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Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第二章 CROSS社契約編

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第15話 鍛冶師ギルドの正式審査

 翌日。


 俺――ジョウゴは、いつもより少し早く《銀麦亭》を出た。


 腰には二本の刀。


 使い慣れた《鉄刀・試作三号》。


 そして昨日、初めて実戦で使用した――。


 《鉄刀・試作四号》。


「おはよう、ジョウゴ!」


「おはよう」


 宿の前では、すでにミナが待っていた。


「早いな」


「だって今日は審査でしょ?」


「ミナも審査対象だからな」


「え?」


「《魔力同調鍛造》」


「あ」


 忘れていたらしい。


 《星蒼複合鋼》は俺とバルガだけで作ったものじゃない。


 ミナが魔力を流すタイミングを合わせてくれたからこそ、安定製造条件を確立できた。


 特に《魔力同調鍛造》と《魔力同調焼入れ》。


 この二つには、ミナの協力が欠かせない。


「私、何か聞かれるのかな……」


「たぶん」


「急に緊張してきた」


「分からないことは分からないでいいだろ」


「ジョウゴは緊張してないの?」


「してる」


「見えないよ?」


「契約書を読む時と同じ」


「それ余計に分からない」


 そう言われても。


 確認する。


 聞かれたことに答える。


 分からない部分を曖昧にしない。


 それだけだ。


◇◇◇


 バルガの工房。


 扉を開けた瞬間――。


「遅ぇ!」


「約束より十五分早いぞ」


「俺は一時間前から待ってる!」


「それはバルガが早すぎる」


「今日は審査だぞ!」


 相変わらずで安心した。


 ただ。


「……珍しいな」


 工房が綺麗だった。


「何だと?」


「床に物が落ちてない」


「俺の工房はいつも綺麗だ!」


 ミナと顔を見合わせる。


「…………」


「…………」


「なんだ、その顔は!」


 普段は素材や工具があちこちに置かれている。


 本人曰く「どこに何があるか全部分かっている」らしいが。


「片付けたんだね」


「審査官が来るからな!」


「やっぱり」


「うるせぇ!」


 作業台には、審査用の資料が並べられている。


 高密度鉄。


 黒鉄。


 蒼鉄。


 銀星砂。


 失敗した試験材。


 成功した試験材。


 さらに製造工程を書いた記録。


「失敗作も見せるのか?」


「当然だ」


 バルガが真面目な顔になる。


「成功した物だけ見せても意味がねぇ」


「……確かに」


「どう失敗して、何を変えたら成功したのか。それも技術だ」


 さすが本職。


 こういうところは俺よりずっと詳しい。


「俺の記録も出す」


「おう」


 俺が作っていた作業記録も作業台へ置く。


 素材比率。


 加熱条件。


 槌打ち間隔。


 ミナの魔力投入タイミング。


 安定度。


 失敗原因の推測。


 再現試験結果。


 バルガが紙を見る。


「相変わらず細けぇな」


「必要だろ?」


「必要だから文句言えねぇんだよ」


「ならいいじゃないか」


「なんか腹立つ!」


 なぜだ。


◇◇◇


 しばらくして。


 コンコン。


 工房の扉が叩かれた。


 バルガの顔から笑いが消える。


「来たな」


 扉を開く。


「失礼する」


 入ってきたのは三人。


 一人目は白髪交じりのドワーフ。


 背は低いが、腕が太い。


 腰には何本もの小さな槌。


 二人目は人間の男性。


 細身で眼鏡をかけ、分厚い書類を抱えている。


 三人目は若いドワーフの女性。


 こちらは箱のような魔道具を持っていた。


「シズナ鍛冶師ギルド技術審査官、ドランだ」


 白髪のドワーフ。


「記録官のセルクです」


 眼鏡の男性。


「素材鑑定担当、フィネ」


 女性ドワーフ。


 ドランがバルガを見る。


「久しいな」


「相変わらず偉そうだな、ドラン」


「お前も相変わらず口が悪い」


「知ってるだろ」


「知っている」


 知り合いらしい。


 ドランの視線が俺へ。


「お前がジョウゴか」


「はい」


「《刀の先駆者》」


「……そう呼ばれると少し恥ずかしいんですが」


「称号なのだから諦めろ」


「はい」


 さらにミナへ。


「そして魔力工程協力者、ミナ」


「は、はい!」


「そう緊張するな。別に取って食わん」


「はい!」


 全然ほぐれていない。


◇◇◇


「では始める」


 まずは素材審査。


 フィネが魔道具へ《星蒼複合鋼》の試験材を入れる。


 淡い光。


「……高密度鉄」


 フィネが呟く。


「黒鉄、蒼鉄。そして銀星砂」


「はい」


「四素材?」


「正確には三種の金属と銀星砂です」


 俺が答える。


「配合比率は?」


 そこはバルガ。


「これだ」


 記録を渡す。


 フィネとセルクが確認する。


「最初からこの比率だったのか?」


 ドラン。


「いや」


 バルガが失敗作を並べる。


「こっちは割れた」


「これは?」


「魔力流しすぎて内部から裂けた」


「こっちは?」


「冷却で失敗」


「……ずいぶんやったな」


「新素材だからな!」


 なぜ嬉しそうなんだ。


 ドランは失敗作を一つずつ確認する。


 そして成功材。


「鑑定」


 魔道具が光る。


《星蒼複合鋼》


《硬度:高》


《粘性:高》


《重量:軽》


《魔力伝導:高》


《安定性:高》


「確かに面白い」


 ドランが試験材を指で弾く。


 キンッ。


「軽さに対して硬い。それでいて粘りもある」


「刀向けだ」


 バルガが言う。


「刀だけか?」


「いや」


 俺は首を振った。


「他にも使えると思います」


 バルガがこちらを見る。


「お前、刀以外にも使わせる気か?」


「素材なんだから当然だろ?」


「俺は刀作りたい!」


「作ればいいだろ」


「そういう問題じゃねぇ!」


 ドランが笑った。


「なるほど。お前たちらしいな」


 どういう意味だろう。


◇◇◇


「次」


 ドランが言った。


「再現してもらう」


 来た。


 ここが本番だ。


「提出された完成品が優れているだけでは、技術として認定できん」


「分かってる」


 バルガが炉へ向かう。


「同じ物をもう一度作れるか。それを見せりゃいいんだろ?」


「ああ」


 素材を用意。


 高密度鉄。


 黒鉄。


 蒼鉄。


 銀星砂。


 俺も槌を持つ。


 ミナが横へ立つ。


「緊張する……」


「いつも通りでいい」


「審査官が三人見てるよ?」


「見てるだけだ」


「それが緊張するの!」


 それは分かる。


 俺も仕事で上司に後ろから見られながら作業したら嫌だ。


「じゃあ、審査官はいないと思おう」


「無理だよ!」


 ドランが豪快に笑った。


「気にせずやれ!」


「はい!」


◇◇◇


 炉へ素材を入れる。


 熱。


 色。


 バルガの目が鋭くなる。


「まだだ」


 炎を見る。


「……今!」


 素材を取り出す。


 金床へ。


 俺は槌を構える。


《槌打ちLv.1》


《技量補正》


 呼吸。


 一打。


 カァン!


「ミナ!」


「はい!」


 槌が金属へ触れる瞬間。


 魔力。


 青白い光。


 ドランの眉が動いた。


 カァン!


 魔力。


 カァン!


 魔力。


「……なるほど」


 フィネが小さく呟く。


「槌打ちと魔力投入を同期させてる」


 俺は返事をしない。


 今は集中。


 カァン!


 カァン!


 カァン!


 魔力が散らない。


 一本の方向へ流れる。


「ジョウゴ!」


「分かってる!」


 最後。


 カァァン――!


 澄んだ音。


「止め!」


 バルガ。


 俺は槌を離す。


 ミナも魔力を止める。


 青白い線が素材内部へ残った。


 フィネがすぐ鑑定。


《星蒼複合鋼・試験材》


《硬度:高》


《粘性:高》


《重量:軽》


《魔力伝導:高》


《安定性:高》


《安定度:86%》


「……成功」


 セルクが記録する。


 ドランは何も言わない。


「もう一回だ」


「え?」


 ミナ。


「再現性を見る。もう一度」


「分かりました」


◇◇◇


 二回目。


 同条件。


 同工程。


 結果――。


《安定度:85%》


「三回目」


「まだやるのか?」


 俺が聞く。


「正式技術にするんだ。当然だ」


「分かりました」


 三回目。


《安定度:87%》


 ドランが腕を組む。


「三回連続」


 セルクが頷く。


「数値のばらつきも小さいです」


「素材製法については問題ない」


 その言葉に。


「よっしゃ!」


 バルガが拳を握った。


「まだ終わってない」


「分かってる!」


 絶対忘れてただろ。


◇◇◇


「次は《魔力同調焼入れ》」


 今度は事前に用意していた小型試験刀身を使用する。


 耐熱泥。


 刃側。


 棟側。


 冷却条件。


 そして焼き入れ時の魔力。


「魔力を流す理由は?」


 ドランが俺に聞く。


「焼き入れ中に魔力経路が乱れるのを防ぐためです」


「それだけか?」


「試験では、魔力を流しながら焼き入れした方が経路安定度が上昇しました」


「原因は?」


「分かりません」


 俺は即答する。


 ドランの眉が上がる。


「推測は?」


「冷却時に内部の魔力経路も一緒に固定されている可能性は考えています。でも確認できていません」


「……ほう」


「だから現時点では事実と推測を分けています」


 一瞬。


 静かになる。


 そして。


「いい答えだ」


 ドランが笑った。


「分からんものを分かったふりする職人が一番危険だからな」


「銀行でも似たような――」


 俺は止まる。


「……何でもありません」


 危ない。


「ジョウゴ?」


 ミナが首を傾げる。


「気にしないで」


◇◇◇


 焼き入れ開始。


「ミナ!」


「いくよ!」


 刀身内部へ弱い魔力。


 冷却。


 ジュワァァァァァッ――!


 大量の蒸気。


 青白い光が蒸気の向こうへ伸びる。


 そして。


《魔力経路安定度:96%》


「成功」


 フィネが目を見開く。


「焼き入れ前より上がってる」


「これが面白ぇんだ!」


 バルガが嬉しそうに言う。


「普通なら熱処理で経路が乱れる可能性がある。だがこいつは逆だ!」


 ドランが刀身を見る。


「魔力そのものを熱処理工程へ組み込んだのか……」


「偶然見つけただけですけど」


「新技術など最初はそんなものだ」


◇◇◇


「では最後」


 ドランの視線が俺の腰へ。


「完成品を見せろ」


「はい」


 試作四号を抜く。


 シャッ――。


 銀色の刀身。


 淡い青の刃文。


 ドランが受け取る。


「軽い」


 軽く振る。


「重心はかなり手前だな」


「俺の戦い方に合わせています」


「受け流しか」


「知ってるんですか?」


「お前の刀が地域技術登録された時に資料を読んだ」


 そうだった。


 《複合鍛造刀》。


 すでに俺とバルガは一度、地域技術へ影響を与えている。


「魔力を流しても?」


「どうぞ」


 ドランが僅かに魔力を流す。


 スゥゥゥ――。


 青白い線が刀身を走った。


「……これは」


 刃文が淡く発光する。


「綺麗」


 フィネが呟く。


「見た目だけじゃないです」


「試すか」


◇◇◇


 工房裏。


 試し斬り用の木杭。


 ドランが試作四号を構える。


「まず通常状態」


 斬る。


 ザンッ!


 深い切れ込み。


「十分だ」


 次。


「魔力を流す」


 青白い光。


 振る。


 スッ――。


 木杭がずれる。


 ドサッ。


「…………」


 審査官三人が黙った。


「こうなります」


「お前、先に言え!」


「試した方が早いかと思って」


「早すぎるわ!」


 バルガが大笑いしている。


「どうだ、ドラン!」


「うるさい!」


 ドランは切断面を見る。


「魔力で刃そのものを作っているわけではない」


「はい」


「元の刃を補助している」


「《魔力刃補助》という特殊効果になっています」


「消費は?」


「起動時1。斬撃時におおむね2」


「剣士でも使えるのか」


「俺のMPは74ですが、問題なく使えます」


「なるほど」


 ドランは刀を俺へ返した。


◇◇◇


 工房へ戻る。


 三人の審査官が小声で話し合う。


 俺たちは待つ。


「緊張するね」


 ミナ。


「そうだな」


「ジョウゴでも?」


「そりゃする」


「顔に出ないね」


「仕事中もよく言われ――」


 また危ない。


「ジョウゴ?」


「何でもない」


 正式配信ではないとはいえ、NPC相手にも現実の情報を話す癖はつけない方がいい。


 やがて。


「結論が出た」


 ドランがこちらを向く。


「まず――」


 ポーン。


 システム音。


《シズナ鍛冶師ギルドによる技術審査が完了しました》


 来た。


《特殊素材》


《星蒼複合鋼》


《再現性:確認》


《安定製造:確認》


《実用性:確認》


《地域特殊素材として正式登録されました》


「おお……」


 ミナが声を漏らす。


 次。


《特殊鍛造工程》


《魔力同調鍛造》


《再現性および有効性を確認》


《地域鍛冶技術として正式登録されました》


 さらに。


《特殊熱処理工程》


《魔力同調焼入れ》


《有効性を確認》


《研究継続対象として仮登録されました》


「こっちは仮なんだな」


「理由が完全には解明されていない」


 ドランが答える。


「技術として使うことは認める。だが正式な標準技術にするには研究が足りん」


「納得です」


 分からない部分を残したまま正式認定するより、その方がいい。


 そして。


 最後の通知。


《特殊武器》


《鉄刀・試作四号》


《刀系統派生武器として記録されました》


《製作者:バルガ/ジョウゴ》


《魔力工程協力:ミナ》


《品質:希少》


《地域技術史へ記録されます》


「技術史?」


 俺が呟く。


 バルガが固まった。


「……おい」


「何?」


「技術史だぞ」


「そう書いてあるな」


「俺の名前が残るぞ!」


「俺も残るみたいだけど」


「そこはもっと喜べ!」


「いや、ゲームで歴史に名前が残るって言われても……」


「ゲーム?」


「あ」


 ドランたちは首を傾げる。


「いや、こっちの話です」


 危ない危ない。


◇◇◇


「それと」


 ドランが一枚の金属板を取り出す。


「バルガ」


「何だ?」


「今回の功績をもって、シズナ鍛冶師ギルドはお前の工房を――」


 バルガの表情が変わる。


「《特殊鍛造技術研究工房》として認定する」


「…………」


「え?」


 ミナ。


 俺も聞いていない。


《バルガ鍛冶工房》


《特殊鍛造技術研究工房》


《認定》


「これによりギルド保管素材の一部について、研究目的での購入申請が可能になる」


 バルガが金属板を受け取る。


 しばらく黙っていた。


「……そうか」


 珍しく静かだ。


「バルガ?」


「ジョウゴ」


「何?」


「次は何を作る?」


「もう次?」


「当たり前だ!」


 いつものバルガに戻った。


「星蒼複合鋼が完成した! 工房も認定された! なら次だ!」


「試作四号が完成したばっかりだぞ」


「五号!」


「早い」


「槍でもいい!」


「俺、剣士なんだけど」


「防具!」


「鍛冶なら何でもいいのかよ」


「面白けりゃ何でもいい!」


「職人だねぇ」


 ミナが笑う。


 ドランも呆れたように肩をすくめている。


◇◇◇


 審査終了後。


 俺は工房の外へ出た。


 腰には試作四号。


 視界には新しく追加された情報。


《地域特殊素材:星蒼複合鋼》


《地域鍛冶技術:魔力同調鍛造》


《研究技術:魔力同調焼入れ》


 また少し。


 AWOの世界に、俺たちが作ったものが残った。


 最初は自分が使う刀が欲しかっただけだ。


 それがバルガと出会い。


 ミナが協力してくれ。


 カイルの《月白》からヒントをもらい。


 失敗を繰り返して。


 一つの素材と技術になった。


「ジョウゴ」


 ミナが隣へ来る。


「これ、次の配信で話す?」


「そうだな」


 正式配信者になった以上、こういう報告も面白いかもしれない。


「ただし、その前に」


「何?」


「現実に戻る」


「え?」


「明日も仕事」


「あー」


 AWOで新技術を作ろうが。


 地域技術史に名前が載ろうが。


 現実の俺は――上塚賢吾。


 二十六歳。


 銀行員。


 主任。


 本業最優先。


 それがCROSS社との契約条件であり、勤務先から副業を認めてもらった条件でもある。


「今日は早めにログアウトする」


「さすが正式配信者」


「そこは関係ないだろ」


「でも健康管理も契約条件だったよね?」


「……よく覚えてるな」


「ふふん」


 ミナがなぜか得意そうに胸を張った。


 ゲームを楽しむ。


 配信も楽しむ。


 でも現実生活を崩さない。


 それが俺のAWO生活だ。


 ――その時。


 ポーン。


「ん?」


 新しい通知。


《CROSS LIVE》


《担当者:神崎》


《公式配信者ジョウゴ様へ》


《次回配信企画についてご相談があります》


「…………」


「どうしたの?」


「神崎さんから連絡」


「CROSS社?」


「ああ」


 正式配信者になってから初めて届いた――。


 CROSS社側からの配信企画相談。


 どうやら。


 《鉄刀・試作四号》が完成して一段落――とは、いかないらしい。


 俺は通知を閉じる。


「……とりあえず、現実に戻ってから確認するか」


 AWOでは鍛冶師ギルド。


 現実ではCROSS社。


 銀行員と、公式配信者。


 二つの生活を両立する日々は――。


 まだ始まったばかりだった。

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