第37話 エルナ村への帰還
《Welcome Back》
《Another World Online》
視界を包んでいた淡い光が消える。
次に見えたのは。
双子岩のそばに張られた簡易テントの天井だった。
「……朝か」
俺――ジョウゴは身体を起こし、そのままメニューを開く。
《長期クエスト:ルクの帰郷》
《現在地:双子岩野営地点》
《目的地:エルナ村》
《推定残り距離:徒歩一日以内》
とうとう。
ここまで来た。
「今日着けるな」
ただし。
状況は以前より悪い。
昨日。
俺たちは旧街道上で《人攫い》の一団と遭遇。
捕まっていたエルフ二人――リーファとケイルを救出した。
そして分かったこと。
《人攫い集団がエルナ村周辺を探索している可能性があります》
ルクの帰郷。
それだけだった旅に。
新しい危険が加わった。
「まず村へ知らせる」
それが最優先だ。
◇◇◇
外へ出る。
「おはようございます」
「おはよう」
ミナ。
カイト。
レント。
すでに起きている。
リーファとケイルも焚き火のそば。
「ルクは?」
俺が聞くと。
「まだ寝てます」
ミナが小さく笑った。
「昨日かなり疲れてましたから」
「そりゃそうだよな」
長距離移動。
人攫い。
救出。
さらに。
故郷がすぐそこまで近づいている。
身体だけじゃなく。
気持ちも疲れるはずだ。
「起こさない方がいい?」
カイト。
「あと少し寝かせよう」
今日は。
急がない。
◇◇◇
十分ほどして。
テント。
もぞ。
「……ジョウゴ」
「おはよう」
ルク。
顔。
眠そう。
「もう行く?」
「朝飯食ってから」
「すぐ食べる」
「急ぐな」
「だって」
ルク。
森の向こうを見る。
「今日」
「うん」
「帰れる」
「ああ」
短い。
その言葉だけで。
十分だった。
◇◇◇
朝食。
旅パン。
乾燥果実。
温かいスープ。
「ルク」
「何?」
「ちゃんと噛め」
「噛んでる」
「早い」
「今日は仕方ない」
「仕方なくない」
リーファが笑った。
「昔からそうだったわよ」
「え?」
「楽しみなことがあると」
「ご飯を急いで食べるの」
ルク。
「リーファ姉ちゃん!」
「本当?」
俺。
「本当」
「……」
ルク。
顔。
赤い。
「覚えてるんだ」
その言葉。
少し。
嬉しそう。
◇◇◇
食後。
テント撤収。
荷物確認。
「人攫い」
俺。
全員を見る。
「また遭遇する可能性ある」
リーファ。
頷く。
「奴らが村の場所を探しているのは確実です」
「だったら」
レント。
「最短でエディルさんの小屋」
「そこから村」
「そうする」
「ルク」
「うん」
「今日は絶対に俺たちから離れない」
「分かってる」
「戦闘になったら?」
「ミナのそば」
「弓は?」
「ジョウゴが言うまで撃たない」
「よし」
「もう覚えた」
「大事だから何回でも言う」
「心配しすぎ」
「護衛だから」
「保護者だから」
カイト。
「違う」
即答。
◇◇◇
《双子岩西方》
七人。
移動。
前回は俺たち四人。
今は。
俺。
ミナ。
カイト。
レント。
ルク。
リーファ。
ケイル。
「エディルさんの小屋」
俺。
「ここから?」
リーファ。
「三時間ほどです」
「道は?」
「私が分かります」
助かる。
前回。
森精霊。
そして。
足跡。
頼り。
でも今日は。
エルナ村の住民が二人いる。
「これなら迷わないな」
レント。
「ただ」
リーファ。
「気をつけて」
「何に?」
「村の周辺には」
「狩人の罠があります」
「罠?」
カイト。
足。
止まる。
「熊用?」
「獣用です」
「人間にも効く?」
「踏めば」
「……」
「カイト」
「何?」
「足元」
「分かってる!」
◇◇◇
森。
進む。
リーファ。
前。
時々。
木。
触る。
枝。
見る。
「印?」
俺。
「ええ」
樹皮。
小さな。
三本線。
「エルナ村の狩人だけが使う道標です」
「前回気づかなかった」
「外の人には分からないようにしてます」
「なるほど」
村。
隠す。
必要。
あった。
「昔から?」
「昔は」
リーファ。
少し。
言いにくそう。
「人間の商人とも交易していました」
「でも」
「今は?」
「襲撃の後から」
「ほとんど閉じています」
理由。
ゴブリンだけでは。
なさそう。
◇◇◇
一時間。
何事もない。
二時間。
「止まって」
俺。
声。
全員。
静止。
「何?」
ミナ。
「臭い」
「臭い?」
カイト。
鼻。
動かす。
「煙?」
いや。
違う。
「鉄?」
血。
古い。
金属。
そして。
「リーファさん」
「私も感じます」
弓。
構える。
「前に誰かいる」
レント。
木。
陰。
見る。
「二人」
距離。
かなり。
ある。
《???》
「人攫い?」
カイト。
「まだ分からない」
俺。
しゃがむ。
足跡。
《人型種》
《経過時間:一時間以内》
「新しい」
そして。
木。
黒布。
小さな。
切れ端。
「昨日の」
人攫い。
腕。
巻いていた。
黒い布。
「同じ」
ミナ。
「村方向」
「ああ」
最悪。
俺たちより。
先。
◇◇◇
「走る?」
ルク。
「駄目」
「でも!」
「リーファさん」
「近道ある?」
「あります」
「ただし」
「街道より険しい」
「時間は?」
「三十分は短縮できます」
「ルク」
「歩ける?」
「歩く!」
「無理なら言え」
「分かった!」
「じゃあ」
「近道」
◇◇◇
森。
斜面。
急。
「ルク」
俺。
前。
「手」
「いらない」
足。
滑る。
「うわっ」
俺。
手。
掴む。
「……」
「いるだろ」
「少しだけ」
引く。
登る。
カイト。
後ろ。
「ジョウゴ」
「何?」
「完全に保護者」
「今は黙って登れ」
◇◇◇
近道。
険しい。
でも。
速い。
「リーファさん」
「はい」
「人攫いがこの道知ってる可能性?」
「低いです」
「なら」
「先回りできる」
目標。
エディルの小屋。
そこまで。
あと。
三十分。
◇◇◇
そして。
「止まって!」
今度。
リーファ。
声。
前。
「罠」
地面。
葉。
隠れている。
《獣用足止め罠》
「危な」
カイト。
足。
あと。
一歩。
「踏むところだった!」
「リーファさんいなかったら?」
「俺たち前回ここ通ってない?」
「少しルート違う」
「よかった」
罠。
避ける。
でも。
「これ」
リーファ。
表情。
変わる。
「切られてる」
「何が?」
「警告糸」
細い。
糸。
「誰か」
「罠を見つけて」
「解除した?」
「違います」
「強引に切った」
「人攫い?」
「多分」
先。
いる。
◇◇◇
「エディルさんの小屋!」
ルク。
木々。
向こう。
煙。
でも。
「待て」
俺。
走ろうとする。
ルク。
肩。
止める。
「何?」
「静かすぎる」
小屋。
前回。
薪。
煙。
エディル。
いた。
今日は。
「煙はある」
でも。
人。
見えない。
「エディル!」
リーファ。
弓。
構えたまま。
「エディル!」
返事。
ない。
「……」
俺。
刀。
抜く。
「カイト」
「前」
「了解」
「ミナ、ルク」
「はい」
「レント」
「右」
「分かった」
小屋。
近づく。
◇◇◇
扉。
少し。
開いている。
「エディルさん」
返事。
なし。
「入ります」
中。
「……!」
机。
倒れている。
椅子。
壊れ。
血。
「エディルおじさん!」
「ルク!」
出るな。
と言う前。
リーファ。
「待って!」
床。
奥。
人。
「エディル!」
倒れている。
《エディル》
《状態:重傷》
「生きてる!」
ミナ。
すぐ。
「《ヒール》!」
光。
傷。
胸。
肩。
「斬られた?」
「……う」
エディル。
目。
開く。
「リーファ……?」
「私です!」
「戻ったのか……」
「エディルおじさん!」
ルク。
声。
エディル。
一瞬。
信じられない。
顔。
「……ルク?」
「うん!」
「本当に……」
手。
伸ばす。
ルク。
握る。
「生きてたのか……」
「おじさんも!」
「ああ……」
でも。
安心。
してる場合じゃない。
「誰にやられた?」
俺。
聞く。
エディル。
顔。
歪む。
「黒い腕布……」
「人攫い」
「三人……」
「村を聞かれた」
「答えた?」
「答えるか……」
「二人」
「西へ……」
「西」
つまり。
「村へ行った?」
エディル。
頷く。
「一人は?」
「俺を見張って……」
「どこ?」
カイト。
「外にはいなかった」
俺。
背後。
瞬間。
気配。
「伏せろ!」
ヒュッ!
矢。
窓。
飛び込む。
「うわっ!」
壁。
刺さる。
「外!」
レント。
反応。
速い。
弓。
構える。
「右の木!」
俺。
外。
出る。
◇◇◇
《人攫いの斥候 Lv.7》
「見つかった!」
男。
弓。
走る。
「逃がすな!」
カイト。
「追う?」
「俺とレント!」
「ミナたちはエディル!」
「了解!」
俺。
走る。
◇◇◇
斥候。
速い。
森。
慣れている。
「レント!」
「射線!」
木。
邪魔。
「もう少し!」
俺。
身体。
低く。
枝。
避ける。
《森歩き技能候補の熟練度が上昇》
「今じゃない!」
斥候。
振り返る。
矢。
つがえる。
「来る!」
弦。
指。
肩。
放す。
ヒュッ!
俺。
横。
半歩。
矢。
通過。
「なっ!?」
「レント!」
「見えた!」
《パワーショット!》
ヒュン!
斥候。
脚。
ドスッ!
「ぐあっ!」
転ぶ。
俺。
間。
詰める。
「止まれ」
「くそっ!」
短剣。
抜く。
突き。
「遅い」
刀。
側面。
カンッ!
《Parry!》
《崩しLv.1》
手首。
押さえる。
肘。
方向。
変える。
「ぐっ!?」
地面。
ドサッ!
《Throw!》
「動くな」
刀。
首元。
「……っ」
◇◇◇
《特殊イベント》
《人攫いの斥候を捕縛可能》
「捕縛?」
「殺さなくていい」
レント。
追いつく。
「情報取れるか」
「その方がいい」
ロープ。
手。
縛る。
《人攫いの斥候を捕縛しました》
◇◇◇
小屋。
戻る。
「エディルさん」
ミナ。
回復。
終わり。
《状態:重傷→負傷》
「よかった」
ルク。
そば。
離れない。
「おじさん」
「大丈夫?」
「ああ」
「ルク」
「大きくなったな」
「十二歳」
「そうか」
笑う。
でも。
俺。
捕虜。
連れてくる。
「こいつ」
エディル。
目。
鋭くなる。
「仲間か」
「斥候」
「村へ向かった二人」
「目的」
聞く。
捕虜。
黙る。
「話さない?」
「……」
「ジョウゴ」
カイト。
「拷問とかは」
「しない」
即答。
「必要ない」
AWO。
何が可能。
かは知らない。
でも。
やりたくもない。
「なら」
レント。
「ギルドへ引き渡す?」
「今は村」
◇◇◇
その時。
リーファ。
「待って」
捕虜。
腕。
黒い布。
見る。
「この印」
「知ってる?」
「昔」
村。
襲撃。
「ゴブリンだけじゃない」
空気。
止まる。
「どういうこと?」
リーファ。
顔。
青い。
「村が襲われた日」
「ゴブリンの後ろに」
「人間がいた」
「……」
ルク。
「え?」
「私は」
「見た」
「遠くから」
「黒い布を腕に巻いた男たち」
昨日。
今日。
同じ。
「じゃあ」
ミナ。
「十四年前の襲撃と」
「今回の人攫いが」
「同じ組織?」
リーファ。
「分からない」
「でも印は同じ」
◇◇◇
《長期クエスト情報更新》
《ルクの故郷》
《重大情報》
《エルナ村襲撃事件に第三者が関与していた可能性》
《黒腕布の集団について調査してください》
「話が」
カイト。
「一気に変わった」
「ああ」
ゴブリン。
ただ。
村を。
襲った。
だけではない?
「ルク」
「……」
顔。
固い。
「今は」
「村」
「うん」
「二人」
「先に行ってる」
ルク。
すぐ。
立つ。
「行こう」
「エディルさんは?」
「俺は動ける」
「無理」
俺。
「負傷してる」
「でも村が!」
「なら」
リーファ。
「私が案内する」
「エディルはここ」
「ケイル」
「残って」
「俺が?」
「エディルを守って」
ケイル。
頷く。
「分かった」
◇◇◇
編成。
俺。
ミナ。
カイト。
レント。
ルク。
リーファ。
六人。
斥候捕虜。
「どうする?」
「エディルさんの小屋へ縛って残す」
「ケイル」
「見張れる?」
「任せて」
エディル。
「ジョウゴ」
「何?」
「村を」
「ああ」
「守れるとは言わない」
「でも」
「警告は届ける」
「頼む」
◇◇◇
《クエスト更新》
《緊急目的》
《エルナ村へ警告を届けてください》
《推奨:迅速行動》
《護衛対象ルクの安全を確保してください》
「今度は」
急ぐ。
でも。
ルク。
置いていけない。
「リーファさん」
「安全な近道」
「あります」
「行こう」
◇◇◇
森。
走る。
完全な全力。
ではない。
ルク。
合わせる。
でも。
速い。
「ルク」
「大丈夫!」
「呼吸」
「まだ平気!」
リーファ。
先。
「あと一時間!」
「村まで?」
「はい!」
「二人」
「追いつける?」
「分からない!」
◇◇◇
森。
さらに。
深い。
すると。
景色。
変わる。
木。
大きい。
古い。
「ここから」
リーファ。
「エルナの森」
木。
幹。
紋様。
エルフ。
らしい。
道標。
増える。
ルク。
見る。
「覚えてる」
「本当?」
「少し」
道。
小さな。
坂。
「ここ」
「お母さんと」
「木の実採りに来た」
でも。
今。
立ち止まれない。
「帰りに」
「また見よう」
「うん」
◇◇◇
その時。
遠く。
音。
カン――。
カン――。
「鐘?」
リーファ。
顔。
変わる。
「警戒鐘!」
「村で?」
「誰か来た時!」
「二人」
「先に着いた?」
カイト。
盾。
握る。
「急ぐ!」
◇◇◇
木々。
抜ける。
そして。
「……」
俺たちの前。
開ける。
森の中。
小さな村。
木造。
家。
二十ほど。
畑。
柵。
中央。
大きな。
木。
《エルナ村》
「……帰ってきた」
ルク。
足。
止まる。
声。
震える。
「エルナ……」
故郷。
ある。
燃えた跡。
残る。
壊れた家。
新しく。
建て直した家。
でも。
確かに。
村。
生きている。
その瞬間。
「誰だ!」
村。
柵。
弓。
複数。
エルフ。
人間。
「止まれ!」
リーファ。
「私!」
「リーファ!?」
「生きてたのか!」
「それより!」
「侵入者が二人!」
「黒い腕布!」
「もう来てる!」
「どこ!?」
「北側!」
◇◇◇
そして。
一人。
村人。
俺たち。
見る。
「……ルク?」
止まる。
別。
「え?」
「ルク?」
「嘘」
声。
広がる。
「ルクだ!」
「生きてた!」
「本当に?」
「ルク!」
村人。
次々。
集まる。
ルク。
固まる。
「みんな」
「覚えてる」
俺。
小さく。
言う。
「……うん」
涙。
目。
溜まる。
でも。
今。
「ルク」
「?」
「再会は」
「後」
村。
北。
警戒鐘。
鳴る。
「先に」
「村を守る」
ルク。
涙。
拭く。
「うん!」
◇◇◇
《長期クエスト》
《ルクの帰郷》
《目的地:エルナ村》
《到達》
《ただし緊急事態発生により完了判定保留》
《新規緊急イベント》
《エルナ村侵入者》
《黒腕布の人攫い二名を発見してください》
《村人被害を防いでください》
「まだ終わらないな」
カイト。
「むしろ」
俺。
刀。
抜く。
スッ――。
「ここからだ」
ルク。
ようやく。
帰ってきた。
エルナ村。
しかし。
十四年前の襲撃に関わった可能性を持つ。
黒い腕布の集団もまた。
同じ場所へ。
再び。
足を踏み入れていた。
俺たちが。
あと少し遅ければ。
ルクが帰ってきたその日に。
彼はまた。
故郷を失っていたかもしれない。
「行くぞ」
「「「了解!」」」
帰郷の旅は。
村へ着いたことで。
終わらなかった。
むしろ。
ルクとエルナ村を巡る。
本当の事件が。
今。
始まろうとしていた。




