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Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第二章 CROSS社契約編

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第5話 鍛冶師たちがやってきた

《名称:不安定な星蒼複合鋼》


《内部に未完成の魔力経路を形成》


《硬度:高》


《粘性:中》


《重量:軽》


《魔力伝導:高》


《安定性:低》


《品質:良》


 作業台の上に置かれた小さな金属片。


 俺――ジョウゴは、それを眺めながら腕を組んでいた。


「……できたんだよな?」


「ああ」


 バルガが満面の笑みで答える。


「不安定だがな!」


「そこが問題なんだけど」


「最初から完成品ができると思うな!」


「それはそうだけどさ」


 方向性そのものは間違っていない。


 高密度鉄。


 黒鉄。


 蒼鉄。


 銀星砂。


 そして、ミナによる魔力操作。


 俺の槌打ちとタイミングを合わせることで、素材内部へ魔力の通り道らしきものを形成できた。


 さらにシステムから――。


《特殊鍛造工程:魔力同調鍛造》


 という聞いたこともない技術まで試験登録された。


「で」


 俺は椅子に座っているミナを見る。


「大丈夫?」


「うん」


 ミナはコップを両手で持ちながら頷いた。


「ちょっと疲れたくらい」


「なら休憩継続」


「賛成」


「もう一回いけるだろ!」


 バルガ。


「却下」


「なんでだ!」


「人の魔力を何だと思ってるんだ」


「素材を鍛えるための――」


「バルガさん?」


 ミナが笑顔になった。


「…………大切な力です」


「よろしい」


『圧』


『マリアさんとは別方向の圧力』


『バルガ完全敗北』


『ジョウゴ止めなかったらこの職人ずっと鍛冶してそう』


 現在も《CROSS LIVE》は配信中。


 正式配信初日なのだが――。


《現在視聴者数:96,841》


「…………」


 九万六千?


 さっき八万人くらいだったよな?


《コメント要約》


《星蒼複合鋼への関心急増》


《魔力同調鍛造についての質問多数》


《鍛冶職プレイヤーからの質問急増》


《シズナ鍛冶師関連コメント増加中》


「最後のは何だ?」


『あ』


『ジョウゴ後ろ』


『外』


『なんか来てるぞ』


「ん?」


 工房の外が騒がしい。


 ガヤガヤ。


 ガヤガヤガヤ。


「バルガー!」


「おいバルガ!」


「新しい鋼を作ったって本当か!」


「魔力を鍛冶に使ったって聞いたぞ!」


「見せろ!」


「説明しろ!」


「…………」


 俺。


 ミナ。


 カイル。


 三人揃ってバルガを見る。


「バルガ」


「なんだ?」


「知り合い?」


「……たぶん」


「たぶん?」


 バルガが工房の扉を開ける。


 そこには――。


「うわ」


 いた。


 鍛冶師。


 鍛冶師。


 鍛冶師。


 髭。


 筋肉。


 革エプロン。


 槌。


 そして鍛冶師。


「何人いるんだよ……」


「十二……いや、後ろにもいる」


 カイルが冷静に数えている。


「十七人だな」


「増えてる!」


『鍛冶師軍団www』


『怖い怖い』


『完全に職人集会』


『新素材の匂いを嗅ぎつけたwww』


「バルガ!」


 先頭にいた白髭の鍛冶師が叫んだ。


「聞いたぞ!」


「何をだ?」


「とぼけるな!」


 白髭の鍛冶師が指を突きつける。


「青白く光る新しい鋼を作ったそうじゃないか!」


「…………」


 バルガが俺を見る。


「俺じゃないぞ」


「まだ何も言ってない」


「配信だろ」


「あ」


 そうだった。


 今、九万人以上が見ている。


 当然、その中にはシズナにいるプレイヤーもいる。


 さらに鍛冶関係者と交流のある者もいるだろう。


「情報が広がるの早すぎないか?」


『ライブ配信ですから』


『リアルタイムだからな』


『ごもっとも』


「便利だけど怖いな、配信」


◇◇◇


 結局。


 工房へ全員入れるわけにもいかないため、代表者三人だけが入ることになった。


 白髭の鍛冶師。


 片目に傷のある大柄な鍛冶師。


 そしてドワーフらしき小柄な鍛冶師。


「これか」


 白髭の鍛冶師が《不安定な星蒼複合鋼》を見る。


 触らない。


 まず目で観察する。


「……青い」


「蒼鉄が入ってるからな」


 バルガが答える。


「黒鉄もか?」


「ああ」


「こっちの銀色の粒は?」


「銀星砂だ」


「銀星砂!?」


 三人の表情が変わった。


「そんな扱いにくい物を混ぜたのか!?」


「だから面白いんだろ!」


「馬鹿か!」


「職人だ!」


「同じ意味だ!」


『名言きた』


『馬鹿=職人らしい』


『本人たちが言うと説得力ある』


 俺は黙っておこう。


「それで」


 片目の鍛冶師が俺を見る。


「お前が槌を?」


「はい」


「バルガじゃなく?」


「工程管理はバルガです。俺は打ち手ですね」


「ふむ」


 今度はミナを見る。


「娘さんは?」


「魔力を流しました」


「…………魔力を?」


「はい」


 三人が一斉に試験片を見る。


 やはり鍛冶師にとって、そこが一番異質らしい。


「魔力を素材に付与したのか?」


「違う」


 カイルが口を挟んだ。


「内部へ流した」


「内部?」


 カイルが《月白》を抜く。


 そして僅かに魔力を通す。


 すぅ――。


 白銀の刀身内部を淡い光が走った。


「なっ!?」


「なんだこれは!」


「刀身の中を魔力が……!」


 鍛冶師三人が一斉に身を乗り出す。


 カイルが若干引いた。


「近い」


「見せろ!」


「触るな」


「少しくらい!」


「駄目だ」


 さすが元Sランク冒険者。


 鍛冶師三人に囲まれても動じない。


「東方の刀だ」


 カイルが説明する。


「《月白》には、内部へ魔力を通すための経路が作られている」


「どうやって!?」


「知らん」


「なぜだ!」


「俺は鍛冶師じゃない」


「役に立たん!」


「斬るぞ」


「すまん」


『カイルさんwww』


『元Sランクに喧嘩売る鍛冶師』


『職人強い』


 話を戻そう。


「俺たちは《月白》と同じ物を作ろうとしてるわけじゃないです」


 俺が説明する。


「ん?」


「東方の技術をそのまま再現できるわけじゃない。そもそも製法を知らないですから」


「なら何を?」


「俺たちなりの方法で、魔力が流れる刀を作ります」


 作業台の上。


 小さな星蒼複合鋼を見る。


「そのための素材研究です」


 白髭の鍛冶師が顎を撫でる。


「……なるほど」


「最終的には《鉄刀・試作四号》に使う予定です」


「試作四号……」


「ただし」


 俺は試験片を指差す。


「今のままじゃ使えません」


 安定性――低。


 粘性――中。


 魔力伝導は高い。


 硬度も高い。


 軽い。


 性能だけを見れば魅力的だ。


 しかし刀は振る。


 斬る。


 受け流す。


 時には強い衝撃も受ける。


 内部構造が不安定では話にならない。


「俺なら刀にはしない」


 俺が言うと、バルガも頷いた。


「ああ」


 意外だった。


「バルガならすぐ作りたがると思った」


「俺を何だと思ってやがる」


「鍛冶馬鹿」


「否定できねぇ!」


 できないのか。


「だがな」


 バルガの表情が職人のものになる。


「使い手が命を預ける武器だ」


 試験片を指で示す。


「面白そうだからって、不安定な素材で刀を作って渡せるか」


「……そうだな」


 そこは俺も同じだ。


 試作品でも武器は武器。


 折れれば死ぬ。


 ここはゲーム世界。


 プレイヤーなら復活できる。


 だがNPCは?


 少なくとも俺は、


「ゲームだから壊れてもいい」


 とは考えたくなかった。


◇◇◇


「それなら安定させればいい」


 白髭の鍛冶師が言った。


「簡単に言うな」


「簡単とは言っておらん」


 ニヤリ。


「だから面白いんだろ?」


 バルガの口元も上がる。


「……言うじゃねぇか」


「お前だけに研究させると思うな」


「は?」


「俺たちも混ぜろ」


「断る!」


「なぜだ!」


「これは俺とジョウゴの刀研究だ!」


「独占するな!」


「うるせぇ!」


「工房の外でやってくれない?」


 ミナが呆れている。


『始まったwww』


『職人戦争』


『新素材争奪戦』


『鍛冶師クラン結成しそう』


 だが――。


 俺は少し考えた。


「バルガ」


「あ?」


「全部を公開する必要はないと思う」


「……何?」


「でも意見を聞くくらいならいいんじゃないか?」


 バルガが黙る。


「俺たちだけじゃ気づかないこともある」


 例えば。


 熱処理。


 素材比率。


 鍛接方法。


 冷却。


 魔力を入れるタイミング。


 試せる条件はいくらでもある。


「もちろん《鉄刀・試作四号》そのものは俺たちで作る」


「…………」


「でも素材研究なら、知恵を借りてもいいんじゃないか?」


 バルガは腕を組んだ。


 しばらく考える。


「……条件がある」


「何だ」


「俺が仕切る!」


「そこかよ!」


『www』


『結局それ』


『バルガ研究所爆誕』


 白髭の鍛冶師も笑った。


「構わん!」


「よし!」


 なんだか大事になってきたな。


 その時だった。


 ポーン。


「ん?」


 視界へ通知。


《地域技術情報が更新されました》


「地域技術?」


 以前、《複合鍛造刀》が登録された時にも見た表示だ。


《シズナ地域において、新規鍛造研究活動を確認》


《複数の鍛冶職人による技術交流が発生》


《特殊素材研究》


《星蒼複合鋼》


《地域研究対象として仮登録されました》


「…………」


 静寂。


「仮登録?」


 バルガが呟く。


 白髭の鍛冶師が笑う。


「面白くなってきたな!」


 外からも声が聞こえる。


「俺にも見せろ!」


「次は俺だ!」


「蒼鉄なら持ってるぞ!」


「銀星砂は!?」


「少しならある!」


 俺は頭を抱えた。


「……これ、収拾つくのか?」


 カイルが肩を叩いてくる。


「諦めろ」


「他人事だな?」


「ああ」


「即答するなよ」


 視界端。


《現在視聴者数:112,306》


『十万人突破!』


『鍛冶配信で十万人www』


『ジョウゴ公式初回からやらかしてる』


『普段通りのAWO生活とは?』


「俺が聞きたいよ」


 ただ。


 工房の中に並ぶ素材。


 集まった鍛冶師たち。


 楽しそうなバルガ。


 魔力回復用の飲み物を飲むミナ。


 壁際で《月白》を手入れするカイル。


 それを十万人以上が見ている。


 ボス討伐じゃない。


 ダンジョン攻略でもない。


 誰かと競争しているわけでもない。


 ただ新しいものを作ろうとしているだけ。


「……まあ」


 俺は小さく笑った。


「こういうのもAWOか」


 ――もう一つの世界で、もう一人のあなたとして生きよう。


 冒険だけが、この世界の楽しみじゃない。


 こうして。


 たった一つの小さな金属片から――。


 シズナの鍛冶師たちを巻き込んだ、


 《星蒼複合鋼》安定化研究が始まることになった。

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