第29話 旧街道へ向けて
翌日。
現実世界では月曜日。
「……休日って短いな」
俺――上塚賢吾は、銀行の自席で小さく息を吐いた。
昨日まで。
AWO。
初配信。
戦闘講座。
ルク。
エルナ村。
旧西街道。
色々あった。
でも。
現実は。
普通に仕事。
「上塚主任」
「はい」
「こちら確認お願いします」
「置いといて」
書類。
数字。
印鑑。
メール。
電話。
いつもの日常。
AWOがどれだけ広がっても。
こっちは。
何も変わらない。
……いや。
「主任」
「何?」
後輩。
スマートフォン。
見せてくる。
「昨日のジョウゴ配信、見ました?」
「見た」
「初配信すごくなかったですか?」
「まあ」
「最大同接六万超えですよ!」
「そうらしいな」
「戦闘講座もめちゃくちゃ参考になりました」
「へえ」
「俺、昨日AWOで肩見る練習したんですよ」
「できた?」
「全然」
「……そうか」
「でも前より避けやすくなった気がします!」
「ならいいんじゃない?」
「主任もやってみます?」
「俺はいい」
「武術やってるのに?」
「仕事しろ」
「はーい」
危ない。
その講座。
俺がやった。
◇◇◇
仕事終了。
帰宅。
夕飯。
風呂。
家事。
「よし」
午後八時過ぎ。
ログイン。
◇◇◇
《Welcome Back》
《Another World Online》
銀麦亭。
七号室。
「今日は準備だな」
メニュー。
《長期クエスト》
《ルクの故郷》
《現在の手掛かり》
《エルナ村はシズナ西方森林地帯に存在した可能性》
《旧西街道を利用していた商人の記録》
《新規調査地点:旧西街道跡》
「いきなり突っ込むのは無し」
森。
未整備。
長距離。
ルクも連れて行くなら。
もっと。
準備。
「案内役」
前回。
考えた。
旧街道。
昔使っていた人。
「ギルドで聞くか」
◇◇◇
一階。
「ジョウゴ!」
「こんばんは」
マリアさん。
「ルクは今日は?」
「診療所」
「まだ泊まり?」
「ああ」
「元気そうだけどねぇ」
「無理させたくない」
「それがいい」
その時。
「ジョウゴさん!」
「こんばんは」
いつもの三人。
「今日は配信?」
ミナ。
「しない」
「即答」
「昨日休みだったし」
「じゃあ普通に冒険?」
「今日は準備」
「旧街道?」
「ああ」
「私たちも行きます」
「もちろん」
カイト。
「今回は何準備する?」
「まず情報」
「食料」
「回復薬」
「野営」
「それと」
「案内できる人」
レント。
「そこ重要だな」
◇◇◇
冒険者ギルド。
「旧西街道ですか?」
エリナさん。
「はい」
「詳しい人いない?」
「少々お待ちください」
資料。
確認。
「現在も使っている冒険者はほとんどいません」
「やっぱり」
「ですが」
「?」
「一人」
エリナさん。
「昔、西方森林で活動していた冒険者がいます」
「誰?」
「引退しています」
「この街に?」
「はい」
名前。
《元Bランク冒険者 ガレス》
「Bランク」
かなり。
高い。
「今は?」
「木工職人です」
「木工?」
「西地区で工房を営んでいます」
「会ってみる」
◇◇◇
《木工房・ガレス》
「ここか」
西地区。
小さな工房。
木材。
棚。
椅子。
扉。
コンコン。
「はいよ」
中。
老人。
でも。
体格。
大きい。
《木工職人 ガレス》
「何の用だ?」
「冒険者ギルドから紹介されました」
「ギルド?」
「旧西街道について」
目。
変わる。
「……誰に聞いた」
「エリナさん」
「余計なことを」
でも。
追い返さない。
「入りな」
◇◇◇
工房。
椅子。
「旧西街道」
ガレス。
机。
古い地図。
「もう二十年近く使ってねぇ」
「昔は?」
「西の森を抜ける主要道の一つだった」
「エルナ村を知ってます?」
「…………」
ガレス。
俺を見る。
「誰から聞いた」
「ルク」
「誰だ」
「ハーフエルフの少年」
「!」
表情。
変わる。
「十二歳」
「村をゴブリンに襲われて」
「捕まって」
「シズナ近くで保護した」
ガレス。
長く。
沈黙。
「……そうか」
「知ってる?」
「ああ」
即答。
「エルナ村は」
一拍。
「昔、俺が何度も寄った村だ」
◇◇◇
《クエスト情報更新》
《重要人物を発見しました》
《ガレスは過去にエルナ村を訪れていた》
「やっぱり」
「場所分かる?」
「昔なら」
ガレス。
地図。
指。
「ここ」
シズナ。
旧西街道。
西。
森。
川。
丘。
「街道を二日」
「そこから北西へ半日」
「かなり遠い」
「徒歩ならな」
カイト。
「二日半……」
ミナ。
「ルク君にはまだ無理ですね」
「今はな」
俺。
「道は残ってる?」
「分からん」
「最後に行ったのは?」
「十四年前」
「ほぼ十五年前」
ギルドの記録と。
一致。
「その頃」
「エルナ村は?」
「普通にあった」
「人間とエルフ」
「それから少数のハーフエルフ」
「仲良く?」
ガレス。
少し。
苦い顔。
「村の中ではな」
「外では?」
「……」
答え。
ない。
でも。
分かる。
何か。
ある。
「ルクが耳隠してた理由」
多分。
そこ。
「今は聞かない」
俺。
「まず村の場所」
「そうしてくれ」
◇◇◇
「道中」
ガレス。
「何が危険?」
「昔なら」
森狼。
森熊。
山賊。
魔物。
それと。
「精霊迷い」
「何それ?」
ミナ。
ガレス。
「森の中で」
「同じ場所を何度も歩く」
「方向感覚が狂う」
「魔法?」
「分からん」
「昔は森の精霊の悪戯と言われてた」
レント。
「地図だけじゃ危ないな」
「ああ」
「じゃあ」
俺。
「案内してくれます?」
「断る」
「即答」
「引退した」
「もう冒険者じゃない」
「森にも入ってない」
「十四年」
予想。
してた。
「でも」
「?」
「道を教えることはできる」
地図。
出す。
「持ってけ」
《ガレスの旧街道地図》
《古いが詳細な西方森林地図》
《一部地形は現在と異なる可能性があります》
「ありがとう」
「礼はいらん」
「ただ」
ガレス。
真剣。
「子供を連れていくな」
「え?」
「少なくとも」
「一度目は」
「お前らだけで行け」
俺。
黙る。
「道が残ってるか」
「危険は何か」
「村が今どうなってるか」
「それを見てから」
確かに。
「そうする」
ルク。
行きたがる。
でも。
「先に俺たちだけ」
「それがいい」
◇◇◇
《クエスト情報更新》
《ルクの故郷》
《新規目的》
《旧西街道の安全確認》
《ルクを同行させず、旧街道の現状を調査してください》
《推奨Lv:5~》
「クエストも同じ」
ミナ。
「これで決まりですね」
「ああ」
「いつ行く?」
カイト。
「次の休み?」
「長時間になりそう」
現実。
平日。
仕事。
「休日」
「じゃあ」
レント。
「それまで準備」
「そう」
◇◇◇
「他に必要なもの」
ガレス。
「野営道具」
「火起こし」
「水」
「食料」
「ロープ」
「ナイフ」
「雨具」
「解毒薬」
「虫除け」
「虫除けまで?」
「森舐めるな」
「はい」
「あと」
「?」
「鈴」
「鈴?」
「森熊除け」
AWOでも。
熊鈴。
あるんだ。
「それと」
ガレス。
俺の刀。
見る。
「その変な剣」
「刀」
「カタナ?」
「ああ」
「刃物は一本じゃ足りん」
「予備?」
「そう」
「折れたら?」
「困る」
「なら持て」
正しい。
前回。
刀預けて。
丸腰。
思い出す。
「カイト」
「何?」
「笑うな」
「まだ何も言ってない!」
◇◇◇
工房を出る。
「準備多いですね」
ミナ。
「長距離だからな」
「ゲームなのに」
「だからこそじゃない?」
レント。
頷く。
「AWO、野営ちゃんと必要だし」
「宿屋ないからな」
カイト。
「テント買う?」
「四人用?」
「いや」
俺。
「持ち運び考えると」
「二人用二張り」
三人。
見る。
「男女で?」
「あ」
ミナ。
一人。
「私は?」
「…………」
俺。
カイト。
レント。
男三。
ミナ。
女一。
「一人用?」
「雑!」
「ごめん」
「もう少し考えてください!」
◇◇◇
道具屋。
店主。
「野営一式?」
「四人」
「なら」
《簡易テント×2》
《一人用テント×1》
《毛布×4》
《火打石》
《携帯鍋》
《ロープ》
《水袋》
《携帯食料》
《虫除け香》
《解毒薬》
《簡易雨具》
《熊避け鈴》
「結構ある」
「価格」
《合計:780G》
「高い」
「四人で割れば」
195G。
「なら」
購入。
◇◇◇
「予備武器」
武器屋。
ガルド。
「また来たな」
「短剣欲しい」
「カタナは?」
「ある」
「ならなんで」
「予備」
「やっと学習したか」
「失礼」
《鉄製短剣》
《価格:220G》
購入。
「これなら」
腰。
刀。
反対。
短剣。
「それっぽい」
ミナ。
「何が?」
「冒険者」
「今まで何だった?」
「変な剣士」
「やめろ」
◇◇◇
診療所。
「ルク」
「ジョウゴ!」
今日も。
元気。
「何してた?」
「準備」
「エルナ?」
「そう」
ルク。
立つ。
「行く?」
「まだ」
「……」
「先に俺たちだけで道を見る」
表情。
落ちる。
「なんで」
「危ないから」
「俺も行ける」
「駄目」
「なんで!」
強い。
声。
「俺の村だ!」
「ああ」
「俺が案内できる!」
「場所分かる?」
「……」
「ゴブリンに連れてこられた道」
「覚えてる?」
「……少し」
「じゃあなおさら」
「?」
「今」
俺。
しゃがむ。
目線。
合わせる。
「俺たちが安全確認する」
「もし道が危なければ」
「お前守りながら進むのは難しい」
「でも」
「ルク」
「約束しただろ」
「探すの手伝うって」
「うん」
「だから」
「無茶しない」
ルク。
黙る。
「置いていくわけじゃない」
「ほんと?」
「ほんと」
「戻る?」
「戻る」
「絶対?」
「ああ」
ルク。
しばらく。
俺を見る。
「……分かった」
◇◇◇
《ルクとの信頼度が上昇しました》
「また」
ミナ。
小声。
「出ました?」
「ああ」
「完全に保護者」
「違う」
ルク。
「ジョウゴ」
「何?」
「これ」
小さい。
袋。
「何?」
「木の実」
《森の乾燥木の実》
「旅で食べて」
「お前の食料じゃ?」
「いっぱいある」
絶対。
多くない。
「ありがとう」
「帰ってきたら」
「?」
「銀麦亭」
「行こう」
「約束」
「ああ」
◇◇◇
その時。
ポーン。
《CROSS社からメッセージ》
「ん?」
《次回配信について》
《視聴者から旧街道調査への配信希望が多数寄せられています》
《配信実施の判断はジョウゴ様にお任せします》
「旧街道」
ミナ。
「配信します?」
俺。
少し。
考える。
「するかも」
「お」
「長時間だから」
「一人称視点で森探索」
レント。
「面白そうだな」
「でも」
俺。
「危なくなったら」
「配信より撤退優先」
「それでいいと思います」
「CROSSもそう言うだろ」
◇◇◇
配信。
前回。
楽しかった。
でも。
目的。
配信じゃない。
エルナ村。
ルク。
それが。
先。
「配信は」
「一緒に歩いてもらうだけ」
そんな感じ。
それなら。
悪くない。
◇◇◇
銀麦亭。
夜。
「準備終わった?」
カイト。
「大体」
「あとは?」
「バルガ」
「刀?」
「第五段階」
《鍛冶師バルガと刀》
《第五段階:強さと粘り》
「森行く前に進めたい」
「素材情報」
「そう」
ミナ。
「ガレスさんに聞けばよかった」
「あ」
四人。
止まる。
「戻る?」
「もう遅い」
「明日?」
「仕事後」
「じゃあ」
カイト。
「明日は素材」
「次の日」
レント。
「地図確認」
「休日」
ミナ。
「旧街道」
「決まり」
◇◇◇
その夜。
AWO公式掲示板。
---
【ジョウゴ式総合スレ Part2】
601:名無しの冒険者
今日本人また訓練場来た。
602:名無しの冒険者
追加講習助かった。
603:名無しの冒険者
指南役マーカー便利。
604:名無しの冒険者
肩派です。
605:名無しの冒険者
足派です。
606:名無しの冒険者
腰派です。
607:名無しの冒険者
宗派作るな。
608:名無しの冒険者
次の配信いつ?
609:名無しの冒険者
旧街道調査するらしい。
610:名無しの冒険者
マジ?
611:名無しの冒険者
ルクの村関連?
612:名無しの冒険者
多分。
613:名無しの冒険者
見たい。
614:名無しの冒険者
森探索一人称は絶対面白い。
615:名無しの冒険者
ジョウゴ何見るんだろ。
616:名無しの冒険者
足。
617:名無しの冒険者
肩。
618:名無しの冒険者
木。
619:名無しの冒険者
熊。
620:名無しの冒険者
熊は見ろ。
621:名無しの冒険者
長い棒。
622:名無しの冒険者
お前はもう帰れ。
---
◇◇◇
現実世界。
CROSS社。
「旧街道調査」
「配信許可はまだ?」
「本人判断待ちです」
「急かさない」
「はい」
「もし配信するなら」
「長時間対応」
「通信補正」
「録画バックアップ」
「緊急停止」
「準備しておきます」
神崎。
資料。
見る。
《ルクの故郷》
「今度は」
「戦闘講座ではなく」
「本当の旅ですね」
◇◇◇
俺は。
ログアウト前。
七号室。
地図。
開く。
《ガレスの旧街道地図》
シズナ。
西門。
森。
川。
丘。
その先。
小さな印。
《エルナ村》
「二日半」
ゲーム内。
現実同期。
休日一日で。
全部は無理。
「途中で野営ログアウト?」
AWO。
安全な野営地。
テント。
セーフログアウト。
「本当に旅になるな」
少し。
笑う。
最初。
シズナの街から始まった。
草原。
森。
鉱山。
防衛戦。
そして。
今度は。
地図にもほとんど残っていない。
古い街道。
「楽しみだ」
もちろん。
目的は。
ルクの故郷。
でも。
未知の場所へ行く。
そのこと自体。
少し。
いや。
かなり。
楽しみにしている。
俺――ジョウゴのAWO生活は。
とうとう。
《シズナ》という始まりの街から。
さらに外へ。
本格的に。
広がろうとしていた。




