第23話 数字だけでは測れない強さ
翌日。
俺――上塚賢吾は、いつも通り銀行での仕事を終えて帰宅した。
夕食。
風呂。
家事。
明日の準備。
そして、時計を見る。
「今日は少し余裕あるな」
昨日、俺たち四人は揃ってLv10へ到達した。
南洞窟の第六階層以降は推奨Lv10~14。
レベルだけなら攻略条件を満たしたことになる。
ただし。
「レベルが上がったからって、そのまま突っ込むのは違うよな」
昨日は上昇したという通知だけ確認して、細かい数値までは見ていなかった。
ちょうどいい。
今日は装備の点検と、Lv10になったことでどれくらい身体能力が変化したのか確認してみよう。
「ログイン」
◇◇◇
光が晴れる。
《銀麦亭》二階。
まず状態確認。
《ジョウゴ》
《Lv.10》
《HP:194/194》
《MP:78/78》
《状態異常:なし》
《満腹度:28%》
そして。
「ステータス」
ウィンドウを開く。
《ジョウゴ》
《種族:人間》
《職業:剣士》
《Lv.10》
《HP:194》
《MP:78》
《力:34》
《すばやさ:38》
《防御力:29》
《技量:43》
《運の良さ:12》
さらに昨日のレベルアップ履歴。
《Lv.9 → Lv.10》
《HP 182 → 194【+12】》
《MP 74 → 78【+4】》
《力 31 → 34【+3】》
《すばやさ 35 → 38【+3】》
《防御力 27 → 29【+2】》
《技量 39 → 43【+4】》
《運の良さ 11 → 12【+1】》
「こうして見ると結構上がってるな」
特に技量。
+4。
次に力とすばやさ。
それぞれ+3。
《職業成長傾向:剣士》
《力:高》
《すばやさ:高》
《防御力:標準》
《技量:高》
《MP:低》
《運の良さ:低~標準》
「ちゃんと剣士らしい」
AWOでは、レベルアップ時に自由なポイント振り分けは行わない。
職業ごとに設定された成長傾向に従って、自動的に能力が上昇する。
だから同じLv10でも、僧侶と剣士では中身がまるで違う。
「……で」
俺は右手を開く。
握る。
「数字で見るだけじゃ分からないな」
実際に動こう。
◇◇◇
「おかえり、ジョウゴ」
「ただいま、マリアさん」
一階。
いつもの三人。
「ジョウゴ!」
ミナ。
「今日はダンジョン?」
カイト。
「まだ」
「まだ!?」
「今日は確認」
「何を?」
「Lv10のステータス」
カイトが首を傾げる。
「昨日上がっただろ?」
「だから、どの程度動きが変わったか試したい」
「ジョウゴらしい」
レントが言った。
「レベルアップして最初に訓練するプレイヤーは少ないだろうな」
「そう?」
「普通は新しい狩場に行く」
「俺たちは明日でもいいだろ」
「確かに」
◇◇◇
「そういえば」
ミナもステータスを開く。
「私もちゃんと見てなかった」
「見せられる範囲で比較する?」
「やろう!」
まずミナ。
《ミナ》
《職業:僧侶》
《Lv.10》
《HP:161》
《MP:112》
《力:21》
《すばやさ:29》
《防御力:25》
《技量:41》
《運の良さ:17》
「MP高っ」
カイト。
「僧侶だからね!」
昨日の上昇量。
《Lv.9 → Lv.10》
《HP 152 → 161【+9】》
《MP 103 → 112【+9】》
《力 20 → 21【+1】》
《すばやさ 27 → 29【+2】》
《防御力 23 → 25【+2】》
《技量 37 → 41【+4】》
《運の良さ 16 → 17【+1】》
「MP+9」
俺の+4より倍以上。
「その代わり力は+1だな」
「殴らないもん」
「杖で殴るかもしれない」
「殴らないよ!」
◇◇◇
次。
カイト。
《カイト》
《職業:戦士》
《Lv.10》
《HP:224》
《MP:52》
《力:39》
《すばやさ:27》
《防御力:43》
《技量:31》
《運の良さ:10》
「HP224!?」
ミナ。
「俺、そんな高いの?」
「盾役だからな」
《Lv.9 → Lv.10》
《HP 208 → 224【+16】》
《MP 50 → 52【+2】》
《力 35 → 39【+4】》
《すばやさ 26 → 27【+1】》
《防御力 38 → 43【+5】》
《技量 29 → 31【+2】》
《運の良さ 9 → 10【+1】》
「防御+5」
俺。
「HP+16」
レント。
「完全に壁だね」
ミナ。
「壁言うな!」
「盾」
「それならいい!」
「いいのか」
そしてMP52。
「魔法使わないから問題ない!」
「特殊技で使う可能性あるぞ」
「……少し残す」
学習した。
◇◇◇
最後。
レント。
《レント》
《職業:弓使い》
《Lv.10》
《HP:170》
《MP:66》
《力:29》
《すばやさ:40》
《防御力:25》
《技量:46》
《運の良さ:15》
「技量46」
俺より高い。
「弓だからな」
《Lv.9 → Lv.10》
《HP 160 → 170【+10】》
《MP 62 → 66【+4】》
《力 27 → 29【+2】》
《すばやさ 36 → 40【+4】》
《防御力 24 → 25【+1】》
《技量 41 → 46【+5】》
《運の良さ 14 → 15【+1】》
「技量+5か」
「すばやさも+4」
ミナ。
「遠距離攻撃職らしいね」
四人を並べると。
はっきり違う。
俺はバランス型の前衛。
カイトは防御特化。
レントは技量・すばやさ型。
ミナはMPと支援能力。
「同じLv10でも全然違うな」
「だからパーティ組むんだろ」
カイト。
「たまにはいいこと言うな」
「たまには!?」
◇◇◇
シズナの訓練場。
今日はCROSS LIVEも開始する。
《LIVE――START》
【AWO】Lv10になったのでステータスと動きを確認します
『きた』
『Lv10おめ!』
『今日は検証回?』
『数字見たい』
《現在視聴者数:21,307》
「こんばんは。今日は南洞窟へ行く前に、Lv10になってどの程度動きが変わったのか確認します」
『真面目』
『普通すぐダンジョン行くやつ』
『ジョウゴだからな』
「俺だからって何ですか」
◇◇◇
まず走る。
「レント」
「分かった」
俺とレント。
直線。
同時スタート。
「よーい!」
ミナ。
「始め!」
ダッ!
「っ」
速い。
Lv9の時より身体が前へ出る。
脚が軽い。
だが。
レントはさらに速い。
「ゴール!」
「レント!」
ミナ。
「やっぱり」
《すばやさ》
《ジョウゴ:38》
《レント:40》
「数値差が出たな」
「でも大差ではない」
レント。
「走り方でも変わる」
「そこだな」
単純に数字が高い方が絶対に勝つわけじゃない。
姿勢。
重心。
踏み込み。
身体操作。
そういうプレイヤー自身の技術も反映される。
◇◇◇
次。
木人。
試作四号を抜く。
「軽い」
昨日も感じた。
でも今日は意識すると分かる。
技量43。
すばやさ38。
以前より刃先の制御が楽。
構える。
振り上げる。
斬る。
ピタッ。
寸前。
停止。
『止めた!?』
『木人に当たってない』
「技量が上がった影響はあると思います」
ただし。
「技量43だから自動的にこれができるわけではありません」
『?』
「止めようと判断して、身体を操作するのは俺です」
もう一度。
斬る。
止める。
「ステータスは動きを助けてくれる。でも――」
刀を納める。
「使い方までは教えてくれない」
◇◇◇
「じゃあ」
カイト。
「俺、防御43だから攻撃受けてみようぜ!」
「嫌だよ」
「なんで!?」
「試作四号で?」
「木剣で!」
「それなら」
訓練用木剣。
カイト。
盾。
「来い!」
「本気?」
「おう!」
「じゃあ」
一歩。
打ち込み。
バァン!
「うおっ!」
カイトが下がる。
だが一歩。
「前より楽!」
「防御力の効果は?」
「衝撃が軽い!」
もう一度。
角度を変える。
カイトが受ける。
「なるほど」
ただ。
「真正面で受け続けるなよ」
「盾役なんだけど!?」
「盾でも流せる」
「……教えて」
「今度な」
『ジョウゴ式盾術始まる?』
『カイト強化イベント』
「イベントじゃないです」
◇◇◇
次はミナ。
「私は何するの?」
「MP」
「魔法連発?」
「無駄撃ちはしなくていい」
回復用の訓練設備を使う。
ミナが回復魔法。
《ライトヒール》
一回。
二回。
三回。
「まだ余裕」
「MP112は大きいな」
支援魔法も。
浄化。
防御補助。
連続。
「前より全然楽!」
「継戦能力が上がった」
南洞窟六階以降では大きい。
◇◇◇
そしてレント。
標的。
三十メートル。
弓。
「いく」
シュッ!
中央。
二本目。
中央付近。
三本目。
ほぼ中央。
『うま』
『技量46』
「数字だけじゃない」
レントが言った。
「照準は自分で合わせている」
「俺と同じだな」
「ああ」
システムは補助する。
でも。
最後に動かすのはプレイヤー。
それがAWOだ。
◇◇◇
訓練終了。
「これなら六階行けそう?」
ミナ。
「行けると思う」
「おお!」
「ただし」
「出た」
カイト。
「無理なら戻る」
「分かってるって!」
推奨Lv10~14。
俺たちは下限。
油断する理由はない。
◇◇◇
銀麦亭へ戻る。
配信終了。
《LIVE――END》
「おかえり」
マリアさん。
「ただいま」
「今日はよく動いたね」
「訓練です」
「ならしっかり食べな」
料理。
ミナの目が輝く。
「今日はデザート食べる!」
「満腹度」
「今43%!」
「なら大丈夫そう」
食事。
そして。
デザート。
蜂蜜リンゴの焼き菓子。
「おいしい!」
ミナ。
《満腹度:84%》
「セーフ!」
「ギリギリじゃない?」
「食べ過ぎ付いてないからセーフ!」
判断基準が危ない。
◇◇◇
その隣。
カイト。
「葡萄ジュース!」
「はいよ」
マリアさん。
「完全に定着したな」
「酒は怖い」
「一回の二日酔いでここまで変わるか」
「経験者だから言える」
カイトは真顔。
「飲みすぎは駄目だ」
「説得力だけはある」
レントが頷く。
「ところで」
カイトが俺を見る。
「昨日ジョウゴが言ってたやつ」
「何?」
「現実で酒飲んでからログインしたらどうなるか」
「ああ」
「本当に反映されたりするのかな?」
「知らない」
「試す?」
「やめろ」
「なんで?」
「酔った状態でフルダイブする時点で安全上どうなんだよ」
「あー……」
レントも頷く。
「機器側で止められる可能性が高い」
「だよな」
ミナがこちらを見る。
「でもジョウゴが口に出したから……」
「だから俺は運営じゃない!」
「最近、的中率高いよ?」
「偶然!」
◇◇◇
その頃。
俺たちの知らない場所。
AWO運営開発室。
「最終チェック終わりました」
「飲酒連動?」
「問題ありません」
「僧侶系も?」
「そっちはもう少し調整します」
「了解」
一人の開発スタッフが画面を見る。
《簡易アップデート候補》
《現実身体状態連動・飲酒安全機能》
《軽度飲酒反応:ゲーム内状態補正》
《一定以上の酩酊:フルダイブ制限》
《重度酩酊:ログイン拒否》
「しかし」
別のスタッフが苦笑する。
「最近、配信で似た話してませんでした?」
「ジョウゴさん?」
「そう」
「偶然ですよ」
「……ですよね?」
「たぶん」
沈黙。
「まあ、安全機能だから予定通り入れます」
「ですね」
クリック。
《次回簡易アップデート》
《実装準備完了》
◇◇◇
もちろん。
そんなことを俺たちは知らない。
「明日は南洞窟六階」
俺。
「おー!」
カイト。
「回復薬確認するね」
ミナ。
「矢も補充済み」
レント。
全員Lv10。
装備も整えた。
ステータスも確認した。
数字の上では。
昨日より確実に強くなっている。
でも。
それだけじゃない。
見切る。
考える。
連携する。
引くべき時には引く。
ステータスは、そのための力を貸してくれる。
使うのは俺たち自身だ。
「よし」
次は。
南洞窟第六階層。
Lv10になった俺たちの、本格的な初戦になる。
そして――。
その前に一つ。
俺たちのログイン画面には近いうちに、
《簡易アップデートのお知らせ》
という。
最近やけに見慣れてしまった文字が、再び表示されることになるのだった。




