第27話 第十階層の守護者
翌日。
俺――上塚賢吾は、いつも通り仕事を終えてから帰宅した。
夕食。
風呂。
家事。
翌日の準備。
そこまで終えて、ようやくVR機器の前へ座る。
「今日は第十階層か」
昨日、《南洞窟》第十階層へ到達した。
転移地点も登録済み。
その先には――。
《第十階層・守護区域》
巨大な扉。
つまり、十階層のボスだ。
俺たちは情報なしで突入することを避け、いったんシズナへ戻った。
今日はまず冒険者ギルドで情報確認。
その後、問題なければ挑戦。
「ログイン」
◇◇◇
《リアルコンディションチェックを開始します》
《睡眠状態:良好》
《栄養状態:問題なし》
《水分状態:問題なし》
《体温:正常範囲》
《身体活動:良好》
《フルダイブ可能》
「……もう見慣れたな」
最近追加された《リアルコンディションサポート》。
現実側の身体状態が悪ければ、AWO側で警告や制限がかかる。
最初はゲームに生活指導されているような気分だったが。
「安全機能なら、あった方がいいか」
YES。
ログイン。
◇◇◇
《銀麦亭》。
「おかえり、ジョウゴ」
「ただいま、マリアさん」
食堂には――。
「ジョウゴ!」
ミナ。
「待ってたぞ!」
カイト。
「今日はボス情報からだな」
レント。
全員揃っている。
そして。
「ジョウゴォ!」
「……バルガまでいる」
「銀星砂!」
「今日はボス戦」
「その前に工房!」
「行かない」
「なんでだ!」
「昨日言っただろ」
南洞窟産銀星砂は持っている。
だが、今日はダンジョン。
「帰ってきたら」
「絶対だぞ!」
「生きて帰れたらな」
「縁起でもねぇこと言うな!」
「ボス戦だから一応」
ミナが苦笑する。
「ジョウゴらしいね」
◇◇◇
冒険者ギルド。
南洞窟情報板。
《南洞窟》
《第十階層・守護区域》
《確認済みボス候補》
俺たちは掲示板へ近づく。
「候補?」
カイト。
「固定じゃないのか?」
レントが読む。
「一定期間ごとに守護者が変化する可能性あり」
「へぇ」
ミナ。
「今回は?」
最新情報。
《最終確認:昨日》
《ボス》
《アーマードミノタウロス》
《推定Lv:13》
「ミノタウロス」
俺は名前を見る。
大型。
高火力。
重装甲。
そういうタイプだろう。
さらに。
《主武器:大型戦斧》
《特徴》
《高い物理攻撃力》
《前方広範囲攻撃》
《突進》
《一部位に装甲》
《HP低下時、攻撃頻度上昇》
「狂暴化あり」
レント。
「推奨人数?」
《4~6人》
「四人でもいける」
カイトが言う。
「レベルは?」
「13」
「俺たち10」
ミナが少し不安そう。
「推奨帯は10~14だけど……」
「ボス単体だと上寄りだな」
俺は考える。
不可能ではない。
でも。
「準備は必要」
俺。
「回復薬」
「ある」
ミナ。
「盾耐久」
「昨日整備した!」
カイト。
「矢」
「十分」
レント。
「俺は試作四号」
耐久問題なし。
「魔力刃は?」
ミナ。
「切り札」
常時使わない。
MP78。
起動1。
斬撃ごとに2前後。
使いどころを選ぶ。
◇◇◇
「配信する?」
カイト。
「する」
久しぶりのボス戦。
CROSS LIVEとしても見たい人は多いだろう。
でも。
「初見だから、コメントから攻略情報は拾わない」
「なんで?」
ミナ。
「知りすぎると初見じゃなくなる」
「なるほど」
レント。
「コメント要約は切る?」
「戦闘中だけ切る」
それがいい。
◇◇◇
南洞窟入口。
配信準備。
【AWO】南洞窟・第十階層ボスに挑戦します
《NPCプライバシー自動保護:ON》
《位置情報遅延:ON》
《現実身元保護:ON》
《コメント要約:ON》
「始めます」
《LIVE――START》
『きた!』
『ボス戦!』
『ミノタウロス!?』
『Lv10でいける?』
『ジョウゴ慎重だから大丈夫そう』
《現在視聴者数:33,417》
「こんばんは。今日は南洞窟第十階層の守護者へ挑戦します」
『試作四号使う?』
「使います」
『魔力刃!』
「必要なら」
『温存勢』
「MP有限なので」
◇◇◇
転移。
《南洞窟第十階層》
巨大な扉。
今日は。
開ける。
「準備」
カイト。
盾。
「OK」
レント。
矢。
「OK」
ミナ。
杖。
「OK」
俺。
試作四号。
「行くぞ」
扉へ手をかける。
ゴゴゴゴゴ……。
重い音。
開く。
◇◇◇
広い円形空間。
中央。
巨大な影。
人型。
牛の頭。
全身を厚い革と金属板で覆っている。
右手。
巨大戦斧。
《BOSS》
《アーマードミノタウロス Lv.13》
「来た」
ミノタウロスが顔を上げる。
「ブオオオオオオオッ!!」
咆哮。
空気が震える。
『でかっ!』
『斧やばい』
『頑張れ!』
「コメント表示切る」
《戦闘集中モード》
《コメント表示:最小化》
「カイト!」
「任せろ!」
前。
俺は右。
レント左後方。
ミナ中央後方。
「開始!」
◇◇◇
ミノタウロス。
いきなり突進。
「来る!」
カイト。
盾を構える。
「真正面は駄目!」
「分かってる!」
盾を斜め。
ガァァァン!!
「ぐっ!」
カイトが大きく押される。
でも。
完全には吹き飛ばない。
「今!」
レント。
矢。
首。
カンッ!
「弾かれた!」
「装甲!」
俺。
見る。
胸。
肩。
腕。
脚。
全部が硬い。
「関節!」
膝裏。
脇。
装甲の隙間。
「そこだ」
ミノタウロスがカイトへ戦斧を振り下ろす。
「カイト下がれ!」
ドォン!!
床が割れる。
俺は横。
一歩。
膝裏。
試作四号。
通常。
「ふっ!」
斬。
《アーマードミノタウロスにダメージ》
通った。
でも浅い。
「硬い」
反撃。
斧横薙ぎ。
速い。
《見切り》
低く。
潜る。
ギリギリ。
「危なっ!」
カイト。
「喋るな!」
◇◇◇
ミナ。
「《ライトボルト》!」
光。
顔。
ミノタウロスが怯む。
「目には効く!」
レント。
「狙う」
矢。
目元。
命中。
「ブオオッ!」
怒った。
「ヘイト変わった!」
レント。
ミノタウロスが向く。
「カイト!」
「引き戻す!」
盾打撃。
ガン!
「こっちだ!」
咆哮。
再びカイトへ。
「盾役って大変だな」
「今さら!?」
◇◇◇
数分。
削る。
関節。
脇。
首の隙間。
急所はある。
でも。
硬い。
《BOSS HP:71%》
「まだ七割」
ミナ。
「MPは?」
「92/112」
「余裕ある」
カイト。
「盾耐久78%!」
「問題なし」
レント。
「矢残り十分」
俺。
《HP:181/194》
《MP:78/78》
魔力刃はまだ使ってない。
「後半用」
◇◇◇
ミノタウロス。
戦斧を両手。
「何か来る!」
レント。
大きく振りかぶる。
「離れろ!」
ドォォォォン!!
戦斧が床へ。
衝撃波。
「うわっ!」
ミナが後ろへ。
「ミナ!」
「大丈夫!」
《HP:137/161》
「範囲攻撃」
次。
また構える。
「連発する?」
「いや」
ミノタウロスが息を吐く。
隙。
「今!」
全員。
攻撃。
俺。
膝。
「斬!」
レント。
目。
カイト。
盾殴打。
ミナ。
光魔法。
《BOSS HP:54%》
「半分!」
◇◇◇
その瞬間。
ミノタウロスの身体が赤く光る。
「来た」
《狂暴化》
咆哮。
攻撃速度。
上昇。
「カイト!」
「分かって――」
速い。
斧。
ガァン!
「ぐあっ!」
カイトが飛ぶ。
「カイト!」
《HP:104/224》
「半分持ってかれた!」
「ミナ!」
「《ライトヒール》!」
回復。
でも。
ミノタウロス。
追撃。
「させない!」
俺が入る。
斧。
正面。
受けたら無理。
《見切り》
軌道。
斜め。
試作四号を添える。
《受け流しLv.1》
ガギィィン!!
「っ!」
重い。
腕が痺れる。
でも。
流れた。
「ブオ!?」
ミノタウロスの身体が崩れる。
「今だ!」
《崩し》
足。
腰。
重心。
巨大な相手。
完全には倒れない。
でも一瞬。
傾く。
「レント!」
「分かってる!」
矢。
目。
「ミナ!」
「《ライトボルト》!」
光。
そして。
「カイト!」
「戻った!」
盾。
突撃。
ドン!!
ミノタウロス。
膝をつく。
「ここ」
俺。
MP。
流す。
スゥゥゥ――。
試作四号。
青白い光。
《魔力刃補助:ON》
《MP:77/78》
「行く」
首。
装甲と頭部の間。
隙間。
「ふっ!」
一閃。
スッ――。
《クリティカル》
《BOSS HP:38%》
「入った!」
◇◇◇
怒り。
ミノタウロスが立つ。
戦斧。
連続。
一。
二。
三。
「速い!」
カイト。
盾。
一撃目。
ガン!
二撃目。
流す。
三撃目。
「無理!」
「下がれ!」
交代。
俺。
全部は受けない。
かわす。
流す。
退く。
攻撃しない。
生存優先。
「レント!」
「左脚削る!」
矢。
「ミナ!」
「カイト回復!」
役割。
崩さない。
◇◇◇
《BOSS HP:22%》
残り。
「もう少し!」
ミナ。
「ここから油断しない」
俺。
ミノタウロス。
また衝撃波。
「離れろ!」
ドォォン!!
全員回避。
その直後。
突進。
「カイトじゃない!」
俺。
標的。
「来た」
真正面。
巨大。
速い。
「ジョウゴ!」
ミナ。
逃げても追いつかれる。
なら。
ギリギリ。
引きつける。
一歩。
半歩。
角。
肩。
軌道。
《見切り》
「今」
身体を横。
角が通過。
試作四号。
魔力刃。
青。
すれ違いざま。
「斬!」
脇。
深く。
《クリティカル》
《BOSS HP:11%》
「ブオオオオッ!!」
「まだ!」
ミノタウロス反転。
レント。
「目!」
矢。
命中。
《BOSS HP:8%》
ミナ。
「《ライトボルト》!」
《BOSS HP:5%》
カイト。
「これで!」
盾。
突撃。
ドン!
《BOSS HP:2%》
「ジョウゴ!」
「ああ」
最後。
斧が上がる。
俺も。
刀を構える。
魔力。
《MP:67/78》
踏み込む。
相手が振る前。
懐。
「ふっ!」
横一閃。
スッ――。
一瞬。
静寂。
そして。
《アーマードミノタウロスLv.13を討伐しました》
◇◇◇
巨体。
倒れる。
ドォォン!!
「…………」
「…………」
「…………」
カイト。
「勝った?」
ミナ。
「勝った!」
レント。
「ああ」
俺。
「ふぅ……」
魔力刃OFF。
試作四号。
確認。
《耐久値:86%》
《魔力経路:安定》
「問題なし」
「まず自分のHP確認しろ!」
カイト。
「181」
「高っ!」
「俺は受けてないから」
「俺は盾だから受けたんだ!」
「ありがとう」
「急に素直!」
◇◇◇
戦闘集中モード解除。
コメント。
爆発。
『おおおおおお!』
『勝った!』
『Lv10四人でLv13!』
『受け流しやばい』
『カイト盾役お疲れ!』
『ミナ回復ナイス!』
『レント安定してた!』
『最後かっこよすぎ』
《現在視聴者数:186,503》
「十八万……」
また増えてる。
「こんばんは……じゃないな」
カイト。
「終わった後だぞ」
「とりあえず勝ちました」
『見てたwww』
「そうだった」
◇◇◇
報酬。
《南洞窟・第十階層守護者討伐》
《初回討伐報酬》
《経験値獲得》
《討伐評価:A》
「A」
ミナ。
「SSじゃないんだ」
「普通のボス戦だから」
「灰色谷基準やめよう」
カイト。
そして。
《ドロップ》
《ミノタウロスの硬角×2》
《重装皮×3》
《鉄塊×2》
《魔石・中×1》
「素材」
バルガ喜びそう。
「また鍛冶か」
レント。
「いや、まず売却も検討」
俺。
「全部使うと思った」
「俺をバルガと一緒にするな」
◇◇◇
さらに。
宝箱。
「ミナ」
三人。
「はい!」
幸運担当。
「開けるよ!」
カチャ。
《宝箱開封》
《希少素材判定》
「お」
《青月石×1》
「何これ?」
ミナ。
俺。
鑑定。
《青月石》
《魔力を穏やかに蓄積する希少鉱石》
《魔力伝導素材との相性が良い》
「…………」
全員。
俺を見る。
「何?」
「ジョウゴ」
カイト。
「鍛冶素材じゃない?」
「……そうだな」
「バルガ案件」
レント。
「これは隠せないね」
ミナ。
「配信中だからな……」
『バルガ呼んでくる』
「やめて!」
◇◇◇
配信終了。
「今日はここまで」
『お疲れ!』
『十階突破!』
『次は十一階?』
「行きません」
『即答』
「十一階から推奨Lv14以上なので」
まだLv10。
無理。
「しばらく別の依頼やレベル上げです」
『慎重』
「生きて帰るまでが攻略です」
『正論』
「では、お疲れさまでした」
《LIVE――END》
◇◇◇
銀麦亭。
「ただいま」
「おかえり」
マリアさん。
そして。
「ジョウゴォォォォ!」
「来た」
バルガ。
「青月石!」
「早すぎる!」
「工房!」
「今日は行かない!」
「なんでだ!」
「ボス戦終わったばっかり!」
「素材は疲れねぇ!」
「俺が疲れてる!」
「じゃあ素材だけ!」
「渡さない!」
「なぜだぁ!」
いつもの流れ。
ミナたちは笑っている。
◇◇◇
俺は椅子へ座る。
今日。
Lv13ボス。
四人。
勝利。
数字だけなら不利。
でも。
カイトが受け。
レントが削り。
ミナが支え。
俺が隙を作る。
一人では無理だった。
「やっぱり」
俺は呟く。
「ステータスだけじゃないな」
「何が?」
ミナ。
「強さ」
レベル。
装備。
技能。
現実の技術。
判断。
連携。
全部。
「それがパーティーだろ?」
カイト。
「たまにいいこと言うな」
「またそれ!?」
笑い。
◇◇◇
そして。
視界端。
システム通知。
《経験値が一定値に到達しました》
《次回レベルアップまで:62%》
「まだLv11は先」
「次何する?」
ミナ。
「普通の依頼」
「また?」
「また」
大事件だけがAWOじゃない。
むしろ。
普通の冒険。
普通の生活。
その積み重ねがいい。
ただ。
机の上。
《青月石》
青く。
淡く。
光る。
そして横。
バルガ。
「ジョウゴ」
「何?」
「明日」
「……はい」
「工房」
「分かったよ」
「よっしゃ!」
俺はため息。
南洞窟十階層突破。
新素材。
そして。
次はまた――。
刀研究の日になりそうだった。




