第78話 旧西方採掘場の内部調査
旧西方採掘場の入口で確認された不安定な魔力反応。その原因を調べるため、リーヴェル冒険者ギルドでは坑道内部の安全確認が進められていた。
前回の調査では、岩壁の亀裂から通常値の百七十四%に達する魔力が検出され、さらに岩壁の奥に空洞が存在することも判明した。
ただし、坑道は長年放置されており、崩落の危険がある。俺たちは無理に立ち入らず、ギルドへ報告して調査を終えた。
そして翌日。
現実世界での仕事を終えた俺は、夕食と入浴を済ませてからAWOへログインした。
宿泊先の《金麦の宿》で装備を確認していると、冒険者ギルドから通知が届いた。
《リーヴェル冒険者ギルドより連絡》
《旧西方採掘場の内部調査について》
《調査参加者はギルドへお越しください》
どうやら、坑道内部の調査準備が整ったらしい。
俺は仲間たちへ連絡し、一階の食堂で合流した。
「ジョウゴ、ギルドから連絡が来ましたね!」
ミナがそう言うと、カイトも頷いた。
「いよいよ坑道の中か」
レントは少し慎重な表情だった。
「まずは調査内容を確認しよう。崩落の危険がなくなったとは限らない」
「そうだな」
俺たちは冒険者ギルドへ向かった。
◇◇◇
ギルドの会議室では、調査主任のガルドさんと魔力調査員のエレナさんが待っていた。
さらに、作業着を着た小柄な男性が一人いる。
「皆さん、よく来てくださいました」
ガルドさんが挨拶し、男性を紹介してくれた。
「こちらは鉱山技師のドランです。旧西方採掘場の構造調査を担当してもらいます」
ドランさんは短く刈り込んだ髭を撫でながら頷いた。
「よろしく頼む。坑道のことなら多少は分かるつもりだ」
俺たちも自己紹介を済ませ、調査内容を確認した。
ドランさんによれば、古い図面がギルドの資料庫から見つかったらしい。
それによると、旧西方採掘場の入口から約百メートルまでは比較的安定した岩盤が続いているという。
ただし、それより奥には古い採掘区画があり、崩落の危険が高い。
「今回は入口から第一分岐までの調査だ。それ以上は進まん」
ドランさんがそう説明する。
ガルドさんも頷いた。
「皆さんには護衛と周辺警戒をお願いします。安全が確認できない場所へは立ち入らないでください」
俺たちは依頼書を確認した。
《調査依頼:旧西方採掘場内部安全確認》
《依頼ランク:C》
《推奨レベル:12~16》
《調査範囲:坑道入口~第一分岐》
《同行者:魔力調査員エレナ、鉱山技師ドラン》
《基本報酬:一人あたり25,000G》
《備考:崩落危険区域への立ち入り禁止》
条件を確認した俺たちは、正式に依頼を受注した。
◇◇◇
リーヴェルの西門を出発した俺たちは、旧西方採掘場へ向かった。
道中ではロックリザードを一体確認したものの、こちらへ近づく様子はなかったため、戦闘を避けて通過した。
採掘場へ到着すると、ドランさんが入口の鉄扉を確認した。
「鍵はギルドから預かっている。まずは扉の状態を見るぞ」
錆びた鎖を外し、慎重に扉を開く。
重い金属音とともに、暗い坑道が姿を現した。
内部からは冷たい空気が流れ出し、微かな鉱石の匂いが漂ってくる。
俺は星月を腰に差したまま、《索敵》を使用した。
入口付近に魔物の反応はない。
「今のところ安全そうです」
俺が報告すると、ドランさんが頷いた。
「よし。ゆっくり進むぞ」
俺たちはランタンを灯し、坑道へ足を踏み入れた。
◇◇◇
坑道内部は思っていたより広かった。
天井は三メートルほどあり、壁には古い採掘跡が残っている。
床には使われなくなった運搬用の線路が敷かれていた。
ドランさんは支柱や岩壁を確認しながら進む。
「入口付近の支柱はまだ使えるな。ただ、湿気で傷んでいる部分もある」
エレナさんも測定器を取り出した。
《魔力濃度:通常値の168%》
《波長安定度:45%》
入口の外で測定した数値と近い。
さらに進むと、魔力濃度は少しずつ上昇していった。
「奥へ向かうほど強くなっていますね」
エレナさんが呟く。
俺も《魔力感知》を使用した。
確かに、坑道の奥から不安定な魔力が流れてくる。
しかし、青晶洞で感じた魔力とは違い、複数の属性が不規則に混ざり合っているようだった。
その時、レントが足を止めた。
「ジョウゴ、前方に反応がある」
俺も《索敵》で確認する。
《ケイブバット Lv12》
《ケイブバット Lv13》
《ケイブバット Lv12》
どうやら天井付近に蝙蝠型の魔物が潜んでいるらしい。
「カイト、二人を守ってくれ」
「任せろ」
カイトが盾を構え、エレナさんとドランさんの前に立つ。
俺は星月を抜き、天井を見上げた。
次の瞬間、三体のケイブバットが羽音を響かせながら飛びかかってきた。
俺は一体目の突進をかわし、横薙ぎの斬撃を放つ。
レントの矢が二体目を射抜き、残る一体はカイトの盾に弾かれた。
そこへ俺が踏み込み、星月を振るう。
短い戦闘の末、三体を討伐した。
《ケイブバット三体を討伐しました》
《経験値を獲得しました》
俺たちは周囲を確認し、再び調査を進めた。
◇◇◇
坑道へ入ってからしばらくすると、前方に分岐が見えてきた。
古い案内板には、左が第一採掘区画、右が第二採掘区画と記されている。
ドランさんが地図を確認した。
「ここが第一分岐だ。今回の調査範囲はここまでになる」
俺たちは足を止め、周囲の安全を確認した。
エレナさんが測定器を向ける。
《魔力濃度:通常値の213%》
《波長安定度:31%》
これまでで最も高い数値だった。
「……かなり不安定ですね」
エレナさんの表情が険しくなる。
俺も《魔力感知》を使用した。
魔力は右側の坑道から強く流れ出している。
しかし、左側からも僅かな反応があった。
「右側の方が強いですね」
俺がそう言うと、エレナさんも頷いた。
「はい。第二採掘区画の奥に原因がある可能性が高いです」
ドランさんは右側の坑道を見つめた。
「あっちは古い採掘区画だ。支柱が傷んでいるはずだから、今は入れん」
その言葉に俺たちは頷いた。
ところが、その時だった。
坑道の奥から低い振動が伝わってきた。
ゴゴゴ……。
足元の小石が僅かに揺れる。
「地震か?」
カイトが周囲を見渡す。
ドランさんはすぐに岩壁へ手を当てた。
「いや、地震とは違う。奥で何かが動いているような振動だ」
俺は《索敵》を使用した。
しかし、魔物の反応はない。
エレナさんの測定器が突然点滅した。
《魔力波長に変動を検知》
《一時的な魔力濃度上昇》
《現在値:通常値の246%》
「危険です! ここから離れましょう!」
エレナさんが声を上げる。
俺は即座に判断した。
「全員、入口へ戻ります!」
カイトが二人を先導し、レントが後方を警戒する。
俺たちは慌てず、しかし足早に坑道を引き返した。
幸い、崩落は発生しなかった。
全員が無事に坑道の外へ出ると、ドランさんが鉄扉を閉め、再び封鎖した。
◇◇◇
リーヴェルへ戻った俺たちは、ギルドで調査結果を報告した。
第一分岐までの坑道は比較的安定していたこと。
魔力濃度が通常値の二百十三%に達していたこと。
そして、第二採掘区画の奥から強い魔力反応と振動が確認されたこと。
ガルドさんは報告書を読み終えると、深く息をついた。
「なるほど……第二採掘区画ですか」
エレナさんも頷いた。
「魔力の発生源は、さらに奥にある可能性が高いと思います」
ドランさんは腕を組みながら答えた。
「ただし、あの先へ進むには支柱の補強が必要だ。今の状態で入るのは危険すぎる」
ガルドさんは慎重に頷いた。
「分かりました。内部調査は一度中断し、専門の作業員による補強を検討します」
今回の依頼は、予定された第一分岐までの調査を完了したため、無事に達成となった。
《旧西方採掘場内部安全確認》
《依頼達成》
《基本報酬:25,000G》
《冒険者ギルド評価が上昇しました》
報酬を受け取った俺たちは、金麦の宿へ戻ることにした。
帰り道、レントが静かに口を開いた。
「第二採掘区画の奥……何があるんだろうな」
「まだ分からない。ただ、あの魔力反応は普通じゃない」
俺が答えると、ミナも頷いた。
「でも、全員無事に戻れてよかったです」
「ああ。それが一番だな」
カイトも笑った。
「次に行く時は、しっかり安全確認が終わってからだな」
俺たちは宿屋へ戻り、今日の調査を振り返った。
旧西方採掘場の奥に潜む魔力異常。
その原因へ少しずつ近づいていることは確かだった。
しかし、急ぐ必要はない。
安全を確保しながら、一つずつ調べていけばいい。
そう考えながら、俺は翌日の仕事に備えてログアウトした。




