↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第一章 AWO開始編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/130

第15話 完成した異世界の刀

 《Another World Online》を始めてから。


 仕事が終わった後の楽しみが、一つ増えた。


「上塚主任、お先に失礼します」


「お疲れさま」


「主任は今日もAWOですか?」


「そのつもり」


「完全にハマりましたね」


「否定はしない」


 俺――上塚賢吾は、最後の書類を確認してパソコンを閉じた。


 今日の仕事は終了。


 残業する理由もない。


 そして今日は。


「三日目か」


「何がです?」


「いや、こっちの話」


 鍛冶師バルガへ頼んだ武器。


 俺が現実世界の知識を教え、それを参考に作ってもらった《刀》の試作品。


 約束では三日。


 つまり――。


「今日、完成予定なんだよな」


 自然と足取りが少し軽くなった。


         ◇◇◇


 帰宅。


 夕食。


 風呂。


 明日の準備。


 いつもの生活を済ませる。


 AWOを始めたからといって、現実生活を崩すつもりはない。


 むしろ。


「これ終わらせないと落ち着いて遊べないんだよな」


 洗い物まで片づける。


 時計を見る。


「よし」


 VR機器を装着。


《Another World Onlineを起動します》


「ログイン」


         ◇◇◇


《Welcome Back》


《Another World Online》


 目を開く。


 銀麦亭。


 いつもの七号室。


 今日は迷う必要がない。


「バルガのところだな」


 装備を整えて一階へ。


「おや、ジョウゴ」


「こんばんは、マリアさん」


「今日は随分急いでるねぇ」


「頼んでた剣が完成する日なので」


「ほう!」


 マリアさんが楽しそうに笑う。


「男ってのは武器が絡むと子供みたいになるねぇ」


「そんなに顔に出てます?」


「出てる出てる!」


「……気をつけよう」


「何を気をつけるんだい!」


 笑われた。


         ◇◇◇


「ジョウゴさん!」


 銀麦亭を出たところで声。


「ん?」


 ミナだった。


 その後ろにはカイトとレント。


「三人ともどうした?」


「見に来ました!」


「何を?」


「刀ですよ!」


「なんで?」


「なんでって!」


 ミナが頬を膨らませる。


「私たちも気になるからです!」


「そうなの?」


「俺も見たい」


 カイトが頷く。


「異世界の鍛冶師が日本刀をどこまで再現したのか」


 レントも興味津々だ。


「分かった。一緒に行くか」


「最初からそのつもりです!」


 というわけで。


 四人で《鍛冶工房・バルガ》へ向かう。


         ◇◇◇


 カン。


 カン。


 カン。


 工房へ近づくにつれ、金属音が聞こえる。


「まだ作業してる?」


「別の武器じゃないですか?」


 扉を開く。


 カラン。


「こんばんは」


「……来たか」


 工房の奥。


 バルガがいた。


 いつもと違う。


 顔。


 腕。


 服。


 煤だらけ。


「すごい格好ですね」


「誰のせいだと思ってやがる」


「俺?」


「お前以外に誰がいる!」


「なんで?」


 バルガが頭を掻く。


「三日間ほとんどこいつに掛かりきりだったんだぞ」


「そんなに?」


「こんな形の剣、作ったことねぇんだから当たり前だ!」


 そして。


「まあいい」


 バルガが工房の奥へ歩く。


「待ってろ」


 俺たちは顔を見合わせる。


「ジョウゴさん」


「何?」


「なんか私まで緊張してきました」


「俺も」


「俺もだ」


「なんでお前らが緊張するんだよ」


 でも。


 俺も少しだけ。


 いや。


 かなり楽しみだった。


         ◇◇◇


「待たせたな」


 バルガが戻ってくる。


 両手には細長い布包み。


「これが」


 作業台へ置く。


「俺が作った最初の――」


 布を外す。


「《カタナ》だ」


「…………」


 思わず黙った。


 黒い鞘。


 円形に近い簡素な鍔。


 両手で握れる柄。


 そして。


 鞘から伸びる姿。


「……すごい」


 ミナが呟く。


「本当に刀だ」


 カイトも驚いている。


「ジョウゴ」


 バルガが言う。


「抜いてみろ」


「ああ」


 柄へ手を掛ける。


 ゆっくり抜く。


 スッ――。


 刀身が姿を現した。


「…………」


 片刃。


 反り。


 切っ先。


 もちろん。


 俺が現実で知っている日本刀そのものではない。


 素材も違う。


 製法も違う。


 刃文らしいものもない。


 細部を見ればかなり異なる。


 だが。


「刀だな」


 間違いなく。


 刀を目指して作られた武器だった。


《鉄刀・試作一号》


《分類:片刃剣》


《品質:良+》


《製作者:鍛冶師バルガ》


《共同考案:ジョウゴ》


《耐久値:150/150》


「共同考案?」


「名前載ってますよ!」


「俺、作ってないぞ」


「形を教えただろうが」


 バルガが鼻を鳴らす。


「なら半分はお前の知恵だ」


「そういうものか?」


「そういうもんだ」


 職人が言うならそうなのだろう。


         ◇◇◇


「振ってみろ」


「ここで?」


「裏に試し斬り場がある」


「そんな場所あったのか」


「鍛冶屋だからな」


 工房裏。


 小さな空間。


 木製の標的が並んでいる。


「まず振るだけでいい」


「ああ」


 刀を握る。


 左手。


 右手。


「…………」


 懐かしい。


 初心者の剣とは違う。


 鉄製片手剣とも違う。


 自然に構えられる。


「重心は……」


 少し前。


 ただし不自然ではない。


「悪くない」


「本当か?」


「ああ」


 バルガが真剣な顔で見る。


「振るぞ」


「やれ」


 呼吸。


 力を抜く。


 足。


 腰。


 背中。


 肩。


 腕。


 全部を繋げる。


「――ふっ」


 ヒュンッ!


「!」


 ミナたちが息を呑む。


 刀を止める。


「…………」


 俺自身が一番驚いていた。


「使いやすい」


「そうか」


 バルガが笑う。


「もう一度」


 構える。


 袈裟。


 横薙ぎ。


 切り上げ。


 突き。


 一つずつ確かめる。


 ヒュンッ!


 ヒュッ!


 シュッ!


「……全然違うな」


 カイトが呟いた。


「何が?」


「ジョウゴの動き」


「そう?」


「初心者の剣の時より自然だ」


 レントも頷く。


「武器に身体を合わせてない」


「…………」


 以前バルガにも言われた。


 西洋剣を使う時。


 俺は無意識に武器へ身体を合わせていた。


 だが今は。


「確かに」


 刀の方が。


 身体が知っている。


         ◇◇◇


 その瞬間。


 ポーン。


《プレイヤーの戦闘動作を解析》


《装備武器と身体動作の高い適合率を確認》


《現実技能との動作同期を確認》


「何か出た」


「またですか?」


 もうミナも驚かなくなってきた。


《特殊条件達成》


《片刃・反り・両手使用武器による規定動作を確認》


《既存武器分類との相違を確認》


《新規武器カテゴリが暫定登録されました》


「……え?」


《新規武器カテゴリ》


《刀》


 全員。


「「「「…………」」」」


 沈黙。


「ジョウゴ」


 カイトが俺を見る。


「何?」


「武器カテゴリ作ったぞ、お前」


「俺じゃない」


「お前だよ!」


「作ったのはバルガだろ」


「そういう問題じゃない!」


 バルガにはシステムメッセージが見えていない。


「何騒いでる?」


「この武器」


 俺は刀を見る。


「《刀》っていう新しい分類になったらしい」


「ほう!」


 バルガの目が輝く。


「なら成功じゃねぇか!」


「喜ぶところそこ?」


「当たり前だ!」


 豪快に笑う。


「世界にねぇ武器を作ったんだぞ!」


 確かに。


 職人からすれば嬉しいのだろう。


         ◇◇◇


 さらに。


 ポーン。


《新規武器カテゴリ《刀》の使用条件を満たしました》


《特殊武器技能を獲得》


《刀術Lv.1》


「刀術まで」


《刀術Lv.1》


《刀カテゴリ武器の操作補正》


《斬撃時の刃筋補正》


《抜刀・納刀動作補正》


《本技能は使用者本人の技量を強く反映します》


「また技量依存」


 レントが苦笑する。


「運営から『自分で頑張れ』って言われてるみたいだな」


「俺にはその方がいい」


 自動で身体が動くより。


 自分で動かしたい。


 その方が楽しい。


「じゃあ」


 バルガが木製標的を指す。


「斬ってみろ」


「ああ」


 標的。


 丸太。


 刀を構える。


「…………」


 間合い。


 呼吸。


 一歩。


 踏み込む。


「ふっ!」


 斬る。


 ザンッ!


 上半分が落ちる。


《Critical Hit!》


《斬撃適正判定:Excellent》


「おお!」


 カイトが声を上げる。


「すごい!」


 ミナも拍手。


 俺は刀身を見る。


「刃は?」


 確認。


「大丈夫そう」


 だが。


「バルガ」


「なんだ?」


「少し気になる」


「言ってみろ」


 俺は刀身を示す。


「ここ」


「ん?」


「もう少し厚みが欲しい」


「なぜだ?」


「今のままだと強い相手の武器を受けた時に不安がある」


「なるほど」


「それと重心」


「前過ぎるか?」


「ほんの少しだけ」


「…………」


 バルガが考える。


「分かった」


「直せる?」


「当然だ」


「じゃあお願いします」


「待て」


「何?」


「これは試作品だ」


 バルガがニヤリ。


「そのまま使え」


「いいのか?」


「ああ」


「改善点は?」


「次へ反映する」


「次?」


「一振り作って終わりなわけねぇだろ」


 目。


 完全に職人。


「もっといいカタナを作る」


「……なるほど」


「お前も付き合え」


「俺も?」


「使う奴の意見が必要だ」


《特殊連続イベントが発生しました》


《鍛冶師バルガと刀》


《第一段階:試作刀完成》


《第二段階:実戦データ収集》


「実戦?」


 嫌な単語が見えた。


         ◇◇◇


 そして。


 さらに。


《ワールド情報》


《プレイヤーとNPCの共同研究により新規武器カテゴリ《刀》が発見されました》


《一部NPC鍛冶師へ研究情報が伝播する可能性があります》


「……また世界情報変えましたね」


 ミナが俺を見る。


「俺じゃない」


「ジョウゴです」


「バルガだ」


「二人です」


「それならまあ……」


 否定できない。


 その時。


《エリアクエスト情報更新》


《シズナ防衛準備》


《進行度:78%》


《ゴブリン集落の活動が活発化しています》


《第三段階への移行条件が接近しています》


 空気が変わった。


「そっちも進んでるな」


 カイトが呟く。


「刀の実戦テスト」


 レントが森の方向を見る。


「ちょうど相手もいる」


「やめろ」


 俺は即答する。


「今日は試し振りだけ」


「珍しい!」


「新品の武器をいきなり乱戦に持ち込みたくない」


「理由が武器優先!」


「当たり前だろ」


「やっぱりジョウゴさんですね」


 ミナが笑う。


         ◇◇◇


 工房を出る。


 腰には。


《鉄刀・試作一号》


 初心者の剣とは違う感触。


「…………」


 歩きながら柄へ軽く触れる。


「嬉しそうですね」


「まあな」


「顔に出てます」


「マリアさんにも言われた」


「分かりやすいですよ」


「そうかな」


 現実なら。


 刀を腰へ差して街を歩くなんて当然できない。


 だがここは。


 剣と魔法の世界。


 《Another World Online》。


 現実ではできないことができる。


 現実で身につけたものも活かせる。


「いいゲームだな」


 自然と呟いた。


         ◇◇◇


 同時刻。


 AWO公式掲示板。


---


【速報】シズナで新武器カテゴリ発見


521:名無しの冒険者

ワールド情報見た?


522:名無しの冒険者

刀って何?


523:名無しの冒険者

日本刀じゃね?


524:名無しの冒険者

AWOに日本刀あったの?


525:名無しの冒険者

今追加されたっぽい。


526:名無しの冒険者

プレイヤーとNPC共同研究って書いてある。


527:名無しの冒険者

誰だよ。


528:名無しの冒険者

シズナらしい。


529:名無しの冒険者

待て。


530:名無しの冒険者

シズナ?


531:名無しの冒険者

まさか。


532:名無しの冒険者

ジョウゴ?


533:名無しの冒険者

またお前か。


534:名無しの冒険者

変な剣士から変な刀剣士になったw


535:名無しの冒険者

本人何したの?


536:名無しの冒険者

NPC鍛冶師に日本刀教えた説。


537:名無しの冒険者

そんなことできるの!?


538:名無しの冒険者

AWO自由度どうなってんだよ。


539:名無しの冒険者

誰か動画!


540:名無しの冒険者

ジョウゴ配信してくれ!


541:名無しの冒険者

一人称視点で刀見たい。


---


 そして。


 現実世界。


 《CROSS社》。


「……決めました」


「何をです?」


「ジョウゴへの接触準備を始めます」


「もう?」


「新規武器カテゴリまで作りました」


 モニターには。


《新規武器カテゴリ――刀》


 そして。


 掲示板で急速に増える。


 《ジョウゴの配信を見たい》


 という言葉。


「ただし」


 担当者は続ける。


「いきなり契約の話はしません」


「では?」


「まずは本人の意向確認です」


 配信したいのか。


 したくないのか。


 仕事にしたいのか。


 純粋に遊びたいだけなのか。


「こちらの都合で彼の遊び方を壊したら意味がありません」


「了解です」


「接触は慎重に」


 画面の中。


 刀を腰に差し。


 ミナたちと笑いながら銀麦亭へ向かうジョウゴ。


「この人は多分」


 担当者が苦笑する。


「自分が話題になってることすら、ほとんど気にしてませんから」


 その予想は。


 ほぼ正しかった。


 当の本人は。


「今日のおすすめ何だろ」


 新しい刀より少しだけ。


 銀麦亭の夕食にも興味を向けていたのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。