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Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第二章 CROSS社契約編

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第26話 ゲームに「現実で休め」と言われました

 翌日。


 昼休み。


 俺――上塚賢吾は、銀行の休憩室でスマートフォンを眺めていた。


「…………」


 画面に表示されているのは、CROSS LIVEの通知。


 昨日の配信アーカイブではない。


 CROSS社から届いたAWOの公式通知だ。


《Another World Online 簡易アップデートのお知らせ》


「…………来た」


 嫌な予感しかしない。


 昨日。


 俺は確かに言った。


『そのうち、現実で寝不足だったり、飯食ってなかったり、水分不足だったりしたら警告されそうだな』


 そしてミナたちは悪ノリした。


『睡眠不足は?』


『来ない!』


『リアル空腹警報』


『来ない!』


『水分不足』


『来ない!』


『熱中症』


『来ないって!』


『運動不足』


『それまでゲームに言われたくない!』


「…………」


 通知を開く。


《次回簡易アップデート》


《リアルコンディションサポート機能を追加します》


「来るんじゃないか!」


 思わず小声で突っ込んだ。


◇◇◇


 仕事中にゲームの詳細を読み込むわけにもいかない。


 昼休みが終われば、当然ながら銀行員に戻る。


 窓口。


 書類確認。


 事務処理。


 数字。


 確認。


 もう一度確認。


 ゲームのことは帰宅してからだ。


 正式配信者になったからこそ、そこは分ける。


◇◇◇


 帰宅。


 夕食。


 風呂。


 家事。


 翌日の準備。


 そして。


「よし」


 VR機器。


 起動。


《Another World Online》


《簡易アップデート Ver.1.15》


《リアルコンディションサポート》


「はいはい」


 もう驚かない。


 ……たぶん。


◇◇◇


 最初。


《睡眠状態サポート》


《フルダイブ開始時、対応機器から取得可能な身体状態情報を用いて安全確認を行います》


《睡眠不足傾向が確認された場合、休息を推奨します》


《一定以上の睡眠不足が検出された場合、ゲーム内へ状態補正が適用される場合があります》


《状態:睡眠不足》


《主な影響》


《すばやさ:一時低下》


《技量:一時低下》


《一部システムアシスト精度低下》


「うわ……」


 これは戦闘職には痛い。


 特に俺。


 すばやさと技量。


 どちらも剣士の重要ステータスだ。


《重度の睡眠不足や安全上問題のある身体状態が確認された場合、ログイン制限または休憩を要求する場合があります》


「徹夜攻略対策か」


 AWOは生活するゲーム。


 だからといって、現実生活を捨てていいわけではない。


 むしろ逆らしい。


◇◇◇


 次。


《現実空腹警報》


《現実身体側に長時間の栄養補給不足が推定された場合、警告を表示します》


「ゲーム内じゃなくて現実か」


《注意》


《AWO内で食事を行っても、現実身体の栄養状態は改善しません》


「当たり前だ」


 でも。


 AWOの料理は味も満腹感もリアルだ。


 ゲーム内で腹いっぱい食べて、現実でも食べた気になるプレイヤーは出てきそうだ。


《警告例》


《現実身体側で空腹傾向を確認しました》


《一度ログアウトし、適切な食事を取ることを推奨します》


「ゲームに飯食ってこいって言われるのか……」


◇◇◇


 次。


《水分補給警報》


《現実身体側で水分不足傾向が確認された場合、休憩および水分補給を推奨します》


《AWO内で飲料を摂取しても現実身体の水分補給にはなりません》


「これも当然」


 さらに。


《水分不足が安全基準を超えた場合、フルダイブ継続を制限する場合があります》


「結構厳しい」


 だが。


 次はもっと厳しかった。


◇◇◇


《体温異常・熱中症リスク警報》


《現実身体の体温上昇等から熱中症リスクが推定された場合、段階的な警告を実施します》


《第1段階:注意》


《室温確認・水分補給・休憩を推奨》


《第2段階:警告》


《安全確保のためログアウトを強く推奨》


《第3段階:危険》


《安全確保のため強制ログアウトを実行》


「ここまでやるのか」


 ただ。


 これは必要だと思う。


 フルダイブ中。


 ゲーム内では雪山。


 現実では真夏の部屋。


 エアコンが止まった。


 本人はゲームに集中して気付かない。


 それでは危険だ。


《強制ログアウト時は可能な限り安全地点への退避処理を実施します》


《緊急性が高い場合、安全地点への移動を待たず即時フルダイブを終了します》


「緊急時はゲームより人命優先」


 当然だ。


◇◇◇


 最後。


《リアル運動サポート》


「本当に来たよ……」


《一定期間において身体活動量が著しく少ない傾向が確認された場合、軽い運動を推奨する通知を表示します》


《例》


《最近、身体活動量が少ない傾向があります》


《無理のない範囲で10~20分程度の歩行・ストレッチ等を行うことを推奨します》


「ゲームを始めようとしたら運動してくださいって言われるのか」


 なんというVRMMOだ。


 ただし。


《本機能は医療診断を目的とするものではありません》


《身体状態に異常を感じた場合はゲームを中断し、現実世界で適切な対応を行ってください》


 そこはしっかりしている。


◇◇◇


 そして。


 最後に一文。


《AWO運営チームより》


《Another World Onlineは「もう一つの世界」を楽しむサービスですが、プレイヤーの現実世界での生活と安全を最優先します》


「……なるほど」


 これは。


 結構好きだ。


 現実を捨ててゲームへ来い。


 ではない。


 現実をちゃんと生きた上で。


 もう一つの世界を楽しむ。


 俺の生活スタイルにも合っている。


《確認しましたか?》


《YES/NO》


「YES」


◇◇◇


《リアルコンディションチェックを開始します》


「早速?」


《睡眠状態》


《良好》


《栄養状態》


《問題なし》


《水分状態》


《問題なし》


《体温》


《正常範囲》


《身体活動》


《良好》


「まあ」


 剣道もやってるしな。


《フルダイブ可能》


「ログイン」


◇◇◇


 銀麦亭。


「おかえり、ジョウゴ」


「ただいま、マリアさん」


 下へ。


 いつもの三人。


「…………」


 ミナ。


「…………」


 カイト。


「…………」


 レント。


「何?」


 三人。


 同時。


「ジョウゴ」


「俺は運営じゃない!」


「まだ何も言ってないよ!」


「言いたいこと分かる!」


◇◇◇


 席。


「全部来たぞ!」


 カイトが指を折る。


「睡眠不足!」


「はい」


「空腹!」


「はい」


「水分!」


「はい」


「熱中症!」


「はい」


「運動不足!」


「はい……」


「全部!」


「偶然!」


「五個同時だぞ!?」


「一つの安全アップデートだから実質一回!」


「そういう問題!?」


 ミナが笑っている。


「ジョウゴ、次は何?」


「言わない」


「えー」


「絶対言わない」


 レント。


「賢明だ」


「レントまで!」


◇◇◇


「でも」


 ミナ。


「これ、結構いい機能だと思う」


「俺も」


 水分不足。


 睡眠不足。


 熱中症。


 フルダイブしている本人が気付きにくい危険を、システムが見てくれる。


「現実でご飯食べないで、こっちだけ食べる人もいそうだし」


「確かに」


 AWOの食事。


 普通に美味い。


 味覚もある。


 満腹感もある。


 だからこそ危ない。


「ゲーム内で満腹度100%」


「現実では空腹」


「あり得るね」


「変な話だな」


◇◇◇


 カイト。


「ところで」


「何?」


「運動不足通知ってどんな感じ?」


「来てないから知らない」


「俺も来てない」


 ミナ。


「私も」


 レント。


「同じく」


「じゃあ確認できないか」


 その時。


 近くの席。


「うわあああああ!」


 プレイヤーの叫び。


 全員見る。


「どうした!?」


 男性プレイヤー。


 頭を抱えている。


「ゲームに!」


「ゲームに?」


「ゲームに運動しろって言われた!」


「…………」


 ウィンドウ。


《リアル運動サポート》


《最近、身体活動量が少ない傾向があります》


《軽い歩行・ストレッチ等を推奨します》


 カイト。


「本当に出るんだ」


「出るらしい」


 男性。


「昨日も一日AWO!」


「はい」


「一昨日もAWO!」


「はい」


「休みの日は十二時間!」


「一回ログアウトして歩いてきた方がいいですよ」


「ジョウゴ!?」


「なんで俺の名前を!?」


「配信見てます!」


「そうですか……」


「どうしたらいいですか!?」


「俺に聞かれても」


 少し考える。


「とりあえず今日は一度ログアウトして、軽く歩いてくれば?」


「やっぱり!?」


「運営もそう言ってますし」


「うう……」


 男性は。


「行ってきます!」


《LOGOUT》


 消えた。


「素直」


 ミナ。


「いいことだ」


 レント。


◇◇◇


「じゃあ」


 カイト。


「俺たちも南洞窟?」


「今日は九階から」


「おお!」


 昨日は八階まで。


 転移地点登録済み。


「目標は?」


「十階」


「十一階は?」


「行かない」


「即答!」


「六~十階がLv10~14帯だろ」


「そうだった」


「十階で一区切り」


 その先。


 十一~十四階。


 推奨Lv14~18。


 今の俺たちにはまだ早い。


◇◇◇


 装備確認。


 カイト。


 盾耐久。


「問題なし」


 レント。


「矢、十分」


 ミナ。


「回復薬もあるよ」


 俺。


《鉄刀・試作四号》


 問題なし。


 そして採掘用ツルハシ。


 カイト。


「そこ重要?」


「重要」


「即答」


「南洞窟産銀星砂と蒼鉄」


「ダンジョン攻略だぞ?」


「両立できる」


「バルガに染まってきてない?」


「……否定しづらい」


◇◇◇


 今日は通常プレイ。


 配信はしない。


 公式配信者だからといって、毎回配信する必要はない。


 むしろCROSS社との契約は月最低四回程度。


 俺はAWOで遊ぶこと自体を仕事にはしたくない。


 配信しない日。


 仲間だけで遊ぶ日。


 鍛冶だけする日。


 そういう時間も必要だ。


◇◇◇


 南洞窟。


 第八階層。


 転移。


「行こう」


《南洞窟・第九階層》


 暗い。


 八階まで以上。


「明かり」


 ミナ。


 光魔法。


 ふわり。


 通路。


 その先。


「四」


 レント。


《コボルトソルジャーLv.11×2》


《コボルトアーチャーLv.11》


《コボルトメイジLv.12》


「魔法使い」


 初めて見る。


「優先」


 俺。


「レント」


「分かった」


 カイト。


「前は俺!」


「ミナ、支援」


「任せて!」


◇◇◇


 戦闘。


 カイト。


 盾。


 ガァン!


 二体を止める。


 後方。


 コボルトメイジ。


 杖。


 赤。


「火!」


 ミナ。


 火球。


「避けろ!」


 全員。


 散開。


 ドォン!


「範囲攻撃!」


「レント!」


「狙ってる!」


 シュッ!


 矢。


 メイジ。


 詠唱中断。


「今!」


 俺が走る。


 すばやさ38。


 踏み込み。


 コボルトソルジャーが割り込む。


 剣。


「邪魔」


《見切り》


 避ける。


《受け流しLv.1》


 カン!


 崩す。


 だが倒さない。


 抜ける。


「先に術者!」


 メイジ。


 杖。


 俺へ。


 横薙ぎ。


 身体を沈める。


 懐。


「ふっ!」


 一閃。


《コボルトメイジLv.12に大ダメージ》


「まだ!」


 二撃。


《コボルトメイジLv.12を討伐しました》


「よし!」


◇◇◇


 残り。


 前衛二。


 弓一。


 四人。


 連携。


「カイト、右!」


「おう!」


「ミナ!」


「《ライトボルト》!」


「レント!」


「任せろ」


 そして。


 最後。


《コボルトソルジャーLv.11を討伐しました》


◇◇◇


「強くなってる」


 カイト。


「ああ」


 魔法持ちが混ざるだけで難易度が上がる。


「十階はもっと注意だな」


「分かった」


◇◇◇


 その途中。


「ジョウゴ」


 レント。


「左」


「鉱石?」


「……反応早いな」


「違う?」


「鉱石」


「よし」


 カイト。


「嬉しそう」


「普通」


 ツルハシ。


 カン!


《鉄鉱石×2》


 カン!


《黒鉄鉱石×1》


 カン!


 そして。


《採掘成功》


《銀星砂×1》


「来た」


 ミナ。


「また!」


「南洞窟産」


 これで。


 星蒼複合鋼。


 試験できる。


「バルガ喜ぶな」


 カイト。


「言わない」


「どうせ知られる」


「今日は配信してない」


「なるほど!」


 初めて情報封鎖に成功した。


「帰ってから驚かせよう」


 ミナ。


「それも面白い」


◇◇◇


 そして。


《南洞窟・第十階層》


 到着。


 広い。


 明らかに今までと構造が違う。


「……ボス?」


 カイト。


 奥。


 巨大な扉。


《第十階層・守護区域》


「やっぱり」


 俺。


 扉横。


 転移石。


「まず登録」


《南洞窟第十階層・転移地点を登録しました》


「今日は?」


 カイト。


 俺は扉を見る。


 ステータス。


 装備。


 MP。


 消耗品。


 全員問題なし。


 だが。


「情報を集める」


「やっぱり!」


「ボス情報なしで入らない」


 レントが頷く。


「賛成」


「私も」


 ミナ。


 カイト。


「……俺も」


「よし」


 今日はここまで。


◇◇◇


 銀麦亭。


「ただいま」


「おかえり」


 マリアさん。


 奥。


 バルガ。


「ジョウゴ!」


「なんでいる?」


「蒼鉄の研究だ!」


「今日は銀星砂」


「何ぃ!?」


 俺は取り出す。


《南洞窟産銀星砂×1》


 バルガ。


 停止。


「…………」


「どうした?」


「工房」


「今日は行かない」


「工房!」


「明日」


「今!」


「明日!」


「今!」


「子供か!」


◇◇◇


 ミナが笑う。


 カイトも。


 レントまで少し笑っている。


 そんな中。


 俺は今日のアップデートを思い出す。


 睡眠。


 食事。


 水分。


 体温。


 運動。


 現実の身体。


 AWOの世界。


 二つは別物。


 だけど。


 フルダイブする以上、完全に切り離すこともできない。


「もう一つの世界で、もう一人のあなたとして生きよう……か」


 だからこそ。


 元の世界の自分も大事にしろ。


 そういうことなのかもしれない。


「ジョウゴ?」


 ミナ。


「何でもない」


「次のアップデート予想?」


「絶対しない!」


「残念」


「もうフラグは立てない!」


 俺は断言した。


 すると。


 レントが静かに言った。


「その発言自体がフラグでは?」


「…………」


「…………」


「…………」


 カイトが吹き出す。


「確かに!」


「やめろ!」


 笑い声が銀麦亭に響く。


 そして次の攻略目標。


 南洞窟、第十階層。


 巨大な扉の向こうにいるもの。


 俺たちはまだ知らない。


 ただ一つだけ確かなのは。


 次は――。


 久しぶりの本格的なボス戦になりそうだった。

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