第22話 ゴブリン集落跡地
《Welcome Back》
《Another World Online》
視界を包んでいた光が消える。
次に見えたのは、すっかり見慣れてきた木造の天井だった。
「さて」
俺――ジョウゴは、《銀麦亭》七号室のベッドから起き上がった。
昨日はCROSS社との面談。
配信については、かなり前向きに考えている。
ただし。
「契約内容をちゃんと確認してからだな」
企業との契約を勢いで決めるほど、俺も子供ではない。
それに今日は別の予定がある。
《エリア情報》
《新規探索区域:ゴブリン集落跡地》
《推奨Lv:4~》
シズナ防衛戦。
その原因となったゴブリンたちの集落。
防衛戦で主力を失ったことで、ようやく本格的に探索できるようになったらしい。
「何が残ってるんだろうな」
宝箱?
素材?
それとも何か別のものか。
AWOの場合、単純に宝箱だけ置いてあるとは思えない。
「行ってみれば分かるか」
装備を確認する。
《軽革戦闘衣》
《鉄刀・試作二号》
試作二号はバルガによる応急調整済み。
ゴブリンチーフの斧を受けた際の歪みも直されている。
《耐久値:210/210》
「今度は斧を受けるなって怒られたけど」
なるべく守ろう。
なるべく。
◇◇◇
「ジョウゴさん!」
銀麦亭を出ると。
やっぱりいた。
ミナ。
カイト。
レント。
「おはよう」
「今日はちゃんと刀ありますね!」
「俺の確認より先に武器を見るな」
「前回、防衛戦直前に預けてましたから」
「もう忘れてくれ」
「無理!」
カイトが笑う。
「今日は集落跡地だろ?」
「ああ」
「準備は?」
「できてる」
ミナは杖。
カイトは新しい盾。
レントも新調した弓。
「みんな装備変わったな」
「防衛戦の報酬使いましたからね」
「カイト、その盾は?」
《鉄縁のラウンドシールド》
「防御力上がったぜ!」
「重くない?」
「前より重い」
「ちゃんと扱える?」
「練習した!」
「なら大丈夫か」
「なんでジョウゴに装備チェックされてるんだ、俺」
「盾役だからじゃない?」
ミナが笑う。
「じゃあ行こう」
「おー!」
◇◇◇
《シズナ南西林》
防衛戦前。
何度も来た森。
だが。
「静かですね」
「ああ」
以前より魔物が少ない。
防衛戦でゴブリン勢力が大きく減少した影響らしい。
《周辺危険度:低下》
「こういうところまで変わるんだな」
レントが周囲を見る。
「イベント終わったら元通り、じゃないんですね」
「AWOの売りなんだろうな」
プレイヤーの行動。
NPCの行動。
モンスターの動き。
それによって世界そのものが変化する。
「だから防衛戦で街が壊れてたら……」
ミナが呟く。
「壊れたままだったかもしれないな」
「怖っ」
「でも」
俺は木々の向こうを見る。
「その方が世界っぽい」
成功しても。
失敗しても。
結果が残る。
ゲームとしては面倒かもしれない。
でも。
俺は嫌いじゃない。
◇◇◇
「いた」
レントが小声で言う。
前方。
《ゴブリン残党 Lv.4》
二体。
木陰。
こちらには気づいていない。
「どうする?」
カイトが聞く。
「普通に行こう」
「普通って?」
「カイト前」
「了解」
「レント、一体」
「ああ」
「ミナは待機」
「はい」
「俺がもう一体」
「……本当に普通だ」
「いつも何だと思ってる?」
三人が黙った。
「なんで黙るんだよ」
◇◇◇
レント。
弓。
「行くぞ」
ヒュッ!
矢。
ドスッ!
「ギャ!?」
一体。
肩。
もう一体。
「ギャア!」
こちらへ。
「カイト!」
「任せろ!」
盾。
ガンッ!
ゴブリンの棍棒を受ける。
「前より安定してるな」
「盾変えたからな!」
「じゃあ」
俺も。
抜刀。
スッ――。
試作二号。
やっぱり。
いい。
「ふっ!」
一歩。
斬る。
ザンッ!
《Critical Hit!》
《斬撃適正判定:Perfect》
ゴブリン。
光。
「一撃?」
「うわ」
カイトが俺を見る。
「何?」
「試作二号強くない?」
「武器性能も上がってるからな」
「それだけですかねぇ」
ミナ。
「なんだよ」
「なんでもありません」
もう一体。
カイトが止め。
レント。
矢。
ミナ。
「《ファイアアロー》!」
撃破。
《ゴブリン残党を討伐しました》
「連携も慣れてきたな」
「防衛戦のおかげですね」
「人数多い戦闘の後だと二体が少なく感じる」
「油断はするなよ」
「ジョウゴが言う?」
「俺が言う」
◇◇◇
さらに森を進む。
やがて。
木々が途切れた。
「ここか」
《ゴブリン集落跡地》
以前。
偵察した場所。
だが。
「……ひどいな」
防衛戦前とは全く違う。
柵。
壊れている。
粗末な小屋。
半分崩壊。
中央。
大きな焚き火跡。
武器。
盾。
食器。
生活用品。
あちこちに散乱している。
「本当に集落だったんですね」
ミナが静かに言う。
「ああ」
モンスターのスポーン地点。
そんな雰囲気ではない。
「ここで生活してた」
カイト。
「ゴブリンが?」
「多分」
俺は地面を見る。
足跡。
大量。
南東方向。
シズナへ。
「ここから防衛戦へ向かったんだな」
「それで帰ってこなかった」
少し。
妙な気分になる。
敵だった。
街を襲った。
倒さなければシズナが危なかった。
それでも。
「ゲームなのに変な感じだな」
俺が呟くと。
「分かります」
ミナも頷いた。
◇◇◇
《探索クエストが発生しました》
《ゴブリン集落跡地の調査》
《集落に残された手掛かりを探索してください》
「やっぱり何かある」
「宝探し!」
カイト。
「手掛かりって書いてあるだろ」
「宝もあるかもしれない!」
「否定はしない」
四人。
分かれる。
ただし。
「見える範囲な」
「了解!」
小屋。
倉庫。
焚き火。
武器置き場。
調べる。
◇◇◇
「ジョウゴさん!」
「何かあった?」
ミナ。
小さな小屋。
「これ」
木箱。
《粗末な薬草箱》
「薬?」
「回復草ですね」
「ゴブリンも使うのか」
「みたいです」
箱の横。
布。
器。
「生活感すごいな」
「ですよね」
その時。
「こっちも!」
レント。
倉庫。
中。
「鉱石?」
鉄鉱石。
銅鉱石。
そして。
「高密度鉄鉱石」
北西鉱山で見つけたものと同じ。
「なんでゴブリン集落に?」
「鉱山のコボルトと関係ある?」
「分からない」
だが。
《探索進行度:25%》
「当たりらしい」
◇◇◇
「おーい!」
今度はカイト。
「宝箱!」
「本当にあったのか」
「ほら!」
小屋の奥。
木箱。
《ゴブリンチーフの戦利品箱》
「開けるぞ!」
「待て」
「なんで!?」
「罠」
「…………」
「ありそうだろ」
四人。
箱を見る。
「レント」
「俺?」
「罠解除技能ある?」
「ない」
「ミナ」
「ないです」
「カイト」
「あるように見える?」
「ないな」
「ジョウゴさんは?」
「ない」
「全員駄目じゃないですか!」
さて。
どうする。
「棒で開ける?」
「原始的!」
「でも安全」
周囲。
長い棒。
拾う。
「離れて」
蓋。
棒を引っ掛ける。
「行くぞ」
ぐっ。
パカッ。
カチッ。
「カチ?」
ヒュン!
箱の横。
小さな矢。
壁。
カンッ!
「「「…………」」」
「罠あった」
「ジョウゴぉ!」
カイト。
「なんで分かった!?」
「ゲームの宝箱って罠あるだろ」
「それだけ!?」
「それだけ」
ミナが頭を抱える。
「また変なことしてる……」
「今回は普通だろ!」
「棒で宝箱開けるプレイヤー、初めて見ましたよ!」
◇◇◇
《簡易罠を回避しました》
《罠解除技能を所持していないため技能経験値は獲得できません》
「ですよね」
箱。
中。
《ゴブリンチーフの大銀貨》
《魔石×3》
《粗製鉄インゴット×4》
《獣皮×6》
《古びた地図》
「地図?」
俺は取り出す。
「何の地図だ?」
広げる。
シズナ。
南西林。
北西鉱山。
そして。
もっと西。
「ここ」
印。
赤。
《未登録地点》
「また増えた」
「絶対何かありますね!」
ミナ。
《探索進行度:50%》
◇◇◇
さらに。
中央。
ゴブリンチーフが使っていたらしい大きな小屋。
「ここが最後かな」
中。
椅子。
机。
武器。
「王様みたい」
「チーフの家だからな」
壁。
「ん?」
俺は止まる。
「どうした?」
「これ」
壁に。
模様。
いや。
「文字?」
読めない。
《未知文字》
「AWOの文字?」
「俺たち普段は自動翻訳されてますよね」
ミナ。
「じゃあ翻訳できない?」
「特殊な文字か」
その下。
絵。
ゴブリン。
森。
街。
そして。
大きな。
黒い何か。
「……何だこれ」
人型。
なのか?
黒い。
その前に。
ゴブリンたちが跪いている。
「チーフより大きい」
レント。
「ボス?」
「分からない」
触れる。
ポーン。
《特殊情報を発見しました》
《ゴブリン集落の壁画》
《現在の言語技能では解読できません》
《シズナ冒険者ギルドへ報告可能です》
《探索進行度:75%》
「まだ75」
「あと一個ですね」
◇◇◇
小屋。
探す。
「机?」
引き出し。
空。
床。
「何もないな」
その時。
カイト。
「ジョウゴ」
「ん?」
「この床、変じゃね?」
見る。
一枚。
色が違う。
「地下?」
「ありそう」
四人で動かす。
ゴゴッ。
「重っ!」
下。
階段。
「…………」
「ありますね」
「あるな」
《隠し地下室を発見しました》
《探索進行度:100%》
《ゴブリン集落跡地の調査を達成しました》
「終わった」
「でも」
ミナ。
階段を見る。
「下があります」
「行く?」
カイト。
俺。
「もちろん」
◇◇◇
ランタン。
地下。
狭い。
「気を付けて」
「はい」
階段。
下。
部屋。
「これは……」
牢屋?
木製の檻。
三つ。
「何か閉じ込めてた?」
中。
空。
でも。
一つ。
「布」
小さい。
人間用?
いや。
「子供?」
ミナ。
表情。
変わる。
床。
木の器。
水。
古い。
「ゴブリンが誰か捕まえてたのか」
「可能性高いな」
その時。
「ジョウゴ」
レント。
奥。
「足跡」
小さい。
地下から。
別の通路。
「外へ続いてる?」
壁。
穴。
小柄な存在なら通れそう。
《新たな痕跡を発見しました》
《小さな足跡》
《ゴブリン集落壊滅前後に何者かが脱出した可能性があります》
「生きてる?」
「かもしれない」
ミナ。
「探しません?」
「ああ」
即答。
「でも」
俺は時刻を見る。
現実。
もう遅い。
「今日は時間が足りない」
「ジョウゴさん仕事ですもんね」
「うん」
「じゃあ」
カイト。
「ギルドへ報告」
「明日続き」
「それで行こう」
◇◇◇
《冒険者ギルド》
「これは……」
受付嬢エリナさん。
古びた地図。
壁画情報。
そして。
地下牢。
「ゴブリンが捕虜を?」
「多分」
「足跡もありました」
「大きさは?」
「子供くらい」
エリナさん。
表情が真剣になる。
「分かりました」
《ゴブリン集落跡地の調査》
《クエスト達成》
《報酬:350G》
《シズナ周辺情報が更新されました》
さらに。
《新規クエスト》
《消えた捕虜》
《小さな足跡の主を捜索してください》
《推奨Lv:4~》
《制限時間:なし》
「明日ですね」
ミナ。
「ああ」
「寄り道増えたな」
カイト。
「AWOってこういうゲームなんだろ」
一つ終わる。
すると。
また一つ。
何かが見つかる。
「悪くない」
◇◇◇
ログアウト前。
銀麦亭。
「マリアさん」
「あいよ」
「明日、また森行く」
「またかい?」
「人を探す」
「人?」
「多分子供」
マリアさん。
手が止まる。
「……見つけておやり」
「ああ」
「こういう時だけ頼もしいねぇ」
「こういう時だけ?」
「普段は変なことばっかりしてるからね!」
「ひどい」
周囲。
笑い。
ミナ。
カイト。
レント。
「否定できない」
「お前らまで!」
◇◇◇
七号室。
「さて」
ログアウト。
その前。
メニュー。
《CROSS社》
《契約関連資料》
「…………」
確認。
条件。
配信の自由。
仕事優先。
収益化は保留可能。
個人情報保護。
ゲーム内名を基本として活動。
「問題なさそうだな」
あとは。
細かい部分を確認して。
正式に返事。
「配信か」
明日。
森。
消えた捕虜。
もし配信開始が間に合えば。
初配信が人探しになる可能性もある。
「……ボス戦とかじゃなくて?」
まあ。
俺らしいか。
《Logout》
◇◇◇
同じ頃。
AWO公式掲示板。
---
【シズナ鯖】防衛戦後の情報交換スレ Part8
184:名無しの冒険者
ゴブリン集落跡地解放されたぞ。
185:名無しの冒険者
行った。
186:名無しの冒険者
なんかあった?
187:名無しの冒険者
素材と残党。
188:名無しの冒険者
宝箱あったけど罠食らったw
189:名無しの冒険者
俺もw
190:名無しの冒険者
毒矢だった。
191:名無しの冒険者
解除技能取れってことか。
192:名無しの冒険者
ジョウゴどうした?
193:名無しの冒険者
なんでジョウゴ基準なんだよ。
194:名無しの冒険者
あいつなら変な開け方してそう。
195:名無しの冒険者
現地いたけど棒で開けてたぞ。
196:名無しの冒険者
草。
197:名無しの冒険者
原始人かな?
198:名無しの冒険者
しかも罠回避成功。
199:名無しの冒険者
草。
200:名無しの冒険者
罠解除スキル「長い棒」。
201:名無しの冒険者
実装されてねぇよwww
202:名無しの冒険者
ところでジョウゴ配信まだ?
203:名無しの冒険者
待ってる。
204:名無しの冒険者
一人称視点で見たい。
205:名無しの冒険者
刀の戦闘見たい。
206:名無しの冒険者
NPCとの会話も見たい。
207:名無しの冒険者
棒で宝箱開けるところも見たい。
208:名無しの冒険者
そこ需要あるのかよ。
---
◇◇◇
そして。
CROSS社。
「ジョウゴさんの契約資料閲覧を確認」
「返答は?」
「まだです」
「急かさないでください」
「もちろん」
神崎はモニターを見る。
そこには。
今日のジョウゴの行動記録。
集落探索。
壁画。
地下牢。
小さな足跡。
「次は救出クエストですか」
「配信開始まで待ってもらいます?」
「駄目です」
即答。
「彼のプレイへ介入しない」
「でしたね」
「配信のために冒険を止めさせたら」
神崎は笑う。
「最初に約束したことを、こちらから破ることになります」
「確かに」
「それに」
画面。
集落跡地で立ち止まるジョウゴ。
『ゲームなのに変な感じだな』
その言葉。
「こういうところを見てもらいたいんです」
「戦闘だけじゃなく?」
「ええ」
Another World Online。
もう一つの世界。
そこで。
ジョウゴは戦うだけではない。
歩き。
食べ。
人と話し。
時には寄り道し。
誰かを助ける。
「彼が配信者になるんじゃない」
神崎は呟く。
「彼の第二の生活に」
一拍。
「視聴者が遊びに来るんです」
そして翌日。
ジョウゴたちはまだ知らない。
ゴブリン集落から逃げ出した。
小さな足跡。
その先で待つ出会いが。
シズナで始まった彼の冒険を。
さらに広いAWOの世界へ繋げていくことを――。




