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Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第二章 CROSS社契約編

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第25話 僧侶、商売を始める

 翌日。


 俺――上塚賢吾は、銀行での仕事を終えて帰宅した。


 夕食。


 風呂。


 家事。


 翌日の準備。


 そして、いつもの時間。


「今日はバルガの工房か」


 昨日、《南洞窟》第八階層まで攻略した俺たちは、新たに《蒼鉄鉱石・低純度》を手に入れた。


 当然ながら。


『明日! 絶対持ってこい!』


 バルガに捕まった。


「まあ、俺も気になるけど」


 南洞窟産の銀星砂は、従来品より魔力伝導性が高かった。


 では、南洞窟産の蒼鉄は?


 《星蒼複合鋼》の安定度をさらに上げられる可能性もある。


「ログイン」


 VR機器を起動する。


《身体状態を確認中……》


《異常なし》


《フルダイブを開始します》


 先日の簡易アップデート以降、この確認も見慣れてきた。


「よし」


 意識がAWOへ――。


 行く前に。


《Another World Online》


《簡易アップデート Ver.1.14》


「…………」


 止まった。


「また?」


◇◇◇


 最近、簡易アップデートの頻度が高い気がする。


 開く。


《今回の簡易アップデートでは、僧侶・神官系職業の生活状態回復機能を拡張しました》


「…………」


 昨日の俺。


『現実の二日酔いまで反映するなら、そのうち僧侶の浄化サービスまで正式に商売になったりして――』


「…………」


 いや。


 違う。


「俺は運営じゃない」


 最近、ログインするたびに言ってないか?


◇◇◇


《新機能》


《生活状態回復サービス》


《対象職業》


《僧侶》


《神官》


《その他、一部回復系上位職》


「本当に来た……」


《対象となる生活系状態》


《食べ過ぎ》


《気分不良》


《酔い》


《二日酔い》


《その他、一部の生活系状態》


 ただし。


《本サービスは対象状態を即座に完全解除するものではありません》


《専用技能によって症状軽減・回復時間短縮等の効果を得られます》


「そこは変わらないか」


 さらに。


《新規技能》


《胃腸調整》


《食べ過ぎ・一部気分不良を軽減》


《浄化》


《酔い・二日酔い等の回復速度を上昇》


《安息祈祷》


《一部生活系状態の自然回復時間を短縮》


「本当に職業になってきたな」


 いや、僧侶は最初から職業だけど。


 生活方面の仕事が増えた。


◇◇◇


 次。


《NPC教会・治療院等において、生活状態回復サービスを有料で利用できるようになりました》


「有料」


 来た。


《料金は地域・施設・状態・処置内容等によって異なります》


《プレイヤーによる生活状態回復サービスの提供も可能になりました》


《プレイヤーは規定範囲内でサービス料金を設定できます》


 つまり。


「二日酔い治します、30G……」


 冗談で言っていたものが現実になった。


 AWOの中で。


《注意》


《状態異常中のプレイヤーに対する虚偽説明、不当請求、サービス内容の偽装等は規約違反となる場合があります》


「そこも対策済みか」


 そして一番重要。


《現実身体状態に由来する状態について》


《現実世界での飲酒等を原因とする《酔い》《二日酔い》について、ゲーム内技能では完全解除できません》


《一時的なゲーム内症状軽減が行われても、現実身体状態が改善されていない場合、状態補正が再適用されます》


「ですよね」


 現実で二日酔い。


 AWOへログイン。


 僧侶に金を払う。


 完全回復!


 ……とはならない。


《現実身体状態を改善するため、一度ログアウトし休息・水分補給等を行ってください》


「ゲームに休めって言われるのか」


 まあ、安全第一だ。


《確認しましたか?》


《YES/NO》


「YES」


 ポチッ。


◇◇◇


 銀麦亭。


「おかえり、ジョウゴ」


「ただいま、マリアさん」


 階段を下りる。


「ジョウゴ!」


 ミナ。


「…………」


「何?」


 ミナが立っている。


 妙に嬉しそう。


「見て!」


 ウィンドウ。


《ミナ》


《職業:僧侶》


《新規利用可能技能》


《胃腸調整》


《浄化・生活状態対応》


《安息祈祷》


「ああ」


「増えた!」


「おめでとう」


「これで食べ過ぎても――」


「待て」


「え?」


「自分が食べ過ぎる前提なの?」


「…………」


「ミナ?」


「違うよ?」


「間があった」


「人を助けるためです!」


「目を逸らすな」


◇◇◇


「ジョウゴ!」


 今度はカイト。


「何?」


「有料だぞ!」


「知ってる」


「回復有料だぞ!」


「お前はもう酒飲まないだろ」


「もし飲んだら!」


「飲むの?」


「葡萄ジュースにします」


「なら関係ない」


「ぐぬぬ……」


 レントは冷静。


「普通の戦闘回復とは料金体系が別らしい」


「そうなの?」


 ミナ。


「プレイヤー間で料金設定できる」


「じゃあ私――」


 三人で見る。


「…………」


「無料にするよ!」


「別に取っていいんじゃない?」


 俺が言う。


「MP使うだろ」


「でも仲間からお金取るのは……」


「パーティ内なら無料でもいい。知らないプレイヤー相手なら商売にしていいんじゃない?」


「なるほど」


 AWOでは生産職がアイテムを売る。


 鍛冶師が武器を作る。


 薬師が薬を売る。


 なら僧侶が技能をサービスとして提供するのも不自然ではない。


◇◇◇


 銀麦亭を出る。


「……もういる」


 レント。


「何が?」


 通り。


 教会近く。


 プレイヤー僧侶。


 看板。


《生活状態回復します!》


《食べ過ぎ軽減 20G》


《二日酔い回復支援 30G》


《気分不良 15G~》


「早い!」


 カイト。


 アップデート当日だぞ。


「商売人ってすごいな」


 俺。


 さらに向かい。


《浄化25G!》


《初回10G!》


「価格競争まで始まってる」


 ミナ。


「AWO経済、適応早すぎない?」


「プレイヤーだからな」


◇◇◇


 その時。


「す、すみません!」


 一人の男性プレイヤーが走ってきた。


 いや。


 走ろうとして途中で止まった。


「うっ……」


《状態異常:食べ過ぎ》


「…………」


 ミナが反応。


「大丈夫ですか?」


「昨日から満腹システム試してて……」


「何したんです?」


「食堂の全メニュー制覇を」


「なんで!?」


「実績あるかなって……」


 気持ちは分からなくもない。


 いや。


 分からないことにしておこう。


「僧侶さんですよね?」


「はい」


「《胃腸調整》使えます?」


 ミナが俺を見る。


「やってみれば?」


「うん!」


 杖。


「《胃腸調整》!」


 淡い緑色の光。


 プレイヤーを包む。


《生活状態回復支援》


《食べ過ぎ:症状軽減》


《回復時間:短縮》


「おお!」


 男性プレイヤーが立ち上がる。


「楽になった!」


「完全には治ってないみたいです」


「十分です!」


 そして。


「いくらですか?」


「え?」


 ミナが固まった。


「料金」


「あ……」


 正式サービス。


 ミナは悩む。


「じゃあ……」


「うん」


「10G?」


「安っ!」


 カイト。


「だって初めてだし!」


 男性プレイヤーは笑って10Gを支払う。


《生活状態回復サービス》


《報酬:10G》


「ありがとうございました!」


「食べ過ぎないでくださいね!」


「はい!」


 プレイヤーが去る。


 ミナ。


 手の中。


 10G。


「…………」


「初収入」


 俺。


「僧侶でお金稼いだ!」


「おめでとう」


「なんか嬉しい!」


◇◇◇


「じゃあ次」


 カイトが前に出る。


「何?」


「二日酔いになったらミナに――」


「30G」


「高くなった!?」


「カイトは経験者だから」


「どういう基準!?」


「再発防止料金」


「そんなのあるの!?」


「今作った」


「横暴!」


 レントがぼそっと言う。


「50Gでもいい」


「レント!?」


 仲がいい。


◇◇◇


 そして。


 バルガの工房。


「遅ぇ!」


「アップデート見てた」


「そんなもん後だ!」


「大事だよ!」


「蒼鉄!」


「はいはい」


 昨日入手した。


《蒼鉄鉱石・低純度×1》


 作業台。


 バルガが観察。


「ふむ」


「どう?」


「やっぱり南洞窟産だな」


「分かるの?」


「微妙に魔力を含んでる」


 ミナも近づく。


「本当?」


「触ってみろ」


 ミナが手を添える。


「……少し流れる」


「だろ?」


 銀星砂。


 蒼鉄。


 両方とも南洞窟産。


「組み合わせたら?」


 俺。


 バルガが笑う。


「それを試す」


◇◇◇


 精錬。


 まず低純度蒼鉄から不純物を減らす。


 炉。


 熱。


 槌。


 カァン!


 カァン!


 火花。


「温度上げすぎるな!」


「分かってる!」


《槌打ちLv.1》


 カァン!


 少しずつ。


 不純物。


 分離。


《蒼鉄・試験精錬材》


《純度:中》


「上がった」


「まだ使える量は少ねぇ」


 バルガ。


「でも試験には十分」


◇◇◇


 高密度鉄。


 黒鉄。


 蒼鉄。


 南洞窟産銀星砂。


「ミナ」


「任せて!」


 魔力。


 炉。


 青白い光。


「今!」


 カァン!


 俺。


 バルガ。


 交互。


 カァン!


 カァン!


「魔力流すよ!」


「少し弱く!」


「これくらい?」


「いい!」


 金属内部。


 魔力が細い道を作る。


 カイルの《月白》。


 あの刀から得たヒント。


 魔力を表面に纏わせるだけではない。


 刀身内部を通す。


 経路。


「来た!」


 バルガ。


「最後!」


 カァァン――!


 高い音。


◇◇◇


《星蒼複合鋼・試験材Ⅱ》


《素材》


《高密度鉄》


《黒鉄》


《南洞窟産蒼鉄》


《南洞窟産銀星砂》


《硬度:高》


《粘性:高》


《重量:軽》


《魔力伝導:非常に高い》


《魔力経路形成適性:高》


《安定度:93%》


「93」


 前回。


《89%》


「四%上がった!」


 ミナ。


「でけぇぞ」


 バルガ。


 そして。


《魔力経路形成適性:高》


 新しい項目。


「これ」


「ああ」


 バルガが頷く。


「月白に近づいた」


 まだ本物の東方刀には遠い。


 でも。


 一歩。


 確実に。


◇◇◇


「五号!」


「作らない」


「なんでだ!」


「素材が足りない」


「採ってこい!」


「南洞窟攻略のついでに」


「明日!」


「毎日鍛冶中心にするな!」


「楽しいだろ!」


「楽しいけど!」


 言ってしまった。


 バルガがニヤリ。


「ほらな!」


「くっ……」


 否定できない。


◇◇◇


 銀麦亭へ戻る。


 ミナは今日稼いだ10Gを眺めている。


「嬉しそうだな」


「初めて回復技能で稼いだから」


「これからやる?」


「冒険の邪魔にならないくらいなら」


「いいんじゃない?」


 僧侶。


 戦闘。


 回復。


 生活支援。


 職業の幅が広がった。


「AWOって、本当に職業で生活できるようになってきたな」


「鍛冶師も?」


 カイト。


「バルガ見れば分かる」


「確かに」


◇◇◇


 食事。


 ミナ。


《満腹度:73%》


「デザート……」


「今日は?」


「食べる!」


「大丈夫?」


「一個だけ!」


 蜂蜜菓子。


《満腹度:88%》


「セーフ!」


「最近それギリギリを攻めるゲームになってない?」


「大丈夫!」


 その時。


 隣のテーブル。


「僧侶さん!」


「はい?」


「食べ過ぎました!」


「また!?」


 別のプレイヤー。


《食べ過ぎ》


 ミナが立つ。


「じゃあ……20Gで!」


「お願いします!」


《胃腸調整》


 光。


《報酬:20G》


 ミナ。


 本日の収益。


《30G》


「…………」


「どうした?」


「ジョウゴ」


「何?」


「これ」


「うん」


「結構稼げるかも」


「気付いたか」


 僧侶の新しい仕事が。


 AWOに誕生した瞬間だった。


◇◇◇


 そして。


 俺は何気なく呟く。


「そのうち、現実で寝不足だったり、飯食ってなかったり、水分不足だったりしたら警告されそうだな」


 ピタッ。


 全員。


 止まる。


「…………」


「…………」


「…………」


「何?」


 ミナ。


「ジョウゴ」


「はい」


「もう喋らない方がいいかも」


「酷くない!?」


 カイトが指を折る。


「満腹」


「偶然」


「二日酔い」


「偶然」


「現実飲酒連動」


「偶然!」


「僧侶有料化」


「偶然だって!」


 レント。


「四回続けば、偶然と言えるだろうか」


「言える!」


「じゃあ」


 ミナが笑う。


「睡眠不足は?」


「来ない!」


「リアル空腹警報」


「来ない!」


「水分不足」


「来ない!」


「熱中症」


「来ないって!」


「運動不足」


「それまでゲームに言われたくない!」


 笑い声。


 俺も笑った。


 ただの冗談。


 いつものフラグ遊び。


 ――の、はずだった。


◇◇◇


 同時刻。


 AWO運営。


「健康安全機能の次期拡張、どうなってます?」


「試験中です」


「睡眠不足検知?」


「問題なし」


「現実側の空腹・水分不足警告?」


「調整中」


「体温上昇は?」


「危険域では強制ログアウトまで入れます」


「運動不足通知は?」


「長期傾向から出す予定です」


「了解」


 スタッフの一人が。


 ふと。


 隣のモニターを見る。


 そこでは公式配信者のアーカイブが流れていた。


「…………」


「どうしました?」


「いや」


 スタッフは首を振る。


「まさかね」


《次期簡易アップデート候補》


《リアルコンディションサポート》


 その文字が。


 静かに画面へ表示されていた。

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