第28話 青月石と次の可能性
翌日。
俺――上塚賢吾は、銀行での仕事を終えて帰宅した。
昨日は南洞窟第十階層。
《アーマードミノタウロスLv.13》を撃破。
そして宝箱から――。
《青月石×1》
という希少素材を手に入れた。
「今日は工房、だよな」
昨日のバルガ。
『明日! 工房!』
あの勢いを見る限り、逃げられない。
まあ。
「俺も気になるけど」
青月石。
説明では、
《魔力を穏やかに蓄積する希少鉱石》
《魔力伝導素材との相性が良い》
となっていた。
《星蒼複合鋼》と相性が良さそうにしか見えない。
「ログイン」
◇◇◇
《リアルコンディションチェックを開始します》
《睡眠状態:良好》
《栄養状態:問題なし》
《水分状態:問題なし》
《体温:正常範囲》
《身体活動:良好》
《フルダイブ可能》
「問題なし」
ログイン。
◇◇◇
銀麦亭。
「おかえり、ジョウゴ」
「ただいま、マリアさん」
そして。
「遅ぇ!」
「出た」
バルガ。
「まだ何も言ってねぇ!」
「顔で分かる」
「青月石!」
「はいはい」
さらに。
「私もいるよ!」
ミナ。
「今日は魔力担当?」
「たぶん!」
レントとカイトもいる。
「俺らも見学」
カイト。
「戦闘じゃないなら暇だ」
レント。
「暇って言うな」
◇◇◇
バルガの工房。
作業台。
中央。
《青月石》
淡い青。
表面は半透明。
光を当てると、内部で月明かりみたいな輝きが揺れる。
「綺麗……」
ミナ。
「見た目だけじゃねぇ」
バルガが指で軽く叩く。
キン。
「魔力を溜める」
「どれくらい?」
「分からん!」
「いつものやつ」
「未知だからな!」
俺は鑑定。
《青月石》
《希少素材》
《魔力蓄積:高》
《魔力放出:緩やか》
《魔力伝導素材との複合適性:高》
「やっぱり」
俺。
「星蒼複合鋼向きじゃないか?」
「俺もそう思う」
バルガ。
「だが」
「そのまま混ぜる?」
「それはやらん」
「珍しく慎重」
「俺を何だと思ってる!」
「鍛冶馬鹿」
「褒めるな!」
「褒めてない」
◇◇◇
「まずは単体で見る」
バルガ。
ミナが青月石に手を添える。
「魔力流すね」
「少しだけ」
淡い光。
すぅ――。
青月石の内部。
光が濃くなる。
「入った」
「止めて」
ミナが魔力を止める。
だが。
光は消えない。
「残ってる」
カイト。
「蓄積してるんだな」
俺。
しばらく待つ。
一分。
二分。
三分。
少しずつ。
光が薄くなる。
「急に吐き出さない」
レント。
「緩やか」
説明通りだ。
「つまり」
俺は考える。
「魔力経路の前に置けば」
バルガが頷く。
「一気に流れ込むのを抑えられるかもしれねぇ」
「入口側に」
「ああ」
試作四号では黒鉄を鍔元に追加して、魔力の流入を少し抑えた。
でも。
青月石なら。
抑えるだけじゃない。
溜めてから、安定して流す。
「バッファみたいな役割?」
ミナ。
「そう」
俺。
「急に流しすぎると経路が乱れる」
「青月石が間に入れば?」
「安定する可能性がある」
「面白い」
レント。
「でも」
俺。
「刀に直接入れるのは怖い」
「だから試験材だ!」
バルガ。
「今日は分かりやすいな」
◇◇◇
試験。
まずは。
《星蒼複合鋼・試験材Ⅱ》
以前作ったものに近い配合。
高密度鉄。
黒鉄。
南洞窟産蒼鉄。
南洞窟産銀星砂。
そこへ――。
「青月石粉末?」
ミナ。
「ほんの少し」
バルガが削る。
俺は止める。
「待て」
「何だ!」
「全部使うなよ」
「分かってる!」
「本当に?」
「信用しろ!」
「……」
「その顔やめろ!」
◇◇◇
ごく少量。
青月石。
混ぜる。
炉。
熱。
金属。
光。
「ジョウゴ!」
「ああ!」
槌。
《槌打ちLv.1》
《技量補正》
カァン!
「ミナ!」
「いくよ!」
魔力。
ただし。
今回は直接流さない。
青月石を経由するように。
「少し弱く」
「これくらい?」
「うん」
カァン!
内部。
青い光。
前とは違う。
「……揺れない」
俺。
「魔力の波が小さい!」
ミナ。
バルガが叫ぶ。
「そのまま!」
カァン!
カァン!
カァン!
魔力。
青月石。
星蒼複合鋼。
一体。
最後。
カァァン――!
高い。
澄んだ音。
◇◇◇
冷却。
鑑定。
《名称:星蒼複合鋼・青月試験材》
「名前変わった」
ミナ。
《硬度:高》
《粘性:高》
《重量:軽》
《魔力伝導:非常に高い》
《魔力経路形成適性:非常に高い》
《魔力蓄積:中》
《魔力放出安定性:高》
《安定度:95%》
「九十五」
俺。
「前は93だったよね?」
ミナ。
「ああ」
「二上がった!」
カイト。
「二って大きい?」
「この辺だと大きい」
バルガ。
「九十超えてから上げるのは難しい」
しかも。
《魔力放出安定性:高》
これまでなかった。
「これ」
俺。
「試作四号に足せたら」
「もっとMP効率良くなるかもな」
バルガ。
「魔力刃補助の起動コスト」
「下げられる可能性ある」
「いいじゃん!」
カイト。
「五号!」
バルガ。
「作らない」
「なんでだ!」
「まだ一回成功しただけ」
「あ」
「再現性」
「……お前、本当に細けぇな」
「また言う?」
「褒めてる!」
「それならいい」
◇◇◇
二回目。
同条件。
《安定度:94%》
三回目。
《安定度:95%》
「再現できた」
「よし!」
バルガ。
システム。
ポーン。
《特殊素材研究進行》
《青月石と星蒼複合鋼の複合適性を確認》
《新規研究項目》
《青月導流構造》
《仮登録》
「また増えた……」
俺。
「名前かっこいい!」
ミナ。
「青月導流構造」
レント。
「悪くない」
「だから」
バルガが笑う。
「五号!」
「まだ」
「また!?」
「青月石一個しかない」
「採ってこい!」
「南洞窟十一階は推奨Lv14から」
「じゃあレベル上げろ!」
「簡単に言うな」
◇◇◇
ここで。
ポーン。
別通知。
《CROSS LIVE》
「神崎さん?」
開く。
『ジョウゴ様』
『次回配信について相談があります』
「また企画?」
ミナ。
「たぶん」
続きを読む。
『最近、生活系アップデートに対する視聴者関心が高まっています』
『次回配信において、AWO内での健康管理・生活状態システムについて簡単に触れていただくことは可能でしょうか』
「なるほど」
満腹。
食べ過ぎ。
酔い。
二日酔い。
現実飲酒連動。
睡眠不足。
リアル空腹。
水分。
熱中症。
運動不足。
最近。
本当に増えた。
「受ける?」
ミナ。
「強制じゃない」
少し考える。
「でも」
俺は笑う。
「もう一回くらい整理して話した方がいいかもな」
視聴者も混乱してそうだ。
『対応可能です』
『ただし、通常配信の中で簡単に触れる形でお願いします』
送信。
『承知しました』
◇◇◇
「で」
カイト。
「今日はこれで終わり?」
「研究は」
バルガを見る。
「終わらない!」
「俺たちは終わる」
「なんでだ!」
「現実の時間」
「……」
バルガ。
「現実?」
俺。
「あ」
危ない。
「こっちの予定」
「そういうことか」
「うん」
また癖で。
現実側の情報。
気をつける。
◇◇◇
銀麦亭。
夕食。
ミナ。
《満腹度:74%》
デザート。
「今日は?」
「一個!」
《満腹度:86%》
「セーフ!」
「毎回ギリギリ」
カイト。
葡萄ジュース。
「安定」
レント。
普通。
そして俺。
今日の新素材。
青月石。
青月導流構造。
刀研究。
レベル上げ。
「次どうする?」
ミナ。
「南洞窟十一階はまだ無理」
「じゃあ普通の依頼?」
「そうする」
レベル。
現在10。
次まで。
《62%》
「あと少しだな」
カイト。
「Lv11」
でも14までは遠い。
「焦らない」
俺。
「その間に装備も整える」
「試作五号?」
ミナ。
「まだ」
バルガが遠くから叫ぶ。
「作るぞぉ!」
「聞こえてるぞ!」
◇◇◇
その時。
一人のプレイヤーが銀麦亭へ入ってくる。
「すみません!」
少し顔色が悪い。
「僧侶さんいますか?」
ミナ。
「はい?」
「二日酔いです……」
カイト。
ビクッ。
「仲間!」
「仲間扱いするな」
「分かる……」
カイトが立つ。
「つらいよな」
「はい……」
「頭痛いよな」
「はい……」
「もう酒やめようって思うよな」
「めちゃくちゃ思います……」
「分かる!」
「経験者同士で意気投合するな」
ミナ。
「じゃあ《浄化》使いますね」
「お願いします」
《生活状態回復サービス》
《浄化》
光。
《二日酔い:症状軽減》
《回復時間短縮》
「おお……楽になった」
「完全には治らないので水分取って休んでください」
「ありがとうございます!」
「30Gです」
「はい!」
ミナ。
《報酬:30G》
「完全に商売になったね」
俺。
「うん!」
「カイト」
「何?」
「お前も今なら相談員できそう」
「二日酔い相談?」
「経験談」
「無料なら」
「妙な仕事増やすな」
◇◇◇
俺は椅子へ深く座る。
AWO。
剣と魔法。
ダンジョン。
鍛冶。
配信。
そして。
飲みすぎた冒険者を僧侶が有料で治す。
「生活してるな」
思わず呟く。
「何が?」
ミナ。
「この世界」
戦うだけじゃない。
飯を食う。
寝る。
働く。
失敗する。
助けてもらう。
金を払う。
そしてまた冒険する。
そういう積み重ねがある。
だからこそ――。
《Another World Online》。
もう一つの世界。
「明日は普通の依頼探すか」
「おー!」
カイト。
「宝箱ある?」
ミナ。
「普通の依頼だって」
「じゃあ素材は?」
「そこは運次第」
レント。
「ミナが開ければ出るかもな」
「任せて!」
「運17だもんな」
俺たちは笑う。
そして。
作業台の奥。
新しく生まれた試験材が。
淡い青色に光っていた。
《青月導流構造》。
それがいつか。
試作四号の先。
次世代の刀へ繋がる可能性を秘めていることを――。
まだ俺たちは知らなかった。




