第27話 ジョウゴ式・初心者向け講座
《LIVE》
《現在視聴者数:48,216》
「……増えてない?」
俺――ジョウゴは、視界の端に表示された数字を見てしまった。
『気づいたw』
『四万八千おめ』
『もうすぐ五万』
『戦闘講座始まるから増えたぞ』
『待機してた』
『視線トラッキング楽しみ』
「だから人数を言わないでください」
『自分で見たんだろw』
「それはそうなんですけど」
現在地は《シズナ冒険者ギルド》の訓練場。
つい先ほどまで。
銀麦亭で朝食。
ベルさんの露店でリンゴ。
診療所でルクのお見舞い。
さらに銀麦亭へ戻ってパン。
初配信らしいことを、ほぼ何もしていない。
それなのに。
なぜか視聴者は増え続けていた。
「で」
俺は木剣を一本手に取る。
「せっかく一人称視点と視線トラッキングがあるので」
『きた』
『待ってた』
『ジョウゴの目線!』
「戦闘で俺が何を見てるのか、少し説明してみようと思います」
隣ではミナが大きく頷いている。
「やっとですね!」
「何が?」
「今までジョウゴさん、『見れば分かる』しか言わなかったじゃないですか!」
「そんな雑だった?」
「雑でした!」
カイトも頷く。
「俺も何度『そこ』って言われたことか」
レントまで。
「『肩を見る』『足を見る』って言われても、いつ見るのか分からなかったからな」
「……今日はちゃんと説明します」
『できるのか?』
『不安』
『本人の感覚派説明だぞ』
「コメント欄、俺への信頼低くない?」
『戦闘力への信頼は高い』
『説明力への信頼は低い』
「ひどい」
◇◇◇
「俺も見る」
「ルク?」
訓練場の端。
椅子へ座ったルクが手を上げる。
治療師セレナさんから、外出は短時間。
走らない。
無理をしない。
という条件付きで許可をもらっている。
「疲れたらすぐ言えよ」
「分かってる」
「本当に?」
「ジョウゴより言うこと聞く」
「なんで俺が比較対象なんだ?」
ミナが小さく笑った。
『ルク元気そう』
『ちゃんと座ってる』
『保護者ジョウゴ』
「保護者ではないです」
「ジョウゴ」
「何?」
「俺、パン食べたい」
「さっき食べただろ」
「…………」
「その顔しても駄目」
『完全に保護者w』
「違うから」
◇◇◇
「さて」
俺は訓練場の中央へ。
「カイト」
「おう」
「まず普通に攻撃して」
「普通に?」
「ああ。アーツなし」
「了解」
カイトが木剣を持つ。
盾は置いてある。
「じゃあ行くぞ」
「どうぞ」
《視線トラッキング表示:ON》
俺の視界。
そして配信映像上には。
俺が現在注目している箇所が、小さなマーカーとして表示される。
「まず」
カイト。
全体。
「相手全体を見ます」
『普通だ』
『今回は分かる』
「でも、剣だけは見ません」
『え?』
『剣見ないの?』
コメント。
早い。
「正確には、剣だけを凝視しない」
カイト。
構え。
「武器だけ見てると身体の動きが見えなくなるから」
「じゃあどこを見るんです?」
ミナ。
「全体」
「だからそれが難しいんです!」
「いや、本当に全体なんだけど……」
『説明力w』
『開始一分で破綻』
「待ってください」
俺も考える。
どう説明する?
現実では。
無意識にやっている。
「じゃあ」
カイトへ。
「一回ゆっくり攻撃して」
「了解」
踏み込み。
右足。
視線マーカー。
まず足。
「ここ」
『右足』
次。
腰。
「ここ」
『腰』
肩。
「ここ」
『右肩』
最後。
剣。
「で、武器」
カイトがゆっくり振り下ろす。
「この順番?」
ミナ。
「絶対ではないけど」
俺は頷く。
「足が動く」
「腰が動く」
「肩が動く」
「最後に武器が動く」
レント。
「ああ」
「剣自体が最初に攻撃してくるわけじゃない」
「そう」
「人間が動かすから」
「そういうこと」
『おお』
『これは分かりやすい』
『初めてまともな説明』
「初めては余計です」
◇◇◇
「じゃあ実際に」
俺。
木剣。
構えない。
「来て」
「今度は普通の速さで?」
「ああ」
カイト。
構える。
「行くぞ!」
踏み込み。
視線。
右足。
腰。
肩。
「来る」
この時点。
俺はもう動き始める。
半歩。
右へ。
次の瞬間。
ブンッ!
木剣。
俺の左肩があった場所。
通過。
『うおおお』
『本当に剣動く前に避けてる』
『視線表示あると分かる!』
『右足→腰→肩だ』
『剣見た時にはもう避けてる』
「こうです」
ミナ。
「いや」
「何?」
「こうです、じゃないですよ!」
「今説明しただろ」
「説明は分かりました!」
「じゃあ何?」
「できません!」
「練習すれば」
「何年!?」
「人による」
『初心者向けとは』
『理屈は初心者向け』
『実技難易度が初心者向けじゃない』
◇◇◇
「ただ」
俺は木剣を下げる。
「全部を見る必要はないです」
『?』
「初心者なら」
カイトへ向き直る。
「一つだけ決めてもいい」
「一つ?」
「例えば肩」
視線。
カイトの右肩。
「相手が右手で剣を振るなら、右肩が動く」
「こう?」
カイト。
少し振る。
「ああ」
「そこを見て」
「動いたら避ける?」
「最初はそれでいい」
『これはできそう』
『肩だけなら』
『練習してみる』
「ただし」
俺。
「相手によって違うから」
『急に難しくするな』
『ですよねー』
「人間の身体だから」
「完全に同じ動きにはならない」
「だから」
「最終的には色々見た方がいい」
ミナ。
「結局そこに戻るんですね」
「うん」
◇◇◇
「次はアーツ」
カイト。
「《スラッシュ》?」
「ああ」
「じゃあ行くぞ」
距離。
取る。
「《スラッシュ》!」
淡い光。
発動。
『エフェクト!』
「これはむしろ分かりやすい」
「え?」
カイト。
発動動作。
身体がシステムアシストに従う。
「アーツって」
俺。
一歩。
「ある程度、動きが決まってる」
カイトの肩。
腰。
足。
「だから一回覚えると」
踏み込む。
振り始める前。
間合いの内側。
「こう」
木剣。
柄元。
俺の木剣を添える。
ガッ!
《Parry!》
《《崩しLv.1》発動》
「うおっ!」
カイト。
体勢。
崩れる。
『は???』
『近づいた!?』
『避けるんじゃないの!?』
『初心者向けどこ行った』
「攻撃が完成する前なら」
俺。
「逆に入った方が安全な場合もあります」
「ジョウゴさん!」
「何?」
「今の初心者に勧めたら駄目です!」
「なんで?」
「失敗したら斬られます!」
「ゲームだから多少は――」
「HP減ります!」
『ミナ正論』
『これは上級編』
『真似するな危険』
俺。
「……じゃあ今のなしで」
『なしにするなw』
◇◇◇
《現在視聴者数:56,907》
「…………」
数字。
見ない。
見てない。
「ジョウゴさん」
「何?」
「今、視聴者数見て固まりかけましたよね?」
「見てない」
『見てた』
『視線マーカーが人数に行ったぞ』
「視線トラッキング、こういう欠点あるの?」
『嘘つけないw』
「OFFにしたくなってきた」
◇◇◇
「次」
レント。
「俺がやろうか」
「弓?」
「ああ」
「遠距離攻撃も?」
ミナ。
興味。
「見切れるんですか?」
「矢を見て避けるのは難しい」
『まともだ』
『ついに無理って言った』
「でも」
『でも?』
「射手を見ればいい」
『あっ』
『嫌な予感』
レント。
弓。
構える。
「行くぞ」
「ああ」
俺の視線。
矢。
ではない。
レント。
腕。
指。
肩。
「弓の場合」
「引いて」
「止めて」
「放す」
レント。
弦。
引く。
「この」
指。
「離れる瞬間」
ヒュッ!
俺。
半歩。
矢。
横を通過。
『…………』
『待って』
『矢避けたぞ』
『今何した?』
『視線指にあった』
「だから」
俺。
「矢を見て避けたわけじゃない」
「撃つ瞬間を見て動いた」
ミナ。
「それでも普通の人には無理です!」
「距離あればいけるだろ」
「距離何メートルありました?」
「十くらい?」
「近い!」
レントが苦笑。
「俺も撃つ場所分かってるからな」
「実戦だともっと難しい」
「ほら!」
「だから練習」
「またそれ!」
◇◇◇
コメント。
『剣道ってここまでやるの?』
『合気道要素は?』
『古流剣術見たい』
『パリィ教えて』
『崩しって何?』
抽出。
「崩し?」
ちょうどいいか。
「じゃあ次」
俺。
カイトを見る。
「剣を構えて」
「嫌な予感するんだけど」
「大丈夫」
「ジョウゴの大丈夫、信用できない」
「ひどい」
カイト。
木剣。
構える。
「崩しっていうのは」
俺。
近づく。
「簡単に言えば」
肩。
押す。
「相手が踏ん張れない状態を作る」
カイト。
「これ?」
「今は立ってるだろ」
「ああ」
「じゃあ」
右足。
少し前。
「この状態で」
肩。
斜め。
押す。
「うおっ」
カイト。
一歩。
「ほら」
「え?」
「同じくらいの力でも」
「方向で違う」
『おお』
『これは分かる』
『重心か』
「人間って」
俺。
「どの方向でも同じように踏ん張れるわけじゃない」
「だから」
武器。
手。
肘。
肩。
腰。
足。
「相手の重心と身体の向きを見て」
「弱い方向へ力を流す」
ミナ。
「言ってることは分かります」
「よかった」
「できるとは言ってません」
「…………」
『草』
『ミナちゃん代弁者』
◇◇◇
「じゃあ」
カイト。
急に笑う。
「実際にやってみよう」
「何を?」
「崩し」
「俺に?」
「ああ」
「いいよ」
カイト。
木剣。
「今度こそ一本取る!」
「目的変わってない?」
「行くぞ!」
踏み込み。
剣。
横。
俺。
見る。
足。
腰。
肩。
「右」
半歩。
回避。
カイト。
追う。
「まだ!」
二撃目。
「お」
さっきより。
動きが小さい。
「学習した」
「そりゃな!」
俺。
木剣。
合わせる。
カンッ。
流す。
でも。
カイト。
耐える。
「崩れない!」
「じゃあ」
俺。
一歩。
距離。
詰める。
「え?」
左手。
カイトの右肘。
軽く。
方向。
変える。
同時。
足。
一歩。
カイトの外側。
「よっ」
「うおっ!?」
ぐるん。
ドサッ。
《Throw!》
「…………」
静寂。
訓練場。
コメント。
数秒。
『投げたwww』
『剣術講座どこ行った』
『合気道出た』
『結局これだよ!』
『変な剣士復活』
「ジョウゴ!」
地面。
カイト。
「剣の講座じゃなかったのか!?」
「崩しの説明」
「最後投げたじゃねぇか!」
「崩れたから」
「初心者向け!?」
「これは真似しないでください」
『遅いw』
◇◇◇
「俺もやる」
「ルク?」
椅子。
立とうとしている。
「駄目」
「なんで!」
「安静」
「元気!」
「セレナさんとの約束」
「…………」
座る。
「素直」
「約束だから」
「偉い」
「子供扱いするな」
「十二歳」
「子供じゃない」
コメント。
『かわいい』
『ルクえらい』
『ジョウゴより約束守る』
「俺も守りますけど?」
『防衛戦で刀を壊しかけた人』
「それとこれとは別」
◇◇◇
「ジョウゴさん」
ミナ。
「魔法は?」
「魔法?」
「魔法相手の避け方」
「俺、魔法使えないけど」
「私が撃ちます」
「…………」
「怖いんですか?」
「訓練場で火魔法撃つの?」
「訓練用設定あります」
「ああ」
ダメージ軽減。
安全制御。
「なら」
距離。
十数メートル。
ミナ。
杖。
「行きます!」
「どうぞ」
「《ファイアアロー》!」
杖。
魔法陣。
炎。
「これは」
俺。
すぐ。
横。
一歩。
ヒュンッ!
炎の矢。
通過。
「簡単」
「は?」
ミナ。
「魔法陣出ますよね」
「はい」
「杖向けますよね」
「はい」
「それ見れば」
「いやいやいや!」
ミナ。
杖。
下ろす。
「速いですよ!?」
「でも弓より分かりやすい」
『ジョウゴ基準』
『魔法が簡単扱い』
『魔術師泣いてるぞ』
「次!」
ミナ。
少しムキになる。
「《ファイアボール》!」
大きい。
「それは」
着弾。
範囲。
「距離取る」
走る。
ドォン!
爆発。
範囲外。
「避けた」
「普通!」
ミナ。
「それは普通!」
「よかった」
『初めて普通認定』
◇◇◇
講座。
続く。
基本回避。
パリィ。
アーツへの対処。
弓。
魔法。
崩し。
気づけば。
《配信時間:02:47:16》
「二時間以上やってた?」
「講座だけで一時間半くらいですね」
レント。
「そんなに?」
コメント。
『一瞬だった』
『めっちゃ面白かった』
『視線トラッキング神』
『参考になった』
『参考にはなった。できるとは言ってない』
『初心者講座(経験十年以上推奨)』
「十年以上はいらない」
『本人が言うな』
◇◇◇
ポーン。
《配信内行動を解析》
「ん?」
《複数プレイヤーへの戦闘技術指導を確認》
《視線情報・実演・反復説明による技能共有》
《特殊称号条件を一部達成しました》
「また何か出た」
「何です?」
《称号候補》
《指南役》
「指南役?」
カイト。
「似合ってるじゃん」
「まだ候補」
「取るんじゃないですか?」
ミナ。
「要らないとは言わないけど」
『先生!』
『ジョウゴ先生』
『師範!』
「先生はやめてください」
『師範代?』
「……なんで知ってる?」
コメント。
一瞬。
『え?』
『マジ?』
『本当に師範代なの?』
「…………」
しまった。
現実の話。
別に個人特定に繋がるほどではない。
でも。
「剣道は長くやってます」
これくらい。
「その関係で人に教えることもある」
『やっぱりガチ勢!』
『普通じゃない理由判明』
『合気道は?』
「それも長いです」
『古流は?』
「それも」
『全部長いじゃねえか!』
「だから」
俺。
「ゲーム始めて突然こうなったわけじゃないです」
少し。
真面目に。
「今日の講座も」
「すぐ真似できなくて普通です」
「できなかったからって」
「自分は下手だとか思わなくていいです」
現実の稽古。
最初。
誰だって。
できない。
「できないことを」
「何回もやって」
「少しずつできるようになる」
「それでいいと思います」
コメント。
少し。
流れ。
変わる。
『いいこと言う』
『これは先生』
『練習してみる』
『パリィ失敗しまくってたからちょっと安心した』
『ゲームでも積み重ねか』
「ただ」
一拍。
「死に戻りはほどほどに」
『草』
『急にゲーム』
『大事』
◇◇◇
「そろそろ」
俺。
「ルクも疲れてきた?」
「疲れてない」
欠伸。
「…………」
「帰ろう」
「疲れてない」
「銀麦亭」
「行く」
「即答」
『パンで釣られたw』
「釣ってない」
◇◇◇
訓練場を出る。
街。
昼。
配信。
まだ続いている。
《現在視聴者数:63,104》
「…………」
見ない。
『また人数見たw』
「視線表示、本当に余計なところまでバレるな」
ミナ。
「今さらですね」
◇◇◇
歩いていると。
「あの!」
一人のプレイヤー。
「ジョウゴさん!」
「はい?」
「配信見てました!」
「今も配信中ですけど」
「あっ」
プレイヤー。
一瞬。
固まる。
『映ったw』
『野生の視聴者』
「さっきの肩を見る方法」
「はい」
「試したらホーンラビット避けられました!」
「ホーンラビット?」
「はい!」
「あいつ肩……」
四足。
「前脚の付け根?」
「その辺見ました!」
「なるほど」
人型向け。
応用したのか。
「よかったです」
「ありがとうございます!」
「ただ」
「?」
「角あるから気をつけて」
「はい!」
走っていく。
俺。
「…………」
少し。
嬉しい。
『教えたこと使ってもらえるの嬉しいよな』
『顔ちょっと笑ってる』
「視線だけじゃなく表情まで見ないでください」
『配信だからw』
◇◇◇
銀麦亭。
「ただいま」
「お帰り!」
マリアさん。
「ずいぶん長かったねぇ!」
「講座してた」
「何の?」
「戦い方」
「ジョウゴが?」
「そんなに意外?」
「普段説明下手じゃないかい?」
「マリアさんまで!?」
『NPCにも言われたw』
◇◇◇
ルク。
パン。
食べる。
ミナたちも昼食。
俺。
シチュー。
「また食ってる」
カイト。
「昼だから普通」
「今日三回目くらいじゃない?」
「ゲームだから太らない」
「出た」
『ジョウゴ式健康法』
『現実では真似するな』
◇◇◇
食事の途中。
ポーン。
《CROSS社から配信者向けメッセージ》
「何?」
《初回配信時間が3時間を超えました》
《適度な休憩を推奨します》
「あ」
確かに。
「そろそろ終わりますか」
『えー』
『もう三時間!?』
『早い』
『次回いつ?』
「次回?」
何も決めてない。
「仕事次第です」
『平日夜?』
「ログインは多分しますけど」
「毎回配信するかは分からない」
『了解』
『無理しないで』
『生活優先で』
「ありがとうございます」
意外。
もっと。
毎日やれ。
と言われるかと思った。
◇◇◇
「じゃあ」
俺。
少し姿勢。
正す。
「初配信」
「そろそろ終わります」
『お疲れ!』
『めっちゃ面白かった』
『また見たい』
『次回待ってる』
「最初」
俺。
思い出す。
「何するか決めてませんって言いましたけど」
『言ったw』
「結局」
指。
数える。
「朝飯」
「リンゴ」
「ルクのお見舞い」
「また飯」
「戦闘講座」
「また飯」
ミナ。
吹き出す。
「食事多くないですか?」
「俺も今思った」
『飯配信w』
『AWO生活だからヨシ』
『戦闘講座より飯回数多い』
「次も」
一拍。
「多分、こんな感じです」
『それでいい!』
『むしろそれがいい』
『ノープラン歓迎』
『AWO生活見せてくれ』
「じゃあ」
「今日はありがとうございました」
少し。
頭。
下げる。
「また」
考える。
「AWOで会いましょう」
ポーン。
《LIVE配信を終了しますか?》
「終了」
《YES》
《LIVE END》
◇◇◇
静か。
「…………」
視界。
コメント。
消えた。
「終わった」
「どうでした?」
ミナ。
「思ったより楽しかった」
「おお」
「でも」
「?」
「疲れた」
「三万人どころじゃなかったですもんね」
「最後六万超えてた」
「見たんですね」
「見えた」
カイト。
「最大何人?」
「知らない」
ポーン。
《配信結果》
《配信時間:3時間18分》
《最大同時視聴者数:67,428》
《累計視聴者数:184,503》
「…………」
「どうでした?」
「見なかったことにする」
「無理ですよ!」
◇◇◇
現実世界。
CROSS社。
「終了しました」
「最大同接六万七千」
「初配信としては?」
「想定を大幅に上回っています」
「視聴維持率も高い」
「戦闘開始で伸びた?」
「いえ」
「?」
「朝食からほとんど落ちていません」
「……本当に?」
「むしろルクとの交流で上昇」
「講座開始でさらに上昇」
神崎。
データ。
見る。
「コメント評価は?」
「非常に良好」
「配信終了時点で次回希望多数」
「切り抜き候補は?」
「大量です」
「特に?」
「『剣を見ずに肩を見る』」
「『矢ではなく射手を見る』」
「『簡単』発言」
「カイトさんを投げた場面」
「それから」
「?」
「昼食三回目です」
「そこ?」
「かなり人気です」
神崎。
笑う。
「やっぱり」
「この人は」
「配信を作らない方がいいですね」
◇◇◇
その数時間後。
AWO公式掲示板。
---
【祝】ジョウゴ初配信感想スレ
1:名無しの冒険者
初配信終了。
2:名無しの冒険者
感想。
3:名無しの冒険者
飯。
4:名無しの冒険者
飯。
5:名無しの冒険者
飯。
6:名無しの冒険者
お前らw
7:名無しの冒険者
戦闘講座すごかっただろ!
8:名無しの冒険者
初心者向けとは。
9:名無しの冒険者
「肩見ればいい」
10:名無しの冒険者
できねえよ!
11:名無しの冒険者
「矢じゃなくて射手見ればいい」
12:名無しの冒険者
できねえよ!!
13:名無しの冒険者
アーツ発動前に懐入る。
14:名無しの冒険者
絶対真似するな。
15:名無しの冒険者
でも肩見るのは普通に参考になった。
16:名無しの冒険者
俺も回避率上がった。
17:名無しの冒険者
理論は初心者向け。
18:名無しの冒険者
実演者がおかしい。
19:名無しの冒険者
結論。
20:名無しの冒険者
《ジョウゴ式・初心者向け講座》
21:名無しの冒険者
※初心者ができるとは言っていない。
22:名無しの冒険者
草。
23:名無しの冒険者
次回まだ?
24:名無しの冒険者
本人「仕事次第」。
25:名無しの冒険者
社会人配信者だから仕方ない。
26:名無しの冒険者
むしろ無理せず続けてほしい。
27:名無しの冒険者
次はバルガの刀開発見たい。
28:名無しの冒険者
ルクの故郷クエストも。
29:名無しの冒険者
猫も。
30:名無しの冒険者
長い棒も。
31:名無しの冒険者
長い棒はもう忘れろw
---
こうして。
俺の初配信は。
無事――たぶん無事に。
終了した。
俺としては。
朝飯を食べて。
街を歩いて。
ルクに会って。
少し戦い方を説明した。
ただそれだけ。
けれど。
それから間もなく。
AWOの訓練場では。
「肩を見るんだ!」
「肩!」
「いや腰じゃね!?」
「ジョウゴは足も見てたぞ!」
「全部見ろってこと!?」
「無理だ!」
俺の配信を見た初心者たちが。
一斉に。
回避やパリィの練習を始めることになる。
そして。
その光景を見たNPC冒険者たちが。
「最近の異邦人は、なぜ急に足元ばかり見ているんだ?」
と首を傾げることになるのだが。
それを俺が知るのは。
もう少し先の話だった。




