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Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第二章 CROSS社契約編

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第24話 現実で酔っても逃げられません

 翌日。


 俺――上塚賢吾は、いつも通り銀行での勤務を終えた。


「お先に失礼します」


「お疲れさま」


 職場を出る。


 今日は残業もほとんどなし。


 帰宅して夕食。


 風呂。


 洗濯物を片付け、明日の準備。


 時計を見る。


「よし」


 今日は南洞窟。


 第六階層以降へ進む予定だ。


 昨日、俺たち四人はLv10になった後の能力を確認した。


 俺――剣士。


《HP:194》


《MP:78》


《力:34》


《すばやさ:38》


《防御力:29》


《技量:43》


《運の良さ:12》


 数字だけでは強さのすべてを測れない。


 それでも、以前より確実に身体は動かしやすくなっている。


「六階の推奨レベルはLv10~14」


 俺たちは下限。


 無茶はしない。


 装備も確認済み。


 回復薬もある。


 試作四号も整備した。


「ログインするか」


 VR機器を装着。


 起動。


 そして――。


《Another World Online》


《簡易アップデート Ver.1.13》


「…………」


 俺は止まった。


「また?」


 最近多くないか?


◇◇◇


《今回の簡易アップデートでは、フルダイブ時の安全機能および生活状態システムの一部拡張を実施しました》


「安全機能?」


 表示を送る。


《追加機能》


《現実身体状態連動・飲酒安全機能》


「…………」


 昨日の会話が蘇る。


『現実で酒飲んでからログインしたらどうなるか』


『本当に反映されたりするのかな?』


『知らない』


『試す?』


『やめろ』


 さらに一昨日。


『まさか現実で酒飲んでログインしても、こっちに反映されたりしないよな』


「…………」


 俺は天井を見る。


「いや」


 違う。


「俺は運営じゃない」


 誰に言い訳してるんだ、俺。


◇◇◇


 説明を読む。


《AWO対応フルダイブ機器は、ログイン前にプレイヤーの身体状態について安全確認を実施します》


《飲酒等による身体反応が検出された場合、状態に応じて以下の安全措置が適用されます》


《軽度》


《ログイン可能》


《現実身体状態に応じ、《ほろ酔い》《酔い》等の状態補正をキャラクターへ適用》


「本当に反映されるのか……」


《翌朝等、現実身体に飲酒後の不調が検出された場合》


《ログイン可能範囲であれば《二日酔い》状態としてキャラクターへ反映される場合があります》


「二日酔いまで」


 続く。


《中度》


《安全性を考慮し、フルダイブ機能の一部を制限します》


《身体状態によってはログインを拒否する場合があります》


 そして。


《重度》


《安全基準を超える身体状態を検出しました》


《フルダイブを開始できません》


《十分な水分補給および休息を取ってください》


「まあ、これは当然だな」


 酔っ払ってフルダイブ。


 それ自体、安全とは言い難い。


 さらに注意事項。


《重要》


《現実身体状態に由来する《酔い》《二日酔い》等は、ゲーム内の回復魔法・浄化・薬品等によって完全解除することはできません》


《現実身体の状態が改善するまで、状態補正が再適用される場合があります》


「徹底してる」


 ゲーム内で僧侶に浄化してもらっても。


 現実の本人が酔っ払ったままなら意味がない。


《本機能は飲酒を推奨するものではありません》


《安全な状態でフルダイブをご利用ください》


《確認しましたか?》


《YES/NO》


「YES」


 押す。


《身体状態を確認中……》


 数秒。


《異常なし》


《フルダイブを開始します》


「……普通にログインするだけで安心した」


◇◇◇


 光が晴れる。


 銀麦亭。


《ジョウゴ》


《Lv.10》


《HP:194/194》


《MP:78/78》


《状態異常:なし》


《満腹度:25%》


 階段を下りる。


「おかえり、ジョウゴ」


「ただいま、マリアさん」


「ジョウゴ!」


 ミナ。


 カイト。


 レント。


 三人とも揃っていた。


 そして。


 三人とも俺を見る。


「…………」


「何?」


 ミナが言った。


「ジョウゴ」


「はい」


「アップデート見た?」


「見た」


「何か言うことは?」


「俺は運営じゃない」


「やっぱり!」


「なんで!?」


 カイトまで立ち上がる。


「ジョウゴ!」


「なんだよ!」


「俺の逃げ道が!」


「やっぱり逃げ道だと思ってたのか!」


「リアルで飲んでからログインすれば――」


「最初からやるな!」


「でも!」


「でもじゃない!」


 レントが淡々と言う。


「重度ならログイン拒否だ」


「完全に塞がれた……」


「そもそも塞ぐべき穴だろ」


「正論が痛い!」


◇◇◇


「でも面白いね」


 ミナが説明画面を確認する。


「現実の身体状態がゲームにも影響するんだ」


「フルダイブだからな」


「寝不足も?」


「今のところ今回の告知は飲酒中心」


「将来追加されそう」


 俺は即座に言った。


「それ以上言うな」


「ジョウゴが言った!」


「今のはミナだろ!」


「でも反応した!」


「理不尽!」


 カイトが笑う。


「次は睡眠不足デバフだな」


「やめろ!」


「空腹もリアル連動?」


「やめろって!」


「運動不足とか」


「レントまで乗るな!」


 このパーティ。


 最近俺を何だと思っているんだ。


◇◇◇


「ところで」


 俺はカイトを見る。


「現実では飲んでないよな?」


「飲んでない!」


「状態は?」


「なし!」


《カイト》


《Lv.10》


《状態異常:なし》


「よし」


「信用されてねぇ!」


「二日酔いになった実績がある」


「あれはAWOで!」


「だから確認した」


「ぐぬぬ……」


 ミナが笑う。


◇◇◇


 今日は南洞窟攻略。


 まず食事。


 俺。


《満腹度:25%→61%》


 ミナ。


《満腹度:30%→67%》


 カイト。


《満腹度:28%→63%》


 レント。


《満腹度:26%→59%》


「全員問題なし」


「ジョウゴ」


 カイト。


「俺たち冒険前に満腹度まで確認するようになったな」


「食べ過ぎで戦闘能力落ちるから」


「リアルだなぁ」


「だからAWOなんじゃない?」


 ミナ。


 もう一つの世界で生活する。


 そのキャッチコピー。


 最近、妙な方向で説得力が増している。


◇◇◇


 シズナ南門。


 今日は配信する。


 タイトル。


【AWO】Lv10パーティで南洞窟・第六階層へ


 配信設定。


《NPCプライバシー自動保護:ON》


《位置情報遅延:ON》


《現実身元保護:ON》


《コメント要約:ON》


「始めます」


《LIVE――START》


『きた!』


『六階!』


『Lv10おめ』


『ジョウゴ、アップデート見た?』


「こんばんは。今日は南洞窟の第六階層から進みます」


『スルーしたwww』


『飲酒アップデート』


『ジョウゴ予言者説』


「予言者じゃありません」


『昨日言ってたじゃん』


「偶然です」


『運営見てる?』


「知りません」


『カイト逃げ道塞がれた?』


「完全に塞がれた!」


 カイトが答える。


「余計なこと言うな」


『www』


◇◇◇


 南洞窟。


 入口。


 登録済み転移石を使う。


《南洞窟第五階層へ転移します》


 光。


 安全地帯。


「ここからだな」


 俺は試作四号を確認。


 カイトは盾。


 レントは弓。


 ミナは杖。


「状態確認」


 全員問題なし。


「六階へ」


◇◇◇


《南洞窟・第六階層》


 空気が変わった。


「暗いね」


 ミナ。


 五階までより発光鉱石が少ない。


 俺たちは携帯灯を使う。


「足元注意」


 レント。


 通路も狭い。


 そして。


 カツ。


 カツ。


「……音」


 俺。


「前」


 レントが弓を構える。


 暗闇。


 影。


《コボルトソルジャー Lv.10》


《コボルトソルジャー Lv.11》


《コボルトアーチャー Lv.10》


「三体」


「前二、後ろ一!」


「カイト」


「任せろ!」


 盾を前。


「来い!」


 ソルジャー二体。


 突進。


 ガン!


 ガァン!


「重っ!」


「でも?」


「受けられる!」


 防御力43。


 Lv10の成長が効いている。


「レント、弓!」


「了解」


 敵アーチャー。


 こちらのレント。


 同時。


 シュッ!


 矢。


 レントは身体をずらす。


 敵の矢が外れる。


 こちらの矢は――。


 命中。


《コボルトアーチャーLv.10にダメージ》


「ミナ!」


「《ライトボルト》!」


 光。


 追撃。


◇◇◇


 俺はソルジャーへ。


 剣。


 振り下ろし。


「速い」


 Lv5~8のゴブリンとは違う。


 だが。


 見える。


《見切り》


 右半歩。


 回避。


 続けて横薙ぎ。


 試作四号を合わせる。


《受け流しLv.1》


 カァン!


 以前より。


「軽い」


 技量43。


 すばやさ38。


 刃の角度を作りやすい。


 相手の剣を外へ。


「ここ」


《崩し》


 肩。


 重心。


 踏み込み。


 コボルトが前へ崩れる。


 一閃。


 ザシュッ!


《コボルトソルジャーLv.10に大ダメージ》


 まだ倒れない。


「硬いな」


 反撃。


 突き。


 避ける。


 踏み込む。


 二撃目。


《コボルトソルジャーLv.10を討伐しました》


『Lv10相手でも普通にやってる』


『受け流し綺麗』


『ステ上がった影響ある?』


「あります」


 答えながら次を見る。


「でも後で!」


 戦闘中だ。


◇◇◇


 残り二体。


「カイト!」


「まだ持つ!」


 ソルジャー。


 盾へ連続攻撃。


 ガン!


 ガン!


「前より楽だけど、連続はキツい!」


「交代!」


 俺が入る。


 これも以前からやってきた。


 スイッチ。


「下がれ!」


「おう!」


 位置交換。


 敵の剣。


 俺。


 受け流し。


 レント。


 矢。


 ミナ。


 支援。


「今!」


 四人。


 連携。


《コボルトソルジャーLv.11を討伐しました》


 最後。


《コボルトアーチャーLv.10を討伐しました》


◇◇◇


「ふぅ」


 カイト。


「六階、ちゃんと強いな」


「推奨Lv10からだから」


 ミナが回復。


《ライトヒール》


「MPは?」


「103/112」


「余裕ある」


「Lv10になったの大きいね」


 俺も。


《HP:188/194》


 軽いダメージ。


 問題なし。


「進めそうだな」


 レント。


「ああ」


「七階?」


「今日は八階くらいを目標」


「最下層は?」


「行かない」


「知ってた」


◇◇◇


 七階。


 魔物。


 コボルト。


 洞窟狼。


 蝙蝠。


 数が増えている。


 ただ。


 四人の連携は安定。


「右!」


「了解!」


「カイト、二体!」


「来い!」


「ミナ、後ろ!」


「大丈夫!」


 経験。


 レベル。


 ステータス。


 そして現実の技術。


 全部が組み合わさっている。


◇◇◇


 途中。


「鉱石」


 レント。


「どこ?」


「右壁」


 俺が即座に反応。


『鍛冶師じゃなくて剣士だよね?』


「剣士です」


『反応速度が素材だけ違う』


「気のせい」


 簡易ツルハシ。


 カン。


 カン。


《鉄鉱石×3》


「普通」


 カン。


《黒鉄鉱石×1》


「お」


『声変わった』


「変わってない」


『嬉しそう』


 さらに。


 カン!


《採掘判定成功》


《???》


「ん?」


 壁の奥。


 青白い。


「これ……」


 鑑定。


《蒼鉄鉱石・低純度》


「蒼鉄!」


 ミナ。


「出るのか」


 俺は採取。


《蒼鉄鉱石・低純度×1》


『刀素材!』


『バルガ案件』


『見つかったら工房直行』


「今日は黙っておこう」


『配信中です』


「…………」


 コメント。


『バルガに伝えてくる』


「やめて!」


『もう遅い』


「情報社会怖い」


◇◇◇


 八階。


 安全地帯。


「今日はここまで」


「まだいけるよ?」


 カイト。


「いける時に戻る」


「ジョウゴだなぁ」


 ミナ。


 全員の状態。


 HP。


 MP。


 装備耐久。


 問題はない。


 だが攻略初日。


 八階まで到達。


 十分だ。


《南洞窟第八階層・転移地点を登録しました》


「登録完了」


 次回はここから。


◇◇◇


 配信。


《現在視聴者数:71,824》


「今日は第八階層まででした」


『お疲れ!』


『蒼鉄おめ』


『次は9階?』


『バルガ待機してそう』


「それが一番怖い」


『飲酒アップデートについて一言』


「安全機能としては妥当だと思います」


『真面目』


「現実で酔ってるなら無理してフルダイブしない方がいいです」


『カイト聞いてる?』


「聞いてる!」


「お前が代表みたいになってるな」


「なんでだよ!」


『二日酔い第一号』


「やめろ!」


「では今日はここまで」


《LIVE――END》


◇◇◇


 シズナ。


 銀麦亭。


 戻ってきた。


「ただいま」


「おかえり」


 マリアさん。


 そして。


「ジョウゴ!」


「…………」


 聞き覚えのある声。


 奥の席。


 バルガ。


「蒼鉄出たんだってな!」


「早い!」


「配信見てた奴が教えてくれた!」


「またか!」


「見せろ!」


「低純度だぞ」


「いいから!」


 インベントリから取り出す。


《蒼鉄鉱石・低純度》


 バルガの目。


 職人。


「……なるほど」


「どう?」


「悪くねぇ」


「低純度だけど?」


「精錬次第だ」


 ニヤッ。


「面白くなってきたな」


 嫌な予感。


「今日は工房行かないから」


「まだ何も言ってねぇ!」


「顔に書いてある」


「じゃあ明日!」


「ログインできたら」


「約束だ!」


 また研究が増えた。


◇◇◇


 その横。


 カイトが葡萄ジュース。


「うまい」


「完全に酒から離れたね」


 ミナ。


「安全だからな」


「AWOでも現実でも?」


「両方!」


「徹底してる」


 俺は笑う。


 南洞窟。


 第八階層。


 蒼鉄。


 Lv10。


 少しずつ攻略範囲が広がっている。


 そして。


 生活システムも。


 安全システムも。


 AWOはアップデートのたびに、本当に《もう一つの世界》へ近づいていく。


「でも」


 俺は思わず呟く。


「現実の二日酔いまで反映するなら、そのうち僧侶の浄化サービスまで正式に商売になったりして――」


 ピタッ。


 ミナ。


 カイト。


 レント。


 三人が止まる。


「…………」


「…………」


「…………」


「何?」


 ミナがゆっくり言った。


「ジョウゴ」


「はい」


「それ以上言わないで」


「なんで?」


「次のアップデートが来るから!」


「だから俺は運営じゃないって!」


 カイトも叫ぶ。


「やめろ! 今度は金取られる!」


「お前はもう酒飲まないだろ!」


「それとこれとは別だ!」


 レントが一言。


「手遅れかもしれないな」


「不吉なこと言うな!」


 銀麦亭に笑い声が響く。


 この時。


 俺たちは知らなかった。


 運営側ではすでに――。


《僧侶・神官系生活状態回復サービス》


 その調整が。


 着々と進んでいたことを。

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