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Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第二章 CROSS社契約編

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第19話 初案件と南方街道

 翌日。


 俺――上塚賢吾は、銀行での仕事を終えて帰宅した。


 夕食。


 風呂。


 家事。


 明日の準備。


 そして時計を見る。


「……よし」


 今日はCROSS LIVE公式配信者となってから、初めてスポンサー案件を入れた配信を行う。


 とはいえ、案件部分は冒頭の三~五分程度。


 その後はいつも通りAWOを遊ぶ。


 今日の予定は――。


 《シズナ南方街道》。


 《商隊護衛および周辺魔物討伐》。


 推奨Lv8~11。


 現在Lv9の俺たちには、ちょうどいい共同依頼だ。


「それにしても……」


 昨日追加された生活系システムを思い出す。


 満腹。


 食べ過ぎ。


 酔い。


 泥酔。


 二日酔い。


 そして酒類の年齢制限。


「健康管理案件の直前に来るアップデートじゃないだろ」


 むしろ完璧なタイミングなのか?


 俺はVR機器を装着した。


「ログイン」


◇◇◇


 光が晴れる。


 《銀麦亭》の二階。


 まず確認。


《HP:100%》


《MP:100%》


《満腹度:34%》


《状態異常:なし》


「……満腹度を見る癖が付きそうだな」


 昨日までは存在しなかった数字なのに。


 一階へ降りる。


「おかえり、ジョウゴ」


「ただいま、マリアさん」


 食堂を見る。


 ミナ。


 カイト。


 レント。


 三人とも揃っている。


「ジョウゴ!」


 ミナが手を振る。


「今日は大丈夫?」


「何が?」


「食べ過ぎ」


「……もう治った!」


 確認する。


 ミナの頭上に状態異常表示はない。


「昨日、どのくらいで治った?」


「一時間ちょっと」


「結構長いな」


「だから今日は気をつける」


 そう言いながら、ミナの前にはパンとスープと肉料理。


「普通に食べてるじゃん」


「適量!」


「デザートは?」


「…………」


「食べるんだな」


「満腹度と相談する!」


 学習はしたらしい。


 たぶん。


◇◇◇


「今日の護衛依頼だけど」


 レントが依頼票を開く。


《共同依頼》


《シズナ南方街道・商隊護衛および周辺魔物討伐》


《推奨Lv:8~11》


《募集人数:8~12名》


《目的:商隊を南方中継宿まで護衛》


《副目的:街道周辺の魔物減少》


《報酬:基本報酬+討伐数+護衛評価》


「中継宿まで?」


「ああ。片道で半日程度らしい」


「AWO時間で?」


「そうだ」


 ゲーム内時間は現実と完全に同じではない。


 それでも長めの依頼だ。


「途中で休憩もあるみたい」


 ミナが言う。


「食事休憩?」


「そこ重要?」


「重要!」


 アップデート翌日なのに元気だな。


「参加者は?」


 カイトが聞く。


「俺たち四人以外にも募集されてる」


「野良との共同依頼か」


「そうなる」


 灰色谷救出作戦では大人数と協力したが、あれは特殊だった。


 普通のプレイヤー同士で共同依頼を受けるのは久しぶりだ。


「じゃあ配信は?」


「する」


 今日は案件もある。


「商隊側には?」


「ギルド経由で確認済み。NPCプライバシー保護機能を使う条件で許可」


「準備いいな」


「正式配信者だから」


「おお」


 カイトが妙に感心した。


「ジョウゴが配信者っぽいこと言ってる」


「配信者なんだよ」


◇◇◇


 南門前。


 集合時刻の少し前。


 すでに商隊の荷馬車が並んでいた。


 荷馬車四台。


 商人。


 御者。


 護衛NPC。


 そして参加プレイヤー。


「ジョウゴさん?」


 一人の男性プレイヤーが近づいてくる。


「はい」


「やっぱり!」


 剣士らしい。


「配信見てます!」


「ありがとうございます」


「試作四号、今日使うんですか?」


「使います」


「おお……!」


 視線が俺の腰へ。


 やっぱり刀は目立つ。


「配信する予定なので、映りたくなければ――」


「大丈夫です!」


「分かりました」


 他の参加者にも確認。


 CROSS LIVE側にはプレイヤー向けの表示設定もある。


 映像公開を拒否しているプレイヤーについては、自動的に識別情報が隠される。


「便利だな」


 正式機能。


 こういうところで助かる。


◇◇◇


 全員集合。


 俺たちを含めて十人。


 前衛五。


 後衛三。


 回復二。


「バランスいいな」


 レント。


「じゃあ始めるか」


 その前に。


 俺は視界端を見る。


《CROSS LIVE》


 今日のタイトル。


【AWO】初案件&南方街道の商隊護衛に行きます


「……初案件って書くと緊張するな」


「今さら?」


 ミナ。


「今さらだからだよ」


 設定確認。


《NPCプライバシー自動保護:ON》


《位置情報遅延:ON》


《現実身元保護:ON》


《荒らし対策:ON》


《緊急配信停止:使用可能》


 さらに。


《スポンサー表示:ON》


 初めて見る項目。


「よし」


《LIVE――START》


『きた!』


『ジョウゴ!』


『初案件!?』


『スポンサーついたのか』


『南方街道だ!』


《現在視聴者数:24,518》


「こんばんは。ジョウゴです」


 まず。


「今日は最初にお知らせがあります」


 画面上へ自動表示。


《この配信にはスポンサーによる広告が含まれます》


『ちゃんとPR表示出た』


『初案件おめ』


『何の案件?』


「今日は、VR利用時の休憩や生活管理を補助するサービスを紹介します」


 事前に決めた台本。


 ……は、使わない。


 内容だけ間違えなければ、自分の言葉でいいと言われている。


「数日前から実際に試しています」


 ここは重要。


「連続利用時間を設定しておくと、休憩時間を知らせてくれます」


 さらに。


「翌日の起床予定などを登録しておくと、長時間利用を避ける目安も表示してくれます」


『ジョウゴ向き』


『健康管理大事』


『バルガに必要では?』


「バルガはたぶん通知を無視します」


『www』


『確かに』


「あと」


 正直な感想。


「もともと自分で時間管理できる人には、絶対必要というものではないと思います」


 コメントが一瞬止まった。


『言うんだwww』


『案件でそれ言っていいの?』


『正直』


「事前に、実際の感想を言っていいと確認しています」


 俺自身も、もともと仕事を優先してログイン時間を管理している。


「ただ、鍛冶みたいに集中する作業をしていると時間を忘れることはあったので、その時は便利でした」


 これは本当。


「興味がある人は、配信画面のスポンサー表示から確認してください」


《スポンサー紹介終了》


「以上です」


『短い!』


『本当に4分くらい』


『これくらいがいい』


『じゃあ護衛だ!』


「はい。ここから普通にAWOです」


◇◇◇


 商隊が動き始める。


 南門を抜ける。


 街道。


 草原。


 遠くには森。


 空は青い。


「こういうのでいいんだよな」


「何が?」


 カイト。


「普通の冒険」


「灰色谷の後だと平和だな」


「フラグ立てるな」


「え?」


「昨日の俺みたいになるぞ」


「あー……満腹」


「やめて!」


 ミナが叫ぶ。


『フラグ回収早かったな』


『運営に聞かれてた説』


『次は何を言うのかな』


「もう余計なことは言いません」


『それがフラグ』


「……」


 黙ろう。


◇◇◇


 出発から二十分。


「前方」


 レント。


 弓を構える。


「何かいる」


 全員が止まる。


 草むら。


 ガサガサ。


「数は?」


「四……いや、五」


 出てきた。


《ハイウェイウルフ Lv.8》


《ハイウェイウルフ Lv.9》


 狼型魔物。


 五体。


「前衛!」


 共同依頼のリーダー役が指示。


「荷馬車から離しすぎるな!」


「了解!」


 カイトが盾を構える。


「来い!」


 二体がカイトへ。


 別の一体が他の前衛。


 残り二体――。


「こっち!」


 俺へ来る。


 試作四号を抜く。


 シャッ――。


「まず通常」


『検証始まった』


「今日は検証じゃない」


 一体目。


 速い。


 正面。


 噛みつき。


《見切り》


 半歩。


 避ける。


 刀身を首元へ添える。


 引く。


 ザシュッ!


《ハイウェイウルフLv.8にダメージ》


 一撃では倒れない。


「やっぱり街道型の方が少し硬いか」


 二体目。


 横。


 爪。


 受けない。


 流す。


《受け流しLv.1》


 ガッ!


 軌道を外へ。


 そのまま身体を入れる。


《崩し》


 狼の体勢が崩れる。


「今!」


 レントの矢。


 シュッ!


《ハイウェイウルフLv.9にダメージ》


「助かる!」


「前を頼む!」


「ああ!」


◇◇◇


 戦闘は数分で終了。


《ハイウェイウルフ×5討伐》


《共同依頼・討伐評価加算》


「問題なし」


 試作四号。


《耐久値:94%》


 昨日から少し減っているが、まだ十分。


「魔力刃使わなかったね」


 ミナ。


「必要なかった」


「温存?」


「ああ」


 MPは有限。


 通常攻撃で倒せる相手なら使う必要はない。


『切り札運用徹底してる』


『光る刀もっと見たい』


「見せるために使うものじゃないから」


『知ってた』


◇◇◇


 さらに進む。


 一時間ほど。


 商隊が休憩に入った。


「飯だ!」


 カイト。


「さっき食べてなかった?」


「AWOではまだだ!」


 確かに。


 現実の夕食とAWOの食事は別。


 空腹度もある。


 商隊側から簡単な食事が配られる。


 硬めのパン。


 燻製肉。


 野菜スープ。


「おいしい!」


 ミナ。


「満腹度は?」


「ジョウゴ!」


「確認しただけ」


「……58%」


「普通だな」


「今日は大丈夫!」


『満腹度管理されるミナ』


『食べ過ぎ事件』


『昨日の焼き菓子www』


「昨日は配信してないだろ」


『掲示板で聞いた』


「誰だ書いたの!」


 ミナが立ち上がる。


「食事中に暴れると気分不良になるぞ」


「座ります」


 早い。


◇◇◇


 休憩中。


 商隊の商人が大きな樽を出した。


「護衛の皆さん、エールもあるぞ!」


「おっ!」


 カイトが反応。


「やめとけ」


「一杯だけ!」


「護衛中だぞ」


「……あ」


 忘れていたらしい。


 すると別のプレイヤーが笑う。


「飲酒デバフあるからな」


「昨日のアップデートか」


「技量下がるぞ」


 カイトが樽を見る。


 俺を見る。


 荷馬車を見る。


「……仕事終わってからにする」


「正解」


『成長した』


『飲酒運転ならぬ飲酒護衛回避』


『二日酔い配信期待してたのに』


「期待するな」


 商人NPCも笑う。


「そりゃそうだ! 護衛が終わったら中継宿で飲めばいい!」


「そうします!」


 カイト。


「飲むのかよ」


「依頼終わったらいいだろ!」


 まあ。


 20歳以上なら止める理由はない。


 飲みすぎなければ。


◇◇◇


 休憩終了。


 再び南へ。


 街道の幅が少し狭くなる。


 右側。


 森。


 左側。


 小さな丘。


 レントが突然止まった。


「……待て」


「どうした?」


「静かすぎる」


 俺も周囲を見る。


 鳥の声。


 ない。


 風。


 草。


 それだけ。


「魔物?」


「可能性が高い」


 護衛全体へ警告。


「警戒!」


 全員が武器を構える。


 そして。


 ドンッ!


 前方の地面。


 土が跳ねた。


「うおっ!?」


 巨大な影。


 地面から飛び出したのは――。


《アーマーボア Lv.11》


 大猪。


 普通の猪より二回りは大きい。


 頭部と背中には硬い装甲のような皮膚。


「Lv11!」


「推奨上限!」


 荷馬車の馬が騒ぐ。


「商隊を守れ!」


 前衛が並ぶ。


 アーマーボア。


「ブオオオオオッ!」


 突進。


「カイト!」


「任せろ!」


 盾。


 ガァァン!


「ぐっ!」


 カイトが後ろへ押される。


「重い!」


「真正面で止めるな!」


「盾役にそれ言う!?」


「少し斜めに!」


「分かった!」


 アーマーボアが方向転換。


「装甲が硬い!」


 他の剣士の攻撃。


 ガキン!


 浅い。


「腹側!」


 レント。


「柔らかそうだ!」


「でも低い!」


 簡単には狙えない。


 俺は試作四号を構える。


「……ここか」


 魔力。


 流す。


 スゥゥゥ――。


 青白い光。


『きた!』


『魔力刃!』


《MP:73/74》


「ジョウゴ!」


 ミナ。


「無理しないで!」


「ああ!」


 猪がこちらを見る。


「ブオオッ!」


 突進。


 速い。


 真正面。


 受けない。


 避ける。


 ギリギリまで引きつける。


《見切り》


 左前。


 一歩。


 巨大な牙が横を通過。


 その瞬間。


 首と前脚の間。


 装甲が薄い場所。


「そこ!」


 一閃。


 スッ――!


 青白い軌跡。


《アーマーボアLv.11に大ダメージ》


「入った!」


 だが倒れない。


 方向転換。


「まだ来る!」


「カイト!」


「今度は流す!」


 盾を斜め。


 ガァン!


 突進方向がずれる。


「うおおおっ!」


 カイトが踏ん張る。


「今!」


 レントの矢。


 ミナの魔法。


 他プレイヤーの攻撃。


 一斉。


 そして俺。


 魔力刃。


 二撃目。


「ふっ!」


 ザンッ!


《アーマーボアLv.11を討伐しました》


◇◇◇


 一瞬。


 静寂。


 そして。


「よっしゃあ!」


 カイトが叫ぶ。


《共同依頼》


《強敵討伐ボーナス》


《護衛対象被害:0》


『ナイス!』


『連携いいな』


『Lv11撃破!』


『試作四号強い』


 俺は魔力を止める。


《MP:68/74》


「二回で五消費か」


「そこ確認する?」


 ミナ。


「大事だから」


 刀身。


 問題なし。


《耐久値:91%》


《魔力経路:安定》


「よし」


 実戦でも順調。


◇◇◇


 その後は大きな襲撃もなく。


 夕暮れ前。


 俺たちは目的地へ到着した。


《南方中継宿》


《共同依頼》


《第一行程達成》


《商隊被害:0》


《護衛評価:A》


《魔物討伐評価:A》


「まだ第一行程?」


 カイト。


 商人が笑う。


「明日は別の商隊がシズナへ戻る。帰りも護衛するなら追加報酬を出すぞ!」


「往復依頼か」


 レント。


「どうする?」


 俺は仲間を見る。


 ミナ。


 カイト。


 レント。


「今日はここで終わり」


「帰りは?」


「明日相談」


 現実側の時間もある。


 スポンサーサービスからも――。


 ポーン。


《連続VR利用時間が設定値に近づいています》


《休憩を推奨します》


「ちょうど来た」


『案件サービス仕事したwww』


『完璧なタイミング』


『ちゃんと休め』


「そうします」


◇◇◇


 配信終了前。


《現在視聴者数:97,316》


「今日はここまでです」


『お疲れ!』


『初案件よかった』


『護衛続き見たい』


『カイト酒飲むの?』


「飲む!」


「飲むなとは言わないけど」


 俺はカイトを見る。


「適量にしろよ」


「分かってる!」


 ミナが笑う。


「ジョウゴ、またフラグ?」


「…………」


『あ』


『フラグだ』


『二日酔い確定』


「違う!」


 カイト。


「俺は飲みすぎない!」


「その発言も危ないぞ」


「レントまで!」


 俺は配信を切る。


「では、お疲れさまでした」


《LIVE――END》


◇◇◇


 静かになる。


「さて」


 俺は宿泊手続きをする。


 ミナも。


 レントも。


 そして。


「じゃあ俺、酒場見てくる!」


 カイト。


「本当に行くのか」


「一杯だけ!」


「……好きにしろ」


 成人プレイヤーなら自由だ。


 俺たちは部屋へ向かう。


 階段を上る途中。


 ミナが振り返った。


「ジョウゴ」


「何?」


「カイト、大丈夫かな?」


「本人が一杯だけって言ってるんだから大丈夫だろ」


「…………」


「…………」


 二人で止まる。


 昨日。


 俺。


『満腹システムもそのうち来そうだな』


 結果。


 実装。


 今日。


 カイト。


『俺は飲みすぎない!』


「……嫌な予感するな」


「するね」


 レントだけが淡々と言った。


「明日のログインが楽しみだ」


「楽しむな」


 こうして。


 初めてのスポンサー配信と、南方街道の護衛初日は無事終了した。


 そして翌日――。


 俺たちはAWOで初めて。


 《二日酔い》という状態異常の恐ろしさを、間近で見ることになるのだった。

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