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Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第二章 CROSS社契約編

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第8話 大型アップデートとステータス

 北西森林で見つけた、巨大な爪痕。


 そしてフォレストウルフとは明らかに違う、大型魔物の足跡。


 俺たちはそれ以上の追跡を行わず、《シズナ》へ引き返した。


 目的は討伐ではなく調査。


 相手の正体もレベルも分からない状態で森の奥へ突っ込むのは、勇敢ではなく無謀だ。


 冒険者ギルドへ戻った俺たちは、薬草と調査記録を提出。


 足跡を記録した簡易地図も渡しておいた。


「この大きさですか?」


「はい」


 受付の職員が表情を険しくする。


「フォレストウルフとは明らかに違いました。爪痕も俺の頭より高い位置にありました」


「分かりました。こちらで調査隊を編成します」


「お願いします」


 これで俺たちの仕事は終わり。


 何でも自分たちだけで解決する必要はない。


 その日の配信もギルドを出たところで終了した。


◇◇◇


 そして翌日。


 現実世界。


「……メンテナンス?」


 仕事を終えて帰宅した俺――上塚賢吾は、夕食後にAWOの公式アプリを確認していた。


 そこに表示されていたのは、大きなお知らせ。


《Another World Online》


《大型システムアップデート実施のお知らせ》


「大型?」


 AWOが正式サービスを開始してから、細かな修正やメンテナンスは何度か行われている。


 しかし、今回は規模が違うらしい。


 更新内容を開く。


《キャラクターステータス詳細表示機能》


《職業別能力成長表示》


《装備要求能力表示》


《能力上昇・低下状態の詳細表示》


《その他、一部UIの改善》


「ステータス……?」


 さらに読む。


《これまで内部処理されていた基礎能力値を、プレイヤーが確認できるようになります》


「なるほど」


 能力そのものが新しく追加されるわけではない。


 今までAWO内部で計算されていた数値が、俺たちにも見えるようになるらしい。


《キャラクターレベル上限:Lv.99》


《今後の大型アップデートにより上限解放を予定しています》


「まだLv9なんだけどな……」


 99なんて遠すぎる。


 さらに詳細を見る。


 HP。


 MP。


 力。


 すばやさ。


 防御力。


 技量。


 運の良さ。


 七種類。


「ゲームらしくなったな」


 これまでレベルや技能は表示されていたが、こうして細かな能力値まで並ぶと、急にRPGらしさが増した気がする。


 アップデート終了予定時刻を見る。


「今日は無理か」


 遅い時間になる。


 ならログインは明日。


 俺はスマートフォンを置いた。


 ゲームのアップデートのために睡眠時間を削るつもりはない。


 明日も仕事だ。


◇◇◇


 翌日。


 仕事。


 帰宅。


 夕食。


 風呂。


 家事。


 明日の準備。


「よし」


 全部終了。


 AWOのメンテナンスも終わっている。


 VR機器を装着する。


「ログイン」


◇◇◇


 光が晴れる。


 始まりの街《シズナ》。


 いつもの《銀麦亭》の部屋。


「変わって……ないな」


 当たり前か。


 大型アップデートだからといって、宿屋が突然豪華になるわけではない。


 だが。


 視界の端に見慣れないアイコンが追加されていた。


《STATUS》


「これか」


 選択。


 目の前へ半透明のウィンドウが開く。


---


《ジョウゴ》


種族:人間


職業:剣士


Lv.9


HP:286


MP:74


力:31


すばやさ:36


防御力:27


技量:41


運の良さ:18


---


「……技量が一番高いのか」


 詳細を開く。


《技量》


《武器操作、攻撃精度、システムアシスト、生産作業などに影響します》


「生産にも?」


 それなら鍛冶にも関係する。


 俺が《槌打ち》を使っている時にも、内部では技量が影響していた可能性があるわけか。


 次に《すばやさ》。


《移動速度・身体反応・連続動作などへ影響》


「なるほど」


 剣士らしく、こちらも比較的高い。


 力は31。


 防御力27。


 MPは低め。


 俺は魔法職ではないから当然だろう。


「運の良さ18……」


 これが高いのか低いのか分からない。


 説明を見る。


《レアドロップ、宝箱、採集時における希少素材発見などへ僅かに影響》


「僅かに、か」


 運だけで何でも手に入るわけではないらしい。


 それくらいでいい。


 そしてHP。


《HPが0になった場合、死亡状態となります》


《復活後、約1時間の能力低下状態が付与されます》


「ここは今まで通りだな」


 新システムではない。


 今まで曖昧に見えていたものが、具体的に確認できるようになったということだ。


 さらにレベルアップについて。


《レベルアップ時、職業およびキャラクター成長傾向に応じて基礎能力値が自動上昇します》


《任意ステータスポイントの割り振りはありません》


「自動成長か」


 剣士なら剣士らしく。


 魔法使いなら魔法使いらしく。


 ただし全員が完全に同じ伸び方というわけでもないらしい。


「俺の場合は技量寄りなのかな」


 剣を扱う時も、力任せには振らない。


 見切る。


 受け流す。


 崩す。


 必要なところへ必要な力を使う。


 そういうプレイ傾向も多少反映されているのかもしれない。


 だが――。


「数値が見えるようになっても、やることは同じだな」


 俺は腰の《鉄刀・試作三号》を抜く。


 軽く構える。


 ステータスの《すばやさ》が36だからといって、勝手に敵の攻撃を避けてくれるわけではない。


 《技量》41だからといって、自動的に剣道の技が使えるわけでもない。


 身体を動かすのは俺だ。


 相手を見るのも俺。


 判断するのも俺。


 数値は身体能力を支えてくれる。


 だが――。


 どう使うかはプレイヤー次第。


 それがAWOなのだろう。


◇◇◇


「ジョウゴー!」


「うわっ」


 部屋の外から声。


 この声は。


「ミナ?」


「ステータス見た!?」


 扉を開ける。


 ミナがいた。


 その後ろにはカイトとレント。


「お前ら、早いな」


「大型アップデートだぞ!」


 カイトが興奮している。


「見ないわけないだろ!」


「俺は昨日普通に寝たけど」


「なんで!?」


「仕事があるから」


「ジョウゴらしいね」


 ミナが笑う。


「それより!」


 カイトが自分のステータス画面を見せようとする。


「俺、防御力高かった!」


「盾役なんだから当然だろ」


「もっと驚け!」


「おお、すごいすごい」


「雑!」


 レントが小さく笑っている。


「ミナは?」


「私はMPが一番高いよ!」


「魔法・回復担当だからな」


「ジョウゴは?」


「技量」


 三人が止まった。


「……やっぱり」


 レントが言った。


「何がやっぱり?」


「お前は力よりそっちだと思っていた」


「俺も!」


 カイトが頷く。


「なんというか、こう……敵の力を使うだろ?」


「合気道とか身体操作の影響だな」


「ステータスに合気道はないぞ」


「だから数値とは別だ」


 俺はステータス画面を閉じる。


「これ、勘違いしないほうがいいと思う」


「何を?」


「ステータスが高ければ何でもできるわけじゃない」


 例えば力が高い。


 それは物理攻撃には有利だろう。


 重い武器も扱いやすい。


 でも、剣の間合いを知らなければ?


 攻撃の軌道が読めなければ?


 足運びが滅茶苦茶なら?


「数字は大事。でも数字だけじゃない」


「ジョウゴが言うと説得力あるな」


 レントが頷いた。


 俺はLv9。


 アルトはLv24。


 以前の模擬戦では負けた。


 レベル差は確かに大きい。


 だが、何もできなかったわけでもない。


 現実で身につけた技術は、ステータス画面には表示されない。


 それも俺の強さの一部だ。


◇◇◇


「そういえば」


 ミナが何かを思い出した。


「北西森林の件!」


「ああ」


「ギルドから連絡来てるよ」


「もう?」


 四人で一階へ降りる。


 マリアさんに挨拶してから冒険者ギルドへ。


 掲示板の前には何人かの冒険者が集まっていた。


「これか」


 新しい依頼書。


《北西森林・追加調査依頼》


《先行調査報告に基づき、危険区域を拡大指定》


《大型魔物の存在可能性あり》


《推奨Lv:12以上》


「推奨レベルが上がったな」


 俺たちが受けた依頼はLv7~12。


 今度はLv12以上。


 現在の俺はLv9。


「どうする?」


 カイトが聞く。


「行かない」


 即答。


「早っ!」


「推奨Lv未満だぞ」


「でも俺たちなら――」


「そういう考え方が一番危ない」


「うっ」


 現実技能が使える。


 連携もできる。


 だからといって、わざわざ危険区域へ入る理由にはならない。


「調査結果を提出するところまでが俺たちの依頼だ。続きは適正レベルの冒険者に任せればいい」


「賛成」


 レント。


「私も」


 ミナ。


「……分かったよ」


 カイトも納得する。


 その時。


「ジョウゴ」


 ギルド職員から声をかけられた。


「はい?」


「ちょうどよかったです」


 職員が一枚の書類を持ってくる。


「先日の調査依頼について、追加報酬が決定しました」


「追加?」


「大型魔物の痕跡を発見し、無理に追跡せず正確な位置情報を持ち帰ったことが評価されました」


《北西森林調査依頼》


《追加評価:A》


《追加報酬が支給されます》


「A?」


「おお!」


 カイトが喜ぶ。


「戦わずにA評価!」


「調査依頼だからな」


 倒すことだけが冒険者の仕事ではない。


 見つけて。


 判断して。


 持ち帰る。


 それも立派な成果ということだろう。


◇◇◇


 ギルドを出る。


「さて」


 俺は考える。


 北西森林の件は、いったん俺たちの手を離れた。


 となれば――。


「バルガのところ?」


 ミナが聞く。


「そのつもり」


「やっぱり」


 昨日は鍛冶師ギルドから《星蒼複合鋼》について調査通知が届いていた。


 しかも三日後。


「その前に安定性《高》まで持っていきたい」


「やる気だね」


「刀に使いたいからな」


 俺たちはバルガの工房へ向かう。


 途中。


 新しいステータス画面をもう一度開いた。


《ジョウゴ》


《剣士 Lv.9》


《HP:286》


《MP:74》


《力:31》


《すばやさ:36》


《防御力:27》


《技量:41》


《運の良さ:18》


 数字が見えるようになった。


 これからレベルが上がれば、この数字も増えていく。


 Lv10。


 Lv20。


 いつかはLv99。


 その先も、大型アップデートで解放されるという。


 でも――。


「焦る必要はないか」


「何が?」


「レベル」


 ミナが首を傾げる。


「上げたくないの?」


「上がるなら嬉しい。でもレベルを上げるためだけに遊ぶ気はないかな」


 冒険する。


 仲間と旅をする。


 NPCと話す。


 料理を食べる。


 鍛冶をする。


 刀を作る。


 時には配信する。


 そうしているうちに強くなればいい。


「だってAWOって」


 俺はシズナの街並みを見る。


 鍛冶屋から響く槌の音。


 露店から漂う料理の香り。


 行き交う冒険者と住人たち。


「レベルを上げるだけのゲームじゃないだろ?」


「うん!」


 ミナが笑う。


「私もそう思う!」


「俺はレベル上げも好きだけどな!」


 カイト。


「お前は分かりやすいな」


「悪いか!」


「悪くない」


 レントが静かに笑う。


 大型アップデートによって、俺たちの強さは数字として見えるようになった。


 だけど――。


 数字には表示されないものもある。


 剣道。


 身体操作。


 仲間との連携。


 経験。


 判断。


 そして、この世界で積み重ねてきた人との縁。


 それらも全部含めて――。


 俺は《ジョウゴ》なのだ。


 そして次に向かうのは、バルガの工房。


 目標は一つ。


 《星蒼複合鋼》の安定性を《中》から《高》へ。


 その先に待つ――。


 《鉄刀・試作四号》の鍛造へ向けて。

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