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Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第一章 AWO開始編

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24/130

第24話 約束は守るもの

《Welcome Back》


《Another World Online》


「今日はまず診療所だな」


 俺――ジョウゴは、《銀麦亭》七号室で装備を整えながら呟いた。


 昨日。


 ゴブリン集落跡地から続く足跡を追い。


 森の奥で一人の少年を見つけた。


 名前はルク。


 十二歳。


 ハーフエルフ。


 ゴブリンに村を襲われ。


 捕らえられ。


 防衛戦の混乱に乗じて、一人で逃げ出していた。


 そして。


『また来る?』


『もちろん』


『約束?』


『約束』


「言ったからにはな」


 会いに行く。


 それだけだ。


         ◇◇◇


 一階へ降りる。


「おや、ジョウゴ!」


「こんばんは、マリアさん」


「今日は冒険かい?」


「その前に人に会ってくる」


「昨日連れてきた子かい?」


「知ってるんですか?」


「街じゃちょっとした話になってるよ」


「早いな」


「ゴブリンに捕まってた子を冒険者が助けたんだから当然さ」


 マリアさんが俺を見る。


「今日はちゃんと行くんだろうね?」


「もちろん」


「ならいい」


「?」


「子供との約束は守るもんだよ」


「同感です」


「珍しく意見が合ったねぇ」


「普段から合ってるでしょう」


「どうだか!」


 笑われた。


         ◇◇◇


 銀麦亭を出る。


「ジョウゴさん!」


「やっぱりいた」


 ミナ。


 カイト。


 レント。


「お前らも行く?」


「もちろん!」


「ルクの様子気になるしな」


「俺も」


「じゃあ一緒に」


 四人で冒険者ギルドへ向かう。


「そういえば」


 ミナが歩きながら言う。


「CROSS社の契約、どうなりました?」


「送った」


「えっ」


「昨日同意した」


 三人が止まる。


「正式に!?」


「手続きはまだ最終確認中だけど」


「じゃあ本当に配信するんですね!」


「多分」


「まだ多分なんだ」


 レントが笑う。


「配信システムが開放されたら試してみる」


「初配信どうします?」


「何も決めてない」


「ほんとに何も?」


「うん」


「ジョウゴらしいな」


「褒めてる?」


「半分」


         ◇◇◇


《シズナ冒険者ギルド診療所》


 ギルド本館の隣にある小さな建物。


 扉を開く。


「失礼します」


「はい――あら」


 白衣のような服を着た女性NPCがこちらを見る。


《治療師 セレナ》


「ジョウゴさんですね」


「俺のこと知ってる?」


「ルク君から何度も聞いています」


「何を?」


「『変なカタナを持ったジョウゴが来る』と」


「…………」


 後ろ。


 カイト。


 吹き出す。


「笑うな」


「本人公認じゃん!」


「公認じゃない」


 セレナさんも少し笑う。


「奥の部屋です」


「入って大丈夫ですか?」


「もちろん」


         ◇◇◇


 扉。


 ノック。


「ルク」


 返事なし。


「入るぞ」


 ゆっくり扉を開ける。


 小さな部屋。


 ベッド。


 椅子。


 窓。


 そして。


「…………」


 窓際。


 ルク。


 座っている。


 俺を見る。


「よう」


「…………」


「来たぞ」


「……本当に?」


「何が?」


「来た」


「約束しただろ」


 ルク。


 目。


 少し大きくなる。


「忘れてなかった?」


「忘れるほど昨日のこと昔じゃない」


「…………」


「体調どう?」


「だいじょうぶ」


「本当に?」


「ほんと」


 セレナさん。


 後ろから。


「栄養不足と疲労が少しありますが、大きな怪我はありません」


「よかった」


「ただ」


 セレナさん。


 少し表情を曇らせる。


「しばらく安静ですね」


「分かりました」


         ◇◇◇


「ジョウゴ」


「ん?」


「その三人も昨日の?」


「そう」


 順番。


「ミナ」


「こんにちは!」


「カイト」


「よう!」


「レント」


「どうも」


「…………」


 ルク。


 少し。


 安心した顔。


「昨日助けてくれた」


「ああ」


「みんな?」


「みんな」


「ジョウゴだけじゃない?」


「俺一人じゃ無理だよ」


 三人。


 こっちを見る。


「何?」


「いや」


 ミナ。


 笑う。


「ちゃんとそう言うんだなって」


「事実だろ」


「そうですけど」


 ルク。


「ジョウゴ」


「何?」


「強い?」


「普通」


 三人。


「「「普通じゃない」」」


「お前ら!」


 ルク。


 笑う。


「やっぱり変」


「誰が?」


「ジョウゴ」


「なんでだよ」


 でも。


 昨日よりずっと。


 表情が柔らかい。


         ◇◇◇


「ルク」


「ん?」


「これ」


 アイテム欄。


 取り出す。


《銀麦パン》


「マリアさんのところの」


「……パン」


「今日はちゃんと食ってるだろうけど」


「食べる」


「即答だな」


「お腹空いてない」


「はいはい」


 ぐぅ。


「…………」


「…………」


 カイト。


「昨日と同じじゃん」


「うるさい!」


 ルク。


 顔。


 赤い。


「食べろ食べろ」


 パン。


 渡す。


 小さくかじる。


「……おいしい」


「だろ」


「ジョウゴが作った?」


「違う」


「マリアさん」


「誰?」


「銀麦亭の女将」


「宿?」


「そう」


「…………」


「元気になったら連れてく」


 ルク。


 顔。


 上げる。


「いいの?」


「もちろん」


「約束?」


「また約束増えた」


「嫌?」


「嫌じゃない」


「じゃあ約束」


「約束」


         ◇◇◇


 その時。


 ポーン。


《NPC:ルクとの友好度が上昇しました》


《特殊交流条件を達成しました》


《ルクからの信頼が上昇しています》


「出た」


「またジョウゴさんだけ?」


 ミナ。


 自分のメニュー。


 確認。


「私は出てません」


「俺も」


「俺もだ」


「なんで?」


「もう答え出てるだろ」


 カイト。


「ルクがジョウゴに懐いてる」


「懐いてない!」


 ルク。


 即答。


「本人否定してるぞ」


「顔真っ赤だけど」


「ミナ!」


「はいはい」


         ◇◇◇


「ところで」


 俺。


 少し。


 気になっていた。


「ルク」


「何?」


「聞いてもいい?」


「…………」


「嫌なら答えなくていい」


「何?」


「村のこと」


 ルク。


 手。


 止まる。


「…………」


「無理ならいい」


「……少しだけ」


 静か。


 三人も。


 何も言わない。


「村」


 ルク。


 小さな声。


「森の西」


「どれくらい?」


「分からない」


「歩いて?」


「何日か」


 かなり遠い。


「名前は?」


「エルナ村」


《地名情報を取得しました》


《エルナ村》


《現在地不明》


「エルナ」


「人間とエルフが住んでた」


「混合の村?」


「うん」


「ルクの家族は?」


「…………」


 沈黙。


 やっぱり。


 聞くべきではなかったか。


「ごめん」


「お母さん」


「?」


「エルフ」


「うん」


「お父さん」


「人間」


「うん」


「……いなくなった」


 胸。


 少し重い。


「襲撃の時?」


 ルク。


 頷く。


「死んだかは?」


「分からない」


「…………」


「ゴブリン来て」


「村、燃えて」


「みんな逃げて」


「俺」


「捕まった」


 拳。


 握っている。


「そこから分からない」


 なるほど。


 死んだと。


 確定してはいない。


「じゃあ」


 俺。


「探せるかもしれない」


「え?」


「生きてる可能性あるだろ」


「…………」


「もちろん」


 俺は続ける。


「今すぐじゃない」


「場所も分からない」


「情報集めてから」


「でも」


「可能性ゼロじゃないなら」


 ルク。


 俺を見る。


「探してくれる?」


 その言葉。


「探すの手伝う」


「…………」


「俺一人で見つけられるとは言えない」


「でも」


「できることはする」


 ルク。


 下。


 向く。


「……うん」


         ◇◇◇


 ポーン。


《特殊クエストが発生しました》


「ん?」


《ルクの故郷》


《ハーフエルフの少年ルクの故郷《エルナ村》に関する情報を集めてください》


《目的地:未判明》


《制限時間:なし》


《クエスト種別:長期》


「長期クエスト」


 ミナが覗く。


「私たちにも来ました!」


「今回は全員?」


「ああ」


 カイト。


「来てる」


「俺も」


「じゃあ」


 俺。


「四人で探せるな」


 ルク。


「ほんと?」


「ああ」


「でも」


 カイト。


「場所不明だぞ」


「だから」


 レント。


「情報収集からだな」


「冒険者ギルドに聞いてみましょう」


 ミナ。


「決まり」


         ◇◇◇


 診療所を出る前。


「ジョウゴ」


「ん?」


「帰る?」


「一回ギルド」


「その後?」


「街歩くかも」


「…………」


「どうした?」


「また来る?」


「ああ」


「明日?」


「仕事が長引かなければ」


「仕事?」


「あ」


 NPCへ。


 現実の銀行員。


 どう説明する?


「俺たち異邦人には」


「?」


「向こう側の生活がある」


「向こう?」


「説明難しいな」


 AWO。


 NPCにとってプレイヤーのログアウトは。


 どういう扱いなんだろう。


 その時。


 セレナさん。


「異邦人の方々は時折、この世界から姿を消します」


「知ってるんですね」


「ええ」


「また戻ってくることも」


「もちろん」


 ルク。


「ジョウゴも?」


「ああ」


「消える?」


「一時的に」


「戻る?」


「戻る」


「絶対?」


「絶対とは……」


 言いかけ。


 止める。


 現実。


 何が起きるか分からない。


 でも。


 今は。


「戻るよ」


 ルク。


「……分かった」


         ◇◇◇


 冒険者ギルド。


「エルナ村?」


 受付嬢エリナさん。


「聞いたことは?」


「少々お待ちください」


 資料。


 地図。


 確認。


「……あります」


「本当?」


「ただし」


「?」


「現在の街道地図には載っていません」


「廃村?」


「可能性があります」


 古い資料。


「約十五年前」


「シズナ西部の森林地帯」


「人間とエルフが共同生活する小規模集落として記録」


「その後?」


「交易記録が途絶えています」


「十五年前?」


 ルク。


 十二歳。


「ルクが生まれる前から?」


「記録がないだけで」


 レント。


「村自体は残ってた可能性あるな」


「はい」


 エリナさん。


「小規模な村は、正式な交易路から外れると記録が途切れることがあります」


「位置は?」


「大まかにしか」


 地図。


 シズナ。


 南西林。


 さらに西。


 広い森林。


《西方森林地帯》


《未探索区域》


「かなり広い」


「今すぐ探すのは無理ですね」


 ミナ。


「ああ」


 でも。


《ルクの故郷》


《情報更新》


《エルナ村はシズナ西方森林地帯に存在した可能性があります》


「一歩進んだ」


         ◇◇◇


 ギルドを出る。


「今日はどうする?」


 カイト。


「西へ行く?」


「行かない」


「即答」


「情報少なすぎ」


「ですよね」


 ミナ。


「じゃあ?」


「バルガ」


「刀?」


「ああ」


 試作二号。


 それと。


《鍛冶師バルガと刀》


《第五段階:強さと粘り》


 素材情報。


 こっちも進めたい。


「その後」


「街」


「また観光?」


「職人に聞く」


「素材?」


「そう」


「なるほど」


 レント。


「長期クエスト二つ並行する感じか」


「急ぐ必要ないし」


 歩く。


 今日も。


 AWO。


 やることが。


 勝手に増える。


         ◇◇◇


 その時。


 ポーン。


《公式メッセージが届きました》


「ん?」


 送信元。


《CROSS社》


「来た」


「配信ですか!?」


 ミナ。


「多分」


 開く。


《CROSS配信支援システムの利用許可が完了しました》


《プレイヤー:ジョウゴ》


《配信機能が解放されました》


「……お」


 三人。


 覗く。


《利用可能機能》


《一人称視点配信》


《三人称追従カメラ》


《視線トラッキング》


《コメント表示》


《コメント読み上げ》


《戦闘ログ連携》


《遅延設定》


《プライバシー保護機能》


《NPC個人情報保護処理》


「本当に来た」


「今日やります!?」


 ミナ。


「今?」


「初配信!」


「急すぎない?」


「でも機能開放されたんですよ!」


「告知は?」


 レント。


「それ」


 次。


《初回配信テストをご希望の場合、そのまま開始できます》


《事前告知を希望する場合はCROSS社側で告知支援可能》


「どうする?」


 カイト。


「…………」


 俺。


 少し考える。


「今日は」


 三人。


 注目。


「テストだけ」


「おお!」


「本配信じゃなくて」


「非公開?」


「そう」


「それがいいですね」


 ミナ。


「いきなり数千人来たら大変ですし」


「数千って決まってないだろ」


 三人。


 黙る。


「何?」


「もっと来そう」


「やめろ」


         ◇◇◇


《配信テストモード》


《公開範囲:非公開》


《視点:一人称》


《視線トラッキング:ON》


《コメント:OFF》


「開始」


《配信テストを開始します》


 視界。


 何も変わらない。


「始まった?」


 カイト。


「多分」


 システム。


《REC》


 小さく。


 端。


「歩いてみる」


 街。


 見る。


 ミナ。


 カイト。


 レント。


「視線」


「何?」


「俺が見てる場所」


 赤い小さなマーカー。


 テスト画面。


「カイトの盾」


「おお」


 視線。


 盾。


「ミナの杖」


「はい」


「レントの弓」


「こっち」


 さらに。


 通り。


 人。


 看板。


「全部分かるな」


「戦闘で使うと面白そう」


 レント。


「ああ」


「ジョウゴが何見て避けてるのか」


 ミナ。


「やっと説明できますね!」


「俺、そんな説明下手?」


「かなり」


「ひどい」


         ◇◇◇


「試しに」


 カイト。


「俺が木剣振ろうか?」


「街中だから駄目」


「あ」


「訓練場行けば」


「行こう!」


「なんでそんなノリノリ?」


         ◇◇◇


 冒険者ギルド訓練場。


 木剣。


 カイト。


「いくぞ!」


「ああ」


《配信テスト継続中》


 一人称。


 視線マーカー。


 カイト。


 まず。


 足。


「足?」


 ミナ。


「うん」


 次。


 腰。


 肩。


 剣。


「視線すごい動いてる」


 レント。


「全部見てる?」


「全部を順番に見てるわけじゃない」


「?」


「全体見ながら」


「変化したところだけ拾う感じ」


「余計難しい!」


 カイト。


「行くぞ!」


 踏み込み。


 右足。


 重心。


 肩。


「来る」


 上段。


 木剣。


 振り下ろし。


 半歩。


 外。


 ブンッ!


「ほら」


「何がほらなんですか!」


 ミナ。


「視線マーカー」


 再生。


 カイトの足。


 肩。


 剣。


「……確かに」


 レント。


「振る前にもう動き始めてる」


「足見た時点?」


「足と腰」


「肩じゃない?」


「肩まで見れば確定」


「なるほど……」


「でも」


 ミナ。


「これ」


「うん」


「視聴者が見たら絶対面白いですよ」


「そう?」


「はい!」


         ◇◇◇


《配信テスト終了》


《記録時間:12分34秒》


《映像品質:良好》


《音声:良好》


《視線トラッキング:正常》


《公開可能状態です》


「終わり」


「どうでした?」


「思ったより邪魔じゃない」


「じゃあ」


 カイト。


「本配信」


「…………」


「いつ?」


 俺。


 少し。


 考える。


「明後日」


「お」


「仕事休みだから」


「休日!」


「時間は?」


「昼」


「何時?」


「十一時くらい」


「決定?」


「ああ」


 ポーン。


《CROSS社へ配信予定を通知しますか?》


「通知」


《初回配信予定》


《明後日 11:00》


《CROSS社へ送信しました》


 三人。


「「「おおお……!」」」


「なんだよ」


「ついに」


 ミナ。


「配信者ジョウゴ誕生ですね!」


「まだ二日後」


「でも決まり!」


「まあ」


 俺。


 笑う。


「やるだけやってみるよ」


         ◇◇◇


 現実世界。


 CROSS社。


「来ました!」


「初回配信日時!」


 神崎。


 確認。


《ジョウゴ》


《初回配信》


《土曜日 11:00》


「告知許可は?」


「同時に許可が出ています」


「では」


 公式。


 文面。


 準備。


 数分後。


 AWO公式連携SNS。


 CROSS配信チャンネル。


 一斉。


---


【初配信決定】


AWOで話題の剣士《ジョウゴ》が、CROSS配信支援のもと初LIVE配信を行います。


日時:土曜日 11:00~


戦闘、街歩き、NPC交流など、内容は完全に本人次第。


――《Another World Online》で生活する剣士の視点を、そのままお届けします。


---


 投稿。


 一分。


 コメント。


『きたああああ!』


『待ってた!』


『ついにジョウゴ配信!』


『一人称!?』


『視線トラッキングある?』


『刀見せて!』


『NPCとの会話見たい』


『猫探しでもいいぞ』


『長い棒で宝箱開けてくれ』


『そこ期待すんなw』


『土曜11時了解』


『絶対見る』


 そして。


 予約視聴登録。


 百。


 五百。


 千。


 二千。


 五千。


「……伸びますね」


「まだ告知直後ですよ」


 神崎。


 少し笑う。


「本人には数字」


「伝えます?」


「事前には最低限で」


「なぜ?」


「緊張するでしょうから」


「確かに」


         ◇◇◇


 その頃。


 当の本人。


 ジョウゴは。


「マリアさん!」


「あいよ!」


「今日のおすすめ!」


「猪肉の煮込み!」


「それで!」


 いつもの銀麦亭。


 いつもの仲間。


 いつもの食事。


 そして。


 ミナが。


「ジョウゴさん」


「何?」


「土曜日」


「うん」


「緊張してます?」


「まだ」


「何人来ると思います?」


「百人?」


 三人。


 止まる。


「何?」


「いや」


 カイト。


「そのままでいてくれ」


「どういう意味?」


 俺は。


 まだ知らなかった。


 初配信開始前に。


 予約視聴者数が。


 俺の想像する「百人」を。


 軽く何十倍も超えることになるなど。


 知るはずもなかった。

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