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Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第一章 AWO開始編

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28/135

第28話 配信翌日と広がるジョウゴ式

 翌朝。


「……眠い」


 俺――上塚賢吾は、ベッドの上でスマートフォンを手にしたまま、小さく欠伸をした。


 昨日。


 初めてのLIVE配信。


 配信時間。


 三時間十八分。


 最大同時視聴者数。


 六万七千四百二十八人。


「改めて見る数字じゃないな」


 思わず画面を伏せる。


 正直。


 実感がない。


 俺自身としては。


 銀麦亭で朝飯を食べ。


 ルクに会い。


 訓練場で少し戦い方を説明して。


 また飯を食べた。


 それだけだ。


「普通に遊んでただけなんだけど」


 その言葉を口にした瞬間。


 昨日のコメント欄を思い出す。


『その普通が普通じゃない』


「……もう言わない方がいいのか?」


 いや。


 俺にとっては普通なんだから仕方ない。


         ◇◇◇


 今日は日曜日。


 銀行は休み。


 だから朝からAWOへ入ろうと思えば入れる。


 しかし。


「先に家事」


 洗濯。


 掃除。


 朝食。


 食器洗い。


 最低限のことを終わらせる。


 ゲームを理由に現実生活を崩すつもりはない。


 午前十時。


「よし」


 VR機器を装着する。


《Another World Onlineを起動します》


「ログイン」


         ◇◇◇


《Welcome Back》


《Another World Online》


 目を開ける。


 銀麦亭。


 いつもの七号室。


「今日は配信――」


 少し考える。


「しなくていいか」


 昨日やったばかりだ。


 毎回ログインするたびに配信する必要もない。


 CROSS社からも、好きな時だけで構わないと言われている。


「今日は普通に遊ぼう」


 ……また普通って言ったな。


 まあいい。


         ◇◇◇


 一階。


「おや、ジョウゴ!」


「おはよう、マリアさん」


「今日は見えない連中はいないのかい?」


「見えない連中?」


「昨日の三万人だか四万人だか!」


「最終的に六万人以上でした」


「…………」


 マリアさん。


 少し固まる。


「店に入りきらないどころじゃないねぇ」


「だから映像越しです」


「不思議なもんだねぇ」


 そして。


「今日はハイシンしないのかい?」


「しない予定」


「じゃあ普通のジョウゴだね!」


「配信してても俺は同じですけど」


「そうだったね!」


 笑われた。


         ◇◇◇


 銀麦亭を出る。


「まずルクかな」


 昨日。


 エルナ村へ続く可能性がある旧街道の情報を手に入れた。


《長期クエスト》


《ルクの故郷》


《新規調査地点:西門・旧街道跡》


 ただ。


 ルクはまだ完全回復していない。


 今日すぐ西へ向かうつもりはない。


「情報だけ見に行くのもありか」


 その前に。


 冒険者ギルド。


         ◇◇◇


 ギルドへ入る。


「…………」


 何か。


 おかしい。


「右肩!」


「違う! 足だ!」


「腰見ろ腰!」


「剣だけ見るな!」


「パリィはまだ早い!」


「アーツ発動前に入れ!」


「それは初心者がやるな!」


「…………」


 訓練場側。


 ものすごく騒がしい。


「何だ?」


 受付。


「エリナさん」


「あっ」


 エリナさん。


 俺を見る。


 なぜか。


 笑いを堪えている。


「どうしたんです?」


「いえ」


「何か?」


「訓練場を見れば分かります」


「嫌な予感」


         ◇◇◇


 訓練場。


「…………」


 大量のプレイヤー。


 十人。


 二十人。


 いや。


 もっと。


 互いに木剣。


 構え。


「肩!」


「足!」


「腰!」


 そして。


 一人。


「《スラッシュ》!」


 相手。


 踏み込む。


 失敗。


「うわああ!」


 木剣。


 直撃。


 ゴロゴロ。


「痛てぇ!」


「だから発動前に入るのは後回しにしろって!」


 俺。


「…………」


 何これ。


「ジョウゴさん!」


「うわっ」


 後ろ。


 ミナ。


「来た!」


「何が?」


「元凶!」


「俺?」


「見れば分かるでしょう!」


 カイト。


 レントもいる。


「昨日の配信」


「うん」


「影響」


 カイト。


 訓練場。


 指す。


「こうなった」


「なんで?」


「なんでって」


 レント。


 苦笑。


「みんな試してる」


「俺の講座?」


「《ジョウゴ式・初心者向け講座》」


「何その名前」


「掲示板で定着した」


「勝手に名前付けないでほしいんだけど」


         ◇◇◇


「ジョウゴだ!」


 誰か。


 気づく。


 次。


「本人!」


「先生!」


「師範!」


「ジョウゴ先生!」


「先生はやめてください!」


 一斉。


 こっち。


 来る。


「ちょっ」


 囲まれた。


「肩見るって、どの辺ですか!?」


「パリィのタイミング教えてください!」


「弓どうやって避けるんです!?」


「アーツ発動前って何フレーム!?」


「フレーム?」


 AWO。


 フルダイブ。


 フレームで考えたことない。


「一人ずつ!」


 ミナ。


 助けてくれる。


「ジョウゴさん困ってます!」


「ミナ」


「はい?」


「助かった」


「あとでパン奢ってください」


「安いな」


         ◇◇◇


「まず」


 俺。


 訓練場。


 中央。


「昨日も言いましたけど」


 周囲。


 静かになる。


「いきなり全部やろうとしない方がいいです」


 一人。


「でもジョウゴさんは全部見てますよね?」


「俺は長年やってるから」


「AWOを?」


「現実の武術を」


「あ」


「ゲーム始めて数日で身についたわけじゃない」


 ここ。


 大事。


「まず一個でいいです」


「肩」


「足」


「腰」


「自分が見やすいところ」


「攻撃前に変化する場所を一つ覚える」


「そこから」


 少しずつ。


「増やせばいい」


 プレイヤーたち。


 真剣。


「あと」


「アーツ発動前に懐へ入るのは」


 一拍。


「初心者はやめてください」


「「「はい!」」」


「素直だな」


 昨日。


 ちゃんと言っておいてよかった。


         ◇◇◇


「じゃあパリィは?」


 一人。


「それも」


 俺。


 木剣。


「最初は止めるところからでいい」


「止める?」


「はい」


 相手の木剣。


「まず受ける」


 ガッ。


「次に」


 少し角度。


「流す」


 カンッ。


「それから」


 必要最低限。


「逸らす」


《Parry!》


「おお!」


「最初から完璧にやろうとすると失敗する」


「段階踏む」


「ゲームでも?」


「ゲームだからこそ」


 死なないとはいえ。


 失敗。


 繰り返す。


「安全な訓練場使った方がいい」


「なるほど」


 その時。


 ポーン。


《複数プレイヤーへの継続的な技能指導を確認》


《特殊称号条件を達成しました》


「……嫌な予感」


《称号を獲得しました》


《指南役》


「取れた」


「おお!」


 カイト。


「先生!」


「やめろ」


《称号:指南役》


《他者への技能指導時、説明補助が僅かに上昇します》


「説明補助?」


 ミナ。


「ジョウゴさんに一番必要なやつ!」


「どういう意味?」


「そのままです」


         ◇◇◇


 さらに。


《特殊効果》


《指導対象の理解度に応じ、簡易動作ガイドを生成可能になりました》


「ガイド?」


 試す。


 一人。


 初心者プレイヤー。


「肩を見る」


 説明。


 すると。


《指南役補助》


 相手の視界に。


 肩。


 小さなマーカー。


「見える?」


「見えます!」


「これは便利」


 動く。


 肩。


 マーカー。


「ジョウゴさん」


 ミナ。


「配信より分かりやすくなってません?」


「ゲーム内スキルにされた」


「運営も説明下手だと思ったんじゃない?」


 カイト。


「失礼だな!」


         ◇◇◇


 訓練場。


 一時間ほど。


 付き合う。


「今日はこのくらいで」


「ありがとうございました!」


「先生またお願いします!」


「先生はやめて」


「師範!」


「もっとやめて」


 逃げるように。


 訓練場。


 出る。


「疲れた」


 ミナ。


「配信してないのに人気者」


「困る」


「でも」


 レント。


「楽しそうだった」


「まあ」


 人に教える。


 嫌いではない。


 現実でも。


 師範代。


 後輩。


 子供たち。


 指導することはある。


「役に立つなら悪くない」


「ほら」


 ミナ。


「先生」


「やめろって」


         ◇◇◇


 診療所。


「ジョウゴ!」


 ルク。


 今日は。


 ベッドではなく。


 椅子。


「元気そう」


「もう大丈夫!」


 治療師セレナさん。


「まだ完治ではありません」


「ほら」


「でも昨日より元気!」


「それは本当です」


「じゃあ」


 俺。


「今日少し街歩く?」


「行く!」


「ただし」


「走らない」


「分かってる!」


「飯の匂いしても」


「…………」


「ルク?」


「努力する」


「俺と同じ返事するな」


         ◇◇◇


 ルク。


 銀麦亭。


 ではなく。


「西門行く?」


「!」


 エルナ村。


 旧街道。


「見るだけ」


「行く!」


「遠出はしない」


「分かってる」


「疲れたら戻る」


「分かってる」


「約束」


「約束」


 ミナたち。


 ついてくる。


「今日は五人ですね」


「そうなるな」


         ◇◇◇


《シズナ西門》


 こちら。


 初めて。


「南門と違う」


 小さい。


 交通量も少ない。


「今はあまり使われてない?」


 レント。


 衛兵。


 聞く。


「旧街道?」


《西門衛兵 ローディ》


「ああ」


「昔は西へ抜ける道があった」


「今は?」


「森に飲まれた」


「森?」


「十年以上まともに整備されていない」


 地図。


 古い。


「この道か」


 西門。


 外。


 草。


 木々。


 確かに。


 道らしき跡。


 でも。


 ほぼ消えている。


《旧西街道跡》


《未整備区域》


「エルナ村へ?」


 ルク。


 衛兵。


 見る。


「エルナ?」


 ローディ。


 考える。


「聞いたことはある」


「ほんと!?」


「昔」


「この道を使うエルフの商人がいた」


「商人?」


「どこから来るって?」


「森の奥」


「時々」


「薬草や木工品を持ってきていた」


《クエスト情報更新》


《エルナ村住民と思われる商人が旧西街道を利用していた可能性》


「進んだ」


 ルク。


「じゃあ」


「ああ」


「この先」


「可能性高い」


 ただ。


 俺。


 森。


 見る。


 深い。


「今日は入らない」


「……うん」


 ルク。


 少し。


 残念。


「でも」


「?」


「準備する」


「何を?」


「地図」


「食料」


「回復薬」


「野営道具」


「あと」


 森。


 長距離。


「案内できる人」


 適当に突っ込むには。


 広すぎる。


「ギルドで情報集める」


「うん」


 ルク。


 小さく。


 頷く。


         ◇◇◇


 その時。


 ミナ。


「ジョウゴさん」


「何?」


「今日」


「うん」


「配信しないんですか?」


「しない」


「これ視聴者見たかったでしょうね」


「毎日しなくていいだろ」


「まあ」


「でも」


 カイト。


「次配信で前回の続き聞かれそう」


「その時話せばいい」


「いつ配信?」


「未定」


「本当に自由」


「それが条件だからな」


         ◇◇◇


 街へ戻る途中。


 ポーン。


《CROSS社からメッセージが届きました》


「何だ?」


《初回配信アーカイブの再生数が50万回を突破しました》


「…………」


 閉じる。


「何だったんです?」


 ミナ。


「見なかった」


「いや絶対見たでしょ」


「アーカイブ50万」


 三人。


「「「はあ!?」」」


 ルク。


「五十万?」


「いっぱい」


「昨日より?」


「多分」


「すごい」


「実感ない」


         ◇◇◇


 そして。


 別メッセージ。


《CROSS社》


《視聴者アンケート結果》


《次回見たい内容》


《1位:ジョウゴの普段のAWO生活》


《2位:刀の改良》


《3位:ルクの故郷探し》


《4位:戦闘講座》


《5位:ダンジョン攻略》


「一位」


「何です?」


「普段の生活」


 ミナ。


 笑う。


「ほら」


「何が」


「CROSS社の狙い通り」


「俺何もしてないぞ」


「それが人気なんですよ」


「よく分からない」


         ◇◇◇


 銀麦亭へ戻る。


「お腹空いた!」


 ルク。


「走るな!」


「走ってない!」


「早歩き!」


 マリアさん。


「おやおや!」


「今日は五人かい!」


「一人増えた」


「ルク!」


「あいよ!」


「パン!」


「あるよ!」


「やった!」


「元気だな」


 席。


 座る。


         ◇◇◇


 その頃。


 AWO公式掲示板。


---


【悲報】ジョウゴ式がシズナ訓練場を侵食


301:名無しの冒険者

今日訓練場行った奴いる?


302:名無しの冒険者

いる。


303:名無しの冒険者

全員肩見てて草。


304:名無しの冒険者

足派もいるぞ。


305:名無しの冒険者

腰派。


306:名無しの冒険者

宗派みたいに言うな。


307:名無しの冒険者

本人来たぞ。


308:名無しの冒険者

マジ?


309:名無しの冒険者

追加講習やってた。


310:名無しの冒険者

また配信?


311:名無しの冒険者

してない。


312:名無しの冒険者

普通にログインして普通に教えてた。


313:名無しの冒険者

普通に?


314:名無しの冒険者

ジョウゴに普通を使うな。


315:名無しの冒険者

称号《指南役》取ったらしい。


316:名無しの冒険者

草。


317:名無しの冒険者

ゲーム側に先生認定されたw


318:名無しの冒険者

簡易ガイド出せるって。


319:名無しの冒険者

欲しい。


320:名無しの冒険者

訓練場混みそう。


321:名無しの冒険者

次回配信いつ?


322:名無しの冒険者

未定。


323:名無しの冒険者

本当に自由人だな。


324:名無しの冒険者

そこがいい。


---


         ◇◇◇


 現実世界。


 CROSS社。


「初回配信アーカイブ五十万突破」


「切り抜き総再生は?」


「百二十万を超えました」


「初配信一回で?」


「はい」


「本人は?」


「今日は配信せず普通にログイン」


「何を?」


「訓練場で視聴者に捕まり」


「追加指導」


「称号《指南役》獲得」


「その後ルク君と旧街道調査」


「……配信してない日に限ってイベント起きますね」


「ジョウゴさんなので」


 神崎。


 苦笑。


「次回配信をお願いする?」


「いいえ」


「本人がやりたい時に」


「でも数字」


「追わせません」


 一拍。


「数字を追い始めたら」


「彼の良さが消えます」


「了解」


         ◇◇◇


 銀麦亭。


「ジョウゴ」


「何?」


 ルク。


 パン。


 食べながら。


「エルナ」


「うん」


「見つかる?」


「分からない」


「…………」


「でも」


 俺。


 言う。


「道は見つかった」


「うん」


「一個ずつ」


「調べればいい」


「うん」


「焦らなくていい」


 ルク。


 少し。


 考える。


「ジョウゴも?」


「何が?」


「配信」


「?」


「焦らない?」


 十二歳。


 なぜ。


 そこを。


「焦らない」


「じゃあ一緒」


「そうだな」


 急いで攻略する必要はない。


 急いで有名になる必要もない。


 急いで答えを出す必要もない。


 ゲームでも。


 現実でも。


 一つずつ。


「明日は」


 ルク。


「何する?」


「仕事」


「…………」


「向こうの」


「つまらない」


「仕方ないだろ!」


 ミナたち。


 笑う。


 こうして。


 初配信を終えた翌日も。


 俺のAWO生活は。


 驚くほど。


 いつも通りに続いていった。


 ただし。


 俺が昨日何気なく行った戦闘講座だけは。


 俺の知らないところで。


 シズナどころか。


 他の初期街へまで。


 少しずつ広がり始めていた。


 ――《ジョウゴ式》。


 そんな大層な名前を付けられて。


 俺としては。


「肩を見るだけなんだけどな」


 としか。


 思っていなかったのだが。

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