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Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第二章 CROSS社契約編

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第13話 鉄刀・試作四号、完成

 翌日。


 俺――ジョウゴは、バルガの工房に入るなり作業台へ向かった。


「おはよう」


「遅ぇ!」


「時間通りだ」


「刀が待ってるぞ!」


「刀は逃げないだろ」


「馬鹿野郎!」


 バルガが拳を握る。


「職人にとって完成直前の刀は、今にも走り出しそうなくらい気になるんだ!」


「知らないよ」


「ジョウゴ、諦めたほうがいいよ」


 ミナが苦笑している。


 その隣には、今日もカイル。


「またいる」


「悪いか?」


「いや、もう慣れた」


「そうか」


 元Sランク冒険者《白銀の旅人》。


 最近は完全に工房の住人みたいになっている。


「誰が工房の住人だ」


「口に出てた?」


「ああ」


 気をつけよう。


◇◇◇


 作業台の上には、昨日焼き入れを終えた刀身。


《鉄刀・試作四号/製作途中》


《刀身形成率:91%》


《硬度:高》


《粘性:高》


《重量:軽》


《重心:手元寄り》


《魔力伝導:高》


《魔力経路安定度:97%》


 ここまで来た。


 残るのは仕上げ。


 研磨。


 刃付け。


 鍔。


 柄。


 鞘。


 そして魔力試験。


「まず状態確認」


「もうやったぞ」


「バルガが?」


「おう」


「結果は?」


「問題なし!」


「それだけ?」


「問題ねぇんだから問題ねぇ!」


「……まあいいか」


 俺も鑑定と目視で確認する。


 目立つ亀裂なし。


 歪みも許容範囲。


 魔力経路も安定。


「じゃあ研ぎだな」


「おう」


◇◇◇


 粗い砥石から始める。


 シャッ。


 シャッ。


 一定の角度。


 刀身を滑らせる。


「ジョウゴ」


「ん?」


「技量補正出てる?」


 ミナに聞かれ、視界を見る。


《技量補正》


「出てる」


「やっぱり生産にも効くんだね」


「みたいだな」


 技量41。


 大型アップデートで見えるようになった数字。


 ただし。


 システムが勝手に刀を研いでくれるわけではない。


 角度を決めるのは俺。


 力加減も俺。


 動かすのも俺。


 技量は――。


 俺がやろうとした動きを、AWO側へ正確に反映してくれる。


「便利だけど、万能じゃないな」


「それくらいがいいんじゃない?」


「俺もそう思う」


 シャッ。


 シャッ。


 砥石を変える。


 少しずつ細かく。


 刀身表面が整っていく。


 やがて――。


「お」


 刃に沿って、薄い模様が見え始めた。


「バルガ」


「見えてきたな」


「刃文?」


「お前の言う名前なら、そうなるな」


 昨日の《魔力同調焼入れ》。


 その影響なのか。


 刃文には、ごく僅かに青白い色が混じっている。


「綺麗……」


 ミナが呟く。


「光ってる?」


「いや」


 カイルが近づく。


「光を反射しているだけじゃない」


「どういうこと?」


「微量だが、魔力が表面近くを流れている」


 俺は手を止める。


「経路から漏れてる?」


「漏れているというより……」


 カイルが少し考える。


「枝だな」


「枝?」


「中心の経路から刃へ細い流れが伸びている」


「それ、大丈夫なのか?」


「調べれば分かる」


 ですよね。


◇◇◇


 研ぎ終了。


 次に鍔。


「今回はこれだ」


 バルガが用意したのは黒鉄製。


 派手ではない。


 円形に近い単純な形。


「黒鉄?」


「ああ」


「魔力入口の制御用?」


「そのつもりだ」


 試作四号の鍔元には、重心調整と魔力制御のために黒鉄を追加している。


 なら鍔も黒鉄にすれば、魔力の流れを安定させられるかもしれない。


「試してみよう」


 取り付け。


 次は柄。


 芯材。


 表面へ革。


 さらに滑り止めとして紐を巻く。


「握ってみろ」


「ああ」


 手に取る。


「……軽い」


 試作三号より明らかに軽い。


 でも。


「軽すぎない」


 手元に重心がある。


 構える。


 振る。


 止める。


 返す。


 縦。


 横。


 袈裟。


 逆袈裟。


 そして――。


 ピタッ。


「止まるな」


「狙い通りだろ?」


 バルガが笑う。


「ああ」


 俺の戦い方に合っている。


 大振りしない。


 受け止めない。


 見切る。


 流す。


 崩す。


 必要な時だけ斬る。


「試作三号より扱いやすい」


「当然だ!」


「まだ完成判定出てないけどな」


「言うな!」


◇◇◇


「じゃあ」


 ミナが少し緊張した顔になる。


「魔力、流す?」


 工房が静かになった。


 そう。


 ここが最後の大きな確認。


 俺は魔法職ではない。


 MPも74しかない。


 だが――。


「少量なら流せるんだよな?」


「システム上はな」


 カイルが答える。


「月白も魔法職専用じゃない」


「じゃあやる」


 俺は試作四号を握る。


 意識する。


 自分のMP。


《MP:74/74》


 ほんの少し。


 柄へ。


 刀へ。


「……いくぞ」


 魔力を流す。


 瞬間。


 スゥゥゥ――。


「……!」


 鍔元。


 青白い光。


 一本の細い線が――。


 刀身内部を走る。


 鍔元から。


 中央。


 そして切っ先へ。


 さらに。


「刃文が……!」


 ミナが声を上げる。


 青白い刃文。


 淡く。


 本当に淡く。


 光っている。


「MPは?」


 カイル。


「73」


「消費1?」


「ああ」


「効率は悪くない」


 俺は刀を振る。


 ヒュン――。


 音が違う。


「軽い……」


 いや。


 重量の話だけじゃない。


 刀が動きについてくる。


「システムアシスト?」


「違う」


 俺は首を振る。


 たぶん。


「魔力を流すと、刀身の振動が減る」


 バルガが目を見開く。


「振動?」


「振った時のブレが少ない」


 カイルが頷く。


「月白にも似た性質がある」


「じゃあ成功?」


 ミナが聞く。


「まだ斬ってない」


「ジョウゴ、慎重すぎない?」


「武器だからな」


◇◇◇


 工房裏。


 試し斬り用の木杭。


 まず魔力なし。


「いく」


 構える。


 呼吸。


 一閃。


 ザンッ!


 木杭へ深い切れ込み。


「試作三号より上だな」


 バルガ。


「素材が違うから当然か」


 次。


 魔力を流す。


《MP:73/74》


 青白い線。


 淡い刃文。


「ふっ!」


 斬る。


 スッ――。


「…………」


 音が小さかった。


 木杭の上部が――。


 ズズッ。


 落ちる。


 ドサッ。


「え?」


 ミナが固まる。


 俺も固まる。


「……斬れすぎじゃない?」


 バルガが木杭を見る。


「刃こぼれは!?」


 確認。


「ない」


「魔力経路!」


「97%維持」


「MP!」


「72」


 カイルが切断面を見る。


「魔力が刃へ流れたな」


「さっきの枝?」


「ああ」


 中心経路。


 そこから刃へ伸びた微細な魔力の流れ。


 それが刃の性能を補助している。


「……魔法剣みたいなもの?」


 ミナ。


「そこまで派手じゃないと思う」


 炎が出るわけでもない。


 斬撃が飛ぶわけでもない。


 ただ。


 刀という武器本来の性能を、魔力が僅かに押し上げる。


「俺にはこっちのほうがいい」


 派手な特殊能力より。


 振りやすい。


 流しやすい。


 斬りやすい。


 それで十分だ。


◇◇◇


 そして。


 ポーン。


 システム音。


《特殊武器製作条件を達成しました》


「来た」


《製作者》


《バルガ》


《ジョウゴ》


《魔力工程協力:ミナ》


《特殊素材:星蒼複合鋼》


《特殊工程:魔力同調鍛造》


《特殊工程:魔力同調焼入れ》


《魔力経路形成:成功》


《武器完成判定を実行――》


 一瞬。


 間が空く。


 そして。


《完成しました》


《鉄刀・試作四号》


《武器分類:刀》


《品質:希少》


《耐久性:非常に高い》


《重量:軽》


《重心:手元寄り》


《魔力伝導:高》


《魔力経路安定度:97%》


《特殊効果:魔力刃補助》


《少量のMPを消費することで、刀身内部の魔力経路を通じて刃部を一時的に強化します》


「……完成」


 俺は表示を見つめる。


 試作一号。


 試作二号。


 そして現在使っている試作三号。


 そこから。


 素材そのものを作るところから始めた。


 失敗。


 亀裂。


 不安定な魔力経路。


 魔力量の調整。


 流す方向。


 槌との同期。


 黒鉄による入口制御。


 折り返し。


 焼き入れ。


 研ぎ。


 全部積み重ねて。


「できたな」


 バルガが言う。


「ああ」


「やったね!」


 ミナが笑う。


 カイルは《月白》へ一度目を向けてから、試作四号を見る。


「もう月白の模倣ではないな」


「そうか?」


「ああ」


 カイルが静かに頷く。


「これはお前たちの刀だ」


 俺は手の中の刀を見る。


 青白い光は消えている。


 魔力を止めれば、見た目は落ち着いた一振り。


「……いいな」


 気に入った。


 その時。


 さらに通知。


《地域技術情報が更新されました》


《新規派生技術を確認》


《複合鍛造刀》


《星蒼複合鋼》


《魔力同調鍛造》


《魔力同調焼入れ》


《複数技術の統合を確認》


《称号》


《刀の先駆者》


《進行度が上昇しました》


「称号まで反応した」


「当然だ!」


 バルガが胸を張る。


「俺たちが作った刀だからな!」


「バルガに称号は出てないだろ」


「細けぇことはいい!」


 相変わらずだ。


◇◇◇


「さて」


 俺は試作四号を鞘へ収める。


 カチン。


「次は?」


 ミナが聞く。


「実戦試験」


「やっぱり?」


「木を斬れたからって、戦闘で使えるとは限らない」


 耐久性。


 受け流し。


 連続使用。


 MP消費。


 魔力経路への負荷。


 確認することはまだある。


「北西森林は?」


 ミナが聞く。


「行かない」


 即答。


「推奨Lv12以上になった場所で試す必要はない」


「じゃあ?」


「東の森あたりでいいんじゃないか」


 適正レベル帯の魔物。


 それで十分。


「それと」


 俺は視界端の《CROSS LIVE》アイコンを見る。


「次は配信しようと思う」


「お」


 カイル。


「正式配信者らしくなってきたな」


「試作四号が完成したことは、前の配信を見てた人にも報告したいから」


 《星蒼複合鋼》が生まれるところから見ていた視聴者たち。


 なら。


 完成した刀も見てもらおう。


「配信タイトルは?」


 ミナが楽しそうに聞く。


「まだ決めてない」


「《新しい刀できました!》」


「軽い」


「《青く光る刀で魔物を斬ってみる!》」


「煽りすぎ」


「難しいね」


「普通でいいよ、普通で」


 俺は苦笑する。


 もっとも。


 最近。


 俺が「普通」と言うと――。


 なぜか普通では終わらない気もするのだが。


 こうして。


 長い試作と研究を経て。


 俺の新しい主力候補――。


 《鉄刀・試作四号》が完成した。


 次はいよいよ。


 CROSS LIVEでの――。


 実戦試験である。

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