第10話 試作四号、鍛造開始
《星蒼複合鋼》。
高密度鉄。
黒鉄。
蒼鉄。
銀星砂。
そしてミナの魔力。
俺とバルガが何度も条件を変え、失敗を繰り返しながら――ようやく安定性《高》まで持ってきた特殊素材。
だが。
「もう一回だ」
「分かってるって!」
バルガが若干うんざりした顔をしている。
「安定性《高》が一回出たから完成、じゃない」
「二回連続で成功してからだろ?」
「ああ」
「昨日から何回聞いたと思ってんだ!」
「なら覚えてるな」
「覚えてるわ!」
俺――ジョウゴは記録用紙を見ながら頷く。
前回成功した条件。
素材比率。
加熱時間。
槌打ちの間隔。
魔力投入量。
魔力を流す方向。
そして――。
槌が金属に接触する瞬間と、ミナの魔力を同期させる。
この《魔力同調鍛造》が現在の鍵だ。
「ミナ、大丈夫?」
「うん!」
ミナが杖を横へ置く。
「昨日よりタイミング慣れたよ」
「無理はしないで」
「ジョウゴ、それ昨日も言ってた」
「大事だからな」
「はいはい」
その横では、カイルが腕を組んで壁にもたれている。
「今日は配信しないのか?」
「しない」
「せっかく正式配信者になったのに?」
「毎回する必要はないだろ」
今日は研究。
しかも再現性確認。
同じ作業を何度も繰り返す可能性がある。
「視聴者が見たいって言うかもしれないぞ」
「見たいもの全部配信してたらキリがない」
「なるほど」
カイルが小さく笑う。
「お前らしいな」
◇◇◇
一回目。
炉の温度を前回と揃える。
「ジョウゴ!」
「いく!」
カァン!
「ミナ!」
「はい!」
青白い光。
カァン!
魔力。
カァン!
魔力。
前回と同じ。
いや。
前回より落ち着いている。
俺もミナもタイミングを知っている。
バルガも火加減を理解している。
カァァン――!
「止め!」
バルガの声。
冷却。
処理。
そして鑑定。
《名称:星蒼複合鋼・試験材》
《硬度:高》
《粘性:高》
《重量:軽》
《魔力伝導:高》
《安定性:高》
《安定度:85%》
「よし」
「一回!」
ミナが指を一本立てる。
「次だ!」
バルガがすぐに炉へ向かう。
「ちょっと休憩」
「まだ一回だぞ!?」
「だからこそだよ」
同じ条件を維持したいなら、人間側の疲労も揃えないといけない。
「ミナが疲れた状態でやって失敗したら、条件のせいなのか疲労のせいなのか分からないだろ」
「……ああ」
バルガが納得する。
「なるほどな」
「こういう検証、お前向いてるな」
カイル。
「仕事で数字や確認には慣れてるから」
「仕事?」
「……現実の話」
「そうか」
危ない。
ここは配信していないから問題ないが、癖で話しすぎるのは避けよう。
◇◇◇
二回目。
同じ素材。
同じ条件。
同じ手順。
カァン!
魔力。
カァン!
魔力。
青白い光が一本の筋として伸びる。
「いいぞ!」
バルガが叫ぶ。
最後の一打。
キィィン――。
高く澄んだ音。
「これは……」
カイルが目を細める。
「前より安定している」
「分かるのか?」
「ああ。月白に魔力を流している時と似た感覚がある」
処理。
鑑定。
《名称:星蒼複合鋼・試験材》
《硬度:高》
《粘性:高》
《重量:軽》
《魔力伝導:高》
《安定性:高》
《安定度:87%》
「二回連続!」
ミナが笑う。
「これなら――」
「再現性あり、と見ていいだろ」
俺は記録へ書き込む。
最低限の条件は満たした。
その瞬間。
ポーン。
《特殊素材製造条件を確認しました》
《星蒼複合鋼》
《安定製造条件を確立》
「来た」
バルガが拳を握る。
《地域研究対象》
《星蒼複合鋼》
《仮登録情報を更新しました》
《鍛冶師ギルドによる正式審査対象となります》
「正式審査……」
「三日後のやつだな」
「ああ」
ただ。
その前に――。
バルガが俺を見る。
俺もバルガを見る。
ミナが二人を見る。
「……やる?」
「やる」
「やるぞ!」
答えは同じだった。
いよいよ。
試験材ではない。
刀一本分の素材を作る。
《鉄刀・試作四号》。
その鍛造を始める。
◇◇◇
「まず設計だ」
俺は作業台へ紙を広げた。
「お前、今回は先に描くのか?」
「試作三号までと違って、素材の性質がかなり変わるから」
《星蒼複合鋼》。
軽い。
硬い。
粘りがある。
魔力をよく通す。
なら――。
「三号より少し刀身を細くする」
「強度は?」
「星蒼複合鋼なら維持できると思う」
「重心は?」
「今まで通り手元寄り」
俺の戦い方は変えない。
速さだけを求めない。
重さだけを求めない。
受け流し。
崩し。
切り返し。
刀を手元で制御しやすいこと。
それが重要だ。
「あと」
俺は刀身内部へ一本の線を描く。
「魔力経路」
バルガが覗く。
「一本でいいのか?」
「まずは一本」
「枝分かれさせたほうが魔力が広がるんじゃねぇか?」
「広がりすぎたら制御できなくなる」
前に失敗した試験片。
魔力があちこちへ散って亀裂が入った。
その経験がある。
「柄から切っ先へ一直線」
カイルが頷く。
「月白も基本はそれだ」
「じゃあまずはそれでいこう」
ミナが紙を見る。
「私、一本分ずっと魔力流すんだよね?」
「そうなる」
「……大変そう」
「途中で止めてもいい」
「止めたら失敗じゃない?」
「失敗してもいい」
「え?」
ミナが顔を上げる。
「無理して続けるよりいい」
素材は作り直せる。
刀もやり直せる。
でも無理してミナが倒れる必要はない。
「試作なんだから」
「……うん」
ミナが笑う。
「じゃあ頑張る」
◇◇◇
素材を用意する。
高密度鉄。
黒鉄。
蒼鉄。
銀星砂。
試験材の時とは量が違う。
「多いな」
「刀一本分だからな」
バルガが炉の状態を確認する。
「ここからは失敗したら素材も痛ぇぞ」
「分かってる」
「緊張してる?」
ミナが聞く。
「少し」
正直に答える。
試作三号までとは違う。
今度は。
魔力を通す刀。
AWOの素材と魔法を使った――。
俺たちなりの新しい刀。
「よし」
バルガが息を吐く。
「始めるぞ」
炉へ素材を入れる。
ゴウッ!
炎。
熱。
金属が赤く変わる。
銀星砂が淡く光る。
「ジョウゴ!」
「ああ!」
金床へ。
槌を握る。
《槌打ちLv.1》
視界に表示。
さらに。
《技量補正》
俺は息を整える。
カァン!
最初の一打。
「ミナ!」
「はい!」
淡い魔力。
青白い光が素材へ吸い込まれる。
カァン!
魔力。
カァン!
魔力。
一本分の素材は大きい。
当然、試験材より時間もかかる。
「焦るな!」
バルガが叫ぶ。
「温度は俺が見る!」
「分かった!」
俺は槌だけを見る。
正確に。
同じ間隔。
同じ方向。
刀身の形を少しずつ作っていく。
そして内部へ――。
一本の魔力経路を育てる。
「ジョウゴ!」
「まだいける!」
「ミナは!?」
「大丈夫!」
汗。
呼吸。
集中。
カァン!
カァン!
カァン!
やがて。
赤い金属の中。
青白い一本の光が――。
柄側から切っ先へ伸び始めた。
「見えた!」
バルガ。
「そのままだ!」
俺は槌を振る。
強くではない。
正しく。
必要な一打だけ。
カァン!
光が伸びる。
カァン!
さらに伸びる。
そして――。
「止め!」
バルガの声。
俺は槌を止めた。
「……どうだ?」
まだ赤熱している。
完成にはほど遠い。
だが。
細長く形作られた刀身の中。
一本の青白い光が――。
確かに残っている。
「成功……?」
ミナが息を整えながら聞く。
バルガが笑う。
「まだだ」
「えー」
「刀はここからだぞ!」
そう。
まだ粗い。
形を作っただけ。
これからさらに鍛造し。
刀身を整え。
熱処理し。
研ぎ。
柄を作り。
鞘も必要になる。
そして何より――。
魔力経路を最後まで壊さず維持できるか。
「でも」
俺は刀身を見る。
「最初の工程は越えた」
その瞬間。
ポーン。
《特殊武器製作を検知しました》
《未登録武器系統》
《刀》
《既存地域技術:複合鍛造刀を参照》
《特殊素材:星蒼複合鋼を確認》
《特殊鍛造工程:魔力同調鍛造を確認》
さらに。
《特殊武器製作工程》
《鉄刀・試作四号》
《製作が開始されました》
「名前まで認識されたな」
カイルが言う。
「逃げられなくなったな」
「最初から逃げる気はない」
バルガが豪快に笑う。
「明日も続きだ!」
「今日はここまで」
「はぁ!?」
「ミナのMP見ろ」
「え?」
ミナのステータス。
MP残量はかなり減っている。
「……あ」
「だから終わり」
「うぅ……」
「また明日だ」
俺は槌を置く。
急がない。
焦らない。
一日で完成させる必要なんてない。
試作だからこそ。
一つずつ確かめる。
作業台には、まだ刀と呼ぶには早い一本の粗い刀身。
だが、その内部には。
青白い魔力経路が静かに光っている。
《鉄刀・試作四号》。
新しい刀は――。
今、確かに形になり始めていた。




