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Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第一章 AWO開始編

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第5話 冒険者ギルドと初めての依頼

「上塚主任、今日ちょっと機嫌よくないですか?」


「そうか?」


 翌日。


 いつものように銀行で仕事をしていた俺――上塚賢吾は、後輩からそんなことを言われた。


「なんというか、昨日より楽しそうです」


「気のせいだろ」


「AWOですか?」


「……仕事しろ」


「図星だ」


 笑いながら自分の席へ戻っていく後輩。


 まったく。


 とはいえ。


「…………」


 否定しきれない。


 昨日始めたばかりの《Another World Online》。


 剣と魔法の世界。


 始まりの街《シズナ》。


 NPCとの会話。


 ホーンラビットとの初戦闘。


 そして《銀麦亭》。


 たった数時間遊んだだけなのに、もう続きを楽しみにしている自分がいる。


「上塚主任、こちらお願いします」


「ああ」


 今は仕事。


 遊ぶのは帰ってからだ。


         ◇◇◇


 午後六時半。


「お先に失礼します」


「お疲れさまでした!」


 仕事を終え、帰宅。


 夕飯。


 風呂。


 明日の準備。


 最低限の家事も終わらせる。


「よし」


 時刻は午後八時。


 VR機器を装着する。


《Another World Onlineを起動します》


「ログイン」


 意識が切り替わった。


         ◇◇◇


 目を開ける。


「……お」


 木造の天井。


 昨日ログアウトした《銀麦亭》の七号室だ。


《Welcome Back》


《Another World Online》


《宿泊による休息ボーナスが付与されました》


《一定時間、獲得経験値に微量のボーナスが発生します》


「ちゃんとここから始まるのか」


 ベッドから起き上がる。


 窓の外を見る。


 朝――ではない。


 空は夕焼け色。


「現実時間と連動してるのか?」


 ヘルプを確認する。


《AWO内時間は現実世界の日本標準時を基準として進行します》


《一部地域・特殊エリアを除き、基本的な時間進行は現実世界と同期します》


「なるほど」


 仕事終わりにログインすると、基本的にAWOでも夜が中心になるわけだ。


 ただし休日なら昼間から遊べる。


「生活感がすごいな」


 装備を確認。


 初心者の剣。


 初心者の革鎧。


 問題なし。


「今日は冒険者ギルドだな」


 昨日は混雑していて後回しにした。


 今日はどうだろう。


 階段を降りる。


「おや、ジョウゴ!」


「こんばんは、マリアさん」


 女将のマリアさんがこちらを見る。


「今日も泊まるのかい?」


「そのつもりです」


「だったら部屋は空けてあるよ」


「助かります」


「夕飯は?」


「あとで食べます」


「今日のおすすめは鶏肉の香草焼きだよ!」


「じゃあ、それもあとで」


「はいよ!」


 昨日会ったNPCが、今日も普通に俺を覚えている。


 何とも不思議だ。


 銀麦亭を出る。


         ◇◇◇


《冒険者ギルド》


「今日は昨日よりマシだな」


 扉を開ける。


 中には多くのプレイヤーがいる。


 だが昨日ほどではない。


 受付にも数人並んでいるだけ。


「いらっしゃいませ!」


 順番が来る。


 受付にいたのは若い女性。


 金髪を後ろでまとめている。


《冒険者ギルド受付嬢 エリナ》


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


「冒険者登録をしたいんですが」


「新規登録ですね。では、こちらへどうぞ」


 木製の板のようなものを渡された。


《冒険者登録》


《名前》


《職業》


《主な武器》


「手書き?」


「文字が苦手でしたら代筆もできますよ」


「いや、大丈夫です」


 ペンを取る。


 ジョウゴ。


 剣士。


 主武器――剣。


 書き終えて返す。


「ありがとうございます」


 エリナさんが確認。


「ジョウゴさん。剣士ですね」


「はい」


「では、こちらへ手を置いてください」


 カウンターの上に透明な水晶が置かれる。


「これに?」


「はい」


 右手を置く。


 淡い光。


《プレイヤー情報を確認しました》


《冒険者ギルド登録処理を開始》


《登録完了》


 水晶から光が消える。


「これでジョウゴさんは正式に冒険者です」


 エリナさんから小さな金属製カードを渡された。


《冒険者証》


《ジョウゴ》


《ランク:F》


「Fランク?」


「新人冒険者は全員Fランクからです」


「なるほど」


「依頼を達成して実績を積むことで、E、D、Cと昇格していきます」


「最高は?」


「Sランクです」


「そこまで行く人って多いんですか?」


 エリナさんが笑う。


「現在、この支部にはいません」


「ですよね」


 いきなり最高ランクを目指す気はない。


 俺はゲームを楽しみに来たのだ。


「依頼はそちらの掲示板から確認できます」


「分かりました」


「ただし」


 エリナさんの表情が少し真面目になる。


「Fランク冒険者が受注できる依頼には制限があります」


「危険だから?」


「はい。冒険者ギルドは、冒険者を無意味に死なせるための組織ではありませんから」


「……なるほど」


 ゲームシステムとしてだけではない。


 この世界の組織として、新人を危険な場所へ送らないようにしているらしい。


「最初は採取や街周辺の魔物討伐がおすすめです」


「ありがとうございます」


         ◇◇◇


「さて」


 依頼掲示板。


 かなり大きい。


 大量の紙が貼られている。


《薬草採取》


《ホーンラビット討伐》


《スライム討伐》


《農場の手伝い》


《荷物運び》


《迷子の猫探し》


《宿屋の薪割り》


「……猫探し?」


 冒険者の仕事なのか?


 まあ、依頼されたなら仕事か。


 しかも。


「戦闘以外も多いな」


 むしろFランクは生活系依頼の方が多いくらいだ。


「これなんかいいか」


《依頼:薬草採取》


《依頼主:シズナ薬師ギルド》


《必要数:薬草10束》


《採取場所:シズナ南部草原》


《報酬:80G》


《推奨ランク:F》


 昨日行った場所だ。


 ついでにホーンラビットも倒せる。


「これにしよう」


 依頼票を取る。


 すると。


「それ受けるんですか?」


「ん?」


 横から声。


 見ると、見覚えのある女性プレイヤー。


「ミナ?」


「あっ、やっぱりジョウゴさん!」


 昨日会った魔術師のミナだった。


「こんばんは」


「こんばんは! 今日も来てたんですね!」


「仕事終わったからな」


「仕事?」


「ああ」


「社会人なんですね」


「二十六だぞ」


「えっ」


「何で驚く?」


「もう少し若いかと……」


「ゲームの姿だからな」


 AWOのキャラクターは現実の身体情報を基礎にしているものの、ある程度外見調整ができる。


「カイトとレントは?」


「まだログインしてません」


「そうか」


 ミナが俺の持っている依頼票を見る。


「薬草採取ですか?」


「ああ」


「一緒に行ってもいいです?」


「いいよ」


「やった!」


 こうして二人で南部草原へ行くことになった。


         ◇◇◇


「ところでジョウゴさん」


「ん?」


「昨日の掲示板見ました?」


「ああ」


「見たんだ……」


「俺の名前出てたな」


「出てましたね」


「ただウサギ倒しただけなのに」


「倒し方がおかしいんですよ」


「またそれか」


「今日は普通に戦ってくださいね?」


「普通に戦ってる」


「その普通が普通じゃないんです!」


 昨日と同じ会話だ。


 南門を抜ける。


《シズナ南部草原》


 夕方の草原。


 風が気持ちいい。


「薬草は?」


「この辺にあるはずです」


 ミナが地面を見る。


「あ、これです」


《シズナ草》


《薬草として利用可能》


「これか」


 しゃがむ。


 葉を観察。


 細長い葉。


 根元が僅かに赤い。


「根ごと抜くの?」


「採取アクション使えば――」


「いや」


 茎の根元を持つ。


 軽く土をほぐす。


 必要な部分を傷つけないよう引き抜く。


《シズナ草を採取しました》


《品質:良》


「お?」


「……え?」


「良品質だって」


「ちょっと待ってください」


「何?」


「普通は《標準》ですよ?」


「そうなの?」


「どうやって採ったんです?」


「どうって……」


 俺は薬草を見る。


「根を傷つけないように抜いただけ」


「…………」


「何?」


「戦闘以外でもそれやるんですね」


「何を?」


「リアル技能」


「草抜いただけだぞ?」


「もういいです」


 なぜか諦められた。


         ◇◇◇


 薬草を集めながら進む。


 七束。


 八束。


 九束。


「あと一つですね」


「ああ」


 その時。


 ガサッ。


「来た」


《ホーンラビット Lv.2》


 昨日より一つレベルが高い。


「ジョウゴさん!」


「任せろ」


 剣を抜く。


「今日はアーツ使ってみません?」


「あ」


 忘れていた。


「昨日覚えろって言われたな」


「まさかまだ確認してないんですか!?」


「仕事だったから」


「今確認してください!」


「はいはい」


 スキルメニュー。


《剣術Lv.1》


 使用可能アーツ。


《スラッシュ》


「これか」


「そうです!」


 ホーンラビットが身体を沈める。


「キュッ!」


 突進。


 半歩ずれる。


「《スラッシュ》」


 発動。


 身体に不思議な補助感覚。


 剣が淡く光る。


 そして斜めに振り下ろされ――。


 ザンッ!


《Critical Hit!》


《ホーンラビットを討伐しました》


「おお」


「一撃……」


「確かに威力あるな」


 ただ。


「やっぱり振りが少し大きい」


「第一声そこですか!?」


「あと発動中、身体を動かされる感じがする」


「アシストですからね」


「慣れれば便利そうだけど」


 俺は剣を見つめる。


「自分で斬った方が楽だな」


「初心者が言う台詞じゃない……」


 ミナが遠い目をする。


 その時。


 ポーン。


《特殊条件を確認》


「ん?」


《既存アーツ使用時に独自の身体制御を検出》


《アーツ動作への適応処理を開始》


「…………」


 俺とミナが表示を見る。


「ジョウゴさん」


「何?」


「また何かやりました?」


「知らん」


《身体操作Lv.1の熟練度が上昇しました》


「身体操作か」


「普通、アーツ一回でそんな通知出ませんよ?」


「そう言われてもな」


 そして。


 ガサガサガサッ!


「ん?」


 今度は一方向ではない。


 左右。


 後ろ。


「ジョウゴさん」


「ああ」


 草むらから姿を現す。


 一匹。


 二匹。


 三匹。


 四匹。


《ホーンラビット Lv.1》


《ホーンラビット Lv.2》


《ホーンラビット Lv.2》


《ホーンラビット Lv.3》


「四匹……!」


 ミナが杖を構える。


「ちょっと多いですね」


「そうだな」


 俺も剣を構える。


 正面。


 左右。


 後方。


 四匹。


 同時に来られると少し面倒だ。


「ジョウゴさん、二匹ずつ――」


「いや」


 足を動かす。


「俺が前に出る」


「え?」


「魔法の準備頼む」


「分かりました!」


 ミナが詠唱を開始する。


 その瞬間。


 一匹目が動いた。


 続いて二匹目。


 僅かに遅れて三匹目。


「なるほど」


 完全な同時攻撃ではない。


 なら。


 一匹目。


 半歩。


 回避。


 二匹目。


 剣の腹を当てる。


 カンッ!


《Parry!》


 三匹目。


 踏み込む。


 身体を低くする。


 頭上を角が通過。


「今!」


「《ファイアボール》!」


 ドンッ!


 炎が四匹目へ直撃。


「キュッ!」


 吹き飛ぶ。


「まず一匹」


 俺はパリィで体勢を崩したホーンラビットへ接近。


 一閃。


《Critical Hit!》


「二匹目」


 振り向く。


 残り二匹。


「……やっぱり」


 ミナが呟いた。


「何?」


「ジョウゴさん」


「うん」


「絶対、剣士Lv.2の動きじゃないですよ」


「レベルと身体の動きは別だろ?」


「それを自然に言うからおかしいんです!」


 ホーンラビットが飛び込んでくる。


 俺は笑いながら剣を構え直した。


 ――AWO二日目。


 冒険者登録。


 初めての依頼。


 そして初めてのパーティーらしい戦闘。


 俺はまだ知らなかった。


 このゲームでは、プレイヤー自身の技量によって。


 同じ職業。


 同じレベル。


 同じ装備でも。


 戦い方が大きく変わるということを。


 そして――。


 現実世界で十年以上積み重ねてきた俺の『普通』が。


 この世界では、とんでもなく相性が良いということを。

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