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Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第一章 AWO開始編

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第7話 寄り道こそ異世界生活

「美味い」


「美味しいですね!」


 俺――ジョウゴとミナは、《銀麦亭》のテーブルを挟んで夕食を食べていた。


 本日のおすすめ。


 鶏肉の香草焼き。


 表面はこんがり焼けている。


 ナイフを入れれば肉汁が溢れ、香草の香りが鼻を抜ける。


 付け合わせは蒸した芋と野菜。


「ゲームの料理とは思えないな」


「分かります」


 ミナがパンをちぎりながら頷く。


「私、最初は食事なんて雰囲気だけだと思ってたんですよ」


「俺もだ」


「でも普通に美味しいんですよね」


「しかも太らない」


「そこ重要です」


「重要だな」


 二人で真顔になる。


「おやおや」


 料理を運んできたマリアさんが笑った。


「二人とも随分気に入ってくれたみたいだね!」


「美味しいですよ」


「ありがとうございます!」


「そりゃよかった!」


 マリアさんが腰へ手を当てる。


「うちの亭主が朝から仕込んでるからねぇ」


「旦那さんが料理人なんですか?」


「ああ。厨房にいるよ」


「なるほど」


 NPCにも仕事がある。


 家族がいる。


 生活がある。


 こういう部分を知るほど、AWOを単なるゲームとして見るのが難しくなってくる。


「そうだ、ジョウゴ」


「はい?」


「ベル婆さんから聞いたよ」


「ベルさん?」


「リンゴ屋の婆さんさ」


「ああ」


 初日に会った露店のおばちゃんか。


「なんて?」


「変な兄ちゃんが来たって」


「…………」


 ミナが吹き出した。


「ふふっ!」


「笑うな」


「だって、NPCからも変な人扱いされてるじゃないですか!」


「なんでだ……」


「心当たりしかないです」


「ないぞ」


「あります」


 即答された。


         ◇◇◇


 食事を終える。


「ごちそうさまでした」


「またおいで!」


「もちろん」


 銀麦亭を出る。


 時刻はまだ早い。


 現実で考えれば午後九時前くらいだろう。


「ジョウゴさん、この後どうします?」


「俺は少し街を歩く」


「本当に観光するんですね」


「せっかく作り込まれてるんだから見ないともったいないだろ」


「それもそうですね」


「ミナは?」


「私はカイトたちと合流します」


「今から?」


「二人ともログインしたみたいなので」


 フレンドメッセージが届いたらしい。


「じゃあ、またな」


「はい!」


 少し歩いたところで。


「あ、ジョウゴさん!」


「ん?」


「明日も来ます?」


「仕事が長引かなければ」


「じゃあ見かけたら声かけますね!」


「ああ」


 ミナと別れる。


 さて。


「どこ行くかな」


 特に目的はない。


 だから適当に歩く。


 こういう時間も悪くない。


         ◇◇◇


 中央通りから一本外れる。


「へえ」


 途端に雰囲気が変わった。


 大通りには冒険者向けの店が多い。


 武器屋。


 防具屋。


 道具屋。


 宿屋。


 酒場。


 しかし、この通りには生活感のある店が並んでいた。


《仕立屋》


《家具工房》


《パン屋》


《陶器店》


《雑貨店》


「こういう店まであるのか」


 プレイヤー向けの商品だけではない。


 皿。


 壺。


 椅子。


 机。


 衣服。


 生活用品。


 AWOの世界に暮らす人々が使うものばかりだ。


 その時。


 カンッ!


 カンッ!


「ん?」


 金属を叩く音。


 路地の奥。


 明かりの灯った建物がある。


「鍛冶屋か?」


 近づく。


《鍛冶工房・バルガ》


 店の奥から熱気が流れてくる。


「まだ営業してるのかな」


 扉を開ける。


 カラン。


「いらっしゃ――ちょっと待て!」


「はい?」


 突然止められた。


 カウンターの向こう。


 大柄な男が真っ赤に熱せられた鉄を持っている。


《鍛冶師 バルガ》


「そこから動くな!」


「分かりました」


 理由は分からないが止まる。


 バルガは鉄を金床へ置いた。


 カンッ!


 カンッ!


 カンッ!


 槌が振り下ろされる。


「…………」


 自然と見入ってしまう。


 赤熱した鉄。


 火花。


 槌。


 一定のリズム。


「面白いな」


 現実でも刀に関わることがある以上、鍛冶に興味がないわけではない。


 もちろん俺自身は刀鍛冶ではない。


 だが古流剣術を習っていれば、武器そのものへの興味も出てくる。


 しばらくして。


 ジュウウウッ!


 鉄が水へ入れられた。


「ふう」


 バルガが額の汗を拭う。


「悪かったな」


「いえ」


「火床の近くを客に歩かれると危ねぇんだ」


「なるほど」


 そういう理由か。


「何か買いに来たのか?」


「いや、音が聞こえたので」


「音?」


「鉄を叩く音です」


「それだけで入ってきたのか?」


「気になったから」


「変な奴だな」


「…………」


 また言われた。


「最近よく言われます」


「ハハハ!」


 バルガが豪快に笑う。


「異邦人だろ?」


「分かります?」


「その格好を見りゃな」


 初心者装備。


 確かに分かりやすい。


「剣士か」


「はい」


「剣を見せてみろ」


「これ?」


 初心者の剣を抜く。


 バルガへ渡す。


「……ひでぇな」


「そんなに?」


「初心者向けだから仕方ねぇが、鉄も造りも最低限だ」


 剣を軽く振る。


「重心も前に寄ってる」


「やっぱり」


「ん?」


 バルガの眉が動く。


「分かってたのか?」


「昨日、別の武器屋で似たような剣を触ったので」


「剣を見る目があるのか?」


「見る目というか……」


 剣を返してもらう。


 握る。


「振れば分かりません?」


「…………」


「?」


「兄ちゃん」


「はい?」


「剣を使ったことあるだろ」


 また同じ質問だ。


「似た武器なら」


「何だ?」


「刀」


「カタナ?」


「片刃の剣です」


「ほう」


 バルガの目が変わった。


「どんな剣だ?」


「説明するなら……」


 俺は少し考える。


「刃は片側だけ。基本的に少し反りがあって、斬ることを重視しています」


「片刃で反り?」


「はい」


「面白ぇ」


 バルガが腕を組む。


「見てみたいな」


「俺もこの世界にあるなら見たいです」


「少なくとも俺は知らねぇ」


「そうですか」


 AWOには日本刀がないのだろうか。


 それとも別の地域に存在するのか。


「まあいい」


 バルガが店内を指す。


「剣を買うなら見ていけ」


「いいんですか?」


「客を追い返す鍛冶屋があるか」


 昨日の武器屋と似たことを言う。


「ありがとうございます」


         ◇◇◇


 壁に並ぶ剣を見る。


 一本。


 二本。


 三本。


「…………」


 初心者の剣より明らかに違う。


 重量。


 重心。


 握り。


 一本ずつ微妙に違う。


「これ、いいですね」


「ほう」


 選んだのは少し細身の片手剣。


《鉄製片手剣》


《品質:良》


「なんでそれを選んだ?」


「振りやすいから」


「それだけか?」


「俺の場合、大きく振り回すより細かく動かしたいので」


「…………」


「それに切っ先が扱いやすい」


 突きにも使える。


「いくらです?」


「650G」


「足りない」


「ハハハハハ!」


 現在の所持金では到底買えない。


「初心者がいきなり買える値段じゃねぇよ」


「ですよね」


「稼いで出直せ」


「そうします」


 剣を戻す。


 目標が一つできた。


「650Gか」


 依頼を何件かこなせば届く。


 ただ。


「別に急がなくてもいいか」


「なんだ、欲しくねぇのか?」


「欲しいですよ」


「なら稼げ」


「でも初心者の剣でも今のところ困ってないので」


「…………」


「壊れそうになったら困りますけど」


「お前、本当に変な剣士だな」


「今日何回目だろ」


 バルガが笑う。


         ◇◇◇


 鍛冶工房を出る。


 夜風が気持ちいい。


「いい店だったな」


 また来よう。


 次は650Gを貯めて。


 ……いや。


 その前に別の武器も見たい。


「焦る必要ないか」


 歩く。


 すると。


「お兄ちゃん!」


「ん?」


 声。


 足元を見る。


 小さな女の子が立っていた。


 NPCだ。


《シズナ住民 リリ》


「どうした?」


「ミーちゃん見なかった?」


「ミーちゃん?」


「猫!」


「猫か」


 そういえば冒険者ギルドに。


《迷子の猫探し》


 そんな依頼があった。


「白い猫?」


「うん! お耳だけ黒いの!」


「いつからいない?」


「お昼から……」


 女の子の顔が曇る。


「お母さんと探したけど見つからないの」


「なるほど」


 時刻は夜。


 小さな子供が一人で探し回るのは危ない。


「冒険者ギルドに依頼出してる?」


「お母さんがお願いしたって」


「なら」


 メニューを開く。


 依頼検索。


《迷子の猫探し》


《依頼主:シズナ住民 アンナ》


《対象:白い猫。両耳のみ黒色》


《最終目撃地点:シズナ西地区》


《報酬:30G》


「これだな」


 受注。


《依頼を受注しました》


「俺も探してみるよ」


「ほんと!?」


「ああ」


「ありがとう、お兄ちゃん!」


 リリが笑う。


「名前は?」


「リリ!」


「俺はジョウゴ」


「ジョウゴお兄ちゃん!」


「お兄ちゃん……」


 二十六歳なんだけどな。


 まあ、この見た目なら仕方ないか。


「リリは家に戻れ」


「でもミーちゃん……」


「俺が探す」


「……うん」


「見つけたら連れていくから」


「絶対?」


「絶対とは言えない」


「えー!」


「でも、できるだけ探す」


 安請け合いはしたくない。


 銀行員の悪い癖かもしれない。


 リリは少し考えて。


「分かった!」


「よし」


「ジョウゴお兄ちゃん、お願い!」


「ああ」


 女の子を家まで送り。


 俺は夜の街へ戻った。


「さて」


 今日の予定は観光だけだった。


 戦闘するつもりもなかった。


 レベル上げをするつもりもなかった。


 なのに。


「猫探しか」


 思わず笑う。


 剣と魔法の世界。


 モンスター。


 ダンジョン。


 冒険。


 そんなものだけが、この世界の遊びじゃない。


「こういうのも悪くないな」


 夜の《シズナ》を歩き始める。


 白い身体。


 黒い耳。


 名前はミー。


 探す場所は西地区。


 報酬はたった30G。


 効率だけ考えれば、ホーンラビットを倒した方がいいだろう。


 でも。


 困っている女の子がいる。


 だったら。


「探してみますか」


 ――《Another World Online》。


 この世界では。


 寄り道すらも、一つの冒険になるらしい。

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