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Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第一章 AWO開始編

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21/130

第21話 初めての企業面談

 明後日。


 そう思っていた面談日は、意外とあっという間にやってきた。


「上塚主任、今日は定時ですか?」


「その予定」


「AWO?」


「今日はちょっと別件」


「別件?」


「まあな」


 俺――上塚賢吾は、確認を終えた書類をまとめた。


 仕事は問題なし。


 残件もない。


「じゃ、お先に」


「お疲れさまでした!」


 銀行を出る。


 いつもの帰り道。


 ただ。


 今日は少しだけ気分が違う。


「企業面談なんて転職以来だな」


 いや。


 今回は転職ではない。


 CROSS社。


 AWO関連の配信支援事業をやっている会社。


 向こうが俺へ興味を持ち。


 配信について一度話したい、と。


「配信か」


 まだ。


 やるとは決めていない。


 むしろ。


 俺の中では条件次第。


 というより。


「遊び方を変えろって言われたら断る」


 そこだけは決まっていた。


         ◇◇◇


 帰宅。


 夕食。


 風呂。


 部屋を軽く片づける。


「こんなもんか」


 オンライン面談。


 指定された専用アプリを起動。


 時刻。


 20時28分。


「二分前」


 ちょうどいい。


 カメラ。


 マイク。


 確認。


 スーツではない。


 仕事帰りではあるが、すでに部屋着へ着替えている。


「まあ、これでいいだろ」


 別に就職面接じゃない。


 20時30分。


《CROSS社オンライン面談ルームへ接続します》


「接続」


 画面が切り替わる。


         ◇◇◇


『こんばんは』


「こんばんは」


 画面の向こう。


 二人。


 一人は三十代前半くらいの女性。


 もう一人は男性。


『突然のお声掛けにもかかわらず、お時間をいただきありがとうございます』


「いえ」


『CROSS社、AWO配信事業部の神崎です』


『同じく企画担当の森川です』


「上塚です」


 一瞬。


 向こうが少しだけ反応した。


『……では、ゲーム内ではジョウゴ様ですね』


「そうです」


 当然。


 公式経由の面談。


 本人確認は済んでいる。


『まず最初に』


 神崎さん。


『今回の面談内容について、配信活動を強制する意図はありません』


「はい」


『契約の即決をお願いすることもありません』


「それなら助かります」


『率直ですね』


「銀行員なので」


『そこ関係あります?』


「多分ないです」


 森川さんが小さく笑う。


 少しだけ。


 空気が柔らかくなった。


         ◇◇◇


『では』


 画面。


 資料。


『まず、弊社がなぜ上塚様へお声掛けしたのか』


「はい」


『いくつか理由があります』


 一つ目。


《現実技能のゲーム内活用》


 二つ目。


《NPCとの自然な交流》


 三つ目。


《ゲーム世界へ影響を与えるプレイスタイル》


 四つ目。


《視聴者からの配信希望》


「……最後は分かるけど」


『前三つも大きいです』


「そうなんですか」


『はい』


 映像。


 ホーンラビット。


 最小動作。


 ゴブリン。


 武器解除。


 訓練場。


 投げ。


 防衛戦。


 刀。


『まず』


 森川さん。


『上塚様は、リアル武術技能をかなり高い精度でAWOへ持ち込んでいます』


「普通に動いてるだけですけど」


 二人。


 黙る。


「……何です?」


『その発言』


『掲示板でも有名です』


「え」


『「本人の普通が普通じゃない」』


「誰がそんなことを」


『かなり多くの方が』


「…………」


 ミナたち。


 お前らか。


         ◇◇◇


『次に』


 神崎さん。


『上塚様は攻略優先ではありません』


「はい」


『レベル上げも効率周回もほとんどしていない』


「してないですね」


『その代わり』


 映像。


 リンゴ屋。


 銀麦亭。


 猫探し。


 鍛冶工房。


 防壁建設。


 採掘。


 初心者への指導。


『街で生活している』


「まあ」


『そこが非常にAWOらしいんです』


「AWOらしい?」


『公式コンセプト』


 画面。


――もう一つの世界で、もう一人のあなたとして生きよう。


『上塚様は、これをかなり自然に実践しています』


「意識してませんけど」


『だからこそです』


 なるほど。


 狙ってやっていない。


 そこが良い、と。


『そして』


 刀。


《新規武器カテゴリ《刀》》


『NPCへ現実知識を伝え』


『ゲーム世界側へ変化を起こした』


「そこはバルガが作っただけです」


『その認識も含めて面白いんです』


「?」


 分からん。


         ◇◇◇


『では』


 神崎さんが本題へ。


『弊社としては』


《CROSS公式配信支援》


 表示。


「公式?」


『CROSS社が機材・配信環境・映像処理・切り抜き管理などを支援します』


「俺は何を?」


『基本的には』


 一拍。


『今まで通り遊んでいただきたいです』


「……今まで通り?」


『はい』


「企画とか」


『任意です』


「毎週何回配信とか」


『ありません』


「決まった時間?」


『ありません』


「台本?」


『ありません』


「キャラ作り?」


『必要ありません』


「案件?」


『最初から強制はしません』


「収益化?」


『可能ですが、必須ではありません』


「…………」


 逆に。


「それでCROSS社に得あるんですか?」


 森川さんが笑う。


『あります』


「?」


『配信者を作るより』


 画面。


 ジョウゴ。


 AWO。


『ジョウゴというプレイヤーを、そのまま見てもらう方が価値があると判断しました』


「そのまま」


『はい』


『戦闘だけじゃなく』


『街歩き』


『NPCとの会話』


『鍛冶師とのやり取り』


『採掘』


『食事』


『寄り道』


『そういう全部です』


「生活そのもの?」


『そうです』


 その言葉。


 少し。


 興味が湧いた。


         ◇◇◇


「一人称視点ってできます?」


 二人が少し驚く。


『もちろん』


「俺が見てる視点」


『完全一人称配信も可能です』


「例えば」


「攻撃避ける時に」


「相手の肩とか足とか」


「どこ見てるか分かる?」


『視線追跡も可能です』


「へえ」


 それは面白い。


『武術解説に使いたいですか?』


「ちょっと」


 自分の視点。


 相手を見る。


 足。


 腰。


 肩。


 武器。


「口で説明するより」


「見せた方が早いことあるので」


『まさに』


 神崎さん。


『そこも弊社が期待しているところです』


         ◇◇◇


「一つ」


『はい』


「条件があります」


 二人。


 真面目。


『どうぞ』


「AWOの遊び方に口出ししないでほしい」


 一瞬。


 静か。


「配信映えするからボス行けとか」


「効率悪いから猫探しやめろとか」


「このNPCと絡めとか」


「そういうのは嫌です」


 神崎さん。


 すぐ。


『問題ありません』


「本当に?」


『むしろ』


 少し笑う。


『そこへ口を出したら、上塚様へ声を掛けた意味がなくなります』


「…………」


 なるほど。


『弊社から提案はします』


『ですが』


『最終決定は上塚様です』


「企画も断れる?」


『はい』


「配信休むのも?」


『はい』


「仕事忙しい時は?」


『現実生活優先で構いません』


「銀行の仕事は?」


『もちろん継続前提です』


「副業規定とか」


『そこは重要です』


 資料。


『収益を受け取る場合は、勤務先規定の確認が必要です』


「ですよね」


 そこは。


 銀行員。


 避けて通れない。


「最初は収益なしでできる?」


『可能です』


「なら」


 俺は少し考える。


「それがいいかも」


         ◇◇◇


 配信。


 別に。


 金のためではない。


 今の仕事を辞めるつもりもない。


 ただ。


 AWO。


 自分が見ている世界。


 自分の戦い方。


 刀。


 NPC。


 街。


 それを。


 誰かが一緒に見られる。


「……面白そうではある」


『ありがとうございます』


「まだ正式にやるとは」


『もちろん』


 神崎さん。


『今日は判断材料を持ち帰っていただければ十分です』


「契約書は?」


『後ほど正式資料を送付します』


「確認してから」


『はい』


 そこは。


 ちゃんとしている。


「分かりました」


         ◇◇◇


『最後に一つ』


「はい」


 森川さん。


『上塚様』


「何です?」


『ご自身が今、AWOでどれくらい話題になっているか』


「……知らないです」


『やっぱり』


「何?」


『念のため』


 画面。


《関連動画総再生数》


「…………」


 一。


 十。


 百。


 千。


 万。


 十万。


 百万。


「え?」


《累計:約128万再生》


「…………」


「誰が?」


『上塚様です』


「俺?」


『はい』


「嘘でしょ」


『本当です』


「なんで?」


 二人。


 笑う。


『だから今面談しているんです』


「…………」


 俺。


 そんなに。


 何かした?


 ホーンラビット。


 ゴブリン。


 猫。


 刀。


 防衛戦。


「普通に遊んでただけなんだけど」


『それです』


「何が?」


『その一言です』


「?」


『多分』


 神崎さん。


『配信を始めても』


「はい」


『視聴者からずっと言われると思います』


「何を?」


 一拍。


『「それ普通じゃない」って』


「…………」


 ミナたちと同じじゃないか。


         ◇◇◇


 面談終了。


《CROSS社とのオンライン面談が終了しました》


「ふう」


 椅子にもたれる。


「思ったよりまともだったな」


 企業。


 もっと。


 契約。


 数字。


 企画。


 そういう話ばかりかと思った。


 でも。


「今まで通りでいい」


 そこ。


 かなり大きい。


 スマートフォン。


 資料。


《CROSS公式配信支援・仮提案書》


「後で読むか」


 時計。


「九時半」


 まだ。


 少し遊べる。


「ログインするか」


         ◇◇◇


《Welcome Back》


《Another World Online》


 銀麦亭。


 七号室。


 階段。


 一階。


「ジョウゴさん!」


 ミナ。


「面談どうでした!?」


「なんで知ってる?」


「今日って言ってたじゃないですか!」


「ああ」


 カイト。


 レント。


 完全に待っていた。


「で?」


「どうだった?」


「普通だった」


「「「絶対その感想じゃ分からない!」」」


 声。


 食堂。


 響く。


「マリアさん!」


「あいよ!」


「飲み物四つ!」


「勝手に始めるな!」


         ◇◇◇


 テーブル。


「つまり」


 ミナ。


「CROSS社が配信支援」


「うん」


「配信頻度自由」


「うん」


「企画任意」


「うん」


「今まで通り遊んでいい」


「そう」


 三人。


 見る。


「やれば?」


「即答だな」


「だって」


 カイト。


「ジョウゴの遊び方何も変わらないじゃん」


「まあ」


「なら」


 レント。


「視聴者増えるだけ」


「それが問題なんだけど」


「もう増えてる」


「…………」


 そうだった。


「128万」


「え?」


「関連動画」


 三人。


 止まる。


「今」


「どれくらい?」


「累計128万だって」


「「「はあ!?」」」


「俺も同じ反応した」


 ミナ。


 頭抱える。


「もう完全に有名人じゃないですか!」


「知らん」


「知らんじゃないです!」


 カイト。


 笑う。


「配信やったら初回やばそう」


「何人来る?」


「知らない」


「数千?」


「もっと?」


「やめろ」


 数字。


 怖い。


         ◇◇◇


「でも」


 俺。


 少し。


 考える。


「一人称視点は面白そうだった」


「お」


「俺が何見てるか」


「足とか肩とか?」


「そう」


「見切りの視点?」


「多分」


 ミナ。


 目。


 輝く。


「それ見たい!」


「そう?」


「絶対見たいです!」


「俺も」


「俺もだ」


 三人。


 即答。


「じゃあ」


 俺。


 少しだけ。


 前向き。


「やってみてもいいかもな」


「おお!」


「ただし」


「?」


「毎日は無理」


「仕事ありますもんね」


「仕事優先」


「はい」


「家事も」


「はい」


「飯も」


「はい」


「風呂も」


「普通!」


「そこは普通なんだよ」


         ◇◇◇


 その時。


 ポーン。


《エリア情報更新》


「ん?」


 全員。


 見る。


《シズナ防衛戦終了に伴い周辺危険度が低下しました》


《南西林のゴブリン集落は壊滅状態です》


《一部残党個体が存在します》


《新規探索区域が解放されました》


「新規探索?」


《ゴブリン集落跡地》


《推奨Lv:4~》


「行けるようになった」


 カイト。


「明日?」


 俺。


 考える。


「行ってみるか」


「やった!」


 ミナ。


「配信は?」


「まだ」


「いつ?」


「契約確認してから」


「真面目!」


「契約だぞ。当たり前だろ」


 銀行員。


 そこだけは。


 絶対に雑にはしない。


         ◇◇◇


 その夜。


 ログアウト前。


 俺は。


 CROSS社から届いた資料をもう一度開いた。


《配信支援》


《完全任意参加》


《ゲーム内行動への強制なし》


《配信開始・終了は本人判断》


《現実生活優先》


《収益化選択制》


《一人称視点》


《視線トラッキング》


《戦闘ログ連携》


《コメント表示設定》


「……悪くない」


 一番大事。


《AWO内でのプレイスタイルへ弊社から強制的な変更を求めません》


「これなら」


 今まで。


 変えなくていい。


 俺は。


 ただ。


 《Another World Online》で生活する。


 その様子を。


 少し。


 誰かに見せるだけ。


「やってみるか」


 まだ。


 正式契約ではない。


 でも。


 気持ちは。


 かなり決まっていた。


 ――そして。


 この小さな決断が。


 剣士ジョウゴを。


 ただの「掲示板で話題の変な剣士」から。


 多くの視聴者が見守る。


 配信者ジョウゴへ。


 変えていくことになる。


 ただし。


 本人だけは。


「配信って何話せばいいんだ?」


 そんな。


 根本的な問題に。


 まだ気づいていなかった。

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― 新着の感想 ―
はじめまして。楽しく拝読させていただきました。 まだ、21話までしか読んでいませんが、コンセプト的にこういうのは大好きです。 ただ、文章がぶつ切りで読みにくい。こういう文章も読み慣れれば良いのでしょ…
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