↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第二章 CROSS社契約編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
64/132

第11話 試作四号、折り返しの一打

 《鉄刀・試作四号》。


 昨日の作業で、刀身内部へ一本の魔力経路を通すところまでは成功した。


 ただし――。


 まだ完成には程遠い。


「ここからが本番だぞ」


 翌日。


 バルガの工房で、俺――ジョウゴは昨日の粗い刀身を前にしていた。


 隣にはミナ。


 少し離れたところにはカイル。


 そしてバルガは、朝から完全に職人の顔になっている。


「昨日は形を作っただけだ」


 バルガが刀身を持ち上げる。


「今日は内部を締める」


「折り返すのか?」


「一部だけな」


「一部?」


「全部折り返したら、せっかく作った魔力経路が潰れる可能性がある」


「なるほど」


 今回の《星蒼複合鋼》は、普通の鋼じゃない。


 内部に魔力を通す。


 だから、今までの刀と同じやり方をそのまま使えばいいわけではない。


「じゃあ経路は残しつつ、外側だけ締める?」


「そうだ」


 バルガがニヤリと笑う。


「難しいぞ」


「今さらだろ」


「言うようになったな」


◇◇◇


 まず刀身を再加熱する。


 炉の炎が赤く揺れる。


 俺は昨日の記録を確認する。


 素材比率。


 魔力投入量。


 槌打ち間隔。


 魔力経路の位置。


「ミナ」


「うん」


「今日は昨日ほど大量に魔力を流さなくていいと思う」


「維持だけ?」


「ああ」


 完全に新しく経路を作るわけじゃない。


 今あるものを壊さないように支える。


「分かった」


 ミナが頷く。


「カイル」


「何だ?」


「月白って鍛え直したことある?」


「ある」


「その時、魔力経路は?」


「職人が触る前に封じていた」


「封じる?」


「一時的に魔力を流れなくする」


 俺とバルガが同時に見る。


「それ、先に言え!」


「聞かれなかった」


「そういう大事なことは自分から言え!」


「俺は鍛冶師じゃない」


「またそれか!」


 ミナが吹き出した。


「でもヒントにはなるね」


「ああ」


 完全に同じことはできなくても、


 作業中だけ経路を落ち着かせる


 という発想は使える。


「ミナ」


「やってみる?」


「できそう?」


「流すのと逆なら……」


 ミナが刀身へ手を近づける。


 目を閉じる。


「流れを止めるんじゃなくて、弱くするなら」


「それでいこう」


◇◇◇


 再加熱。


 バルガが刀身を取り出す。


「ジョウゴ!」


「ああ!」


 金床へ置く。


 まず一打。


 カァン!


 その瞬間。


 ミナが魔力を流す。


 いや――。


 今日は流さない。


 抑える。


 青白い光が一瞬だけ弱くなった。


「今だ!」


 バルガが叫ぶ。


 カァン!


 カァン!


 刀身の外側を叩いて締めていく。


 中央。


 魔力経路のある部分へは強く入れない。


 外側から少しずつ。


「いいぞ!」


 バルガが見る。


「経路が乱れてねぇ!」


「ミナ!」


「まだいける!」


 カァン!


 カァン!


 少しずつ。


 形が締まる。


 密度が上がる。


 その間も、青白い魔力経路は細く残っている。


「これなら……」


 カイルが前へ出る。


「月白とは違うが、理屈は近い」


「つまり?」


「経路を守りながら刀身を鍛えている」


「なら正解に近いな」


 俺は槌を握り直す。


◇◇◇


 一度目の処理が終わる。


 鑑定。


《鉄刀・試作四号/製作途中》


《刀身形成率:46%》


《魔力経路安定度:82%》


「数字まで出るようになったか」


「大型アップデート便利だな」


 バルガはよく分かっていない顔をしている。


「で、良いのか?」


「悪くない」


「じゃあ続けるぞ!」


「待て」


「またか!」


「休憩じゃない」


「なら何だ!」


 俺は刀身を見る。


「重心」


「……あ」


 忘れていたわけじゃない。


 でも。


 今回の素材は軽い。


 試作三号と同じ寸法で作ると、思っていたより軽くなりすぎる可能性がある。


「俺は手元寄りがいい」


「受け流し用だな」


「ああ」


 軽ければ速く振れる。


 でも軽すぎると、相手の武器に触れた時の安定感が落ちる。


「柄側に少し厚みを残すか?」


「それか、鍔の近くに重さを持たせる」


 バルガが考える。


「黒鉄を追加する手もある」


「追加できる?」


「やれなくはねぇ」


 ただし。


 素材を追加すれば、魔力経路との干渉が起きる。


「危険だな」


「だから試作なんだろ?」


 バルガが笑う。


 確かに。


「少量だけ」


「おう」


◇◇◇


 鍔元。


 柄に近い部分。


 そこへ、ごく少量の黒鉄を追加する。


 理由は二つ。


 重心調整。


 そして――。


「黒鉄って魔力を抑える性質が少しあるんだよな?」


「蒼鉄ほど通さねぇからな」


「なら根元で魔力の暴走を抑えられるかもしれない」


 ミナが頷く。


「入口を絞る感じ?」


「そう」


 魔力を一気に流さない。


 必要な量だけ。


 刀身内部へ送る。


「やってみよう」


 再加熱。


 黒鉄を合わせる。


 鍛接。


 カァン!


 カァン!


 ミナが魔力経路を抑える。


 俺が槌を振る。


 バルガが温度を見る。


 少しずつ。


 慎重に。


 そして――。


 キンッ。


「……今の音」


「変わったな」


 高い。


 でもさっきより締まっている。


「鑑定してみろ」


「ああ」


《鉄刀・試作四号/製作途中》


《刀身形成率:61%》


《魔力経路安定度:88%》


《重心:手元寄り》


「来た」


 俺は笑う。


「狙い通り」


「おお!」


 バルガが声を上げる。


「経路も上がってるぞ!」


「黒鉄が効いた?」


 ミナ。


「可能性あるな」


 入口側で魔力が暴れにくくなったのかもしれない。


 カイルも刀身を見る。


「面白い構造だ」


「月白にはない?」


「ああ」


「じゃあやっぱり別物だな」


「そういうことだ」


◇◇◇


 そして最後。


 今日の一番難しい工程。


「折り返すぞ」


 バルガが言う。


「本当に?」


「一回だけ」


 完全な折り返しではない。


 外側の層だけを折る。


 内部の魔力経路は残す。


「失敗したら?」


「やり直しだ」


「だよな」


 俺は深く息を吐く。


 怖い。


 ここまで順調に来ている。


 だからこそ怖い。


 失敗すれば、一から。


 でも。


「やろう」


「おう」


 ミナも構える。


「私も合わせる」


「頼む」


 加熱。


 刀身が赤くなる。


 バルガが外側を少しだけ折る。


「ジョウゴ!」


「ああ!」


 最初の一打。


 カァン!


 ミナが魔力を抑える。


 カァン!


 少しずつ。


 外側を閉じる。


 経路は触らない。


 中心は守る。


 俺は槌を振る。


 身体の使い方は刀を振る時と同じ。


 肩からではなく。


 全身で。


 必要なところに。


 必要な力だけ。


《技量補正》


 表示。


 カァン!


 カァン!


 そして――。


 最後。


「いけ!」


 バルガ。


 俺は一打。


 カァァン――!


 工房中に澄んだ音が響いた。


 刀身内部。


 青白い光が、一度だけ強く走る。


「……!」


 ミナ。


 カイル。


 バルガ。


 全員が見ている。


「壊れた?」


 俺は恐る恐る聞く。


「いや」


 カイルが首を振る。


「むしろ――」


 鑑定。


《鉄刀・試作四号/製作途中》


《刀身形成率:79%》


《魔力経路安定度:93%》


《内部密度:高》


《重心:手元寄り》


「九十三……」


「上がった!」


 ミナが笑う。


「成功だ!」


 バルガが拳を握る。


 俺も思わず笑った。


「よし」


 まだ完成ではない。


 熱処理。


 刃付け。


 研ぎ。


 柄。


 鍔。


 鞘。


 そして魔力を流した時の実戦試験。


 残っている工程は多い。


 でも――。


 ここまで来た。


「次は焼き入れか」


「そうだ」


 バルガの顔が真剣になる。


「一番失敗したくねぇところだ」


「だな」


 この刀は普通の鋼じゃない。


 普通の焼き入れでいいのかも分からない。


「また研究か」


「当然だ!」


 バルガは嬉しそうだった。


 俺は作業台の刀身を見る。


 《星蒼複合鋼》。


 《魔力同調鍛造》。


 黒鉄による魔力入口の制御。


 そして外層だけを締める折り返し。


 知らない技術を真似しただけじゃない。


 俺たちはもう――。


 俺たちだけの刀を作り始めている。


 《鉄刀・試作四号》。


 完成まで――。


 あと少しだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。