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Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第一章 AWO開始編

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第12話 650Gの剣と初めての注文

「ここだ」


 夜の《シズナ》。


 俺――ジョウゴは、カイト、ミナ、レントの三人と一緒に《鍛冶工房・バルガ》の前へ立っていた。


 ゴブリン集落の調査報酬。


 250G。


 それまでに稼いだ報酬と素材売却金を合わせて、ついに所持金が650Gを超えた。


 目的は一つ。


「そんなに欲しかったんですか?」


 ミナが呆れたように聞いてくる。


「ああ」


「初心者の剣でも普通に戦えてたじゃないですか」


「戦えるのと欲しいのは別だ」


「分かる!」


 カイトが力強く頷く。


「装備更新はMMORPGの醍醐味だからな!」


「だよな」


「男二人が急に意気投合した」


 ミナがレントを見る。


「俺も気持ちは分かるぞ」


「レントさんまで……」


「武器は大事だ」


「まあ、それはそうですけど」


 俺は扉へ手をかける。


 カラン。


「こんばんは」


「おう――って」


 工房の奥から大柄な男が顔を出した。


 鍛冶師バルガ。


「兄ちゃんか」


「覚えてたんですね」


「忘れるかよ」


 バルガが笑う。


「カタナとかいう妙な武器の話をした異邦人だろ?」


「それだけで覚えられてたのか」


「それと」


 俺の腰を見る。


「初心者のくせに剣の重心へ文句つけた奴」


「文句じゃなくて感想です」


「同じようなもんだ!」


「ジョウゴさん」


「何?」


「NPC相手でも通常運転ですね」


「普通に話してるだけだろ」


「その普通は禁止です」


 またか。


         ◇◇◇


「で?」


 バルガが腕を組む。


「今日は何しに来た?」


「買いに来ました」


「何を?」


「あれ」


 壁。


 前回見つけた一本。


《鉄製片手剣》


《品質:良》


《価格:650G》


「金は?」


「貯めました」


「ほう!」


 バルガが嬉しそうに笑う。


「なら持ってみろ」


「いいんですか?」


「買うんだろ?」


「もちろん」


 剣を取る。


 鞘から抜く。


 スッ。


「…………」


 やはり悪くない。


 初心者の剣より少し軽い。


 正確には、重量そのものより重心が手元寄りなのだ。


 切っ先を動かしやすい。


「振っていいです?」


「工房の中だから軽くだぞ」


「分かりました」


 肩の力を抜く。


 剣を正面。


 右足を少し引く。


 呼吸。


「ふっ」


 ヒュッ。


 一閃。


 止める。


 切っ先はほとんど揺れない。


「…………」


 バルガが黙っている。


「やっぱりこれがいいな」


「兄ちゃん」


「はい?」


「今のは何だ?」


「素振りです」


「それは分かる」


 バルガが近づく。


「なんで振った直後に剣先が止まる?」


「止めたから」


「だからどうやってだよ」


「手だけで振ってないので」


「……ほう?」


 バルガの目が鋭くなる。


 俺は説明する。


「腕だけで振ると剣に振られるので」


 足。


 腰。


 背中。


 肩。


 腕。


「身体全体を繋げて動かしてるだけです」


「だけって……」


 ミナが何か言った。


 聞かなかったことにしよう。


「もう一回やれ」


「はい」


 構える。


 振る。


 ヒュンッ。


 停止。


「もう一度」


 ヒュッ。


「横」


 薙ぐ。


「突き」


 一歩。


 剣先を前へ。


 ピタッ。


「…………」


 バルガが顎へ手を当てる。


「なるほどな」


「何がです?」


「お前にこの剣は合わねぇ」


「え?」


「ええ!?」


 なぜかミナまで驚いた。


「ちょっと待ってください」


 俺は剣を見る。


「前は悪くないって」


「悪くねぇ」


「じゃあ」


「だが合ってねぇ」


 どういうことだ?


         ◇◇◇


 バルガが別の剣を持ってくる。


「これ振ってみろ」


《鉄製ロングソード》


「重いですね」


「いいから」


 構える。


 一度振る。


「違うな」


「だろ?」


 次。


《軽鉄の片手剣》


 振る。


「軽すぎる」


「だろうな」


 次。


《傭兵の剣》


「重心が前すぎる」


「やっぱりか」


 何本も試す。


「バルガさん」


「なんだ?」


「何を確認してるんです?」


「お前の癖だ」


「癖?」


「ああ」


 バルガが最初の《鉄製片手剣》を持つ。


「お前は剣を力で振らねぇ」


「まあ」


「刃の向き、重心、切っ先。それをかなり細かく使ってやがる」


 意外だった。


 NPCからそこまで見抜かれるとは。


「それに」


 バルガが俺を見る。


「この剣を握ってる時、お前は無意識に動きを合わせてる」


「剣に?」


「そうだ」


「…………」


 言われて気づく。


 確かに。


 西洋剣は日本刀と違う。


 だから俺は自然に剣の形へ身体を合わせていた。


「それで戦えねぇわけじゃない」


「はい」


「むしろ普通の異邦人より遥かに上手く使ってる」


「それは……」


「だが」


 バルガがニヤリとする。


「お前が本当に使いたい武器じゃねぇだろ?」


「…………」


 頭に浮かぶ。


 日本刀。


 長年扱ってきた形。


 片刃。


 反り。


 両手で握る柄。


「まあ……そうですね」


「だったら」


 バルガが工房の奥を指差す。


「作ってやろうか?」


「え?」


 全員が止まった。


「カタナ」


「作れるんですか?」


「知らねぇ武器だ」


「ですよね」


「だからお前が教えろ」


 バルガが笑う。


「形をな」


         ◇◇◇


《特殊イベントが発生しました》


《鍛冶師バルガの興味》


《未知の武器について情報を提供してください》


《情報量・再現度により製作品質が変動します》


「イベント……」


 ミナが呟く。


「こんなのあるんですね」


 俺も驚いている。


「兄ちゃん」


「はい」


「カタナってのを説明しろ」


「そう言われても……」


 俺は刀鍛冶ではない。


 作り方を完全に知っているわけでもない。


 ただ、剣道。


 古流剣術。


 そして刀について学んだ知識。


 それならある。


「紙あります?」


「あるぞ」


 作業台へ紙が置かれる。


 俺はペンを持つ。


「まず形は……」


 線を引く。


「こんな感じ」


「反ってるな」


「はい」


「刃は?」


「こっち側だけ」


「片刃」


「そうです」


「切っ先は?」


「こう」


 細かく描く。


「柄は長め」


「両手で持つのか?」


「基本は」


「鍔は?」


「あります」


「どんな形だ?」


「色々ありますけど、単純にするなら円形でも」


 話しながら描く。


 すると。


《現実知識の提供を確認》


《特殊イベント進行度:18%》


「お」


「数字出ましたよ!」


「まだ18か」


 さらに説明。


「刀は反りを利用して斬る」


「なるほど」


「ただ叩きつけるというより、刃筋を立てて――」


 説明が難しい。


 俺は剣を持つ。


「動きで見せた方が早いですね」


「やってみろ」


 鉄製片手剣を両手で握る。


「本当は形が違いますけど」


 構える。


「こういう感じで」


 一歩。


 振る。


 ヒュンッ!


「刃の向きを崩さない」


「ほう」


「そして」


 もう一度。


「対象へ当たったところから、刃を通すように」


「押し切るんじゃねぇのか?」


「違います」


「面白ぇ」


《特殊イベント進行度:31%》


「上がった」


「ジョウゴさん」


「何?」


「完全に武術講座になってます」


「説明しろって言われたからな」


         ◇◇◇


 さらに。


 反り。


 柄。


 鍔。


 切っ先。


 刀身の厚み。


 重心。


 可能な範囲で説明する。


 ただし。


「作り方そのものは分かりません」


「知らねぇのか?」


「俺は使う側なので」


「十分だ」


 バルガが紙を見る。


「作るのは鍛冶師の仕事だ」


 少し格好いい。


「ただ」


 俺は付け加える。


「俺の知っている刀は、普通の鉄をそのまま叩いて終わりじゃないです」


「何?」


「素材の作り方から特殊だったはずです」


「ほう?」


「でも、そこは専門じゃないので詳しくは」


 たたら製鉄。


 玉鋼。


 折り返し鍛錬。


 焼き入れ。


 知識として知っていても、実際に再現できるほどではない。


「なら今回は鉄で作る」


「いいんですか?」


「最初から完璧なんざ無理だ」


 バルガが笑う。


「まず形にしてみる」


《特殊イベント進行度:52%》


《一定量の武器情報が提供されました》


《鍛冶師バルガが試作品の製作を決意しました》


「試作品」


「三日くれ」


「ゲーム内で?」


「三日だ」


 AWOと現実時間は基本同期。


 つまり現実でも三日。


「分かりました」


「金は?」


 恐る恐る聞く。


「650Gでいい」


「え?」


「本来ならもっと取る」


「ですよね」


「だがこれは俺が作りたい」


 職人の顔。


「未知の武器だ。金よりそっちの方が面白ぇ」


「……分かりました」


《650Gを支払いました》


 所持金。


 ほぼ空。


「貧乏になった」


「本当に全部使った!」


 ミナが笑う。


「また稼げばいい」


「その考え方、ゲームだと強いですね」


「現実では絶対やらないぞ」


 銀行員が全財産を武器へ突っ込んだら笑えない。


         ◇◇◇


 工房を出る。


「まさか剣買いに来てオーダーメイドになるとは」


 カイトが呟く。


「俺も予想してなかった」


「しかも日本刀」


 レントが俺を見る。


「できるの楽しみだな」


「ああ」


 かなり楽しみだ。


「三日後か」


 その時。


 ポーン。


《特殊情報》


《プレイヤーの現実知識により、ゲーム世界に存在しない武器概念がNPCへ伝達されました》


「……ん?」


 さらに。


《世界情報に微小な変化が発生しました》


「世界情報?」


 三人も表示を見ている。


「何ですかこれ?」


「知らない」


 続く。


《NPCはプレイヤーから得た知識を記憶・研究・発展させる場合があります》


「…………」


 全員が黙る。


 カイトが口を開く。


「つまり」


「うん」


「バルガさんが日本刀を覚えた?」


「多分」


「それだけじゃないですよ」


 ミナが表示を指す。


「研究・発展って……」


 レントが呟く。


「プレイヤーが教えたものをNPCが勝手に改良する可能性がある?」


「……そういうことになるな」


 俺は振り返る。


 《鍛冶工房・バルガ》。


 中から。


 カンッ!


 カンッ!


 早くも金属音。


「もう始めてる」


「職人ですねぇ」


 俺は少し笑った。


「三日後が楽しみだ」


 ただ。


 この時の俺たちは知らなかった。


 俺が何気なく伝えた《刀》という武器。


 それが。


 この世界の鍛冶師たちへ少しずつ広がっていく可能性を持っていることを。


 そして何より。


 現実の技術をAWOへ持ち込める。


 その意味が。


 単純に「現実で剣術が上手いプレイヤーは戦闘でも強い」という程度ではないことを。


 知識。


 経験。


 技術。


 発想。


 それらすべてが。


 この《Another World Online》では。


 世界そのものへ影響を与える可能性を持っていた。

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