第31話 古石橋の先、地図なき森へ
《Welcome Back》
《Another World Online》
薄暗いテントの天井が視界に入った。
「……ここからか」
俺――ジョウゴは身体を起こす。
いつもの《銀麦亭》ではない。
周囲から聞こえるのは、街の喧騒ではなく。
川の流れる音。
風に揺れる木々。
そして鳥の声。
《現在地:旧西街道・旧街道休憩所》
前回。
シズナ西門から古い街道を進み。
巨大な《グレートフォレストベア》から逃げ。
ようやく古石橋を越えた。
そこで野営地を発見。
セーフログアウトした。
「ちゃんとテントの中から再開するんだな」
こういう細かいところ。
やっぱり好きだ。
◇◇◇
テントを開ける。
「おはよう」
「おはようございます!」
ミナ。
すでに起きていた。
焚き火。
小さく。
まだ残っている。
「早いな」
「ジョウゴさんが遅いんです」
「集合時間前だろ?」
「今回は野営なので集合場所すらありません!」
「それもそうか」
隣。
別テント。
「うおお……」
カイト。
出てくる。
「ゲーム内でも寝起き感あるの何なんだ」
「雰囲気」
レント。
最後。
「全員揃ったな」
「ああ」
◇◇◇
今日は。
配信。
しない。
昨日。
七時間。
長時間。
さすがに。
連日はいい。
「今日は偵察だけ」
ミナ。
「どこまで?」
地図。
ガレス。
《ガレスの旧街道地図》
古石橋。
ここまでは。
比較的。
正確。
問題は。
この先。
地図。
薄い。
線。
途切れ。
「次は」
地図。
指。
「《双子岩》」
「どれくらい?」
「昔なら半日」
「今は?」
「分からない」
街道。
荒れている。
迂回。
魔物。
だから。
「無理はしない」
「危なければ戻る」
三人。
「「「了解」」」
◇◇◇
その前に。
「朝飯」
カイト。
即答。
「やっぱり飯!」
ミナ。
「いや」
カイト。
「昨日の残りあるだろ?」
《フォレストボアの焼き肉》
「ああ」
保存。
少し。
残り。
「朝から猪肉?」
レント。
「冒険者っぽくない?」
「まあ」
俺。
火。
起こす。
「温めるくらいなら」
携帯鍋。
パン。
肉。
簡単。
「料理スキルないのに慣れてきましたね」
「現実で料理するから」
「またリアル技能」
「料理くらい普通だろ」
三人。
見る。
「…………」
「そこは普通でいいだろ!」
◇◇◇
食事。
終了。
テント。
片づけ。
「これ」
思ったより。
大変。
「VRゲームでキャンプ撤収までやるのか」
カイト。
「アイテム収納あるだけ楽」
ミナ。
「現実ならもっと大変ですよ」
「確かに」
収納。
《簡易テント》
畳む。
しまう。
「よし」
◇◇◇
《旧西街道》
古石橋。
さらに。
西。
「道」
ほとんど。
ない。
石畳。
一部。
木の根。
持ち上げ。
崩れ。
「十四年」
レント。
「人通らないと完全に森だな」
俺。
周囲。
見る。
「でも」
「?」
「木の間隔」
指。
「少し広い」
「街道跡?」
「ああ」
昔。
道。
木が切られ。
その後。
若木。
でも。
古い森とは。
違う。
「なるほど」
カイト。
「ジョウゴ式・道探し」
「勝手に名前付けるな」
◇◇◇
一時間。
進む。
魔物。
なし。
「平和」
ミナ。
「逆に」
俺。
「静かすぎるのは怖い」
「熊?」
「やめろ」
カイト。
枝。
踏まないよう。
妙に。
慎重。
「昨日のトラウマ?」
「Lv12熊はもう嫌だ!」
「学習してる」
「当たり前だ!」
◇◇◇
途中。
「これ」
レント。
木。
「傷」
幹。
縦。
大きい。
「熊?」
カイト。
即。
距離。
取る。
「爪跡っぽい」
俺。
見る。
高さ。
俺の頭より。
上。
「大きいな」
「帰る?」
カイト。
「まだ」
「痕跡古い」
「分かる?」
「樹液乾いてる」
「なるほど」
《観察Lv.1》
《大型獣の古い爪痕》
《経過時間:数日以上》
「システムも同じ」
「便利ですね」
ミナ。
「観察」
「もっと上げたい」
「戦闘職ですよね?」
「探索でも使えるならいいだろ」
◇◇◇
さらに。
進む。
昼前。
「川?」
音。
でも。
地図。
川。
ない。
「道間違えた?」
ミナ。
「かもしれない」
水。
見える。
細い。
支流。
「地図にはない」
十四年。
地形。
変わった?
「大雨で流れ変わったとか」
レント。
「あり得る」
渡る。
幅。
三メートル。
「跳べる?」
カイト。
「荷物ある」
「橋作る?」
「木」
周囲。
倒木。
「これ使えそう」
俺。
押す。
「重っ」
三人。
手伝う。
「せーの!」
ゴロッ。
倒木。
川。
跨ぐ。
《簡易渡河路を作成しました》
「ゲーム側認識した」
「便利」
◇◇◇
ミナ。
先。
「渡ります」
慎重。
次。
レント。
カイト。
俺。
その時。
倒木。
少し。
滑る。
「おっと」
足。
ずれる。
でも。
重心。
戻す。
《身体操作Lv.1の熟練度が上昇しました》
「これでも上がる」
「ジョウゴさん」
ミナ。
「身体操作スキル万能じゃないですか?」
「現実でも身体使うのは何でも関係あるだろ」
「また普通の顔して言う」
◇◇◇
支流。
越える。
その先。
「……道」
消えた。
完全に。
「どっち?」
カイト。
地図。
「西北西」
「方角は?」
レント。
簡易コンパス。
「こっち」
「でも」
森。
木。
密集。
「街道なら」
俺。
見る。
「ここじゃない」
「なんで?」
「傾斜」
右。
急。
左。
緩い。
「昔の荷車」
「急斜面は通さない」
ミナ。
「じゃあ左?」
「多分」
「多分なんですね」
「十四年前の道だぞ」
絶対。
言えない。
◇◇◇
左。
進む。
十分。
石。
一個。
半分。
埋まる。
《旧街道標石》
「当たり!」
カイト。
「ジョウゴすげぇ!」
「荷車なら普通に考えるだろ」
「その普通!」
「もういいよ」
◇◇◇
昼。
「休憩」
木陰。
携帯食料。
パン。
干し肉。
水。
「猪肉ないんですか?」
ミナ。
「食べ切った」
「残念」
「そんな好きだった?」
「美味しかったです」
「今度狩る?」
「食事目的で魔物狩り」
レント。
「MMOとして正しいのか?」
「AWOなら正しい」
◇◇◇
食べながら。
俺。
地図。
見る。
「双子岩」
「あと?」
「距離なら二時間くらい」
「今日は行けそう」
「ただ」
地形。
「ここから先」
地図に。
《迷い森》
小さく。
ガレスの文字。
「何これ?」
ミナ。
「精霊迷い?」
前に。
ガレス。
言った。
同じ場所。
何度も。
歩く。
「この辺かも」
「対策」
レント。
「聞いてなかった」
「ガレスも」
「原因分からないって」
「困った」
◇◇◇
休憩終了。
さらに。
進む。
最初。
変化。
なし。
でも。
三十分。
「……」
俺。
止まる。
「どうした?」
カイト。
「これ」
木。
幹。
小さな。
切り傷。
「何?」
「さっき」
「?」
「俺が付けた」
三人。
黙る。
「いつ?」
「十分くらい前」
「……戻ってる?」
「ああ」
レント。
コンパス。
「方角はずっと西」
「なのに?」
「同じ場所」
《特殊エリアへ侵入しました》
《????》
「出た」
ミナ。
「精霊迷い」
◇◇◇
「どうする?」
カイト。
「まず」
俺。
「目印」
ロープ。
木。
結ぶ。
「一直線」
「進む」
「戻ったら」
「確定」
歩く。
十分。
木。
「……ロープ」
目の前。
最初。
結んだ。
「戻ってる」
でも。
俺たちは。
曲がってない。
「空間?」
ミナ。
「魔法ですね」
「解除できる?」
「分からない」
ミナ。
魔法。
使える。
でも。
専門。
ではない。
「《ディスペル》みたいなのは?」
「まだありません」
「じゃあ」
どうする。
◇◇◇
「音」
レント。
「何か聞こえる」
全員。
黙る。
チリン。
「鈴?」
小さい。
音。
右。
「熊避け鈴?」
カイト。
「俺たちのは」
荷物。
鈴。
今。
鳴ってない。
「別」
チリン。
チリン。
森。
奥。
「追う?」
「罠かも」
「でも」
俺。
周囲。
「他に手掛かりない」
「行く」
◇◇◇
鈴。
追う。
木。
木。
霧。
「霧?」
さっき。
なかった。
白。
薄い。
チリン。
「近い」
ミナ。
杖。
構える。
そして。
木の影。
小さい。
光。
「何あれ?」
カイト。
人?
いや。
手のひら。
くらい。
小さな。
羽。
《???》
「妖精?」
ミナ。
「精霊?」
光。
ふわふわ。
こっち。
見る。
『……』
声。
聞こえない。
でも。
指。
森。
奥。
「ついて来い?」
光。
頷く。
「言葉通じてる?」
また。
頷く。
「すごいな」
◇◇◇
《特殊イベント》
《森の小さな導き手》
《謎の存在について行きますか?》
《YES/NO》
「どうする?」
レント。
「YES」
俺。
即。
「即決」
ミナ。
「悪意は?」
「今のところ感じない」
「感覚?」
「うん」
「ジョウゴさん、それ危ないやつ」
「でも」
カイト。
「ここでループしててもしょうがない」
「そうですね」
《YES》
◇◇◇
光。
進む。
俺たち。
後。
不思議。
今まで。
同じ景色。
だった。
でも。
光。
通る場所。
少しずつ。
変わる。
「道」
レント。
見る。
足元。
古い。
石。
「街道に戻った?」
「多分」
光。
チリン。
進む。
そして。
霧。
晴れる。
《特殊エリアを突破しました》
《精霊迷い》
「名前出た!」
ミナ。
「やっぱり」
光。
目の前。
浮く。
「ありがとう」
俺。
言う。
小さな光。
くるっ。
回る。
そして。
俺の。
刀。
見る。
「?」
近づく。
鞘。
触る。
ポワッ。
《鉄刀・試作二号に微弱な精霊反応が付与されました》
「え?」
三人。
「「「何した!?」」」
「俺に聞くな!」
◇◇◇
《一時効果》
《森精霊の祝福》
《森林内で方向感覚補正:微》
《効果時間:24時間》
「便利!」
ミナ。
「ジョウゴだけ?」
カイト。
「いや」
次。
光。
一人ずつ。
触れる。
《パーティーメンバー全員へ森精霊の祝福が付与されました》
「全員」
「よかった」
小さな光。
最後。
俺。
前。
止まる。
『……エル……ナ……』
「!」
「喋った?」
ミナ。
『……西……』
「エルナ知ってる?」
光。
頷く。
「ある?」
少し。
間。
そして。
小さく。
頷く。
「村」
「残ってる?」
今度。
光。
止まる。
そして。
首。
横。
「……分からない?」
頷く。
「でも場所は?」
西。
指。
「ありがとう」
光。
チリン。
そのまま。
森。
消える。
◇◇◇
《クエスト情報更新》
《ルクの故郷》
《森精霊と思われる存在からエルナ村の方向情報を取得しました》
《エルナ村:西方に存在する可能性が極めて高い》
「かなり進んだ」
レント。
「精霊」
ミナ。
目。
輝いている。
「また会いたい!」
「エルフだから?」
「魔術師としても興味あります!」
「なるほど」
◇◇◇
そして。
森。
前方。
木々。
切れる。
「……あれ」
カイト。
指。
二つ。
巨大な。
岩。
並ぶ。
《双子岩》
「着いた」
ガレス地図。
第二中継地点。
「今日の目的達成」
俺。
息。
吐く。
その時。
ポーン。
《旧西街道:双子岩までの経路を確認しました》
《安全度評価:低~中》
《脅威情報》
《大型獣》
《精霊迷い》
《地形変化》
《渡河地点》
《ルクの同行は現時点で非推奨》
「やっぱり」
ミナ。
「ルク連れてこなくて正解でしたね」
「ああ」
◇◇◇
双子岩。
近く。
小さな。
平地。
《簡易野営可能地点》
「今日は?」
レント。
「ここで終わる?」
現実。
平日。
夜。
時間。
「戻るの無理」
「ここでログアウト」
テント。
張る。
「遠征」
本当に。
数日。
かかる。
「MMOで一週間旅」
カイト。
「現実同期だとすごいな」
「だから」
俺。
「いいんじゃない?」
◇◇◇
焚き火。
夜。
今日は。
簡単。
スープ。
パン。
「肉ない」
ミナ。
「肉好きだな」
「昨日美味しかったので」
「次、魔物出たら食材判定から?」
カイト。
「戦闘目的変わってる」
◇◇◇
その時。
俺。
刀。
見る。
《鉄刀・試作二号》
《状態:最良》
《付与》
《森精霊の祝福:残り23時間18分》
「バルガに見せたら喜ぶかな」
「絶対」
レント。
「素材じゃなく祝福まで付いた」
「次の刀」
ミナ。
「精霊刀?」
「勝手に話進めるな」
◇◇◇
夜。
ログアウト前。
「明日」
カイト。
「平日だから少し?」
「周辺だけ調べる」
「村まで?」
「行かない」
「この先」
地図。
双子岩。
そこから。
北西。
さらに。
半日。
でも。
ガレスの地図。
そこ。
ほぼ。
空白。
「次が」
本当。
最後。
いや。
「エルナ村が残ってるなら」
そこから。
また。
始まる。
◇◇◇
《セーフログアウト》
《双子岩野営地点》
テント。
入る。
「ログアウト」
◇◇◇
現実世界。
俺。
VR機器。
外す。
「……疲れた」
でも。
悪くない。
地図。
AWO連携アプリ。
《エルナ村推定位置》
今まで。
ぼんやり。
していた。
でも。
今。
範囲。
かなり。
狭い。
「あと少し」
ルク。
待ってる。
「ちゃんと戻って」
「報告しないとな」
◇◇◇
その頃。
シズナ。
診療所。
「まだ?」
ルク。
窓。
「ジョウゴたちは?」
セレナ。
「まだ旅の途中ですよ」
「帰ってくる?」
「約束したのでしょう?」
「うん」
「なら」
「待ってみましょう」
「…………」
ルク。
木。
小さな。
刀。
もう一本。
削っている。
一つ。
ジョウゴ。
一つ。
自分。
「エルナ」
小さく。
呟く。
「まだあるかな」
その答えは。
まだ。
誰にも分からない。
でも。
少なくとも。
道は。
少しずつ。
繋がっている。
古石橋。
精霊迷い。
双子岩。
そして。
その先。
地図にない森の奥。
俺たちは。
とうとう。
エルナ村まで。
あと。
半日ほどの場所へ。
辿り着いていた。




