第21話 久しぶりのダンジョン攻略
翌日。
俺――上塚賢吾は、いつも通り銀行員として一日を終えた。
副業としてCROSS LIVE公式配信者になったとはいえ、本業が変わったわけではない。
むしろ最近は意識して生活時間を確認するようになった。
仕事。
帰宅。
夕食。
風呂。
家事。
明日の準備。
そこまで終わらせてから――。
「よし」
VR機器を装着。
今日は久しぶりにダンジョンへ行く予定だ。
目的地は《南洞窟》。
全十五階層。
シズナ周辺では中級者向けに分類されるダンジョンで、階層が深くなるほど魔物も強くなる。
俺たちの現在レベルなら、まずは浅い階層から様子を見る。
無理に最下層を目指す必要はない。
「ログイン」
◇◇◇
光が晴れる。
《銀麦亭》。
まず状態確認。
《ジョウゴ》
《Lv.9》
《HP:100%》
《MP:100%》
《状態異常:なし》
《満腹度:31%》
「……普通になってきたな」
満腹度を確認する行為が。
実装されて数日しか経っていないのに。
階段を下りる。
「おかえり、ジョウゴ」
「ただいま、マリアさん」
食堂。
ミナ。
レント。
そして――。
「よっ!」
カイト。
元気だ。
「二日酔いは?」
「完全回復!」
《状態異常:なし》
「本当に治ってるな」
「もう酒は飲まねぇ!」
強い決意。
ミナが笑う。
「昨日は『適量なら』って言ってなかった?」
「考え直した!」
「葡萄ジュース?」
「葡萄ジュース!」
「極端だな」
まあ本人がいいならいい。
◇◇◇
「今日は南洞窟だよね?」
ミナ。
「ああ」
俺は席につく。
「まず冒険者ギルドで情報確認。それから行く」
「最下層まで?」
カイト。
「行かない」
「早い!」
「十五階だぞ」
現在Lv9。
しかも久しぶりのダンジョン。
「まず五階くらいまで」
「慎重だなぁ」
「死んだら一時間デバフ」
「……」
カイトが黙った。
「二日酔いより酷いぞ」
「慎重に行こう!」
「切り替え早いね」
ミナ。
◇◇◇
食事を取る。
パン。
野菜スープ。
焼いた肉。
俺の満腹度。
《31%→67%》
「ちょうどいい」
ミナ。
《満腹度:72%》
「今日はデザートは?」
「帰ってきてから!」
「学習した」
「当然!」
カイト。
《満腹度:65%》
「酒は?」
「飲まない!」
「聞いただけ」
「絶対飲まない!」
トラウマが深い。
◇◇◇
冒険者ギルド。
相変わらず人が多い。
プレイヤー。
NPC冒険者。
依頼掲示板。
素材買取。
パーティ募集。
「南洞窟は……」
レントが掲示板を見る。
《南洞窟》
《全15階層》
《推奨》
《1~5階:Lv7~10》
《6~10階:Lv10~14》
《11~14階:Lv14~18》
《15階:詳細情報不足》
「五階までならちょうどいいな」
「だろ?」
さらに依頼。
《常設依頼》
《南洞窟魔物討伐》
《コボルト討伐》
《洞窟蝙蝠討伐》
《鉱石採集》
「鉱石」
俺の目が止まる。
ミナが気付く。
「あ」
「何?」
「ジョウゴ、今ちょっと嬉しそう」
「そう?」
「鍛冶素材って書いてあるから」
「……否定はしない」
南洞窟では鉄鉱石。
低確率で黒鉄。
さらに深い階層では別の鉱石も採れるらしい。
「バルガさんに言ったら?」
「来そうだから言わない」
「正解」
◇◇◇
受付。
「南洞窟へ?」
受付嬢。
「はい。五階までを予定しています」
「現在、南洞窟で大きな異常報告はありません」
大きな。
その言い方が気になる。
「小さい異常は?」
「ありません」
「なら大丈夫です」
受付嬢が少し笑う。
「慎重ですね」
「最近いろいろあったので」
黒鎖商会。
灰色谷。
爆破。
Lv24のアルトとの模擬戦。
アーマーボア。
普通の冒険が恋しくなる程度には、いろいろあった。
◇◇◇
南門。
今日は配信もする。
「タイトルどうする?」
ミナ。
「普通でいい」
【AWO】久しぶりに南洞窟へ行きます
「普通だ」
カイト。
「悪い?」
「いや、ジョウゴらしい」
設定。
《NPCプライバシー自動保護:ON》
《位置情報遅延:ON》
《現実身元保護:ON》
《コメント要約:ON》
スポンサー案件は終了済み。
今日は完全に通常配信。
「始める」
《LIVE――START》
『きた!』
『ダンジョン!』
『今日は案件なし?』
『カイト生きてる?』
「こんばんは。ジョウゴです」
《現在視聴者数:18,942》
「今日は南洞窟へ行きます」
『カイト二日酔い治った?』
「治った!」
カイトが割り込む。
「もう酒は飲まない!」
『www』
『相当きつかったんだな』
『二日酔い盾役』
「その呼び方やめろ!」
「配信で言わなきゃ広がらなかったのに」
「しまった!」
自分で燃料を追加している。
◇◇◇
シズナから南へ。
昨日通った南方街道とは途中で分かれる。
東寄りの岩場。
その先。
大きな岩山の麓に穴が開いていた。
《南洞窟》
「ここか」
入口には簡単な休憩所。
冒険者。
商人。
松明。
鉱石買取NPCまでいる。
「完全に観光地……じゃなくて冒険者向け施設になってるな」
「人多いね」
ミナ。
俺は試作四号へ手を添える。
「行こう」
◇◇◇
《南洞窟・第一階層》
薄暗い。
ただし壁には発光鉱石。
完全な暗闇ではない。
「綺麗」
ミナ。
「足元注意」
レント。
「分かってる」
カイトが前。
俺が少し後ろ。
レントとミナが後衛。
いつもの形。
ガサッ。
「前」
レント。
《ケイブバット Lv.7》
三体。
「蝙蝠!」
上から来る。
「俺じゃ受けにくい!」
カイト。
「レント!」
「任せろ」
シュッ!
一体。
矢が命中。
残り二体。
俺へ。
「速いな」
《見切り》
右。
避ける。
一体目を斬る。
ザシュッ!
《ケイブバットLv.7を討伐》
二体目。
低空。
刀を返す。
「ふっ」
斬。
《ケイブバットLv.7を討伐》
『相変わらずスキル使わない』
『いや見切りは出てる』
『動きがリアル剣術なんよ』
「普通に斬ってるだけです」
『普通とは』
「ジョウゴの普通は信用するな」
カイト。
「お前が言うな」
◇◇◇
二階。
《コボルト Lv.8》
《コボルト Lv.8》
《コボルトファイター Lv.9》
「三体」
「カイト」
「任せろ!」
盾。
「来い!」
コボルトファイターが突進。
ガンッ!
「おお!」
「今日はちゃんと動ける!」
「比較対象が二日酔いなのやめろ」
俺は横。
コボルト。
剣。
振り下ろし。
真正面から受けない。
刀身を添える。
《受け流しLv.1》
カンッ!
外へ。
手首。
肘。
肩。
動きを見る。
「ここ」
体勢を崩す。
《崩し》
踏み込む。
一閃。
《コボルトLv.8を討伐》
「次!」
レントの矢。
ミナの光魔法。
カイトがファイターを止める。
問題なし。
◇◇◇
三階。
「鉱石ある」
レントが壁を指す。
「本当?」
近づく。
《鉄鉱石》
「採れるの?」
「採掘道具があれば」
「持ってる?」
「簡易ツルハシなら」
俺はインベントリから取り出す。
バルガに以前、
『冒険行くなら持っとけ!』
と言われて渡されたものだ。
「こういう時だけ準備いいな、あの人」
カン。
カン。
《採掘》
《鉄鉱石×2を入手》
「普通の鉄」
『がっかりしてる?』
「してない」
『黒鉄期待してた顔』
「顔見えないだろ」
『声』
「…………」
視聴者は妙なところで鋭い。
◇◇◇
四階。
魔物の数が増えた。
《コボルトLv.8×3》
《ケイブバットLv.8×2》
「五体!」
「カイト、前!」
「おう!」
盾で通路を塞ぐ。
「レント、上!」
「了解!」
「ミナ、カイト優先!」
「分かった!」
俺は側面。
コボルト二体。
一体目。
斬撃。
受け流す。
二体目。
突き。
身体を半身。
かわす。
剣道だけじゃない。
合気道。
身体操作。
相手の力と方向を見る。
「押さない」
流す。
崩す。
転ばせる。
そこへ。
「カイト!」
「おう!」
盾。
ドン!
倒れたコボルトを押さえる。
「今!」
一閃。
《コボルトLv.8を討伐》
もう一体。
魔力刃は――。
「不要」
通常斬撃。
《コボルトLv.8を討伐》
『MP温存徹底』
『光らせないジョウゴ』
『視聴者サービスは?』
「命かかってる戦闘でサービスしません」
『ゲームです』
「AWOでは命です」
一時間デバフは嫌だ。
◇◇◇
五階。
《南洞窟・第五階層》
「ここまでだな」
「ボスいないの?」
カイト。
「五階は中継階層らしい」
安全地帯。
小さな広間。
転移石。
「これ登録すれば?」
ミナ。
触れる。
《南洞窟第五階層・転移地点を登録しました》
「次からここまで来られる?」
「入口から五階まで転移できる。ただし攻略済み階層だけ」
「便利だな」
さらに。
「宝箱」
レント。
「え?」
壁際。
小さな木箱。
《簡易宝箱》
「罠は?」
「確認する」
レントが調べる。
「なし」
「開けよう」
カイト。
「待て」
「何?」
「運の良さ」
「……あ」
新しいステータス。
レベルアップで自動成長する能力値。
HP。
MP。
力。
すばやさ。
防御力。
技量。
運の良さ。
「誰が一番高い?」
確認。
俺。
《運の良さ:11》
カイト。
《運の良さ:9》
レント。
《運の良さ:12》
ミナ。
《運の良さ:16》
「…………」
三人でミナを見る。
「え?」
「ミナ」
「何?」
「開けて」
「なんで!?」
「一番運いい」
「そういう使い方!?」
『幸運担当ミナ』
『食運』
『食べ物出そう』
「食べ物がいい!」
「そこ?」
ミナが宝箱へ。
「開けるよ」
カチャ。
《宝箱を開封しました》
《銀星砂×1》
「…………」
俺は固まる。
ミナも固まる。
「ジョウゴ」
「何?」
「これ」
「銀星砂」
「だよね」
《星蒼複合鋼》に使う素材。
「当たり?」
カイト。
「かなり」
『鍛冶師歓喜』
『刀素材!』
『運16強い』
俺は銀星砂を受け取る。
「……ミナ」
「はい」
「次から宝箱担当」
「やった!」
「いいのか?」
レント。
「食べ物が出るかもしれないから!」
「理由が違った」
◇◇◇
安全地帯で休憩。
《満腹度:49%》
軽食。
水。
パン。
干し肉。
「食べ過ぎ注意」
「分かってる!」
ミナ。
《満腹度:78%》
「そこで止める!」
「成長した」
カイトは水だけ。
「酒は?」
「洞窟で飲むわけないだろ!」
「昨日までは中継宿で飲んでた」
「安全な場所だった!」
「そして二日酔い」
「もう許して!」
◇◇◇
今日は五階で終了。
転移石を使用。
光。
《南洞窟・入口》
「便利」
「次は六階から行けるな」
六階以降。
推奨Lv10~14。
「その前にLv10だな」
俺の経験値。
《Lv.9》
《次レベルまで:あと少し》
「近い」
「私も」
ミナ。
カイト。
レント。
全員Lv9。
「じゃあ次はレベル上げ?」
「普通の依頼を何回かやれば上がるだろ」
焦らない。
AWOはLv99まである。
まだ序盤。
◇◇◇
シズナへ帰還。
配信。
《現在視聴者数:63,482》
「今日はここまで」
『お疲れ!』
『銀星砂おめ』
『ミナ宝箱係決定』
『次は六階?』
「Lv10になってから考えます」
『慎重』
「死にたくないので」
『一時間デバフ嫌なだけでは』
「それもあります」
否定しない。
「じゃあ、お疲れさまでした」
《LIVE――END》
◇◇◇
銀麦亭。
「ただいま!」
ミナ。
「おかえり」
マリアさん。
「今日は何食べる?」
「デザート!」
「先に夕飯」
「はーい」
俺は席につく。
今日手に入れた銀星砂。
試作四号。
そしてLv10目前。
「明日はバルガのところにも寄るか」
銀星砂を見せれば喜ぶだろう。
いや。
喜ぶというより――。
『五号作るぞ!』
と言い出しそうだ。
「……黙っておく?」
「何を?」
ミナ。
「銀星砂」
「なんで?」
「バルガが暴走する」
「あー」
納得された。
だが。
その時。
「ジョウゴォォォォ!」
銀麦亭の扉が勢いよく開いた。
「…………」
嫌な予感。
バルガ。
「聞いたぞ!」
「何を?」
「銀星砂拾ったんだってな!」
「早い!」
「配信見てた奴が工房に教えに来た!」
「情報社会!」
「行くぞ!」
「どこへ?」
「工房だ!」
「今日は行かない」
「なんでだ!」
「もう遅い」
「五号!」
「作らない」
「新素材!」
「今日はやらない」
「研究!」
「明日!」
バルガが止まる。
「……明日?」
「明日」
「絶対だぞ?」
「仕事――」
危ない。
「用事が終わってログインできたら」
「よし!」
現実情報を言いそうになる癖。
これも気をつけないとな。
正式配信者になっても。
ダンジョンへ行っても。
新素材を拾っても。
結局最後は――。
「ジョウゴ! 銀星砂は俺が預かる!」
「嫌だ」
「なんでだ!」
「勝手に使いそうだから」
「使わねぇ!」
「信用できない」
「俺を何だと思ってる!」
「鍛冶馬鹿」
「褒めるな!」
「褒めてない」
銀麦亭に笑い声が響く。
こうして。
久しぶりのダンジョン攻略は無事終了。
俺たちは南洞窟第五階層まで攻略し――。
そして。
次の目標。
Lv10。
六階以降の攻略。
さらに。
手に入れた銀星砂。
AWOでの俺たちの生活は――。
また少しずつ、次へ進み始めていた。




