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Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第一章 AWO開始編

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第13話 剣がないなら体術で

「……しまった」


 翌日の夜。


 仕事と家事を終えて《Another World Online》へログインした俺――ジョウゴは、《銀麦亭》の七号室で自分の腰を見下ろしていた。


 そこには。


「初心者の剣しかない」


 当然だ。


 昨日、650Gを鍛冶師バルガへ支払った。


 注文したのは、俺の知識を参考に作ってもらう《刀》の試作品。


 完成予定は三日後。


 だから今使える武器は、最初から持っている《初心者の剣》だけだ。


「まあ、使えるだけマシか」


 壊れているわけでもない。


 ホーンラビットもゴブリンも倒せた。


 だが。


 メニューを確認すると。


《初心者の剣》


《耐久値:43/100》


「結構減ってるな」


 パリィ。


 ゴブリンの短剣。


 棍棒。


 そして剣そのものを投げた。


「そりゃ減るか」


 新しい刀が完成するまで、なるべく酷使しない方がいい。


「今日は街でも歩くかな」


 そう思い、階段を下りた。


         ◇◇◇


「ジョウゴ!」


 銀麦亭の食堂へ降りた瞬間。


「ん?」


 カイト。


 ミナ。


 レント。


 三人がすでにテーブルを囲んでいた。


「なんでいるんだ?」


「待ってたんですよ!」


 ミナが言う。


「俺を?」


「今日からエリアクエスト第二段階だぞ!」


 カイトがウィンドウを見せる。


《エリアクエスト》


《シズナ防衛準備》


《ゴブリン集落の危険度上昇》


《各組織が防衛準備を開始しています》


「ああ、それか」


「忘れてた?」


「忘れてはいない」


「じゃあ行こうぜ!」


「どこへ?」


「冒険者ギルド!」


「俺、今日は戦闘控えようと思ってたんだけど」


 三人が止まる。


「……ジョウゴが?」


「戦闘を?」


「控える?」


「お前ら俺を何だと思ってる?」


「戦闘民族」


「変な剣士」


「リアルスキル持ち」


「最後だけまだマシだな」


 俺は腰の剣を見せる。


「耐久値が43しかない」


「あー」


 カイトが納得する。


「刀が完成するまで温存か」


「そういうこと」


「ならちょうどいいですよ」


 ミナが笑った。


「今回、戦闘だけじゃありません」


「何がある?」


「見れば分かります!」


 またその言い方。


         ◇◇◇


 冒険者ギルド。


「すごいな」


 昨日までと雰囲気が違った。


 壁一面に依頼票。


《南門防壁補修》


《矢の運搬》


《薬草・回復薬確保》


《食料運搬》


《街道警戒》


《南西林周辺偵察》


《ゴブリン討伐》


 そして。


《衛兵隊合同戦闘訓練》


「防衛準備って、本当に準備からやるんだな」


「そうみたいですね」


 ミナが頷く。


 そこへ。


「ジョウゴさん」


「こんばんは、エリナさん」


 受付嬢エリナ。


「ちょうどよかったです」


「何か?」


「グラン支部長から伝言があります」


「嫌な予感」


「なぜです?」


「最近、支部長から呼ばれると大体面倒事だから」


「ふふっ」


 笑われた。


「今回は危険な依頼ではありませんよ」


「本当に?」


「訓練場へ来てほしいそうです」


「訓練場?」


         ◇◇◇


 冒険者ギルド裏。


 広い訓練場。


「来たか」


 グラン支部長が待っていた。


 その周囲にはNPC冒険者。


 衛兵。


 そしてプレイヤーたち。


「今日は何を?」


「戦闘訓練だ」


「俺、武器壊したくないんですけど」


「木剣を使う」


「なら大丈夫です」


 グランさんが俺を見る。


「お前には少し頼みたいことがある」


「俺に?」


「ああ」


 嫌な予感が強くなった。


「昨日の報告書を読んだ」


「はい」


「ゴブリンの武器を落としたそうだな」


「またその話ですか」


「投げも使った」


「掴まれたので」


「攻撃を最小限の動作で避ける」


「普通ですよね?」


「普通ではない」


 即答された。


 後ろから三人の笑い声。


「そこで」


 グランさんが木剣を一本投げてくる。


 受け取る。


「新人冒険者相手に、回避と受け流しの手本を見せろ」


「俺が?」


「お前が」


「いや、俺も新人ですけど」


「だからいい」


「どういう理屈です?」


「同じ異邦人なら参考になる」


「…………」


 確かに。


 NPCの熟練冒険者が見本を見せるより、同じプレイヤーの方が「自分にもできるかもしれない」と思える。


「分かりました」


「ただし」


「はい」


「投げるな」


「…………」


「関節も取るな」


「…………」


「蹴るな」


「俺の選択肢を先回りで潰さないでください」


「剣術を見せろ!」


         ◇◇◇


「それでは始める!」


 訓練場。


 俺の正面に若いNPC冒険者。


《新人冒険者 ロイド》


「よろしくお願いします!」


「よろしく」


 木剣を構える。


 ロイドも構える。


「始め!」


「はっ!」


 ロイドが踏み込む。


 上段から木剣。


 分かりやすい。


 一歩。


 いや。


 半歩。


 身体を横へ。


 ブンッ!


 木剣が俺の肩の横を通る。


「え?」


「振り切らない方がいい」


「え?」


「外した時に隙が大きくなる」


 俺は木剣をロイドの肩へ軽く当てる。


「こうなる」


「……はい」


「もう一回」


「はい!」


 二撃目。


 今度は横薙ぎ。


 木剣を合わせる。


 ガッ。


 力で止めない。


 角度を付ける。


 滑らせる。


「うわっ」


 ロイドの剣が外へ流れる。


「力で受ける必要はない」


 俺は説明する。


「相手の力が向かう方向を少し変えればいい」


「少し……」


「真正面から止めるより楽だから」


「なるほど……」


 周囲が静かだ。


「?」


 見る。


 プレイヤーたちが真剣にこちらを見ていた。


「何?」


 カイトが額を押さえる。


「ジョウゴ」


「うん」


「それをレベル3で説明してるのが一番おかしい」


「レベル関係ないだろ」


「それなんだよ!」


         ◇◇◇


 次。


 別のプレイヤー。


「お願いします!」


「どうぞ」


「《スラッシュ》!」


 木剣が光る。


 アーツ。


 斜め振り。


「なるほど」


 以前カイトにも見せてもらった。


 威力はある。


 システム補正も強い。


 ただ。


「やっぱり分かりやすい」


 発動直前。


 光。


 構え。


 身体の動き。


 攻撃軌道。


 一歩入る。


「えっ?」


 相手が振り切る前。


 懐へ。


 木剣を相手の柄元へ添える。


 ガッ。


《Parry!》


 軌道が外れる。


「うそ!?」


「アーツでもいけるのか」


 俺の方が驚いた。


「ジョウゴさん!」


 ミナが叫ぶ。


「何?」


「今、アーツ発動中に入っていきましたよね!?」


「振り始める前なら安全だろ」


「安全じゃありません!」


「でも当たってないぞ」


「結果論!」


 その時。


 ポーン。


《特殊条件を達成しました》


「ん?」


《敵対行動の予備動作を認識》


《攻撃発生前に間合いへ侵入》


《相手の攻撃姿勢を崩しました》


《特殊スキル《崩し》の条件を達成しました》


「お」


《《崩しLv.1》を習得しました》


「取れた」


「また!?」


 ミナが駆け寄る。


《崩しLv.1》


《敵対対象の姿勢・重心・武器軌道へ干渉した際、体勢崩壊補正が僅かに上昇します》


《本スキルはプレイヤー自身の技量に依存します》


「技量依存……」


 レントが覗き込む。


「《見切り》と同じタイプだな」


「みたいだ」


「ジョウゴ専用スキルみたいになってません?」


「誰でも取れるだろ、多分」


「条件を自然に満たせればな!」


 カイトが突っ込む。


         ◇◇◇


「次!」


 グランさんが声を上げる。


「まだやるんですか?」


「せっかくだ。もう一つ見せろ」


「何を?」


「武器を失った場合だ」


「……素手?」


「ああ」


 木剣を置く。


「それなら得意分野です」


「嫌な予感がする」


 なぜグランさんまでそんなことを言う。


 相手はNPC衛兵。


 木剣を持っている。


「本気で?」


「寸止めだ」


「分かりました」


「始め!」


 衛兵が踏み込む。


 木剣。


 突き。


「ふっ」


 身体を外す。


 右手で手首。


 左手で肘。


「待――」


 そのまま。


 相手の重心を前へ。


「よっ」


 クルッ。


 ドサッ!


 衛兵が地面へ。


《Throw!》


「…………」


 静寂。


「あ」


 グランさんを見る。


「投げるなって言われてた」


「素手なら仕方ない」


「いいんですか?」


「今は武器を失った場合の訓練だからな」


「なるほど」


「だが」


 グランさんが頭を抱える。


「なぜ剣士のお前が衛兵を素手で投げられる?」


「合気道です」


「アイキドウとは何だ?」


「俺の故郷の武術です」


「また故郷か……」


 バルガにも似た反応をされたな。


 その時。


 ポーン。


《特殊技能習得条件を達成》


《武器非装備状態で複数回の投げ・崩し・受け流しに成功》


《体術系スキルが解放されました》


《《体術Lv.1》を習得しました》


「本当に取れた」


 ミナが遠い目をする。


「言った通りになりましたね……」


「何が?」


「剣士なのに格闘スキル覚えるって」


「ああ」


 俺はスキル欄を見る。


《剣術Lv.1》


《受け流しLv.1》


《身体操作Lv.1》


《見切りLv.1》


《崩しLv.1》


《体術Lv.1》


「バランス悪いな」


「どこがです?」


「剣士なのに剣術が一番普通」


「そこ!?」


         ◇◇◇


 訓練終了。


《シズナ防衛準備》


《衛兵隊合同戦闘訓練への協力を確認》


《報酬:100G》


「お金も貰えるのか」


「防衛準備依頼ですからね」


 エリナさんから報酬を受け取る。


 昨日650Gを全部使ったので助かる。


「ジョウゴさん」


「はい?」


「グラン支部長から追加評価が入っています」


「追加?」


《新人冒険者への技術指導》


《追加報酬:50G》


「合計150Gか」


「よかったですね!」


「ありがたい」


 そして。


《シズナ冒険者ギルドからの評価が上昇しました》


《シズナ衛兵隊からの評価が上昇しました》


 また評価。


「こういうのも積み重なるんだな」


「AWOではNPCとの関係も重要みたいですよ」


「面白いな」


 戦闘だけではない。


 猫探し。


 調査。


 訓練。


 全部が世界に残っていく。


         ◇◇◇


 その頃。


 訓練を見ていた一人のプレイヤーが。


 AWO公式掲示板へ動画を投稿していた。


---


【動画】シズナの変な剣士、ついに発見


『例のジョウゴいた』


『動画撮れたぞ』


『マジ!?』


『見せろ』


 再生。


 木剣を振る新人。


 半歩だけ動くジョウゴ。


 攻撃が空振り。


 次。


 アーツ《スラッシュ》。


 発動前へ踏み込む。


 パリィ。


 最後。


 素手。


 衛兵を投げる。


---


『…………』


『…………』


『…………』


『剣士?』


『剣士です』


『最後柔道じゃね?』


『合気道っぽい』


『何でアーツ発動前に入れるんだよ』


『リアル武術勢確定だろ』


『動き綺麗すぎ』


『レベルいくつ?』


『3らしい』


『は???』


『Lv3でこれ?』


『装備は?』


『初心者装備』


『草』


『本人配信してないの?』


『してない』


『配信してくれ』


『こういうプレイヤーの一人称視点見たい』


『AWOのリアルスキル検証にもなるだろ』


『運営公認配信とか来ないかな』


---


 一本の短い動画。


 それだけだった。


 だが。


 再生数は。


 百。


 千。


 数千。


 少しずつ伸びていく。


 そして。


 現実世界。


 AWOに関連する映像・配信事業を担当している企業。


 《CROSS社》


 その社内でも。


「……このプレイヤー、面白いな」


 一人の社員が。


 その動画を開いていた。


 剣士ジョウゴ。


 本人が何も知らないまま。


 第二の生活を楽しんでいるその裏側で。


 現実世界でも。


 少しずつ。


 彼の周囲が動き始めていた。

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