第20話 CROSS社からの公式メッセージ
「……ん?」
《銀麦亭》で夕食を終えた後。
俺――ジョウゴは、ふとメニュー画面の端に点滅している表示へ気づいた。
《公式メッセージが届いています》
《送信元:CROSS社》
「CROSS社?」
聞き覚えがある。
確か。
「ジョウゴさん?」
「ん?」
向かいに座っていたミナが首を傾げる。
「どうしました?」
「なんか公式メッセージ来てる」
「公式?」
カイトとレントも反応する。
「運営から?」
「いや」
表示を見せる。
《送信元:CROSS社》
「「「えっ」」」
三人の声が重なった。
「何?」
なんでそんな反応なんだ。
「来た……」
ミナが小さく呟く。
「何が?」
「CROSS社ですよ!」
「それは見れば分かる」
「そうじゃなくて!」
カイトが身を乗り出す。
「前に言っただろ!」
「何を?」
「VR配信とかイベント関係で有名な会社!」
「ああ」
北西鉱山へ行く途中。
そんな話をされた気がする。
「で?」
「『で?』じゃない!」
また怒られた。
「とりあえず読んでみたら?」
レントが冷静だ。
「それもそうだな」
メッセージを開く。
---
《CROSS社 AWO配信事業部》
プレイヤー名:ジョウゴ様
突然のご連絡、失礼いたします。
弊社では現在、《Another World Online》における公式配信支援企画を進めております。
その中で、ジョウゴ様のプレイスタイルについて複数の映像・ゲーム内記録を拝見し、ぜひ一度お話を伺いたく、ご連絡いたしました。
本メッセージは契約を強制するものではありません。
まずは配信活動や映像企画へのご興味について、オンライン面談という形でお話しできればと考えております。
ご興味がございましたら、下記の《面談希望》よりご返信ください。
《面談希望》
《今回は辞退》
---
「…………」
「どうでした?」
ミナ。
「面談してほしいって」
「やっぱり!」
カイトが笑う。
「スカウトじゃん!」
「スカウトってほど大げさじゃないだろ」
「企業から公式メッセージ来てる時点で十分大げさだ!」
「配信かぁ」
俺は少し考える。
◇◇◇
正直。
今まで配信をしようと思ったことはなかった。
AWOを始めた理由も。
有名になるためじゃない。
金を稼ぐためでもない。
剣と魔法の世界で。
自分なりに生活してみたい。
それだけだった。
「ジョウゴさん、興味ないんですか?」
「全くないわけじゃない」
「お?」
「ただ」
俺は指を折る。
「仕事あるだろ」
「銀行」
「そう」
「配信って時間取られそうだろ」
「それはそうですね」
「それに」
「?」
「普通に遊びたい」
三人。
黙る。
「今まで通り?」
「今まで通り」
街を歩く。
依頼を受ける。
NPCと話す。
刀を作る。
ゴブリンと戦う。
猫を探す。
そういうのを。
「配信のために変えたくない」
レントが少し笑う。
「それ、逆にCROSS社が評価してるところかもな」
「どういう意味?」
「ジョウゴって」
レントが言う。
「配信向けに何かしようとしてないだろ」
「ああ」
「でも動画が伸びてる」
「らしいな」
「それって珍しい」
なるほど。
意識していない行動が。
勝手に面白がられている。
「面談だけならしてみたら?」
ミナが言う。
「嫌なら断ればいいですし」
「それもそうか」
カイトも頷く。
「話聞くだけ聞いてみろよ」
「うん」
少し考えて。
《面談希望》
押した。
《CROSS社へ返信しました》
「送った」
「おお!」
「なんでお前らが嬉しそうなんだ」
「だって面白くなりそうだから!」
「他人事だと思って」
まあ。
俺も少しだけ。
興味が出てきた。
◇◇◇
翌日。
現実世界。
「上塚主任」
「何?」
「昨日のシズナ防衛戦、見ました?」
「参加してた」
「え?」
「いや」
危ない。
思わず言ってしまった。
「参加してた人の動画を見た」
「あー」
後輩。
「ジョウゴって人、やばくないですか?」
「そうかな」
「チーフの攻撃読んでたじゃないですか!」
「動き見れば分かるんじゃない?」
「主任?」
「何?」
「ジョウゴと同じこと言ってますよ」
「…………」
しまった。
「武術やってる人ってそういう感覚なんですか?」
「人による」
「主任もできそう」
「仕事しろ」
「はーい」
後輩が去る。
俺は心の中でため息。
「危ないな」
ゲーム内名。
現実名。
今はまだ繋がっていない。
わざわざ自分から言う必要もない。
◇◇◇
昼休み。
スマートフォン。
AWO連携アプリ。
通知。
《CROSS社より返信があります》
「早いな」
開く。
《面談候補日時》
複数。
平日夜。
休日。
「仕事終わりでいいか」
明後日。
午後八時三十分。
選択。
《面談日時を確定しました》
《現実側オンライン面談》
「現実側なんだ」
当然か。
企業との話。
ゲーム内だけで完結するわけではない。
「まあいい」
昼休み終了。
仕事へ戻る。
◇◇◇
その夜。
《Welcome Back》
《Another World Online》
「さて」
今日の目的。
まず。
《シズナ防衛戦》
報酬確認。
《基本参加報酬:300G》
《高貢献度報酬:500G》
《防衛評価Sボーナス:200G》
《称号獲得ボーナス:100G》
《合計:1100G》
「結構ある」
今までで一番大きい。
「これなら装備色々買えるな」
ただ。
「先にバルガ」
試作二号。
防衛戦中にチーフの巨大斧を受けた。
耐久値。
《196/210》
数字以上に。
刀身へ負荷が掛かった可能性がある。
「見てもらおう」
◇◇◇
《鍛冶工房・バルガ》
カラン。
「バルガ」
「おう!」
「刀」
「出せ!」
「はい」
完全に診察みたいだ。
バルガ。
試作二号。
見る。
触る。
叩く。
「…………」
「どう?」
「曲がってねぇ」
「よかった」
「刃も大きな欠けなし」
「おお」
「ただし」
「?」
「ここ」
指。
刀身。
「微妙に歪んでる」
「分かるの?」
「俺を誰だと思ってる」
「鍛冶師」
「そうだ!」
バルガ。
嬉しそう。
「でも」
「?」
「データは取れた」
「斧受けたから?」
「ああ」
「怒ってたくせに」
「怒るのと参考になるのは別だ!」
「職人だなぁ」
バルガが火床を見る。
「高密度鉄だけじゃ足りねぇ」
「何が?」
「粘り」
「粘り?」
「硬いだけじゃ駄目だ」
刀。
説明。
「折れにくく」
「曲がりにくく」
「それでも斬れる」
「難しいな」
「だから面白ぇ」
笑う。
「次の課題だ」
《特殊連続イベント》
《鍛冶師バルガと刀》
《第五段階:強さと粘り》
「もう第五段階」
《異なる性質を持つ素材について情報を集めてください》
「また採掘?」
「今度は決めてねぇ」
バルガ。
「鉱石でもいい」
「魔物素材でもいい」
「他の職人に聞いてもいい」
「自分で探せと」
「そういうことだ」
「なるほど」
自由だ。
AWOらしい。
◇◇◇
「ジョウゴさん!」
工房を出たところ。
ミナたち。
「また待ってた?」
「今日は違います!」
「じゃあ何?」
「防衛戦の報酬!」
カイトが嬉しそう。
「俺、新しい盾買う!」
「いいじゃん」
「ミナは?」
「杖を更新します!」
「レント」
「弓」
「みんな装備更新か」
「ジョウゴさんは?」
「刀あるしなぁ」
買うもの。
「防具かな」
「やっと初心者防具卒業!?」
「そういえばずっとこれだな」
《初心者の革鎧》
防衛戦。
刀だけ目立って。
防具は初心者。
「動画コメントでも言われてましたよ」
「何を?」
「刀と防具が合ってないって」
「知らん」
「見た目も大事ですよ!」
「性能優先」
「銀行員っぽい!」
「意味分からない」
◇◇◇
防具屋。
《武具店・ガルド》
初日に来た店。
「お」
店主。
「兄ちゃん」
「覚えてた?」
「忘れるわけねぇだろ」
腰。
「それがカタナか」
「知ってるの?」
「バルガが町中で自慢してる」
「…………」
また。
「見せてもらったぞ」
「え?」
「試作一号の方」
「持ってきたのか」
「あいつ『見ろ!』って」
「元気だな」
「でも」
店主。
真面目。
「いい武器だ」
「そう?」
「ああ」
「まだ試作品だけど」
「だからこそ面白い」
この街の職人たち。
刀に興味持ち始めてる?
「防具見たい」
「予算は?」
「1100Gくらい」
「全部使うなよ?」
「……現実でも聞く台詞みたい」
「何?」
「いや」
◇◇◇
候補。
《鉄板補強革鎧》
《価格:700G》
《防御力:中》
《重量:中》
《機動性:低下小》
「重い」
試着。
「動きづらい?」
「少し」
肩。
腰。
回転。
「刀には合わないな」
「じゃあこれ」
《軽革戦闘衣》
《価格:650G》
《防御力:低~中》
《重量:軽》
《機動性:上昇》
「これは」
動く。
「いい」
「防御低いぞ」
「当たらなければ」
「言うと思った」
店主が笑う。
「でも」
「?」
「最低限は守れ」
胸。
腹。
肩。
薄い補強。
「布だけよりマシ」
「ならこれ」
《軽革戦闘衣を購入しました》
《650Gを支払いました》
「やっと初心者装備卒業!」
ミナ。
拍手。
「そんなに?」
「見た目かなり変わりましたよ」
鏡。
黒寄りの革装備。
軽装。
腰。
刀。
「確かに」
前より。
剣士らしい。
いや。
「侍っぽい?」
カイト。
「まだ西洋寄りだな」
「刀だけ和風」
「混ざってる」
「AWOだからいいだろ」
「それもそうだ」
◇◇◇
街を歩く。
視線。
前より。
多い。
「ジョウゴだ」
「防衛戦の」
「刀持ってる」
「動画の人」
「…………」
「慣れました?」
ミナ。
「慣れない」
「有名人ですね」
「困る」
「配信始めたらもっと増えますよ」
「まだ始めるって決めてない」
「面談でしたね」
「ああ」
その時。
プレイヤー。
一人。
「あの!」
「はい?」
「ジョウゴさんですよね?」
「そうです」
「防衛戦見てました!」
「どうも」
「あの」
緊張。
「剣の避け方」
「?」
「教えてもらえませんか?」
また。
「別にいいけど」
「本当ですか!?」
「ただ」
「?」
「言葉で説明難しい」
「ですよね!」
横。
ミナ。
「ほら!」
「何が?」
「自覚出てきた!」
「少しな」
訓練場。
行く?
「今日は時間あるし」
少し。
教える。
◇◇◇
冒険者ギルド訓練場。
「まず」
相手。
剣。
「大きく避けなくていい」
「はい」
「攻撃が通る場所から身体を外す」
「こう?」
「動きすぎ」
「え?」
「それだと次に攻撃できない」
足。
見せる。
「半歩」
「これだけ?」
「十分」
「怖くないですか?」
「慣れるまでは怖い」
「ジョウゴさんも?」
「最初はな」
現実。
剣道。
古流。
何年。
何千回。
何万回。
そういう積み重ね。
「すぐできなくて普通」
俺は言う。
「俺がやってるのも」
少し考える。
「ゲーム始めて急にできるようになったわけじゃない」
相手。
静か。
「現実でずっとやってたから」
「……なるほど」
「だから」
「?」
「焦らなくていい」
ミナたち。
少し離れて見ている。
「ジョウゴさん」
「何?」
「今の説明」
「?」
「すごくまともでした」
「いつもまともだろ!」
◇◇◇
その日のログアウト前。
公式メッセージ。
《CROSS社オンライン面談》
《明後日 20:30》
「…………」
見る。
配信。
今まで。
興味なし。
でも。
今日。
知らないプレイヤー。
教えて。
喜んだ。
「一人称視点」
もし。
自分の見てるもの。
自分の動き。
それを。
見せられるなら。
「武術の説明とかには便利かもな」
少しだけ。
考えが変わった。
ただ。
「仕事にはしたくない」
少なくとも。
今は。
AWO。
遊び。
第二の生活。
そこは。
守りたい。
◇◇◇
現実世界。
《CROSS社》。
「面談確定です」
「本人から?」
「はい」
「反応は?」
「希望日時を選んだだけ」
「らしいですね」
担当者。
苦笑。
「資料は?」
「まとめています」
画面。
《ジョウゴ》
《主な注目点》
《現実武術技能》
《独自戦闘》
《NPCとの自然な交流》
《ゲーム世界への知識伝達》
《新武器カテゴリ《刀》》
《シズナ防衛戦》
《視聴者からの配信希望多数》
「提案内容」
「第一案」
「CROSS公式配信支援」
「収益化必須?」
「なし」
「配信頻度?」
「本人任せ」
「企画参加?」
「任意」
「拘束時間?」
「最低限」
「いい」
担当者。
「この人」
「はい」
「条件厳しくしたら絶対断る」
「でしょうね」
「多分」
映像。
街を歩く。
NPCへ挨拶。
訓練場。
初心者に半歩の避け方を教える。
「配信者を作るんじゃない」
「?」
「この人の生活を」
一拍。
「そのまま見せてもらう」
それが。
CROSS社の方針になった。
そして。
第一章。
《Another World Online》へ入った一人の銀行員。
上塚賢吾。
ゲーム内名。
ジョウゴ。
彼の第二の生活は。
次第に。
AWOの中だけではなく。
現実世界へも。
繋がり始めていた。




