聞いた話を整理する。
「蒼鉄の粒子が混ざった砂なんだよな?」
「ああ」
「鉱石を砕くより細かい状態から始められる」
「そうだ」
バルガが頷く。
「配合量を細かく調整できるかもしれねぇ」
「なるほど」
レント。
「星蒼複合鋼の安定性向上?」
「可能性はある」
俺は答える。
現在の《星蒼複合鋼・青月試験材》は安定度94~95%。
かなり高い。
だが、まだ完成ではない。
青鉄砂なら。
蒼鉄の量を細かく調整できる。
「行く価値はあるな」
「だろ!」
バルガが笑う。
「じゃあ行くぞ!」
「待て」
「なんだ!」
「依頼確認」
「素材!」
「ついでに依頼を受ける」
「時間が!」
「経験値も必要」
現在Lv10。
南洞窟十一階以降へ進むなら、Lv14程度までは上げたい。
素材探索だけでは効率が悪い。
◇◇◇
冒険者ギルド。
北東草原周辺。
依頼を探す。
「これ」
レント。
《北東草原・グラスウルフ討伐》
《推奨Lv9~11》
《討伐数:10体》
《最近、青葉草採集地周辺で群れが確認されています》
「ちょうどいい」
「受けよう」
受付。
《依頼受注》
《グラスウルフ討伐:0/10》
「これで素材探索とレベル上げを両立できる」
バルガ。
「青鉄砂!」
「分かってる」
◇◇◇
今日は配信なし。
前回配信したばかりだし、正式配信者だからといって毎日LIVEをする必要はない。
仕事もある。
AWOを純粋に遊ぶ時間も欲しい。
何より。
「配信してないから、新素材を見つけてもバルガに先回りされない」
「俺が一緒にいるぞ!」
「しまった」
「何で残念そうなんだ!」
ミナが笑う。
◇◇◇
シズナ北東門。
草原。
昨日と同じ道。
ただし今回は青葉草が目的ではない。
「青露草の群生地はこっち」
レントが先導。
「よく覚えてるな」
「索敵担当だから」
しばらく歩く。
風。
草。
青葉草。
そして。
「ここ」
青みがかった葉。
《青露草》
数株。
「この辺か」
バルガがしゃがむ。
土を見る。
「……違う」
「分かるの?」
「砂の色」
さらに進む。
「水場が必要かもしれない」
俺。
「どうして?」
ミナ。
「細かい鉱物なら、水で運ばれて溜まる可能性がある」
「なるほど」
バルガ。
「川か?」
「小川でもいい」
レントが周囲を見る。
「東に水音」
「行こう」
◇◇◇
小さな沢。
水は澄んでいる。
底。
砂。
石。
バルガが目を細める。
「……ある」
「え?」
カイト。
「どこ?」
「ここだ!」
砂。
普通の灰色。
でも。
光の角度によって。
わずかに青い粒が光る。
「鑑定」
《青鉄混じりの川砂》
《蒼鉄成分を微量に含む》
「当たり」
「よっしゃあ!」
バルガがスコップを構える。
「掘るぞ!」
「待て」
「またか!」
「魔物」
レント。
弓を構えている。
草むら。
ガサッ。
ガサガサッ!
《グラスウルフLv.9》
《グラスウルフLv.10》
《グラスウルフLv.9》
《グラスウルフLv.10》
「四体」
カイト。
「依頼対象!」
「バルガは下がって」
「俺も戦えるぞ!」
「採掘道具で?」
「ハンマーがある!」
「戦闘用じゃないだろ!」
◇◇◇
「来る!」
カイト。
盾。
一体。
二体。
正面。
ガン!
「二体受けた!」
「レント、左!」
「了解」
矢。
シュッ!
一体の肩。
命中。
俺は右。
グラスウルフLv10。
跳ぶ。
「見える」
《見切り》
身体を半歩ずらす。
爪。
空振り。
刀を添える。
《受け流しLv.1》
勢いを横へ。
着地。
崩れた。
《崩し》
「ふっ!」
一閃。
《グラスウルフLv.10に大ダメージ》
反転。
もう一撃。
《グラスウルフLv.10を討伐しました》
《依頼進行:1/10》
「次!」
◇◇◇
ミナ。
「《ライトボルト》!」
光。
カイトの前。
一体が怯む。
「今!」
「おう!」
盾打撃。
ドン!
レント。
矢。
《グラスウルフLv.9を討伐しました》
《依頼進行:2/10》
残り二体。
問題なし。
数分後。
《グラスウルフ討伐:4/10》
「あと六」
「順調」
ミナ。
そして。
ポーン。
「ん?」
俺の視界。
《経験値を獲得しました》
《必要経験値に到達》
《LEVEL UP!》
「来た」
「ジョウゴ?」
カイト。
「Lv11」
「おお!」
◇◇◇
表示。
《ジョウゴ》
《Lv.10 → Lv.11》
《HP 194 → 205【+11】》
《MP 78 → 81【+3】》
《力 34 → 38【+4】》
《すばやさ 38 → 41【+3】》
《防御力 29 → 31【+2】》
《技量 43 → 46【+3】》
《運の良さ 12 → 13【+1】》
「力+4」
「技量46!」
ミナ。
「レントのLv10と同じくらい?」
「数値だけなら」
俺は手を開く。
握る。
身体が少し軽い。
でも。
前にも確認した。
ステータスが上がったからといって、新しい技術を突然覚えるわけじゃない。
使うのは俺。
「新しいスキルは?」
カイト。
「確認する」
《剣士・Lv11》
《新規職業スキル:なし》
「なし」
「残念」
「毎レベル増えるわけじゃない」
次の剣士スキルはLv12。
《片手平突き》
そこまではあと一つ。
「焦らず行こう」
◇◇◇
「ジョウゴだけ先に上がった!」
ミナ。
「みんなも近いだろ?」
確認。
カイト。
《次レベルまで:5%》
ミナ。
《次レベルまで:7%》
レント。
《次レベルまで:4%》
「今日中に全員上がりそう」
「よし!」
カイト。
「狼探すぞ!」
「目的が逆転してる」
青鉄砂を探しに来たんだ。
「俺は砂!」
バルガ。
「知ってる」
◇◇◇
採集開始。
スコップ。
川砂。
桶。
「で?」
ミナ。
「どうするの?」
「ふるいにかける」
バルガ。
水。
砂を入れる。
揺らす。
細かい泥。
流れる。
重い粒子。
残る。
「おお」
青い。
ほんの少し。
「これ?」
鑑定。
《低純度青鉄砂》
《品質:普通》
《蒼鉄含有量:低》
「成功!」
バルガ。
「でも低純度」
俺。
「精錬すりゃいい!」
「どれくらい必要?」
「いっぱい!」
「雑」
◇◇◇
全員で採集。
俺。
カイト。
レント。
ミナ。
そしてバルガ。
「これ地味だな」
カイト。
「採集ってそういうもの」
「戦闘より時間かかる」
「だから素材に価値がある」
俺はふるいを揺らす。
すると。
キラッ。
「ん?」
青。
さっきより濃い。
《青鉄砂》
《品質:良質》
《蒼鉄含有量:中》
「出た」
「何ぃ!?」
バルガが飛んできた。
「見せろ!」
「近い!」
「良質!」
「まだ一袋分にもならないぞ」
「集めろ!」
「はいはい」
◇◇◇
その後。
また狼。
六体。
「ちょうど残り!」
カイト。
「囲まれないように」
俺。
「バルガ、後ろ」
「分かってる!」
戦闘。
カイト。
盾。
レント。
弓。
ミナ。
魔法。
俺。
刀。
Lv11。
すばやさ41。
技量46。
「……少し違う」
踏み込み。
速い。
刀の停止位置。
以前より細かく調整できる。
狼の爪。
見切る。
受け流す。
崩す。
一閃。
《グラスウルフLv.10を討伐》
《依頼進行:7/10》
さらに。
《8/10》
《9/10》
最後。
「カイト!」
「任せろ!」
盾で進路を塞ぐ。
「レント!」
「右へ追い込む」
矢。
狼が避ける。
その先。
俺。
「そこ」
一閃。
《グラスウルフLv.10を討伐しました》
《依頼達成:10/10》
◇◇◇
ポーン。
ポーン。
ポーン。
「来た!」
カイト。
「私も!」
ミナ。
「上がった」
レント。
《カイト Lv.10 → Lv.11》
《ミナ Lv.10 → Lv.11》
《レント Lv.10 → Lv.11》
「全員11」
「やった!」
ミナ。
「数字見るぞ!」
カイト。
◇◇◇
《カイト Lv.11》
《HP 224 → 240【+16】》
《MP 52 → 54【+2】》
《力 39 → 43【+4】》
《すばやさ 27 → 28【+1】》
《防御力 43 → 48【+5】》
《技量 31 → 33【+2】》
《運の良さ 10 → 11【+1】》
「防御48!」
「さらに硬くなったな」
「壁!」
ミナ。
「盾!」
カイト。
「そこ重要!?」
◇◇◇
《ミナ Lv.11》
《HP 161 → 170【+9】》
《MP 112 → 121【+9】》
《力 21 → 22【+1】》
《すばやさ 29 → 31【+2】》
《防御力 25 → 27【+2】》
《技量 41 → 45【+4】》
《運の良さ 17 → 18【+1】》
「MP121!」
ミナ。
「回復いっぱいできる!」
「使い切る前に撤退しような」
「ジョウゴらしい」
◇◇◇
《レント Lv.11》
《HP 170 → 180【+10】》
《MP 66 → 70【+4】》
《力 29 → 31【+2】》
《すばやさ 40 → 44【+4】》
《防御力 25 → 26【+1】》
《技量 46 → 51【+5】》
《運の良さ 15 → 16【+1】》
「技量51」
カイト。
「五十超えた!」
レント。
「弓の感覚を確認したい」
「帰る前に訓練?」
「少しだけ」
「いいな」
◇◇◇
でも。
「その前に青鉄砂!」
バルガ。
「忘れてないよ」
「レベルより素材!」
「俺たちにはレベルも重要!」
◇◇◇
採集を続ける。
最終結果。
《低純度青鉄砂×8》
《青鉄砂・良質×3》
「十分?」
「試験ならな!」
バルガは満足そう。
「帰ったら工房!」
「今日は?」
「当然!」
俺は現実時間を確認。
「少しなら」
「よし!」
「一時間」
「三時間!」
「一時間」
「二時間!」
「一時間」
「一時間半!」
「値切るな」
カイトが笑う。
「銀行員相手に交渉してる」
「契約書作る?」
ミナ。
「やめてくれ!」
バルガが本気で嫌そうな顔をした。
◇◇◇
シズナ。
冒険者ギルド。
《グラスウルフ討伐依頼達成》
《評価:A》
《報酬獲得》
《経験値獲得》
全員Lv11。
順調。
南洞窟十一階の推奨Lv14までは、あと三。
急ぐ必要はない。
◇◇◇
そして。
バルガの工房。
「まず精錬!」
青鉄砂。
細かな不純物。
取り除く。
洗浄。
選別。
加熱。
蒼鉄成分。
凝縮。
「普通の蒼鉄と違う」
俺。
「ああ」
バルガ。
「最初から細けぇから混ぜやすい」
高密度鉄。
黒鉄。
銀星砂。
青鉄砂。
そして青月石。
「全部入れる?」
ミナ。
「今日は少量試験」
俺。
「よし!」
魔力。
火。
槌。
カァン!
カァン!
《槌打ちLv.1》
Lv11になった技量46。
微妙な角度。
力。
調整。
「……やりやすい」
「何が?」
バルガ。
「槌」
「レベル上がったからか?」
「たぶん」
技量。
戦闘だけじゃない。
生産作業にも影響する。
カァン!
ミナ。
「魔力流すよ!」
「青月石経由!」
「分かった!」
淡い青。
流れる。
青鉄砂。
細かく。
均等に。
混ざる。
「これ……」
バルガの目が変わる。
「いいぞ!」
最後。
俺。
槌。
「――っ!」
カァァァン!
◇◇◇
冷却。
鑑定。
《名称未登録・特殊複合鋼》
「名称未登録?」
ミナ。
さらに。
《硬度:高》
《粘性:非常に高い》
《重量:軽》
《魔力伝導:非常に高い》
《魔力経路形成適性:非常に高い》
《魔力蓄積:中》
《魔力放出安定性:非常に高い》
《安定度:97%》
「…………」
「…………」
「…………」
俺。
「97」
ミナ。
「前は95!」
バルガ。
「来たぁぁぁぁぁ!!」
「うるさい!」
工房に響く。
でも。
俺も。
少し笑っていた。
「二%」
たった二。
でも。
90%を超えてからの二%。
大きい。
青鉄砂。
細かな蒼鉄成分。
均等な分散。
青月石。
魔力の安定。
「試作五号」
バルガ。
俺を見る。
「…………」
「…………」
「ジョウゴ」
「まだ」
「なんでだぁぁぁ!」
「一回しか成功してない!」
「九十七だぞ!」
「再現できるか確認!」
「職人より職人みてぇなこと言いやがって!」
「褒めてる?」
「褒めてる!」
◇◇◇
その時。
ポーン。
《特殊素材研究条件を一部達成》
《複合素材の安定度が規定値を超えました》
《新規地域技術候補を検出》
「え?」
全員。
画面。
《現在解析中》
《一定条件達成後、正式登録されます》
「地域技術……」
以前。
《複合鍛造刀》
が登録された。
そして俺は。
《刀の先駆者》
を得た。
「また何か始まる?」
ミナ。
「可能性はある」
俺。
バルガ。
笑う。
「面白くなってきたじゃねぇか!」
「その顔すると長くなる」
「もう一回!」
「今日は終わり!」
「なんでだ!」
「一時間経った!」
「あと一回!」
「現実時間!」
「だから現実って何だ!」
「……予定!」
危ない。
◇◇◇
銀麦亭。
夕食。
ミナ。
《満腹度:68%》
「デザート」
「一個だけ」
「分かってる!」
《満腹度:81%》
「余裕!」
「学習した」
カイト。
葡萄ジュース。
「俺も成長した」
「それはレベルじゃない」
「心のレベル」
「何それ」
レント。
「Lv11になったしな」
四人。
Lv11。
少しずつ。
確実に。
前へ進んでいる。
そして。
鍛冶も。
《安定度97%》
新しい領域へ。
◇◇◇
「次はLv12?」
カイト。
「そうだな」
「ジョウゴ、Lv12で新スキルだろ?」
「《片手平突き》」
「使う?」
「覚えたら確認する」
「リアルの突きと違う?」
ミナ。
「そこも見たい」
システムアシスト。
現実の剣術。
二つの違い。
確かに面白そうだ。
「でもまず」
俺。
「普通にレベル上げ」
「また普通?」
「普通が一番」
そう言った瞬間。
銀麦亭の扉。
バン!
「ジョウゴォ!」
「今度は何!?」
バルガ。
息を切らしている。
「さっきの試験材!」
「うん」
「冷却後にもう一回調べた!」
「結果は?」
バルガが。
笑う。
「魔力経路が――」
一拍。
「自己安定してやがる」
「……何?」
俺は立ち上がった。
星蒼複合鋼。
青月石。
青鉄砂。
そして。
魔力経路。
試作四号の先にあるもの。
《鉄刀・試作五号》。
その姿が。
少しずつ――。
見え始めていた。




