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Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第一章 AWO開始編

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26/133

第26話 初配信は朝食から

《LIVE》


《現在視聴者数:31,842》


「…………」


 三万。


 改めて見ると、とんでもない数字だ。


 俺――ジョウゴは、《銀麦亭》の食堂で数秒ほど固まっていた。


 視界の端では、CROSS社のシステムによって抽出されたコメントが次々と流れている。


『三万人に気づいたw』


『固まってて草』


『ジョウゴ頑張れ』


『人数は気にするな!』


『いつも通りでいいぞ』


『むしろ普段通りが見たい』


「……人数は見なかったことにします」


『現実逃避w』


『それが正解』


『三万人を無視する男』


『もう増えてるぞ』


「増えてるって言わないでください」


『コメントに返した!』


『ちゃんと読んでるw』


『敬語なのちょっと新鮮』


 ……配信。


 思っていたより難しい。


 戦闘なら相手を見るだけでいい。


 今はコメントまで気になる。


「ジョウゴ!」


「あ?」


「朝飯どうするんだい?」


 女将のマリアさんが腰に手を当てている。


「ああ。お願いします」


「何にする?」


「おすすめで」


「今日は焼きたてパンに卵、ベーコン、それと野菜スープだよ!」


「それで」


「あいよ!」


『うまそう』


『VR飯きた』


『初配信開始5分で朝食』


『攻略配信とは』


『いやこれがAWOだろ』


『銀麦亭行きたい』


『マリアさん今日も元気』


 マリアさんが俺の視線の先を見た。


「そいつら、何て言ってるんだい?」


「朝飯が美味そうって」


「そりゃそうさ!」


 胸を張る。


「うちの料理だからね!」


『さすがマリアさん』


『自信満々w』


『銀麦亭宣伝配信になってる』


『店の売上増えそう』


「あと、店に来たいって」


「だったら来ればいいじゃないか」


「三万人ですけど」


「…………」


 マリアさんが店内を見回す。


 十数卓。


「交代制だねぇ」


「受け入れるんだ」


『強い』


『三万人を交代制で捌く女将』


『予約何年待ちになるんだw』


 俺は。


 思わず笑った。


 配信開始前まであった緊張。


 気づけば。


 かなり消えていた。


         ◇◇◇


「お待たせ!」


 ドンッ。


 目の前。


 朝食。


《銀麦亭の朝食セット》


 焼きたてのパン。


 目玉焼き。


 分厚いベーコン。


 野菜。


 湯気を立てるスープ。


「いただきます」


『いただきます!』


『飯テロ開始』


『朝飯食べたのに腹減る』


『VR食事って実際どうなん?』


 一口。


 スープ。


「うん」


『感想それだけ!?』


『うんw』


『食レポ初心者』


「美味しいですよ」


『急に補足したw』


「食レポするために食べてるわけじゃないので」


『正論』


『これがジョウゴ』


『CROSS、食レポ指導しなかったのかw』


 しばらく。


 普通に食べる。


 パン。


 カリッ。


 香ばしい。


 ベーコン。


 塩気。


 卵。


 黄身。


「これ」


『?』


「ゲームなんですよね」


『今さら!?』


『サービス開始何日目だよw』


「こうやって普通に飯食べてると、忘れそうになる」


 窓。


 朝の街。


 通りを歩くNPC。


 馬車。


 パン屋。


 声。


 匂い。


「だから」


 スープ。


 一口。


「俺は結構好きです。このゲーム」


 コメント。


 一瞬。


 少しだけ。


 雰囲気が変わった。


『分かる』


『AWOの良さそこだよな』


『攻略だけじゃない』


『生活できるのいい』


『ジョウゴが人気出た理由分かった気がする』


『こういう配信好きだわ』


「人気出た理由?」


 余計なコメント拾った。


『気づいてないw』


『本人だけ知らない』


『128万再生の男』


「その話はやめましょう」


『逃げたw』


         ◇◇◇


「ジョウゴさん!」


 声。


 入口。


 振り向く。


 ミナ。


 その後ろ。


 カイト。


 レント。


「来た」


『ミナちゃん!』


『いつものPT!』


『カイトだ』


『レントもいる』


『動画で見た人たちだ』


 ミナたちが近づいてくる。


「配信始まってます?」


「始まってる」


「何人?」


「聞かない方がいい」


「え?」


「俺の精神衛生のために」


 カイトが笑った。


「三万くらい?」


「言うな」


「合ってる!?」


『草』


『カイト速攻で踏んだw』


『今3.6万』


「増えてるじゃねぇか!」


『自分から見たw』


『三万六千おめ』


「コメント表示消そうかな」


『やめて!』


『ごめんなさい!』


『数字言わないから!』


「視聴者と交渉してる」


 レントが苦笑する。


         ◇◇◇


「それで」


 ミナが席へ座る。


「今日は何するんです?」


「まだ決めてない」


「本当にノープラン!?」


「昨日言っただろ」


『知ってた』


『ノープラン配信』


『ルクに会ってほしい』


『バルガの工房』


『刀見たい』


『戦闘も見たい』


『猫!』


『長い棒!』


「長い棒推してる人、何なんですか?」


『伝統芸』


『罠解除スキル:長い棒』


「そんなスキルないから」


 しかし。


 候補。


 ルク。


 バルガ。


 街。


 森。


「じゃあ」


 俺は朝食の最後のパンを食べる。


「まずルクのところ行きます」


『ルク!』


『ハーフエルフの子?』


『救出した子だ』


『会いたかった』


「ただ」


 俺はコメントを見る。


「一つお願いがあります」


『なんだ?』


「ルクはNPCだけど」


 一拍。


「見世物じゃないので」


 コメント。


 少し静かになる。


「嫌がることはしないでください」


「あと」


「種族とか家族の話を無理に聞くのもなし」


「俺も必要以上には聞きません」


 AWOのNPC。


 人間ではない。


 それでも。


 俺にとって。


 話している時は。


 ただの登場人物という感覚ではない。


「それが守れるなら」


「一緒に会いに行きましょう」


 数秒後。


『了解』


『もちろん』


『それでいい』


『ジョウゴらしい』


『ルク優先で』


『コメント映るわけじゃないけどなw』


「確かに」


 本人にはコメント見えないんだった。


「まあ俺が変なコメント拾わなければいいか」


『責任重大w』


         ◇◇◇


 銀麦亭を出る。


「行ってきます」


「いってらっしゃい!」


 マリアさん。


「また飯食いにおいで!」


「多分夜に」


「はいよ!」


『実家かな?』


『完全に帰る場所になってる』


『銀麦亭=ジョウゴの実家説』


「俺の家は現実にあります」


『そりゃそうだw』


         ◇◇◇


 街。


 一人称視点。


「これがシズナ」


 俺。


 歩く。


「始めた時からいる街です」


 中央通り。


 露店。


 冒険者。


 NPC。


『うおお』


『一人称すげえ』


『普通の動画と全然違う』


『視線動くな』


『何見てる?』


「今?」


 視線。


 左。


「露店」


 右。


「馬車」


 前。


「人」


 上。


「看板」


『めっちゃ見てる』


『戦闘じゃなくても視線忙しい』


「歩く時は普通じゃない?」


 ミナ。


「ジョウゴさんの普通は禁止です」


「配信中まで?」


『公式設定だったw』


『普通禁止w』


         ◇◇◇


 その時。


「おや!」


 露店。


「兄ちゃん!」


「ベルさん」


 初日。


 リンゴを買った老婆。


《露店商 ベル》


「今日は随分人を連れてるじゃないか!」


「見えない人が三万人くらいいます」


「何だそりゃ」


「説明難しい」


「また異邦人の妙なことかい?」


「多分」


『ベル婆ちゃん!』


『最初のリンゴの人!』


『覚えてるのすごい』


「リンゴ食うかい?」


「ください」


「毎度!」


《リンゴを購入しました》


 シャリ。


「うまい」


『朝飯食った直後w』


『食べ歩き』


『この配信ずっと飯食ってない?』


「ゲーム内なら太らないから」


 ミナ。


「ジョウゴさん、それ初日から言ってますね」


「重要だから」


『名言』


『VRMMO最大の利点』


         ◇◇◇


 診療所。


「ここ」


《シズナ冒険者ギルド診療所》


 俺は扉へ手を掛ける。


 でも。


 止める。


「配信」


『?』


「NPC個人情報保護処理って」


 設定。


《NPCプライバシー保護》


《センシティブ場面の自動映像制御:ON》


《医療施設内:保護処理適用》


「ちゃんとしてる」


 CROSS社。


 いや。


 AWO側か。


「入ります」


         ◇◇◇


「こんにちは」


 治療師セレナさん。


「あら、ジョウゴさん」


「ルクは?」


「奥ですよ」


「今日は会って大丈夫?」


「ええ。朝から元気です」


「よかった」


『NPCにちゃんと許可取るんだ』


『医療施設だからな』


『細かいけど大事』


 奥。


 扉。


 ノック。


「ルク」


「!」


 中。


「入るぞ」


「……うん!」


 扉。


 開く。


「よう」


「ジョウゴ!」


 ルク。


 ベッド。


 元気そう。


『いた!』


『かわいい』


『元気そうでよかった』


 ただ。


 ルク。


 俺の後ろ。


「今日、なんか変」


「何が?」


「ジョウゴ」


「俺?」


「誰かいる感じする」


「…………」


 ミナたち。


 止まる。


 俺も。


「分かるの?」


「なんとなく」


 配信。


 視聴者。


 ゲーム内には存在しないはず。


 なのに。


「面白いな」


 俺。


 正直に。


「今日は」


「うん」


「俺の見てるものを、向こう側の人たちにも見てもらってる」


「向こう側?」


「前に話しただろ」


「ジョウゴが時々帰るところ?」


「そう」


「そこに人いる?」


「いる」


「いっぱい?」


 今。


《現在視聴者数:42,713》


「…………」


「いっぱい」


「どれくらい?」


「この街に入りきらないくらい」


「すごい」


『ざっくり説明w』


『嘘ではない』


『4万人だからな』


「みんなルクが元気か気になってたみたい」


「俺?」


「ああ」


 ルク。


 少し。


 照れる。


「……変なの」


「俺もそう思う」


『本人に変って言われたw』


『ジョウゴと同類扱い』


         ◇◇◇


「これ」


 ルク。


 何か。


 差し出す。


「何?」


 木の小さな板。


 削ってある。


「作った」


「何を?」


「ジョウゴのカタナ」


「……刀?」


 見る。


 細長い木。


 少し反っている。


 柄。


 簡単な鍔。


《木彫りの刀》


《製作者:ルク》


《特別な効果はありません》


「…………」


「変?」


「いや」


 俺は受け取る。


「嬉しい」


「ほんと?」


「ああ」


「よかった」


『うわ』


『これは嬉しい』


『ルク……』


『大事にしろよ』


「もちろん」


 アイテム欄。


 昨日の《シズナの小花》。


 その隣。


《木彫りの刀》


「売らない」


『即答w』


『当たり前だ』


『宝物枠』


         ◇◇◇


「ジョウゴ」


「ん?」


「今日も冒険?」


「どうしようかな」


「決めてないの?」


「ああ」


「変」


「また言った」


「普通は決める」


「十二歳に正論言われた」


 ミナ。


 吹き出す。


「ルク君!」


「?」


「もっと言ってあげて!」


「ミナ、どっちの味方?」


         ◇◇◇


「外」


 ルク。


 窓。


 見る。


「出たい?」


「……少し」


 セレナさん。


 確認。


「短時間なら構いませんよ」


「本当?」


 ルク。


 目。


 輝く。


「走ったりはしないこと」


「うん!」


「じゃあ」


 俺。


「銀麦亭行く?」


「!」


「パン」


「行く!」


「即答」


『食いついたw』


『パン強い』


『マリアさんとの初対面!』


         ◇◇◇


 こうして。


 初配信。


 開始から約一時間。


 派手な戦闘。


 ゼロ。


 ダンジョン。


 ゼロ。


 攻略。


 ゼロ。


 やっていること。


 朝食。


 街歩き。


 リンゴ。


 NPCへのお見舞い。


 そして。


「ジョウゴ、ゆっくり!」


「走ってるのルクだぞ!」


「だってパン!」


「セレナさんに走るなって言われただろ!」


「走ってない!」


「それ早歩きっていうんだ!」


『草』


『完全に保護者』


『初配信どこ行ったw』


『これが見たかった』


『戦闘なくても面白い』


『AWO生活配信だ』


 現在視聴者数。


《47,382》


 減るどころか。


 なぜか。


 増えていた。


         ◇◇◇


 CROSS社。


「四万七千」


「戦闘してませんよね?」


「してません」


「一時間で?」


「朝食と街歩きとお見舞いです」


「……伸びてます」


 神崎。


 モニター。


 ルクの歩調に合わせて、少しゆっくり歩くジョウゴ。


「予想通りですね」


「何がです?」


「この人」


 一拍。


「やっぱり配信者らしいことをしない」


「なのに」


「見てしまう」


 スタッフ。


 頷く。


「コメントの空気もいいですね」


「モデレーションは?」


「問題なし」


「センシティブなコメントは自動除外」


「なら継続」


         ◇◇◇


 銀麦亭。


「マリアさん」


「あいよ――」


 マリアさん。


 ルク。


 見る。


「あんたがルクかい?」


「……うん」


「ジョウゴから聞いたよ」


「何を?」


「パンが好きだって」


「ジョウゴ!」


「間違ってないだろ」


「恥ずかしい!」


「ハハハハ!」


 マリアさん。


 ルクの頭。


 撫でる。


「いっぱい食べな!」


「いいの?」


「もちろん!」


「お金」


「最初くらいサービスだよ!」


「…………」


「どうした?」


「ありがとう」


「いい子だねぇ!」


『マリアさん……』


『銀麦亭あったけえ』


『こういうの好き』


『もう実家でいいだろ』


 俺たち。


 席。


 座る。


「また食うの?」


 カイト。


「俺じゃない」


「ジョウゴさんも食べるでしょ?」


 ミナ。


「…………」


「食べるんですね」


「少しくらい」


『二度目の朝飯w』


         ◇◇◇


 そして。


 その時だった。


 ポーン。


《特殊クエスト情報が更新されました》


「ん?」


《ルクの故郷》


《新たな情報提供者が存在します》


「情報?」


 どこ?


 システム。


《シズナ住民との交流により、条件を満たしました》


 そして。


「エルナ村?」


 マリアさん。


「え?」


 全員。


 見る。


「今、エルナ村って出た?」


 俺。


「マリアさん、知ってる?」


「昔ね」


 マリアさん。


 少し。


 考える。


「そこから来た旅人を泊めたことがあるよ」


「いつ?」


「十年くらい前だったかねぇ」


 ルク。


 パン。


 止まる。


「ほんと?」


「ああ」


「どこ?」


「確か」


 マリアさん。


「西の古街道を通ってきたって言ってた」


《クエスト情報更新》


《エルナ村へ続く可能性がある旧街道の情報を獲得しました》


《新規調査地点:西門・旧街道跡》


「進んだ」


 ルク。


 俺。


 見る。


「ジョウゴ」


「ああ」


「行く?」


「今日は」


 俺。


 ルクの体調。


 見る。


「行かない」


「え?」


「ルクはまだ休む」


「でも」


「場所は逃げない」


 それに。


「ちゃんと準備してから行く」


 ルク。


 少し。


 不満そう。


 でも。


「……分かった」


「明日以降」


「約束?」


「ああ」


「約束」


『無理に進めないのいい』


『ジョウゴこういうとこ堅実』


『配信映えよりNPC優先』


『CROSSが声掛けた理由分かる』


         ◇◇◇


「ということで」


 俺。


 コメント。


「今日、西へ行くのはやめます」


『了解』


『ルク休ませよう』


『じゃあ何する?』


「それなんですけど」


 刀。


 腰。


「せっかく配信なので」


『お?』


『ついに戦闘?』


『刀!』


「視線トラッキングを使って」


 一拍。


「ちょっと戦い方の説明でもします?」


 コメント。


 数秒。


 そして。


『きたあああああ!』


『待ってた!』


『見切り講座!』


『リアル武術講座!?』


『訓練場行こう!』


 ミナ。


 拳。


 握る。


「やった!」


「なんでミナが一番喜んでる?」


「私も知りたいからです!」


「いつも横で見てるだろ」


「見ても分からないんです!」


「そんなに?」


「そんなにです!」


 ルク。


「俺も見る」


「休まなくていい?」


「座って見る」


「なら」


 俺。


 立つ。


「訓練場行きますか」


         ◇◇◇


 初配信。


 第二部。


 朝食。


 街歩き。


 ルク。


 それだけで終わるはずだった配信は。


 ここから。


 視聴者たちが待ち望んでいた。


 ジョウゴの一人称視点による戦闘解説


 へ移ることになる。


 そして。


 俺はまだ知らなかった。


「簡単に説明すればいいか」


 そう考えているこの講座が。


 後にAWOプレイヤーたちから。


 《ジョウゴ式・初心者向け講座》


 などと呼ばれ。


「初心者向けの難易度じゃない」


 と総ツッコミを受けることになるとは――。

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