第16話 刀の初陣
翌日の夜。
《Welcome Back》
《Another World Online》
「よし」
俺――ジョウゴは、《銀麦亭》七号室のベッドから起き上がった。
最初に確認したのは腰。
そこには昨日完成したばかりの武器がある。
《鉄刀・試作一号》
《分類:刀》
《品質:良+》
《耐久値:150/150》
《製作者:鍛冶師バルガ》
《共同考案:ジョウゴ》
「……やっぱりいいな」
鞘から少しだけ抜く。
銀色の刀身。
現実の日本刀とは素材も製法も違う。
それでも、俺にとっては初心者の剣より遥かに馴染み深い形だった。
「今日は実戦か」
バルガから受けた連続イベント。
《鍛冶師バルガと刀》
《第二段階:実戦データ収集》
《鉄刀・試作一号を用いて実戦を行い、使用感を確認してください》
ちょうどいい。
ゴブリン集落の問題もある。
ただし――。
「無茶はしない」
刀を試したいからといって、上位ゴブリンへ突っ込む気はない。
……本当だぞ?
◇◇◇
「ジョウゴさん!」
銀麦亭の一階へ降りると、いつもの三人がいた。
ミナ。
カイト。
レント。
「おはよう……じゃないな。こんばんは」
「こんばんは!」
ミナの視線が俺の腰へ向かう。
「持ってきましたね」
「そりゃ持ってくるだろ」
「刀!」
カイトが身を乗り出す。
「今日試すんだよな?」
「ああ」
「見せて!」
「ここ食堂だぞ」
「あ」
昨日の俺と同じことをしている。
「外に出てからな」
「ちぇっ」
「子供か」
「昨日、刀が完成して喜んでた奴に言われたくない!」
「俺は二十六歳だ」
「年齢の話じゃねぇ!」
マリアさんが厨房の方から笑っていた。
◇◇◇
冒険者ギルド。
中へ入った瞬間。
「……ん?」
妙に視線を感じた。
「ジョウゴだ」
「刀持ってる」
「あれが新カテゴリ?」
「初めて見た」
「本物だ」
「…………」
俺はミナを見る。
「何?」
「だから言ったじゃないですか」
「何を?」
「話題になってるって」
「刀が?」
「ジョウゴさんもです!」
「なんで?」
「本気で言ってます?」
「ああ」
ミナが額へ手を当てる。
「もういいです……」
何なんだ。
「ジョウゴさん」
受付からエリナさんが声を掛けてくる。
「こんばんは」
「こんばんは」
そして。
エリナさんも腰の刀を見る。
「それが例の新しい剣ですか?」
「知ってるんですか?」
「バルガさんが昨日、酒場で自慢していましたから」
「…………」
あの人。
何してるんだ。
「『俺とジョウゴで新しい剣を作ったぞ!』って」
「バルガらしいな」
カイトが笑う。
「本人より宣伝してる」
「俺は宣伝する必要ないし」
「そこなんですよねぇ……」
ミナがまた妙な顔をした。
「それで今日は?」
エリナさんが依頼一覧を出す。
「刀の実戦テストをしたいんですけど、南西林は?」
「現在、浅い区域までなら入れます」
「ゴブリンは?」
「活動が活発化しています」
エリナさんの表情が真面目になる。
「ただし集落周辺への接近は禁止です」
「分かりました」
「本当に?」
「なんで受付嬢まで疑うんですか」
「グラン支部長から、ジョウゴさんには特に念を押すようにと」
「…………」
支部長。
後で覚えてろ。
いや、何もしないけど。
「こちらならどうでしょう」
《シズナ南西林・街道警戒》
《目的:街道周辺に出没するゴブリンの排除》
《討伐目標:5体以上》
《報酬:200G+討伐数加算》
《推奨人数:3~4人》
「これで」
「受注しますか?」
「ああ」
《依頼を受注しました》
◇◇◇
《シズナ南西林》
夜の森。
以前より雰囲気が悪い。
「静かですね」
ミナが小声で言う。
「逆に不気味だな」
カイトは盾。
レントは弓。
俺はまだ刀を抜かない。
「ジョウゴ」
「ん?」
「せっかくの刀なのに抜かないのか?」
「敵もいないのに抜いてどうする」
「こう……格好よく歩くとか」
「危ないだろ」
「ゲームだぞ?」
「ゲームでも刃物は刃物だ」
実際、AWOでは味方への攻撃判定も設定次第では存在する。
街中では安全制御が働くが、フィールドでは別だ。
「抜く必要がないなら鞘に入れておく」
「剣士っぽいのに堅実!」
「銀行員だからな」
「そこ関係あるか?」
「多分ない」
その時。
「止まって」
三人が止まる。
もう慣れたらしい。
「前」
茂み。
ガサッ。
「ギャッ!」
一体。
二体。
三体。
《ゴブリン Lv.3》
《ゴブリン Lv.4》
《ゴブリン Lv.4》
「三体」
「行けるな」
カイトが盾を構える。
「ジョウゴさん」
「ああ」
柄へ右手。
鯉口を切る。
「初陣だな」
スッ――。
刀を抜いた。
◇◇◇
「ギャア!」
一体が走ってくる。
棍棒。
正面。
「カイト!」
「任せろ!」
ガンッ!
盾で受ける。
ゴブリンの動きが止まる。
「ジョウゴ!」
「ああ」
一歩。
間合いへ。
「ふっ!」
横薙ぎ。
ザンッ!
《Critical Hit!》
《斬撃適正判定:Excellent》
「ギャッ!?」
HPが大きく減る。
「……軽い」
いや。
武器が軽いわけではない。
斬った時の抵抗が少ない。
「刃筋補正?」
《刀術Lv.1》の効果もあるだろう。
だが、それだけではない。
「振りやすい」
初心者の剣とは全く違う。
「ギャア!」
ゴブリンが棍棒を振る。
刀で真正面から受け――。
「いや」
避ける。
半歩。
ブンッ!
棍棒が空を切る。
「刀で受けないんですか?」
ミナが魔法を準備しながら聞く。
「なるべく受けたくない」
「なんでです?」
「折れたら嫌だから」
「そこ!?」
「試作品だぞ」
「でも武器ですよ!?」
「斬るための武器だ」
棍棒を受け止めるために作ったわけではない。
「《ファイアアロー》!」
炎の矢。
ドンッ!
ゴブリンが怯む。
「今!」
「ああ」
踏み込む。
袈裟。
ザンッ!
《Critical Hit!》
ゴブリンが光へ変わる。
《ゴブリンを討伐しました》
「一体」
刀を見る。
《耐久値:149/150》
「一しか減ってない」
「ジョウゴ!」
カイトの声。
残り二体。
一体がカイト。
もう一体が――。
「ギャアア!」
俺へ。
短剣持ち。
「ちょうどいい」
人型。
武器持ち。
刀の使い勝手を確かめるにはいい。
「来い」
「ギャッ!」
短剣。
突き。
身体を開く。
避ける。
ゴブリンがすぐに短剣を戻す。
「前より動きいいな」
レベル4だからか。
それともゴブリン集落の発展が関係しているのか。
「ギャ!」
横薙ぎ。
避ける。
次。
突き。
「……ここ」
刀を合わせる。
刃ではない。
角度。
相手の短剣を外へ。
カンッ!
《Parry!》
ゴブリンの腕が流れる。
《《崩しLv.1》発動》
体勢が大きく崩れた。
「なるほど」
以前より崩れ方が大きい。
「これが《崩し》か」
「ギャッ!?」
「悪い」
一歩。
刀を返す。
胴。
ザンッ!
《Critical Hit!》
《Weak Point!》
《斬撃適正判定:Excellent》
「ギャ――!」
消滅。
《ゴブリンを討伐しました》
「二体」
「こっちも終わるぞ!」
カイト。
盾で押さえる。
レント。
「《パワーショット》!」
矢。
肩。
「《ファイアボール》!」
炎。
ドンッ!
最後のゴブリンが倒れる。
《ゴブリンを討伐しました》
「三体」
「あと二体以上ですね」
「探すか」
◇◇◇
その後。
二体。
さらに三体。
合計八体のゴブリンを討伐した。
《街道警戒》
《討伐数:8》
《最低討伐数を達成しました》
「これで依頼達成」
「戻る?」
ミナが聞く。
「そうだな」
「え?」
「何?」
「もう帰るんですか?」
「依頼終わったし」
「刀の実戦テストは?」
「十分できた」
俺は刀を見る。
《耐久値:143/150》
七減少。
「刃こぼれらしいものはなし」
握りも問題ない。
ただ。
「少し気になるな」
「何が?」
レントが聞く。
「連続で斬った時、切っ先が少し流れる」
「分かるの?」
「ああ」
「俺には全然分からなかった」
「ほんの少しだから」
それから。
「やっぱり柄も少し直したい」
「どこを?」
「握り」
「ジョウゴさん」
ミナがじっと俺を見る。
「何?」
「完全に試作品テスターですね」
「バルガに頼まれたからな」
「普通のプレイヤーなら『攻撃力上がった! 強い!』で終わりそうなのに」
「攻撃力だけ高くても使いにくかったら嫌だろ」
「……ジョウゴさんらしいです」
そうかな。
◇◇◇
帰ろうとした。
その時。
「待って」
音。
森の奥。
ガサ。
ガサガサッ。
「またゴブリン?」
カイトが盾を構える。
「いや」
足音が違う。
重い。
ゆっくり。
木々の向こうから現れたのは――。
「グルルル……」
四足。
灰色の毛。
大きな身体。
《フォレストウルフ Lv.6》
「狼!」
「レベル6!」
ミナが杖を構える。
「一体だけ?」
レントが周囲を見る。
「いや」
俺も分かった。
「囲まれてる」
「え?」
左右。
後ろ。
茂み。
「グルル……」
《フォレストウルフ Lv.5》
《フォレストウルフ Lv.6》
《フォレストウルフ Lv.5》
《フォレストウルフ Lv.7》
「五体」
「まずくないか?」
カイトが盾を前へ。
「俺たち平均レベル3から4だぞ」
「撤退?」
ミナ。
「いや」
後ろにもいる。
逃げれば追われる。
狼相手に背中を見せるのは危険だ。
「戦う」
俺は刀を構え直す。
「円形に近い形を取ろう」
「分かった!」
「ミナを中央」
「はい!」
「レントは援護」
「了解!」
「カイト」
「前は任せろ!」
「俺は動く」
「それが一番怖いんだよ!」
「なんでだ」
狼たちが低く身を沈める。
「来るぞ」
◇◇◇
「ガウッ!」
二体同時。
「速い!」
ゴブリンとは比べものにならない。
一体はカイト。
もう一体は俺。
牙。
「っ!」
身体を横へ。
狼が通り過ぎる。
「速いな」
すぐ方向転換。
再び突進。
「でも」
ホーンラビットと似ている。
四足。
突進。
違うのは。
「連携してくる」
正面の一体に意識を向けた瞬間。
「ジョウゴ! 左!」
「分かってる!」
別の狼。
横から飛ぶ。
「《ファイアアロー》!」
ミナ。
炎が狼の進路を塞ぐ。
「ギャン!」
「助かった!」
「前!」
「ああ!」
正面。
牙。
俺は一歩前へ出る。
「え!?」
ミナの声。
狼が跳ぶ前。
懐へ。
「ここなら」
噛めない。
肩口。
刀。
「ふっ!」
斬り上げる。
ザンッ!
《Critical Hit!》
《《見切りLv.1》発動》
《《崩しLv.1》発動》
狼が横へ倒れる。
「今!」
「《パワーショット》!」
レントの矢。
ドスッ!
「ギャン!」
光になる。
《フォレストウルフを討伐しました》
「一体!」
「まだ四!」
カイトが二体を盾で引き受けている。
「重い!」
「無理に受けるな!」
「盾役にそれ言う!?」
「足を止めるな!」
俺は走る。
一体。
カイトへ噛みつこうとする狼。
横。
死角。
「ふっ!」
一閃。
《Critical Hit!》
「ギャウ!」
狼が俺へ向く。
「こっちだ」
距離を取る。
「グルル!」
突進。
待つ。
一歩。
二歩。
「ジョウゴさん!」
まだ。
「危ない!」
まだ。
狼が跳ぶ。
「今」
半身。
避ける。
すれ違う瞬間。
首筋へ。
刀を走らせる。
ザンッ!
《Critical Hit!》
《Weak Point!》
《斬撃適正判定:Perfect》
「……Perfect?」
初めて見る表示。
狼が地面へ。
光になる。
《フォレストウルフを討伐しました》
「二体!」
「ジョウゴ!」
振り返る。
「ガウッ!」
一体がミナへ。
「間に合わ――」
いや。
間に合わせる。
地面を蹴る。
「ミナ!」
「はい!」
「動くな!」
「ええ!?」
狼が跳ぶ。
俺も踏み込む。
刀では――。
間に合わない。
「なら!」
鞘。
左手。
腰から抜く。
狼の横面へ。
ゴンッ!
「ギャン!?」
軌道が逸れる。
ミナの横へ転がる。
「鞘!?」
「武器は刀だけじゃない」
「また変なこと始めた!」
「《ファイアボール》!」
ドンッ!
狼へ直撃。
「ギャウ!」
「カイト!」
「任せろ!」
盾。
押し込む。
「レント!」
「《パワーショット》!」
矢。
《Critical Hit!》
三体目が消える。
「あと二体!」
◇◇◇
残り二体。
数が減ったことで、一気に楽になった。
「《ファイアアロー》!」
「《パワーショット》!」
遠距離攻撃。
一体が怯む。
「ジョウゴ!」
「ああ!」
踏み込む。
袈裟。
《Critical Hit!》
四体目。
消滅。
最後。
《フォレストウルフ Lv.7》
「一番強い奴が残ったな」
「グルルル……!」
こちらを警戒している。
逃げる?
いや。
来る。
「ガウッ!」
俺へ。
「ジョウゴ!」
「大丈夫」
刀を下げる。
構えは低く。
「…………」
速い。
でも。
見える。
頭。
肩。
前脚。
後脚。
踏み込み。
重心。
狙い。
「右から噛む」
予測。
狼が跳ぶ。
俺は左へ。
「ここ」
身体を入れ替える。
すれ違い。
一閃。
ザンッ――!
《Critical Hit!》
《Weak Point!》
《斬撃適正判定:Perfect》
《《見切りLv.1》成功》
「ギャウッ!」
HPが大きく削れる。
「まだ!」
カイト。
盾で体当たり。
《Shield Bash!》
ドンッ!
狼が崩れる。
「ミナ!」
「はい!」
《ファイアボール!》
炎。
「レント!」
《パワーショット!》
矢。
そして。
「ジョウゴ!」
「ああ!」
最後。
踏み込む。
刀。
横薙ぎ。
「ふっ!」
ザンッ!
狼の身体が光へ変わった。
《フォレストウルフ Lv.7を討伐しました》
《経験値を獲得しました》
《Lvが上昇しました》
《ジョウゴのLvが4になりました》
「……終わった」
刀を振る。
付着した光の粒子が消える。
納刀。
カチン。
「ふう」
静寂。
「ジョウゴさん」
「何?」
「最後だけ時代劇みたいでした」
「刀だからな」
「そういう問題かなぁ……」
◇◇◇
そして。
ポーン。
《特殊戦闘データを取得しました》
《新規武器カテゴリ《刀》による実戦戦闘を確認》
《斬撃適正:高》
《使用者適合率:極めて高い》
《刀術熟練度が大幅に上昇しました》
《刀術Lv.1 → Lv.2》
「もう上がった」
「早くない!?」
カイトが叫ぶ。
「リアル技能補正でしょうか?」
「多分」
さらに。
《特殊行動を確認》
《刀と鞘を併用した戦闘》
《体術・武器術の複合使用を確認》
《特殊技能の習得条件が進行しました》
「……また何か増えそう」
レントが笑う。
「ジョウゴのスキル欄だけ別ゲームになりそうだな」
「普通に剣士やってるだけなんだけど」
「普通禁止!」
三人から同時に言われた。
◇◇◇
シズナへ帰還。
冒険者ギルド。
「八体?」
エリナさんが驚く。
「ゴブリンです」
「それだけではありません」
「?」
「フォレストウルフを五体討伐されています」
「ああ」
「『ああ』ではありません」
「なんで?」
「街道警戒で想定されている敵ではありません!」
「向こうから来たので」
「怪我は?」
「なし」
三人を見る。
「カイトは?」
「盾で何回か受けましたけど大丈夫です」
「ミナさんとレントさんは?」
「大丈夫です」
「無傷です」
「……よかった」
エリナさんが胸を撫で下ろす。
《街道警戒依頼達成》
《基本報酬:200G》
《追加討伐報酬:60G》
《危険個体討伐報酬:150G》
《合計:410G》
「結構もらえたな」
「四人で分配ですけどね」
「十分だろ」
そして。
《重要情報》
《フォレストウルフの活動域変化を確認》
「活動域?」
グラン支部長が奥から出てくる。
「詳しく聞かせろ」
「また報告会?」
「重要だ」
地図。
遭遇地点を示す。
「ここです」
「……やはりか」
「何か?」
「狼の縄張りは本来、もっと西だ」
「じゃあ何で?」
グランさんが南西林を見る。
「追い出されている可能性がある」
「ゴブリンに?」
「おそらくな」
つまり。
ゴブリン集落が発展。
活動域拡大。
その影響で別のモンスターが移動。
街道周辺へ。
「連鎖してるのか」
「そうだ」
ただ一つの集落が大きくなるだけではない。
周辺の生態系まで変わる。
「……本当に世界が動いてるんだな」
思わず呟いた。
その瞬間。
《エリアクエスト情報更新》
《シズナ防衛準備》
《進行度:94%》
《第三段階移行条件まで残り僅かです》
「94」
カイトが息を呑む。
「もうすぐですね」
「ああ」
グランさんが険しい顔で頷く。
「近いうちに動きがある」
◇◇◇
その後。
俺は三人と別れ。
一人で《鍛冶工房・バルガ》へ。
「おう!」
バルガが待っていた。
「どうだった!」
「悪くない」
「悪くないだと?」
「かなりいい」
「最初からそう言え!」
「でも改善点はある」
「言え」
俺は刀を渡す。
「まず切っ先」
「ほう」
「連続で振ると少し流れる」
「どの程度だ?」
「ほんの少し」
「お前、そんなの分かるのか?」
「分かる」
「…………」
バルガが笑う。
「面白ぇ」
「それと柄」
「握りか?」
「ああ」
「もう少し細くてもいい」
「他は?」
「刀身の厚み」
「昨日も言ってたな」
「やっぱり少し欲しい」
バルガは次々メモする。
「分かった」
《実戦データが提出されました》
《鍛冶師バルガと刀》
《第二段階:達成》
《第三段階:改良試作》
「もう次か」
「当たり前だ」
バルガが試作一号を見る。
「次はもっといいのを作る」
「楽しみにしてる」
「ただし」
「?」
「素材が足りねぇ」
「素材?」
バルガがニヤリと笑う。
「次は鉄だけじゃつまらん」
嫌な予感。
「兄ちゃん」
「何?」
「鉱山に行ってこい」
「……やっぱり」
《特殊連続イベント更新》
《鍛冶師バルガと刀》
《第三段階:新たな素材》
《シズナ北西鉱山で良質な鉄鉱石を採取してください》
「採掘か」
「いい刀が欲しいんだろ?」
「欲しい」
「なら行ってこい!」
「分かったよ」
刀を受け取る。
「明日かな」
こうして。
ゴブリン問題の裏で。
俺の刀作りも、着々と進み始めた。
◇◇◇
そして現実世界。
《CROSS社》。
「刀の実戦映像が上がりました」
「早いですね」
「街道での戦闘を別プレイヤーが遠距離から撮影していたようです」
大型モニター。
フォレストウルフ。
五体。
その中を動く一人の刀使い。
「ここ」
停止。
狼が跳ぶ寸前。
ジョウゴが前へ入る。
「また攻撃が始まる前に動いてる」
「予備動作を見ていますね」
「次」
再生。
狼とすれ違う。
一閃。
《Perfect》
「……ゲームシステム側がPerfect判定」
「偶然ではありません」
「そしてこれ」
鞘で狼の軌道を逸らす。
「剣術だけじゃない」
「ええ」
「刀、剣道、合気道……それ以外も混ざってる?」
「可能性は高いです」
担当者が資料を見る。
「視聴者から配信希望の声がさらに増えています」
「接触準備は?」
「進めています」
「本人への連絡手段は?」
「AWO運営を介して正式なオファーを送る形で調整中です」
「個人情報への直接接触はなしで」
「もちろんです」
担当者がモニターを見る。
戦闘終了後。
刀の耐久値を真っ先に確認するジョウゴ。
「……この人」
「はい?」
「勝ったことより刀の状態を気にしてません?」
「気のせいではないと思います」
「配信者として大丈夫かな」
「そこも含めて面白いんじゃないですか?」
「確かに」
笑い声。
そして。
ジョウゴ本人が何も知らないまま。
《CROSS社》から彼へ向けた最初の連絡が。
少しずつ。
準備され始めていた。




