第24話 約束は守るもの
《Welcome Back》
《Another World Online》
「今日はまず診療所だな」
俺――ジョウゴは、《銀麦亭》七号室で装備を整えながら呟いた。
昨日。
ゴブリン集落跡地から続く足跡を追い。
森の奥で一人の少年を見つけた。
名前はルク。
十二歳。
ハーフエルフ。
ゴブリンに村を襲われ。
捕らえられ。
防衛戦の混乱に乗じて、一人で逃げ出していた。
そして。
『また来る?』
『もちろん』
『約束?』
『約束』
「言ったからにはな」
会いに行く。
それだけだ。
◇◇◇
一階へ降りる。
「おや、ジョウゴ!」
「こんばんは、マリアさん」
「今日は冒険かい?」
「その前に人に会ってくる」
「昨日連れてきた子かい?」
「知ってるんですか?」
「街じゃちょっとした話になってるよ」
「早いな」
「ゴブリンに捕まってた子を冒険者が助けたんだから当然さ」
マリアさんが俺を見る。
「今日はちゃんと行くんだろうね?」
「もちろん」
「ならいい」
「?」
「子供との約束は守るもんだよ」
「同感です」
「珍しく意見が合ったねぇ」
「普段から合ってるでしょう」
「どうだか!」
笑われた。
◇◇◇
銀麦亭を出る。
「ジョウゴさん!」
「やっぱりいた」
ミナ。
カイト。
レント。
「お前らも行く?」
「もちろん!」
「ルクの様子気になるしな」
「俺も」
「じゃあ一緒に」
四人で冒険者ギルドへ向かう。
「そういえば」
ミナが歩きながら言う。
「CROSS社の契約、どうなりました?」
「送った」
「えっ」
「昨日同意した」
三人が止まる。
「正式に!?」
「手続きはまだ最終確認中だけど」
「じゃあ本当に配信するんですね!」
「多分」
「まだ多分なんだ」
レントが笑う。
「配信システムが開放されたら試してみる」
「初配信どうします?」
「何も決めてない」
「ほんとに何も?」
「うん」
「ジョウゴらしいな」
「褒めてる?」
「半分」
◇◇◇
《シズナ冒険者ギルド診療所》
ギルド本館の隣にある小さな建物。
扉を開く。
「失礼します」
「はい――あら」
白衣のような服を着た女性NPCがこちらを見る。
《治療師 セレナ》
「ジョウゴさんですね」
「俺のこと知ってる?」
「ルク君から何度も聞いています」
「何を?」
「『変なカタナを持ったジョウゴが来る』と」
「…………」
後ろ。
カイト。
吹き出す。
「笑うな」
「本人公認じゃん!」
「公認じゃない」
セレナさんも少し笑う。
「奥の部屋です」
「入って大丈夫ですか?」
「もちろん」
◇◇◇
扉。
ノック。
「ルク」
返事なし。
「入るぞ」
ゆっくり扉を開ける。
小さな部屋。
ベッド。
椅子。
窓。
そして。
「…………」
窓際。
ルク。
座っている。
俺を見る。
「よう」
「…………」
「来たぞ」
「……本当に?」
「何が?」
「来た」
「約束しただろ」
ルク。
目。
少し大きくなる。
「忘れてなかった?」
「忘れるほど昨日のこと昔じゃない」
「…………」
「体調どう?」
「だいじょうぶ」
「本当に?」
「ほんと」
セレナさん。
後ろから。
「栄養不足と疲労が少しありますが、大きな怪我はありません」
「よかった」
「ただ」
セレナさん。
少し表情を曇らせる。
「しばらく安静ですね」
「分かりました」
◇◇◇
「ジョウゴ」
「ん?」
「その三人も昨日の?」
「そう」
順番。
「ミナ」
「こんにちは!」
「カイト」
「よう!」
「レント」
「どうも」
「…………」
ルク。
少し。
安心した顔。
「昨日助けてくれた」
「ああ」
「みんな?」
「みんな」
「ジョウゴだけじゃない?」
「俺一人じゃ無理だよ」
三人。
こっちを見る。
「何?」
「いや」
ミナ。
笑う。
「ちゃんとそう言うんだなって」
「事実だろ」
「そうですけど」
ルク。
「ジョウゴ」
「何?」
「強い?」
「普通」
三人。
「「「普通じゃない」」」
「お前ら!」
ルク。
笑う。
「やっぱり変」
「誰が?」
「ジョウゴ」
「なんでだよ」
でも。
昨日よりずっと。
表情が柔らかい。
◇◇◇
「ルク」
「ん?」
「これ」
アイテム欄。
取り出す。
《銀麦パン》
「マリアさんのところの」
「……パン」
「今日はちゃんと食ってるだろうけど」
「食べる」
「即答だな」
「お腹空いてない」
「はいはい」
ぐぅ。
「…………」
「…………」
カイト。
「昨日と同じじゃん」
「うるさい!」
ルク。
顔。
赤い。
「食べろ食べろ」
パン。
渡す。
小さくかじる。
「……おいしい」
「だろ」
「ジョウゴが作った?」
「違う」
「マリアさん」
「誰?」
「銀麦亭の女将」
「宿?」
「そう」
「…………」
「元気になったら連れてく」
ルク。
顔。
上げる。
「いいの?」
「もちろん」
「約束?」
「また約束増えた」
「嫌?」
「嫌じゃない」
「じゃあ約束」
「約束」
◇◇◇
その時。
ポーン。
《NPC:ルクとの友好度が上昇しました》
《特殊交流条件を達成しました》
《ルクからの信頼が上昇しています》
「出た」
「またジョウゴさんだけ?」
ミナ。
自分のメニュー。
確認。
「私は出てません」
「俺も」
「俺もだ」
「なんで?」
「もう答え出てるだろ」
カイト。
「ルクがジョウゴに懐いてる」
「懐いてない!」
ルク。
即答。
「本人否定してるぞ」
「顔真っ赤だけど」
「ミナ!」
「はいはい」
◇◇◇
「ところで」
俺。
少し。
気になっていた。
「ルク」
「何?」
「聞いてもいい?」
「…………」
「嫌なら答えなくていい」
「何?」
「村のこと」
ルク。
手。
止まる。
「…………」
「無理ならいい」
「……少しだけ」
静か。
三人も。
何も言わない。
「村」
ルク。
小さな声。
「森の西」
「どれくらい?」
「分からない」
「歩いて?」
「何日か」
かなり遠い。
「名前は?」
「エルナ村」
《地名情報を取得しました》
《エルナ村》
《現在地不明》
「エルナ」
「人間とエルフが住んでた」
「混合の村?」
「うん」
「ルクの家族は?」
「…………」
沈黙。
やっぱり。
聞くべきではなかったか。
「ごめん」
「お母さん」
「?」
「エルフ」
「うん」
「お父さん」
「人間」
「うん」
「……いなくなった」
胸。
少し重い。
「襲撃の時?」
ルク。
頷く。
「死んだかは?」
「分からない」
「…………」
「ゴブリン来て」
「村、燃えて」
「みんな逃げて」
「俺」
「捕まった」
拳。
握っている。
「そこから分からない」
なるほど。
死んだと。
確定してはいない。
「じゃあ」
俺。
「探せるかもしれない」
「え?」
「生きてる可能性あるだろ」
「…………」
「もちろん」
俺は続ける。
「今すぐじゃない」
「場所も分からない」
「情報集めてから」
「でも」
「可能性ゼロじゃないなら」
ルク。
俺を見る。
「探してくれる?」
その言葉。
「探すの手伝う」
「…………」
「俺一人で見つけられるとは言えない」
「でも」
「できることはする」
ルク。
下。
向く。
「……うん」
◇◇◇
ポーン。
《特殊クエストが発生しました》
「ん?」
《ルクの故郷》
《ハーフエルフの少年ルクの故郷《エルナ村》に関する情報を集めてください》
《目的地:未判明》
《制限時間:なし》
《クエスト種別:長期》
「長期クエスト」
ミナが覗く。
「私たちにも来ました!」
「今回は全員?」
「ああ」
カイト。
「来てる」
「俺も」
「じゃあ」
俺。
「四人で探せるな」
ルク。
「ほんと?」
「ああ」
「でも」
カイト。
「場所不明だぞ」
「だから」
レント。
「情報収集からだな」
「冒険者ギルドに聞いてみましょう」
ミナ。
「決まり」
◇◇◇
診療所を出る前。
「ジョウゴ」
「ん?」
「帰る?」
「一回ギルド」
「その後?」
「街歩くかも」
「…………」
「どうした?」
「また来る?」
「ああ」
「明日?」
「仕事が長引かなければ」
「仕事?」
「あ」
NPCへ。
現実の銀行員。
どう説明する?
「俺たち異邦人には」
「?」
「向こう側の生活がある」
「向こう?」
「説明難しいな」
AWO。
NPCにとってプレイヤーのログアウトは。
どういう扱いなんだろう。
その時。
セレナさん。
「異邦人の方々は時折、この世界から姿を消します」
「知ってるんですね」
「ええ」
「また戻ってくることも」
「もちろん」
ルク。
「ジョウゴも?」
「ああ」
「消える?」
「一時的に」
「戻る?」
「戻る」
「絶対?」
「絶対とは……」
言いかけ。
止める。
現実。
何が起きるか分からない。
でも。
今は。
「戻るよ」
ルク。
「……分かった」
◇◇◇
冒険者ギルド。
「エルナ村?」
受付嬢エリナさん。
「聞いたことは?」
「少々お待ちください」
資料。
地図。
確認。
「……あります」
「本当?」
「ただし」
「?」
「現在の街道地図には載っていません」
「廃村?」
「可能性があります」
古い資料。
「約十五年前」
「シズナ西部の森林地帯」
「人間とエルフが共同生活する小規模集落として記録」
「その後?」
「交易記録が途絶えています」
「十五年前?」
ルク。
十二歳。
「ルクが生まれる前から?」
「記録がないだけで」
レント。
「村自体は残ってた可能性あるな」
「はい」
エリナさん。
「小規模な村は、正式な交易路から外れると記録が途切れることがあります」
「位置は?」
「大まかにしか」
地図。
シズナ。
南西林。
さらに西。
広い森林。
《西方森林地帯》
《未探索区域》
「かなり広い」
「今すぐ探すのは無理ですね」
ミナ。
「ああ」
でも。
《ルクの故郷》
《情報更新》
《エルナ村はシズナ西方森林地帯に存在した可能性があります》
「一歩進んだ」
◇◇◇
ギルドを出る。
「今日はどうする?」
カイト。
「西へ行く?」
「行かない」
「即答」
「情報少なすぎ」
「ですよね」
ミナ。
「じゃあ?」
「バルガ」
「刀?」
「ああ」
試作二号。
それと。
《鍛冶師バルガと刀》
《第五段階:強さと粘り》
素材情報。
こっちも進めたい。
「その後」
「街」
「また観光?」
「職人に聞く」
「素材?」
「そう」
「なるほど」
レント。
「長期クエスト二つ並行する感じか」
「急ぐ必要ないし」
歩く。
今日も。
AWO。
やることが。
勝手に増える。
◇◇◇
その時。
ポーン。
《公式メッセージが届きました》
「ん?」
送信元。
《CROSS社》
「来た」
「配信ですか!?」
ミナ。
「多分」
開く。
《CROSS配信支援システムの利用許可が完了しました》
《プレイヤー:ジョウゴ》
《配信機能が解放されました》
「……お」
三人。
覗く。
《利用可能機能》
《一人称視点配信》
《三人称追従カメラ》
《視線トラッキング》
《コメント表示》
《コメント読み上げ》
《戦闘ログ連携》
《遅延設定》
《プライバシー保護機能》
《NPC個人情報保護処理》
「本当に来た」
「今日やります!?」
ミナ。
「今?」
「初配信!」
「急すぎない?」
「でも機能開放されたんですよ!」
「告知は?」
レント。
「それ」
次。
《初回配信テストをご希望の場合、そのまま開始できます》
《事前告知を希望する場合はCROSS社側で告知支援可能》
「どうする?」
カイト。
「…………」
俺。
少し考える。
「今日は」
三人。
注目。
「テストだけ」
「おお!」
「本配信じゃなくて」
「非公開?」
「そう」
「それがいいですね」
ミナ。
「いきなり数千人来たら大変ですし」
「数千って決まってないだろ」
三人。
黙る。
「何?」
「もっと来そう」
「やめろ」
◇◇◇
《配信テストモード》
《公開範囲:非公開》
《視点:一人称》
《視線トラッキング:ON》
《コメント:OFF》
「開始」
《配信テストを開始します》
視界。
何も変わらない。
「始まった?」
カイト。
「多分」
システム。
《REC》
小さく。
端。
「歩いてみる」
街。
見る。
ミナ。
カイト。
レント。
「視線」
「何?」
「俺が見てる場所」
赤い小さなマーカー。
テスト画面。
「カイトの盾」
「おお」
視線。
盾。
「ミナの杖」
「はい」
「レントの弓」
「こっち」
さらに。
通り。
人。
看板。
「全部分かるな」
「戦闘で使うと面白そう」
レント。
「ああ」
「ジョウゴが何見て避けてるのか」
ミナ。
「やっと説明できますね!」
「俺、そんな説明下手?」
「かなり」
「ひどい」
◇◇◇
「試しに」
カイト。
「俺が木剣振ろうか?」
「街中だから駄目」
「あ」
「訓練場行けば」
「行こう!」
「なんでそんなノリノリ?」
◇◇◇
冒険者ギルド訓練場。
木剣。
カイト。
「いくぞ!」
「ああ」
《配信テスト継続中》
一人称。
視線マーカー。
カイト。
まず。
足。
「足?」
ミナ。
「うん」
次。
腰。
肩。
剣。
「視線すごい動いてる」
レント。
「全部見てる?」
「全部を順番に見てるわけじゃない」
「?」
「全体見ながら」
「変化したところだけ拾う感じ」
「余計難しい!」
カイト。
「行くぞ!」
踏み込み。
右足。
重心。
肩。
「来る」
上段。
木剣。
振り下ろし。
半歩。
外。
ブンッ!
「ほら」
「何がほらなんですか!」
ミナ。
「視線マーカー」
再生。
カイトの足。
肩。
剣。
「……確かに」
レント。
「振る前にもう動き始めてる」
「足見た時点?」
「足と腰」
「肩じゃない?」
「肩まで見れば確定」
「なるほど……」
「でも」
ミナ。
「これ」
「うん」
「視聴者が見たら絶対面白いですよ」
「そう?」
「はい!」
◇◇◇
《配信テスト終了》
《記録時間:12分34秒》
《映像品質:良好》
《音声:良好》
《視線トラッキング:正常》
《公開可能状態です》
「終わり」
「どうでした?」
「思ったより邪魔じゃない」
「じゃあ」
カイト。
「本配信」
「…………」
「いつ?」
俺。
少し。
考える。
「明後日」
「お」
「仕事休みだから」
「休日!」
「時間は?」
「昼」
「何時?」
「十一時くらい」
「決定?」
「ああ」
ポーン。
《CROSS社へ配信予定を通知しますか?》
「通知」
《初回配信予定》
《明後日 11:00》
《CROSS社へ送信しました》
三人。
「「「おおお……!」」」
「なんだよ」
「ついに」
ミナ。
「配信者ジョウゴ誕生ですね!」
「まだ二日後」
「でも決まり!」
「まあ」
俺。
笑う。
「やるだけやってみるよ」
◇◇◇
現実世界。
CROSS社。
「来ました!」
「初回配信日時!」
神崎。
確認。
《ジョウゴ》
《初回配信》
《土曜日 11:00》
「告知許可は?」
「同時に許可が出ています」
「では」
公式。
文面。
準備。
数分後。
AWO公式連携SNS。
CROSS配信チャンネル。
一斉。
---
【初配信決定】
AWOで話題の剣士が、CROSS配信支援のもと初LIVE配信を行います。
日時:土曜日 11:00~
戦闘、街歩き、NPC交流など、内容は完全に本人次第。
――《Another World Online》で生活する剣士の視点を、そのままお届けします。
---
投稿。
一分。
コメント。
『きたああああ!』
『待ってた!』
『ついにジョウゴ配信!』
『一人称!?』
『視線トラッキングある?』
『刀見せて!』
『NPCとの会話見たい』
『猫探しでもいいぞ』
『長い棒で宝箱開けてくれ』
『そこ期待すんなw』
『土曜11時了解』
『絶対見る』
そして。
予約視聴登録。
百。
五百。
千。
二千。
五千。
「……伸びますね」
「まだ告知直後ですよ」
神崎。
少し笑う。
「本人には数字」
「伝えます?」
「事前には最低限で」
「なぜ?」
「緊張するでしょうから」
「確かに」
◇◇◇
その頃。
当の本人。
ジョウゴは。
「マリアさん!」
「あいよ!」
「今日のおすすめ!」
「猪肉の煮込み!」
「それで!」
いつもの銀麦亭。
いつもの仲間。
いつもの食事。
そして。
ミナが。
「ジョウゴさん」
「何?」
「土曜日」
「うん」
「緊張してます?」
「まだ」
「何人来ると思います?」
「百人?」
三人。
止まる。
「何?」
「いや」
カイト。
「そのままでいてくれ」
「どういう意味?」
俺は。
まだ知らなかった。
初配信開始前に。
予約視聴者数が。
俺の想像する「百人」を。
軽く何十倍も超えることになるなど。
知るはずもなかった。




