第22話 Lv10と銀星砂の使い道
翌日。
俺――上塚賢吾は、いつも通り銀行での仕事を終えた。
正式配信者になってからも、平日の流れはほとんど変わっていない。
仕事を終える。
帰宅。
夕食。
風呂。
家事。
翌日の準備。
それからAWO。
CROSS社との契約条件。
勤務先から副業を認めてもらった条件。
どちらにも《本業最優先》がある。
だから、この順番だけは崩さない。
「さて……」
VR機器を装着する。
昨日は《南洞窟》第五階層まで攻略した。
そして宝箱から――。
《銀星砂×1》
を入手。
問題は。
「バルガだよな」
昨日。
『明日! 絶対だぞ!』
と言われている。
約束してしまった以上、行かないわけにもいかない。
「ログイン」
◇◇◇
光が晴れる。
《銀麦亭》。
《ジョウゴ》
《Lv.9》
《HP:100%》
《MP:100%》
《満腹度:27%》
《状態異常:なし》
「Lv10まであと少し」
経験値ゲージはかなり埋まっている。
簡単な依頼を一つこなせば届くだろう。
階段を下りる。
「おかえり、ジョウゴ」
「ただいま、マリアさん」
食堂を見る。
「ジョウゴ!」
ミナ。
「お疲れ」
レント。
「よっ!」
カイト。
三人ともいる。
そして。
「ジョウゴォ!」
「……なんでいるんだよ」
バルガ。
「待ってた!」
「工房は?」
「閉めてきた!」
「仕事しろよ!」
「今日は研究だ!」
予想以上だった。
◇◇◇
「銀星砂!」
「まず飯」
「銀星砂!」
「飯」
「銀星――」
「バルガ」
マリアさん。
「ジョウゴは今来たばかりなんだから、少しくらい休ませな」
「……おう」
強い。
バルガが大人しくなった。
「マリアさん、ありがとうございます」
「はいはい」
夕食。
パン。
野菜と豆のスープ。
焼いた肉。
満腹度。
《27%→64%》
「ちょうどいい」
向かい。
ミナ。
《満腹度:68%》
昨日から学習している。
「デザートは?」
「あとで!」
「大丈夫?」
「今日はちゃんと確認する!」
「成長したな」
「子供扱いしないで!」
カイトは葡萄ジュース。
「本当に酒やめたんだ」
「もう飲まねぇ!」
かなり効いている。
◇◇◇
食事終了。
「よし!」
バルガが立つ。
「工房だ!」
「待て」
「なんだ!」
「先にギルド」
「なんでだ!」
「Lv10まであと少しだから」
「レベルなんか後でいい!」
「俺には大事」
「銀星砂!」
「逃げない」
「素材は逃げる!」
「インベントリの中からどうやって?」
「……逃げねぇな」
「だろ?」
レントが静かに言った。
「ジョウゴの方がバルガの扱いに慣れてきたな」
「猛獣使いみたいに言うな」
「誰が猛獣だ!」
「自覚ないんだ」
ミナが笑う。
◇◇◇
冒険者ギルド。
今日は配信なし。
毎回配信する必要はない。
掲示板を見る。
「短時間で終わるやつ」
カイト。
「ゴブリン?」
ミナ。
《常設依頼》
《シズナ南東草原》
《ゴブリン討伐》
《推奨Lv:5~9》
《討伐数に応じて報酬》
「これでいい」
「俺も行くぞ!」
バルガ。
「戦えるの?」
「槌がある!」
「……まあいいか」
NPC鍛冶師とはいえ、バルガもこの世界で生きている。
最低限の戦闘くらいはできるらしい。
むしろ。
あの腕で槌を振られたら普通に痛そうだ。
◇◇◇
南東草原。
「いた」
レント。
前方。
《ゴブリンLv.6×4》
「少ないな」
「ちょうどいい」
カイトが前へ。
「行くぞ!」
「おう!」
なぜかバルガまで。
「待て!」
二人が走る。
「なんで鍛冶師が前衛と並んでるんだよ!」
「素材研究の前準備だ!」
「意味が分からない!」
ゴブリン一体。
バルガへ。
「ギャッ!」
「邪魔だ!」
ブンッ!
鍛冶槌。
ドゴン!
「ギャッ!?」
ゴブリンが吹き飛んだ。
「…………」
俺。
ミナ。
レント。
三人で止まる。
「強くない?」
ミナ。
「職人の腕力だな」
レント。
「おいジョウゴ!」
「何?」
「ぼーっとするな!」
「あんたのせいだよ!」
◇◇◇
俺にも一体。
剣。
振り下ろし。
《見切り》
半歩。
外す。
試作四号。
通常状態。
魔力刃は使わない。
刃を添える。
《受け流しLv.1》
カンッ!
ゴブリンの剣が逸れる。
空いた胴。
「ふっ!」
斬。
《ゴブリンLv.6を討伐しました》
ポーン。
「ん?」
《経験値を獲得しました》
《必要経験値へ到達しました》
《ジョウゴのレベルが上昇しました》
《Lv.9 → Lv.10》
「来た」
「ジョウゴ!」
ミナ。
「上がった?」
「ああ」
そして。
次々と表示。
《レベルアップに伴い、職業特性に基づいて能力値が自動成長します》
《HP上昇》
《MP上昇》
《力上昇》
《すばやさ上昇》
《防御力上昇》
《技量上昇》
《運の良さ上昇》
「おお……」
ステータスを開く。
数字が上がっている。
剣士らしく、力・すばやさ・技量が比較的伸びている。
「これが自動成長か」
以前のアップデートで正式導入されたステータスシステム。
ポイントを自由に振る形式ではない。
職業に応じて自動成長。
剣士なら剣士らしく。
僧侶なら僧侶らしく。
ただし。
「数字が上がったからって急に剣が上手くなるわけじゃない」
身体は動かしやすくなる。
反応もしやすい。
でも。
いつ動くか。
どこを見るか。
どう受け流すか。
それは自分で判断する。
「ジョウゴらしいね」
ミナ。
「何が?」
「レベル上がったのに最初に考えることがそれ」
「そう?」
「普通もっと『強くなった!』って喜ばない?」
「強くはなっただろ」
「冷静!」
◇◇◇
「よっしゃ!」
カイトの声。
《カイト:Lv.10》
「俺も!」
続いて。
《レント:Lv.10》
「上がった」
そして。
「私も!」
《ミナ:Lv.10》
全員。
Lv10。
「揃ったな」
「これで南洞窟六階!」
カイト。
「推奨Lv10~14」
レント。
「条件は満たした」
「すぐ行く?」
ミナ。
「今日は行かない」
「やっぱり!」
「装備確認してから」
バルガが突然割り込む。
「そうだ!」
「うわっ」
「装備だ!」
「近い!」
「Lv10になったなら新しい刀を――」
「作らない」
「まだ最後まで言ってねぇ!」
「五号だろ?」
「なぜ分かった!」
「昨日から言ってる」
◇◇◇
依頼を終え。
バルガの工房。
「ようやくだ!」
バルガが扉を開く。
「銀星砂!」
「はいはい」
インベントリ。
《銀星砂×1》
取り出す。
キラキラと銀色に輝く細かな砂。
バルガの目が変わる。
「……いいな」
さっきまで騒いでいたのに。
素材を手にした瞬間。
職人の顔。
「純度も悪くねぇ」
「南洞窟五階の宝箱」
「五階でこれか」
「運が良かったみたい」
「誰が開けた?」
「ミナ」
「運の良さは?」
「16だった」
「お前じゃねぇのか!」
「俺は11」
「次からミナに開けさせろ!」
「もう決めてる」
「えっへん!」
なぜミナが誇らしげなのか。
◇◇◇
「で」
俺は作業台を見る。
「何に使う?」
バルガが止まる。
「試作五号!」
「却下」
「早ぇ!」
「試作四号完成したばっかり」
「じゃあ星蒼複合鋼!」
「銀星砂一個しかない」
「だから試験材だ!」
それなら分かる。
「再現試験?」
「そうだ」
バルガが頷く。
「今までの銀星砂は仕入れた物だった」
「ああ」
「今回は南洞窟産」
「産地差を見るのか」
バルガがニヤッとする。
「分かってきたじゃねぇか」
なるほど。
同じ《銀星砂》という名前でも、採れる場所が違えば性質に差がある可能性がある。
「AWOならありそうだな」
「だから調べる!」
「それなら賛成」
「よし!」
◇◇◇
高密度鉄。
黒鉄。
蒼鉄。
そして。
南洞窟産銀星砂。
少量ずつ。
「ミナ」
「はい!」
魔力工程担当。
「私もやるんだね」
「星蒼複合鋼だからな」
「分かった!」
炉。
加熱。
素材を合わせる。
「まだ」
バルガ。
炎の色を見る。
「まだ……」
温度。
素材。
そして。
「今!」
取り出す。
金床。
俺は槌を握る。
《槌打ちLv.1》
カァン!
「ミナ!」
「いくよ!」
魔力。
青白い光。
カァン!
カァン!
カァン!
以前より。
「……?」
違う。
「ジョウゴ?」
「魔力の流れ」
「うん」
ミナも気付いた。
「前より通りやすい」
「やっぱりか!」
バルガ。
「続けろ!」
カァン!
魔力。
カァン!
光が素材内部へ。
最後。
「今!」
カァァン――!
澄んだ音。
◇◇◇
鑑定。
《星蒼複合鋼・試験材》
《素材構成》
《高密度鉄》
《黒鉄》
《蒼鉄》
《南洞窟産銀星砂》
《硬度:高》
《粘性:高》
《重量:軽》
《魔力伝導:非常に高い》
《安定度:89%》
「……非常に高い?」
俺。
以前は。
《魔力伝導:高》
だった。
「上がった!」
ミナ。
「やっぱりだ!」
バルガが拳を握る。
「南洞窟の銀星砂は魔力伝導が強ぇ!」
「同じ素材でも産地差があるのか」
「可能性が高い」
レント。
「なら」
俺は考える。
「もっと深い階層なら?」
沈黙。
「…………」
バルガがこちらを見る。
「ジョウゴ」
「嫌な顔するな」
「六階以降行くんだろ?」
「行くけど」
「銀星砂!」
「目的変えるな」
「採ってこい!」
「ダンジョン攻略が先」
「両方やれ!」
「無茶言うな!」
◇◇◇
その時。
ポーン。
システム。
《素材特性情報が更新されました》
《銀星砂》
《採取地域により魔力含有量が異なる場合があります》
《南洞窟産銀星砂》
《特徴:魔力伝導補正》
「正式に出た」
「地域素材だね」
ミナ。
さらに。
《関連研究》
《星蒼複合鋼》
《地域素材差による性能変化が確認されました》
「また研究項目増えた……」
俺が呟く。
バルガは。
「面白ぇぇぇぇ!」
大喜び。
やっぱりこうなる。
◇◇◇
工房を出る頃。
時間は少し遅くなっていた。
「今日はここまで」
「もう終わりか!」
「明日も予定あるから」
「ちぇっ」
「バルガは寝ろ」
「俺はもう一回試す!」
「銀星砂ないだろ」
「…………」
「寝ろ」
「……おう」
珍しく勝った。
◇◇◇
銀麦亭へ戻る。
「Lv10になったね」
ミナ。
「ああ」
「次は六階?」
「装備と消耗品を確認してから」
「分かった」
カイト。
「俺の盾も整備しないとな」
レント。
「矢も補充する」
「私は回復薬!」
それぞれ準備。
そして俺。
試作四号。
南洞窟産銀星砂。
魔力伝導。
「六階以降……か」
ダンジョン攻略。
レベル上げ。
素材探索。
刀研究。
全部が少しずつ繋がり始めている。
ただ。
「ジョウゴ」
「何?」
カイトが言った。
「六階攻略の後、酒場で祝杯――」
「葡萄ジュースな」
「まだ最後まで言ってない!」
「酒?」
「…………葡萄ジュースです」
「よろしい」
ミナが笑う。
「カイト、本当に懲りたね」
「二日酔いはもう嫌だ!」
その言葉を聞きながら。
俺はふと思った。
AWO運営。
満腹。
食べ過ぎ。
飲酒。
二日酔い。
そこまで実装したなら――。
「まさか現実で酒飲んでログインしても、こっちに反映されたりしないよな」
「ジョウゴ!」
ミナが叫んだ。
「え?」
「それ言っちゃ駄目!」
「なんで?」
「またアップデート来る!」
「俺は運営じゃないって!」
カイトが青ざめる。
「やめろジョウゴ! 俺の逃げ道を塞ぐな!」
「逃げ道探してたのかよ!」
レントが静かに言う。
「そもそも酔った状態でフルダイブするな」
「正論」
「うっ……」
俺たちは笑った。
この時はまだ。
ただの冗談だった。
――数日後。
俺たちは知ることになる。
AWO運営が。
そういうところだけは、本当に仕事が早いということを。




