第76話 西方山地の魔力異常と追加調査
西方山地の採掘道で発見した不安定な魔力反応。それは、俺たちが想像していた以上に重要なものだったらしい。
前回の調査では、第一から第三調査区間までの魔物の分布を確認し、第三調査区間の岩壁に生じた亀裂から微弱な魔力が漏れ出していることを発見した。
冒険者ギルドへ報告したところ、依頼は無事に達成となったものの、魔力異常の原因までは分かっていない。
そして翌日、現実世界での仕事を終えてAWOへログインした俺は、宿泊先の《金麦の宿》で仲間たちと合流した。
「ジョウゴ、おはようございます!」
ミナが笑顔で声をかけてくる。
俺も挨拶を返して席に着くと、レントが一枚の通知を見せてきた。
「冒険者ギルドから連絡が来ている。昨日の調査について、追加で話を聞きたいそうだ」
「もう連絡が来たのか」
俺が驚くと、カイトが頷いた。
「どうやら、あの魔力反応が気になってるらしいな」
確かに、普通の採掘道で不安定な魔力が漏れ出していれば、ギルドとしても放置できないだろう。
俺たちは朝食を済ませ、冒険者ギルドへ向かった。
◇◇◇
ギルドへ到着すると、受付職員から二階の会議室へ案内された。
部屋には、四十代ほどの男性と、灰色のローブを着た女性が待っていた。
男性は俺たちを見ると立ち上がり、丁寧に挨拶した。
「初めまして。私はリーヴェル冒険者ギルドの調査主任、ガルドと申します」
続いて女性も頭を下げる。
「魔力調査を担当しているエレナです。よろしくお願いします」
俺たちも自己紹介を済ませ、席に着いた。
ガルドさんは机に地図を広げると、昨日の報告書を取り出した。
「皆さんが発見した魔力反応について、詳しくお聞きしたいのです」
俺は亀裂の位置や周辺の状況を説明した。
岩壁に細い亀裂があり、そこから不安定な魔力が漏れていたこと。青晶洞で確認した魔力循環の異常とは違う反応だったこと。そして、無理に調査を進めず引き返したこと。
話を聞き終えたエレナさんが、興味深そうに口を開いた。
「魔力波長が不安定だったのですね。属性は判別できましたか?」
「いいえ。鑑定では不明と表示されました」
「なるほど……」
エレナさんは少し考え込んだ後、資料を取り出した。
「実は最近、西方山地の一部で地中魔力の変動が確認されています。ただ、詳しい原因はまだ分かっていません」
ガルドさんも頷いた。
「魔物の活動範囲が変化した時期と、魔力変動が報告され始めた時期が近いのです」
つまり、二つの異常には関係があるかもしれないということだ。
ただし、現時点では確証がない。
俺がそう確認すると、エレナさんも頷いた。
「はい。だからこそ、現地で詳しく調べる必要があります」
◇◇◇
ガルドさんは新しい依頼書を差し出した。
今回の内容は、第三調査区間で発見した亀裂の再調査だった。
ただし、前回とは違い、魔力調査員が同行するという。
「エレナを同行させます。皆さんには護衛と周辺警戒をお願いしたいのです」
俺は依頼書を確認した。
《追加調査依頼:西方山地の魔力異常》
《依頼ランク:C》
《推奨レベル:12~16》
《依頼内容:第三調査区間の魔力反応測定》
《同行者:魔力調査員エレナ》
《報酬:一人あたり20,000G》
《備考:危険な魔力反応を確認した場合は調査を中断すること》
条件は悪くない。
ただ、今回は護衛対象がいるため、昨日以上に慎重な行動が必要だ。
「俺たちだけで判断できない危険があった場合は、すぐ撤退していいんですよね?」
俺が尋ねると、ガルドさんは頷いた。
「もちろんです。調査よりも全員の安全を優先してください」
その言葉を聞いて安心した。
仲間たちにも確認すると、三人とも依頼を受けることに賛成してくれた。
俺たちは正式に追加調査依頼を受注し、エレナさんとともに西方山地へ向かった。
◇◇◇
リーヴェルの西門を出発した俺たちは、昨日と同じ採掘道を進んだ。
エレナさんは小型の魔力測定器を持ち、時折周囲の魔力濃度を確認している。
第一調査区間では、昨日と同じ場所にロックリザードが一体いたものの、こちらへ近づいてくる様子はなかった。
俺たちは刺激しないよう距離を取り、そのまま通過する。
第二調査区間へ入ると、レントが周囲を警戒しながら呟いた。
「昨日より魔物の反応が少ないな」
「移動したのかもしれないな」
俺も《索敵》で確認したが、近くに敵対的な反応はなかった。
ただ、魔物が少ないからといって安全とは限らない。
俺たちは警戒を続けながら第三調査区間へ進んだ。
◇◇◇
問題の岩壁へ到着すると、エレナさんが早速測定器を取り出した。
「ここですね」
「はい。昨日、魔力反応を確認した場所です」
俺が答えると、エレナさんは慎重に亀裂へ近づいた。
測定器の先端を岩壁へ向けると、淡い光が点滅する。
《地中魔力反応を検知》
《魔力濃度:通常値の137%》
《波長安定度:54%》
《属性:複合》
エレナさんが眉をひそめた。
「……思ったより不安定ですね」
「危険な状態ですか?」
俺が尋ねると、彼女は少し考えてから答えた。
「今すぐ危険というわけではありません。ただ、通常の地中魔力とは明らかに違います」
エレナさんは測定器の記録を確認しながら続けた。
「魔力が地中から自然に漏れているというより、どこかで流れが妨げられ、別の場所へ押し出されているような反応です」
その説明を聞き、俺は青晶洞の出来事を思い出した。
あの洞窟では魔力循環が途切れたことで、蒼晶竜の幼竜が衰弱していた。
今回も魔力の流れに問題が起きているのだろうか。
ただし、似た現象だとしても原因まで同じとは限らない。
俺はエレナさんへ尋ねた。
「魔力の流れを追跡することはできますか?」
「ある程度なら可能です。ただ、地中深くまでは測定できません」
エレナさんは測定器を調整し、亀裂から漏れる魔力の方向を確認した。
すると、測定器が山の奥を指し示した。
「……西側ですね」
レントが地図を開く。
「その方向には古い採掘場がある」
エレナさんも頷いた。
「現在は使用されていない《旧西方採掘場》です。数年前に採掘量が減少し、閉鎖されたと聞いています」
俺は地図を確認した。
旧西方採掘場は、今回の調査範囲よりさらに奥に位置している。
そこへ向かうには別の許可が必要らしい。
「今日はここまでにしましょう」
俺がそう言うと、エレナさんも賛成した。
「はい。十分な測定結果が得られました。無理に奥へ進む必要はありません」
◇◇◇
調査を終えて帰ろうとした時だった。
レントが突然、弓を構えた。
「ジョウゴ、左の岩場に反応!」
俺もすぐに《索敵》を使用する。
《ロックリザード Lv15》
《ロックリザード Lv14》
岩陰から二体の大型蜥蜴が姿を現した。
どうやら、こちらへ近づいてきているらしい。
「カイト、エレナさんを守ってくれ!」
「任せろ!」
カイトが盾を構え、エレナさんの前へ立つ。
俺は星月を抜き、魔物の動きを確認した。
一体目のロックリザードが勢いよく突進してくる。
俺は半歩だけ身体をずらし、突進をかわした。
硬い鱗に覆われた胴体を避け、脚の関節を狙って斬撃を放つ。
魔物が体勢を崩したところへ、レントの矢が突き刺さった。
もう一体はカイトへ向かっていたが、盾で攻撃を受け止められていた。
「こいつ、結構力が強いな!」
カイトが踏ん張る。
その背後でミナが支援魔法を発動した。
「《プロテクション》!」
防御力が上昇したカイトは、ロックリザードを押し返した。
俺はその隙に横へ回り込み、星月を振るう。
数度の攻防の末、二体のロックリザードを討伐することができた。
《ロックリザード二体を討伐しました》
《経験値を獲得しました》
周囲に追加の魔物がいないことを確認し、俺たちは撤収した。
◇◇◇
リーヴェルの冒険者ギルドへ戻ると、エレナさんが調査結果をガルドさんへ報告した。
地中魔力の濃度は通常値の百三十七%。
波長安定度は五十四%。
そして、魔力の流れが旧西方採掘場の方向から来ている可能性があること。
ガルドさんは報告を聞き終えると、真剣な表情で頷いた。
「旧西方採掘場ですか……」
「何か心当たりがあるんですか?」
俺が尋ねると、ガルドさんは少し考えてから答えた。
「閉鎖された採掘場ですが、最近、その周辺でも魔物の目撃情報が増えているのです」
どうやら、問題は採掘道だけではないらしい。
エレナさんも頷いた。
「原因を調べるには、旧西方採掘場の調査が必要になると思います」
ただし、閉鎖された採掘場には崩落の危険がある。
ギルドとしても、すぐに冒険者を送り込むわけにはいかないという。
俺たちは今回の調査依頼を完了し、報酬を受け取った。
《追加調査依頼:西方山地の魔力異常》
《依頼達成》
《報酬:20,000G》
《冒険者ギルド評価が上昇しました》
これで依頼は終わった。
しかし、異常の原因はまだ分かっていない。
俺は仲間たちと顔を見合わせた。
青晶洞での経験が、また別の場所で役立つことになるかもしれない。
ただし、今回はまだ情報が足りない。
まずはギルドの判断を待とう。
そう考えながら、俺たちは金麦の宿へ戻ることにした。
西方山地の奥にある旧西方採掘場。
そこに何があるのかは、まだ誰にも分からなかった。




