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Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第二章 CROSS社契約編

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第9話 技量41と鍛冶の数字

 大型アップデートによって、今まで内部で処理されていたステータスが見えるようになった。


 俺――ジョウゴの現在値は、


《ジョウゴ》


《職業:剣士》


《Lv.9》


《HP:286》


《MP:74》


《力:31》


《すばやさ:36》


《防御力:27》


《技量:41》


《運の良さ:18》


 そして俺たちは今――。


「遅ぇぞ、ジョウゴ!」


 バルガの工房に来ていた。


「遅くない。寄り道してただけだ」


「何してた!」


「冒険者ギルド」


「ああ、北西森林の件か」


「知ってるのか?」


「街じゃそこそこ話題になってるぞ」


 俺たちが発見した大型魔物らしき痕跡。


 すでに冒険者ギルドは危険区域を拡大し、推奨Lv12以上の追加調査依頼を出している。


「お前らは行かねぇのか?」


「俺はLv9だからな」


「珍しくまともな判断だな」


「いつもまともだ」


「そうかぁ?」


 なぜ疑問形なんだ。


「ジョウゴは結構慎重だよ?」


 ミナが助け舟を出してくれる。


「変なところでは無茶するけど」


「……ミナ?」


「何でもないよ?」


 笑顔だった。


 深く追及するのはやめよう。


◇◇◇


「それで」


 俺は作業台を見る。


 そこには前回作った金属片が置かれている。


《星蒼複合鋼・試験材》


《硬度:高》


《粘性:中》


《重量:軽》


《魔力伝導:高》


《安定性:中》


 目標は――。


「安定性《高》」


「おう!」


 バルガがニヤリと笑う。


「そのために一つ試してぇことがある」


「何を?」


「ステータスだ」


「……ステータス?」


 バルガが俺を見る。


「昨日から冒険者どもが騒いでるアレだ」


「NPCにもアップデートの影響が分かるのか?」


「何を言ってるかよく分からんが、冒険者が自分の能力を細かく確認できるようになったって話なら聞いてるぞ」


 なるほど。


 NPCにはNPCなりの認識があるらしい。


「それで俺の何を見るんだ?」


「技量」


「41」


「高ぇのか?」


「知らん」


「知らんのか!」


「比較対象がないんだよ」


 まだ実装されたばかりだ。


 同じLv9の剣士がどれくらいなのかも分からない。


「説明には武器操作や生産作業に影響するって書いてある」


「そこだ」


 バルガが槌を一本取り出した。


「今までお前の槌打ちは、妙に安定してると思ってた」


「剣道で身体の使い方には慣れてるからな」


「それだけじゃねぇかもしれん」


 バルガは金床を叩く。


 カンッ。


「お前自身の腕と、その《技量》ってやつが両方効いてる可能性がある」


「なるほど」


 リアル技能。


 ゲーム内技能。


 基礎ステータス。


 三つが重なっている?


「検証するか」


「おう!」


「私も?」


 ミナが自分を指差す。


「当然だ!」


「やっぱり!」


◇◇◇


 今日は配信日ではない。


 正式配信者になったとはいえ、何でも配信するつもりはない。


 だから工房には俺、ミナ、バルガ。


 そして――。


「なぜいる?」


「暇だった」


 カイル。


「元Sランク冒険者って暇なのか?」


「引退すると意外とな」


「そういうものなのか……」


 カイルの腰には《東方刀・月白》。


 魔力経路を研究するなら、彼がいるのはありがたい。


「まず前回と同条件でやる」


 俺は記録用紙を広げた。


 高密度鉄。


 黒鉄。


 蒼鉄。


 銀星砂。


 配合比率は変更しない。


 加熱条件も同じ。


 ミナの魔力量も前回成功時に合わせる。


「変えるのは?」


「槌打ち」


 俺は答えた。


「打つ場所と間隔を、もっと正確に揃える」


 技量41。


 それが鍛冶へどう影響するのか。


「始めるぞ!」


 バルガが炉へ素材を入れた。


◇◇◇


 ゴウッ――!


 炎が金属を包む。


「ジョウゴ!」


「ああ!」


 赤熱した素材が金床へ。


 槌を握る。


《槌打ちLv.1》


 呼吸。


 足。


 腰。


 肩。


 肘。


 手首。


 力を順番に伝える。


 カァン!


 一打。


「ミナ!」


「はい!」


 すっ――。


 魔力が流れる。


 カァン!


 また魔力。


 柄側になる位置から、切っ先側へ。


 カァン!


 同じ間隔。


 同じ角度。


 同じ場所。


 完全に同じなんて無理だ。


 人間が動かしている。


 僅かな誤差は必ず出る。


 だが――。


《技量補正》


「ん?」


 一瞬だけ視界に表示が出た。


「ジョウゴ?」


「続けて!」


 カァン!


 槌が落ちる。


 不思議だ。


 俺の身体をシステムが勝手に動かしているわけではない。


 なのに。


「……狙いやすい」


 金属のどこを叩きたいのか。


 どの角度で槌を入れたいのか。


 俺自身の操作を、AWO側が正確に拾ってくれている。


「これが技量か」


 俺が上手くなるわけじゃない。


 俺の動きを――。


 ゲーム世界へ正確に伝えてくれる。


 カァン!


 青白い光が伸びる。


「いいぞ!」


 バルガが叫ぶ。


「魔力経路が前より真っ直ぐだ!」


「ミナ!」


「まだいける!」


 カァン!


 魔力。


 カァン!


 魔力。


 そして――。


 キィィン――。


「止めろ!」


 バルガの声。


 槌を止める。


 試験片の内部には、一本の青白い線。


「前より綺麗……」


 ミナが覗き込む。


 カイルも《月白》と見比べる。


「まだ月白ほどではない」


「やっぱり?」


「だが」


 カイルが目を細めた。


「方向は合っている」


「よし」


 あとは冷却。


 ここで失敗すれば意味がない。


 慎重に処理する。


 待つ。


 そして――。


「鑑定」


 表示が開いた。


《名称:星蒼複合鋼・試験材》


《硬度:高》


《粘性:中》


《重量:軽》


《魔力伝導:高》


《安定性:中》


「……変わってない」


 ミナが肩を落とした。


「いや」


 俺は詳細を見る。


「待って」


《安定度:78%》


「百分率が追加されてる?」


 大型アップデートの詳細表示だ。


 前回まで《中》としか分からなかった項目。


 今は内部値まで確認できる。


「78%……」


 バルガが腕を組む。


「《高》まであとどれくらいだ?」


「分からない」


「使えねぇな!」


「アップデートしたばっかりなんだから仕方ないだろ」


 でも。


 これで比較できる。


「次を作ろう」


「おう!」


◇◇◇


 二回目。


 同じ条件。


 ただし魔力を流すタイミングを、槌の直後から――。


「槌が金属へ触れる瞬間」


 へ変更。


「難しくない?」


 ミナが聞く。


「だから練習する」


 俺が槌をゆっくり動かす。


「このタイミング」


「ここ?」


「もう少し早い」


「こう?」


「それ」


 三回。


 五回。


 十回。


 何も叩かず、タイミングだけ合わせる。


「地味だな」


 カイル。


「研究なんてそんなもんだろ」


「そうか」


「たぶん」


 俺も研究者じゃないから知らないけど。


「いくぞ」


「うん!」


 赤熱した素材。


 槌を振る。


 カァン!


 同時。


 青白い光。


「今の!」


「合った!」


 カァン!


 光。


 カァン!


 光。


 金属を叩く衝撃と、魔力が流れ込む瞬間が重なる。


 すると――。


「おい」


 バルガの声が低くなる。


「何だ?」


「光が散ってねぇ」


 見る。


 確かに。


 今までは槌を打つたび、僅かに青い光が横へ逃げていた。


 今回は――。


「全部、前に流れてる」


 カァン!


 カァン!


 カァン!


「ミナ!」


「大丈夫!」


 最後。


 俺は大きく息を吸う。


 力任せにしない。


 必要な力だけ。


 必要な場所へ。


 カァァン――!


 澄んだ音が工房へ響いた。


 青白い光が――。


 試験片の端から端まで走る。


「……これは」


 カイルが立ち上がった。


「月白と同じ?」


「いや」


 カイルは首を振る。


「違う」


「違うのか……」


「落ち込むな」


 カイルが試験片を見る。


「月白とは違う方法で、似た結果を作り始めている」


「……!」


 東方の技術を再現しているわけじゃない。


 俺たちは製法を知らない。


 高密度鉄。


 黒鉄。


 蒼鉄。


 銀星砂。


 バルガの知識。


 ミナの魔力。


 俺の槌。


 そこから作った――。


「俺たちの方法か」


「ああ」


◇◇◇


 冷却。


 処理。


 そして鑑定。


《名称:星蒼複合鋼・試験材》


《硬度:高》


《粘性:高》


「上がった!」


 ミナが声を上げる。


《重量:軽》


《魔力伝導:高》


《安定性:高》


「……来た」


 俺は思わず呟いた。


《安定度:86%》


「八十六!」


「やったぁ!」


「よっしゃあああああ!」


 バルガの雄叫び。


 工房が震えた。


「うるさい!」


 外から誰かの怒鳴り声。


「知るかぁ!」


「知れよ」


 そして――。


 ポーン。


 システム音。


《特殊素材の安定化条件を確認しました》


《共同鍛造による製法データを更新》


《特殊素材》


《星蒼複合鋼》


《正式製造条件の一部を確立しました》


「正式……」


 さらに。


《特殊鍛造工程》


《魔力同調鍛造》


《研究段階が進行しました》


《関連技能熟練度が上昇します》


《槌打ちLv.1の熟練度が上昇しました》


 俺は小さく拳を握った。


「できたな」


「ああ!」


 バルガが完成した試験材を持ち上げる。


「これなら次へ行ける!」


 次。


 それは――。


「《鉄刀・試作四号》」


「おう!」


 ただし。


「今日は作らないぞ」


「はぁ!?」


 バルガが振り返る。


「なんでだ!」


「安定した製法が一回成功しただけだろ」


「成功したじゃねぇか!」


「再現できるか確認する」


「…………」


 バルガが止まった。


「同じ条件でもう二回。最低でも連続して成功させる」


「……お前」


「何?」


「本当に細けぇな!」


「失敗して刀が折れるよりいい」


「それはそうだ!」


 納得は早い。


 俺は記録用紙へ今回の条件を書き込む。


 素材比率。


 加熱。


 槌打ち位置。


 間隔。


 魔力量。


 投入方向。


 そして――。


 槌が金属へ接触する瞬間に魔力を同期させる。


「これが俺たちの《魔力同調鍛造》か」


 ミナが嬉しそうに試験材を見る。


「私も鍛冶師になった気分」


「いや、回復役は続けてくれ」


「もちろん!」


 カイルは《月白》へ視線を落とした。


「面白いな」


「何が?」


「東方の刀を見て始まった研究が、東方とは違う技術になり始めた」


「……確かに」


 真似から始まった。


 でも、そのままコピーすることはできない。


 なら。


 この世界の素材で。


 この世界の魔力で。


 俺たちなりの刀を作ればいい。


 そして三日後には、鍛冶師ギルドが《星蒼複合鋼》を確認しに来る。


 その前に――。


「再現性を確立するぞ」


「おう!」


「私も頑張る!」


 目標だった安定性《高》。


 ついに到達した。


 《鉄刀・試作三号》の次。


 新素材《星蒼複合鋼》を使った――。


 《鉄刀・試作四号》


 その鍛造開始が、いよいよ目前まで迫っていた。

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