↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第一章 AWO開始編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/135

第35話 五人で歩き出す帰郷の道

 土曜日。


 午前七時。


「……今日は早いな」


 俺――上塚賢吾は、目覚ましが鳴る少し前に目を覚ました。


 今日は仕事ではない。


 《Another World Online》。


 ルクを故郷《エルナ村》へ送り届ける日だ。


 すでに旧西街道の一次調査は終えている。


 古石橋。


 精霊迷い。


 双子岩。


 さらに、その先でエルナ村の狩人エディルとも接触した。


 道があることも。


 村が残っていることも。


 確認済み。


 それでも。


「今日は前回とは違う」


 護衛対象がいる。


 しかも十二歳の少年だ。


 クエストにもはっきり書かれている。


《重要NPC同行クエスト》


《ルクの帰郷》


《失敗条件:ルクの戦闘不能》


「失敗する気はないけどな」


 ベッドから起きる。


 朝食。


 洗濯。


 軽く掃除。


 ゲームのために現実を疎かにはしない。


 午前八時半。


「よし」


 VR機器を装着した。


《Another World Onlineを起動します》


「ログイン」


         ◇◇◇


《Welcome Back》


《Another World Online》


 銀麦亭。


 七号室。


 装備を確認。


《鉄刀・試作二号》


《鉄製短剣》


《軽革戦闘衣》


《簡易旅装》


 荷物。


 食料。


 水。


 回復薬。


 解毒薬。


 雨具。


 ロープ。


 獣避け香。


 熊避け鈴。


「問題なし」


 そして。


《CROSS LIVE》


《ルク帰郷遠征》


《配信開始まで:18分》


「……もう十八分か」


 一階へ降りる。


         ◇◇◇


「ジョウゴ!」


「おはよう」


 最初に駆け寄ってきたのはルクだった。


 以前の布服ではない。


《軽革の旅装》


《森歩きの革靴》


 背中には。


《狩人見習いの短弓》


 腰には小型ナイフ。


「準備できてる?」


「できてる!」


「荷物は?」


「これ」


 小さな背負い袋。


 水。


 保存食。


 最低限。


「重くない?」


「重くない!」


「本当に?」


「持ってみる?」


「いや」


 そこまで疑うのも失礼か。


「途中で重くなったら言えよ」


「分かってる」


「我慢は禁止」


「……分かってる」


「今ちょっと間があったな」


「ない!」


         ◇◇◇


「おはようございます!」


 ミナ。


「今日は早いですね」


「配信九時だから」


 カイトとレントも。


 すでに完全な遠征装備。


「熊避け香」


 カイト。


 確認。


「持った」


「鈴」


「持った」


「足元」


「見る!」


「枝」


「踏まない!」


 完全にトラウマだ。


「カイト」


「何?」


「熊がいなくても前見ろよ」


「お前ら俺を何だと思ってるんだ!」


「熊に追われた盾役」


「そのままじゃねぇか!」


 ルク。


「熊?」


「ああ」


「大きい?」


「すごく大きい」


「カイト逃げた?」


「みんな逃げた!」


「カイトだけじゃないぞ」


「……ほんと?」


「本当」


「じゃあいい」


「何が!?」


         ◇◇◇


「ジョウゴ!」


 厨房。


 マリアさん。


「朝飯!」


「お願いします」


「旅の前なんだからしっかり食べな!」


「はい」


 五人。


 テーブル。


《銀麦亭の朝食》


 パン。


 卵。


 ベーコン。


 スープ。


「いただきます」


「いただきます!」


 ルク。


 食べる。


 速い。


「ゆっくり」


「分かってる」


「口いっぱいだぞ」


「んぐ」


「ほら」


 水。


「……ありがとう」


「急いで食べても出発時間は変わらないぞ」


「だって楽しみ」


 その言葉。


 少しだけ。


 胸に引っかかる。


「楽しみ?」


「……怖いけど」


 ルク。


 パン。


 見る。


「帰れるから」


「そっか」


         ◇◇◇


《配信開始まで:05:00》


「そろそろ」


 設定。


《一人称視点:ON》


《視線トラッキング:ON》


《コメント抽出:ON》


《NPCルク:配信同意確認済み》


《センシティブ情報保護:最大》


《長時間配信モード:ON》


「ジョウゴ」


 ルク。


「始まる?」


「ああ」


「いっぱいの人?」


「多分」


「……緊張する」


「俺も」


「ジョウゴも?」


「するよ」


 三人。


「「「え?」」」


「何?」


「配信で緊張するんですね」


 ミナ。


「俺を何だと思ってる」


「六万人の前で普通に朝飯食べる人」


「それは緊張が途中で消えただけ」


         ◇◇◇


《10》


 俺たちは銀麦亭の入口へ。


《9》


 ルク。


 隣。


《8》


 ミナ。


 カイト。


 レント。


《7》


「いつも通りでいい」


 俺。


 小さく。


《6》


「うん」


 ルク。


《5》


《4》


《3》


《2》


《1》


《LIVE》


「どうも」


『きたあああああ!』


『おはよう!』


『帰郷回!』


『ルクいる!』


『旅装似合ってる』


『ジョウゴ今日も刀あるな』


『カイト枝踏むなよ』


「開始一秒でカイトがいじられてる」


「何でだよ!」


『本人反応したw』


『熊回の功績』


「功績じゃねぇ!」


 ルク。


 コメントは見えない。


 俺たちを見る。


「カイト、人気?」


「違う」


「ある意味人気」


「ジョウゴ!」


         ◇◇◇


「今日は」


 俺。


 少し。


 真面目に。


「ルクをエルナ村へ送り届けます」


 コメント。


 流れ。


 少し。


 落ち着く。


『よろしく頼む』


『無理しないで』


『ルク頑張れ』


『村まで安全に』


「前にも話した通り」


「ルク本人が嫌がる話題は拾いません」


「家族関連も」


「必要な時以外は俺から触れません」


『了解』


『それでいい』


『見守る』


 ルク。


「なんて言ってる?」


「頑張れって」


「俺に?」


「ああ」


「……ありがとう」


 一瞬。


 コメント。


『かわいい』


『頑張れ!』


『無事帰ろう』


 俺。


「じゃあ」


 西。


「出発します」


         ◇◇◇


《シズナ西門》


 ガレス。


 ローディ。


 そして。


「エリナさん?」


 冒険者ギルドの受付嬢まで来ている。


「お見送りです」


「わざわざ?」


「重要依頼ですから」


 グラン支部長からの。


 伝言。


「絶対に無茶をするな、と」


「……俺宛て?」


「はい」


「やっぱり」


 カイト。


 笑う。


「ジョウゴさんだけです」


「信用ないなぁ」


「信用しているからこそです」


 エリナさん。


 少し。


 微笑む。


「無事に連れて帰ってきてください」


「はい」


 ルク。


「帰ってくる?」


 エリナ。


「もちろん」


「エルナへ行って」


「またシズナにも?」


「うん」


「銀麦亭のパン食べたい」


「それ理由なの?」


         ◇◇◇


 ガレス。


 ルク。


 見る。


「お前がルクか」


「……うん」


「覚えてないだろうが」


「お前が小さい頃」


「一度会ってる」


「ほんと?」


「ああ」


「まだ歩き始めたくらいだった」


 ガレス。


 少し。


 笑う。


「父親によく似てきた」


 ルク。


「お父さん?」


「ああ」


 一瞬。


 空気。


 止まる。


「アルトを知ってる?」


 俺。


 聞く。


「知っている」


「生きてるかは?」


「十四年前が最後だ」


「そうか」


 ルク。


 少し。


 俯く。


 ガレス。


「坊主」


「何?」


「今は」


「自分の目で見てこい」


「……うん」


         ◇◇◇


 西門。


 開く。


《長期クエスト》


《ルクの帰郷》


《開始》


《護衛対象:ルク》


《現在状態:正常》


《同行者》


《ジョウゴ》


《ミナ》


《カイト》


《レント》


「行くぞ」


「うん!」


 五人。


 歩き出した。


         ◇◇◇


 旧西街道。


 前回。


 草に埋もれていた道。


「ここ」


 ルク。


 地面。


 見る。


「街道?」


「ああ」


「昔はもっと綺麗だったらしい」


「覚えてない」


「小さかったからな」


「ジョウゴは知ってる?」


「俺、地球出身」


「ちきゅう?」


「あ」


 説明。


 難しい。


「遠いところ」


「シズナより?」


「ものすごく」


「歩いて何日?」


「歩いては行けない」


「すごい」


『説明ざっくりw』


『宇宙の概念から必要になる』


「今はそれでいい」


         ◇◇◇


 一時間。


 最初。


 問題なし。


 でも。


「ルク」


「何?」


「歩幅」


「?」


「少し小さくしよう」


「なんで?」


「俺たちに合わせようとしてる」


 ルク。


 足。


 止まる。


「分かる?」


「ああ」


「無理してる?」


「……少し」


「だから言えって」


「まだ大丈夫」


「大丈夫でも」


 俺たち四人。


 大人。


 脚。


 長い。


「今日はルクの速度で歩く」


「でも遅い」


「目的は早く着くことじゃない」


「無事に着くこと」


「……うん」


 歩行速度。


 少し。


 落とす。


『こういうの大事』


『護衛って感じする』


『急がないの正解』


         ◇◇◇


 森。


 木々。


 進む。


「ジョウゴ」


「ん?」


「前の旅」


「熊出た?」


 ルク。


 カイトを見る。


「出た」


「カイトが枝踏んだ?」


「そう」


「ジョウゴ!」


 俺じゃない。


 視聴者情報だ。


「今度は踏まない!」


「本当に?」


「ルクまで疑うな!」


 その瞬間。


 パキッ。


「…………」


「…………」


 全員。


 カイト。


 見る。


「俺じゃない!」


 確かに。


 音。


 右。


 茂み。


「武器」


 俺。


 小声。


 カイト。


 盾。


 レント。


 弓。


 ミナ。


 杖。


「ルク」


「後ろ」


「うん」


 茂み。


 ガサッ。


《フォレストウルフ Lv.6》


 一体。


「一体」


「倒す?」


「向こう次第」


 狼。


 こちら。


 唸る。


「グルル……」


 でも。


 人数。


 見る。


 後退。


「戦わない?」


 ルク。


「向こうも命惜しいんじゃない?」


「魔物も?」


「多分」


 狼。


 森へ。


 消える。


『戦闘なし』


『こういうのもあるんだ』


『必ず襲ってくるわけじゃないの面白い』


         ◇◇◇


 昼前。


「休憩」


「まだ歩ける!」


 ルク。


「休む」


「でも」


「俺も休みたい」


「ジョウゴが?」


「ああ」


 嘘ではない。


 長距離。


 定期的。


 休んだ方がいい。


「じゃあ仕方ない」


 ルク。


 座る。


 ミナ。


 俺を見る。


 小さく。


 笑う。


 何だ。


         ◇◇◇


 昼食。


《銀麦亭の旅パン》


「これ」


 ルク。


「マリアのパン」


「ああ」


「うまい」


「旅だと余計に美味いな」


 水。


 乾燥果実。


 そして。


「森蜜パンは?」


「それ保存向けじゃない」


「残念」


『ルク完全にパン好きキャラ』


「本人に聞こえないからって好き勝手言うな」


 ルク。


「何?」


「なんでもない」


         ◇◇◇


 再出発。


 やがて。


 以前作った。


 倒木。


「これ?」


 ルク。


「俺たちが作った渡河路」


「ジョウゴが?」


「四人で」


《簡易渡河路》


《耐久度:62%》


「減ってる」


「川で削られた?」


 レント。


「一人ずつ」


「ルク先?」


「いや」


 俺。


「俺が先」


 今回は。


 ミナではない。


「前はミナでしたよね?」


「今回はルクいるから」


「向こう側の安全確認」


「なるほど」


 渡る。


 問題なし。


「ルク」


「うん」


「ゆっくり」


 倒木。


 細い。


 川。


 下。


 流れ。


「怖い?」


「……ちょっと」


「下見なくていい」


「前」


 ルク。


 一歩。


 ふら。


「!」


 俺。


 すぐ。


 腕。


 支える。


「大丈夫」


「……うん」


「もう一歩」


 渡る。


 無事。


《ルク:状態正常》


 カイト。


「次俺」


「最後にして」


「なんで!?」


「一番重い」


「前も同じこと言われた!」


         ◇◇◇


 午後。


 森。


 少し。


 雰囲気。


 変わる。


「……」


 鳥。


 虫。


 いる。


 前回ほど。


 静かではない。


 でも。


「ジョウゴさん」


「ん?」


 ミナ。


「ルク君」


 少し。


 歩幅。


 乱れている。


 俺。


 見る。


「ルク」


「大丈夫」


「まだ聞いてない」


「……」


「足」


「痛い?」


「ちょっとだけ」


「休憩」


「でも」


「靴脱いで確認」


「……うん」


         ◇◇◇


 靴。


 外す。


 足。


「マメ?」


 少し。


 赤い。


「できる前」


 ミナ。


 回復。


 ではなく。


 布。


「保護しましょう」


 止血布。


 少し。


 加工。


「回復魔法じゃ駄目?」


 ルク。


「怪我じゃないから」


「あと」


 俺。


「原因そのままだと」


「治してもまた痛くなる」


 靴。


 紐。


「少しきつい」


「緩める」


「これくらい」


「歩いてみて」


 ルク。


 数歩。


「さっきよりいい」


「よし」


『足装備マジ大事』


『冒険配信で靴擦れ対策見るとは』


『生活感すごい』


         ◇◇◇


《身体管理行動を確認》


《護衛対象への適切な休息措置》


《クエスト評価が上昇しました》


「こんなの評価されるの?」


 ミナ。


「戦闘だけじゃないんですね」


「護衛だからな」


         ◇◇◇


 再び。


 歩く。


 そして。


 夕方。


「見えた」


 古石橋。


《旧西街道・古石橋》


「今日はここまで」


 ルク。


「もう?」


「もう」


「まだ歩ける」


「明日もある」


「……」


「嫌?」


「早く帰りたい」


「分かってる」


 俺。


 橋。


 向こう。


 見る。


「でも」


「急いで怪我したら」


「もっと遅くなる」


「……分かった」


「偉い」


「子供扱い」


「十二歳」


「また!」


         ◇◇◇


《旧街道休憩所》


 野営。


「テント!」


 ルク。


「俺やる」


「手伝う?」


「うん」


 俺とルク。


 二人用。


「まず広げる」


「これ?」


「逆」


「……」


「笑ってない」


「顔笑ってる」


「少し」


「ジョウゴ!」


         ◇◇◇


 カイト。


 レント。


 もう一張り。


 ミナ。


 一人用。


「女子一人寂しいです」


「今さら?」


「今さらです!」


「じゃあ」


 ルク。


「ミナ、俺と?」


「駄目」


 俺。


 即答。


「なんでジョウゴが決める!」


「男女」


「十二歳だよ?」


「だからこそ」


「……ジョウゴ」


 ミナ。


「やっぱり保護者です」


「違う」


         ◇◇◇


 夕食。


 携帯スープ。


 パン。


 干し肉。


「肉」


 ミナ。


「あるじゃん」


「干し肉じゃなくて」


「贅沢言うな」


 ルク。


「猪肉美味しい?」


「美味しかったですよ」


「食べたい」


「帰りに出たら?」


 俺。


「狩る?」


「食料目的で戦うの?」


 ルク。


「冒険者すごい」


「そこ感心するところ?」


         ◇◇◇


 焚き火。


 夜。


《LIVE配信時間:8時間31分》


「長いな」


『ずっと見てる』


『旅配信好き』


『今日は戦闘ほぼなしなのに』


『ルクと歩くだけで見てられる』


 俺。


「今日はここまでにします」


『お疲れ!』


『ルクもお疲れ』


「ルク」


「何?」


「みんなお疲れって」


「俺?」


「ああ」


 ルク。


 少し。


 焚き火。


 見る。


「ありがとう」


『こちらこそ』


『明日も無理するな』


『ちゃんと休んで』


「明日は」


 俺。


「古石橋から双子岩」


「そこまで行ければ十分」


「エルナ村は」


「さらにその先」


「急がず進みます」


『了解』


『安全第一』


「じゃあ」


「またAWOで会いましょう」


《LIVE END》


         ◇◇◇


 コメント。


 消える。


「終わった?」


 ルク。


「ああ」


「いっぱい見てた?」


「最後」


《最大同時視聴者数:96,304》


「…………」


「ジョウゴ?」


「見なかったことにする」


「また?」


 ミナ。


「九万?」


「言うな!」


 ルク。


「九万って多い?」


「とても多い」


「シズナより?」


「多分」


「すごい」


「実感ない」


         ◇◇◇


 そして。


 夜。


 少し。


 静かになる。


 ルク。


 焚き火。


 見つめたまま。


「ジョウゴ」


「何?」


「明日」


「うん」


「エルナ近くなる?」


「ああ」


「明後日は?」


「順調なら双子岩」


「その次」


「エディルさんの小屋」


「その次」


「村」


 ルク。


 膝。


 抱える。


「怖い」


「うん」


「帰りたいのに」


「怖い」


「両方でいいだろ」


「?」


「帰りたい」


「怖い」


「別にどっちか一つにしなくていい」


「……そうなの?」


「ああ」


「俺も」


「村へ着いて」


「嫌な結果だったらどうしようって思ってる」


「ジョウゴも怖い?」


「少し」


「強いのに?」


「強いのと怖くないのは別」


 ルク。


 考える。


「そっか」


「うん」


「じゃあ」


 一拍。


「明日も一緒?」


「当然」


「約束?」


「ああ」


「約束」


         ◇◇◇


 ポーン。


《ルクとの信頼度が大幅に上昇しました》


《護衛対象ルクの精神状態:安定》


「……精神状態まであるのか」


 AWO。


 本当に。


 細かい。


 でも。


 悪くない。


         ◇◇◇


 テント。


 入る前。


「ジョウゴ」


「ん?」


 ルク。


 自分の。


 短弓。


 見る。


「明日」


「もし魔物出たら」


「俺も戦う?」


「基本は戦わない」


「でも」


「自分に来たら」


「逃げる」


「逃げられなかったら?」


「その時だけ弓」


「狙うのは倒すことじゃない」


「怯ませて」


「俺たちのところへ来る」


「……分かった」


「勝とうとするな」


「生き残る」


「うん」


「それが一番大事」


         ◇◇◇


《セーフログアウト可能》


「じゃあ」


 俺。


「今日は終わり」


「おやすみ」


「おやすみなさい」


「また明日」


 ルク。


「ジョウゴ」


「何?」


「ちゃんと戻ってきて」


「ログイン?」


「うん」


「戻るよ」


「絶対?」


「ああ」


 それを聞き。


 ルク。


 少し。


 安心した顔。


「じゃあ、おやすみ」


「おやすみ」


《Logout》


         ◇◇◇


 現実世界。


 VR機器を外す。


「……九万か」


 見てしまった数字。


 初回。


 六万七千。


 旧街道。


 八万。


 今回。


 九万六千。


「なんで増えてるんだ?」


 ほとんど。


 歩いて。


 休んで。


 足を確認して。


 飯食って。


 テント張っただけ。


 でも。


 CROSS社から。


 メッセージ。


《本日の配信は非常に良好でした》


《護衛対象を優先した進行について視聴者評価が高くなっています》


「……そういうものか」


 なら。


 これからも。


 変える必要はない。


         ◇◇◇


 同時刻。


 CROSS社。


「最大同接九万六千」


「十万目前ですね」


「次回は越える可能性があります」


 神崎。


 視聴データを見る。


「一番視聴維持率が上がった場面は?」


「ルク君の足を止めて休憩させた場面です」


「戦闘ではなく?」


「はい」


「次点が夜の会話」


「……なるほど」


 スタッフ。


「視聴者は」


「エルナ村へ着くことだけを見てるんじゃないんですね」


「ええ」


 神崎。


 映像。


 ルクの歩幅に合わせて。


 歩調を落とすジョウゴ。


「着くまでの時間」


「そこを見ているんでしょう」


         ◇◇◇


 そして。


 AWO。


 夜の古石橋休憩所。


 焚き火。


 少しずつ。


 小さくなる。


 五人分のテント。


 その中で。


 ルクは。


 久しぶりに。


 故郷の夢を見ていた。


 父。


 アルト。


 母。


 セリエ。


 エディル。


 村。


 森蜜。


 燃える前の。


 エルナ村。


 夢の中。


 家の前で。


 二人が。


 笑っていた。


 ――あと少し。


 でも。


 その「あと少し」が。


 ルクにとって。


 一番長い道になる。


 そして。


 俺たち五人は。


 まだ知らない。


 明日。


 古石橋のさらに先で。


 前回の探索時には存在しなかった。


 新しい異変の痕跡を。


 発見することになるとは――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。