第6話 初依頼達成と剣士ジョウゴ
夕暮れの《シズナ南部草原》。
俺――ジョウゴと魔術師のミナを囲むように現れた四匹の《ホーンラビット》。
そのうち二匹は、すでに倒した。
残りは二匹。
《ホーンラビット Lv.1》
《ホーンラビット Lv.2》
「キュルル……!」
「キュッ!」
左右へ分かれる。
「挟むつもりか?」
「モンスターって、そんなことまで考えるんですか?」
「さあな」
ただ、偶然には見えない。
右側の個体が正面から注意を引き、左側が回り込もうとしている。
「面白いな」
「何で楽しそうなんですか……」
「動物相手の稽古なんて現実じゃできないからな」
「稽古扱い!?」
もちろんゲームだから言える話だ。
現実で角の生えたウサギと戦いたいとは思わない。
「ミナ」
「はい!」
「左を頼む」
「分かりました!」
ミナが杖を向ける。
「《ファイアアロー》!」
炎の矢が飛ぶ。
左側のホーンラビットが跳んだ。
炎が草原を掠める。
「避けた!?」
「ちゃんと回避するのか」
「感心してる場合ですか!」
「いや、大丈夫」
俺の正面。
もう一匹が身体を沈める。
後ろ足へ力が入った。
「来る」
「キュッ!」
地面を蹴る。
真正面。
昨日なら避けて斬っていた。
だが今日は別のことを試したい。
剣を構える。
正面から突進してくるホーンラビット。
額には鋭い角。
タイミングを間違えれば攻撃を受ける。
だから――。
「ここ」
カンッ!
剣の腹で角を外側へ流す。
《Parry!》
ホーンラビットの身体が横へ逸れた。
俺は踏み込む。
だが剣は振らない。
「よっ」
左足。
相手の進行方向へ軽く差し込む。
体勢を崩したホーンラビットが――。
「キュッ!?」
ゴロゴロゴロッ!
草原を転がった。
「…………」
ミナが固まる。
「ジョウゴさん?」
「何?」
「今、蹴りました?」
「足を引っかけただけ」
「剣士ですよね?」
「剣士だけど」
「なんで足技使ってるんですか!?」
「使えるから?」
「疑問形!」
転がったホーンラビットが立ち上がる。
「キュルル!」
怒ったらしい。
「来るぞ」
「誰のせいですか!」
再突進。
今度は真っ直ぐ受けない。
一歩。
懐へ。
角の横へ身体を滑らせる。
左手を添える。
「――よし」
相手の勢いを利用して向きを変える。
「キュッ!?」
ホーンラビットの身体が宙へ浮いた。
ドサッ!
地面へ転がる。
「…………」
また沈黙。
「ジョウゴさん」
「何?」
「今度は投げました?」
「投げた」
「剣士が!?」
「合気道やってるからな」
「ゲームの職業どこ行ったんですか!?」
「別に剣以外使っちゃいけないとは書いてないぞ」
「そうですけど!」
俺は倒れたホーンラビットへ剣を向ける。
「これ、かなり自由だな」
剣士だから剣しか使えない。
そういうゲームではないらしい。
自分の身体でできることなら試せる。
「なるほど」
ますます面白くなってきた。
「キュッ!」
ホーンラビットが立ち上がる。
「悪い」
一歩。
斬撃。
ザンッ!
《Critical Hit!》
《ホーンラビットを討伐しました》
光となって消える。
「あと一匹」
「こっちです!」
ミナの声。
振り返る。
残ったホーンラビットがミナへ突進していた。
「《ファイアアロー》!」
炎の矢。
回避される。
「速い!」
距離が詰まる。
ミナが後ろへ下がる。
「危な――」
考えるより先に身体が動いた。
地面を蹴る。
一直線に走る。
剣を振る時間はない。
だったら。
「ミナ!」
「はい!?」
「そのまま!」
横から割り込む。
ホーンラビットの角が迫る。
剣を持った右手では間に合わない。
左手。
角そのものには触れない。
頭の横へ掌を当てる。
勢いを殺さず――。
方向だけ変える。
「ほっ!」
「キュッ!?」
ホーンラビットが横へ流れる。
そこへ。
「《ファイアボール》!」
ドンッ!
炎が直撃。
《Critical Hit!》
「キュ――!」
光となって消滅。
《ホーンラビットを討伐しました》
《パーティーメンバーが経験値を獲得しました》
「ふう」
剣を鞘へ戻す。
「終わったな」
「…………」
「ミナ?」
こちらを見ている。
「どうした?」
「ジョウゴさん」
「うん」
「今の何ですか?」
「何って?」
「最後の!」
「ああ」
少し考える。
「受け流した」
「素手で!?」
「角は触ってないぞ」
「そういう問題じゃありません!」
今日も元気だな。
◇◇◇
ポーン。
通知音。
《特殊行動を確認》
《装備武器以外を利用した戦闘動作を検出》
《体術系技能の熟練条件を一部達成しました》
「お?」
「今度は何です?」
「体術系だって」
「…………」
ミナが額へ手を当てた。
「剣士なのに?」
「剣士なのに」
「そのうち格闘スキルまで覚えそう……」
「便利そうだな」
「喜ばないでください!」
「なんでだよ」
AWOの自由度を楽しんでいるだけなのに。
◇◇◇
「あった」
戦闘を終え、採取を再開。
十束目の《シズナ草》を発見した。
昨日と同じように根元の土を少し崩し、傷つけないよう抜く。
《シズナ草を採取しました》
《品質:良》
《依頼必要数を達成しました》
《薬草採取 10/10》
「これで依頼達成か」
「ですね」
「帰るか」
「はい!」
シズナへ戻る。
城門を通過した頃には、すっかり夜になっていた。
街灯が通りを照らしている。
「綺麗ですね」
「そうだな」
プレイヤーたちはまだ多い。
しかしNPCの店は一部が閉まり、酒場や宿屋が賑わい始めている。
「本当に街が生活してる感じだな」
「NPCも時間で行動変わるみたいですよ」
「やっぱりか」
「夜しか受けられない依頼もあるらしいです」
「へえ」
それは面白い。
仕事のある俺は平日夜のログインが中心になる。
むしろ夜のシズナだからこそ見つけられるものがありそうだ。
◇◇◇
冒険者ギルドへ戻る。
「お帰りなさい」
受付には、登録を担当してくれたエリナさんがいた。
「依頼の報告です」
「冒険者証をお願いします」
「はい」
カードと薬草を渡す。
エリナさんが確認する。
「一、二……十束。確かに」
そして。
「……あら?」
「どうしました?」
薬草を一本手に取る。
「状態がいいですね」
「そうなんですか?」
「はい。根や葉がほとんど傷んでいません」
「なるべく傷つけないように抜きました」
「採取技能をお持ちなんですか?」
「持ってないです」
「……え?」
横でミナが小さく笑う。
「ですよね」
「ミナ?」
「エリナさんも同じ反応するんだなって」
どういう意味だ。
「では、すべて良品質として買い取らせていただきます」
《依頼達成》
《薬草採取》
《基本報酬:80G》
《品質ボーナス:20G》
《合計:100G》
「ボーナスまであるのか」
「品質の良い素材は薬師にとって価値がありますから」
「なるほど」
ただ数を集めればいいわけではない。
採り方によって報酬まで変わる。
「面白いな」
「ジョウゴさん」
「ん?」
「冒険者向いてますね」
「そうかな?」
「少なくとも丁寧な仕事をする方は歓迎ですよ」
銀行員としては複雑な気分だ。
仕事でも確認。
ゲームでも丁寧。
性格なのかもしれない。
「それと」
エリナさんが別の画面を確認する。
「ホーンラビットも討伐されていますね」
「ああ」
「素材を売却されますか?」
「お願いします」
角。
毛皮。
肉。
昨日の分も合わせて査定。
《素材売却:67G》
「結構増えたな」
「初心者装備なら少し買い替えられますよ」
「じゃあ武器屋でも見てみるかな」
「装備は大切ですからね」
「分かりました」
◇◇◇
ギルドを出る。
「ジョウゴさん」
「ん?」
「今日はどうします?」
「銀麦亭で飯食って終わりかな」
「ゲーム内で?」
「ああ」
「現実でも食べてきたんですよね?」
「食べた」
「二回夕飯食べるんですか?」
「ゲームだから太らないだろ」
「それは……確かに」
AWO最大の利点かもしれない。
美味しいものを食べても現実の摂取カロリーはゼロ。
「じゃあ私も行ってみようかな」
「銀麦亭?」
「昨日ジョウゴさんが言ってたところ」
「シチュー美味かったぞ」
「決まりですね!」
二人で歩き始める。
その途中。
「ジョウゴさん」
「何?」
「明日はどうするんです?」
「まだ決めてない」
「もう少し強いモンスターとか?」
「それもいいけど」
俺は通りを見る。
鍛冶屋。
道具屋。
露店。
食堂。
知らない路地。
まだ入っていない店。
「この街、まだ全然見てないからな」
「観光ですか?」
「ゲーム世界で観光したっていいだろ」
「確かに」
攻略だけが遊びじゃない。
急いでレベルを上げる必要もない。
好きなように歩いて。
好きなように戦って。
気になったものに触れてみる。
それでいい。
――その頃。
AWO公式掲示板。
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【シズナ周辺情報交換スレ Part3】
215:名無しの冒険者
例のジョウゴって剣士また南草原にいたぞ。
216:名無しの冒険者
昨日の変な剣士?
217:名無しの冒険者
変な剣士言うなw
218:名無しの冒険者
何やった?
219:名無しの冒険者
ホーンラビットをパリィ。
220:名無しの冒険者
普通じゃん。
221:名無しの冒険者
その後足引っかけて転ばせた。
222:名無しの冒険者
は?
223:名無しの冒険者
さらに投げた。
224:名無しの冒険者
???
225:名無しの冒険者
剣士とは。
226:名無しの冒険者
最後は素手で突進逸らしてた。
227:名無しの冒険者
格闘家じゃねえか。
228:名無しの冒険者
装備は?
229:名無しの冒険者
初心者の剣。
230:名無しの冒険者
草。
231:名無しの冒険者
誰か動画撮れよ。
232:名無しの冒険者
本人配信してないの?
233:名無しの冒険者
見つからん。
234:名無しの冒険者
リアル武術勢じゃない?
235:名無しの冒険者
AWOの「現実技能持ち込み」ってここまでできるのか?
236:名無しの冒険者
ちょっと剣道習ってくる。
237:名無しの冒険者
一日でどうにかなると思うな。
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そんな書き込みがされていることなど。
当の本人は知る由もない。
「ジョウゴさん、早く行きましょう!」
「ああ」
今の俺が考えていたことは一つ。
今日の銀麦亭のおすすめ。
鶏肉の香草焼き、美味いかな。
ただ、それだけだった。




