第75話 西方山地の異変と採掘道調査依頼
交易中継都市に到着してから、俺たちは中央市場で買い物を楽しんだ。
その途中、転びそうになった少女リゼを助けたことがきっかけで、素材商を営む父親のハロルドさんと知り合った。
ハロルドさんによれば、最近、西方山地へ続く採掘道で魔物の目撃情報が増えているらしい。その影響で鉱石の輸送が滞り、商人たちも困っているという。
そこで今日は、冒険者ギルドへ向かい、詳しい情報を確認することにした。
現実世界での仕事を終え、帰宅後の用事を済ませてからAWOへログインする。
宿泊先の《金麦の宿》で装備を整えて一階へ下りると、ミナたちが朝食を取っていた。
「ジョウゴ、おはようございます!」
ミナが笑顔で声をかけてくる。
「おはよう。今日はギルドで採掘道の情報を調べようと思う」
俺がそう言うと、カイトが頷いた。
「昨日の話だな。どんな魔物が出るのか気になるぜ」
レントも地図を確認しながら口を開く。
「西方山地はリーヴェルから西へ延びる街道の先だ。採掘場がいくつかあるらしいが、詳しい位置までは分からない」
「なら、まずは情報収集だな」
俺たちは朝食を済ませ、冒険者ギルドへ向かった。
◇◇◇
リーヴェルの冒険者ギルドは、朝から多くの冒険者で賑わっていた。
依頼掲示板には護衛や採取、討伐など様々な依頼が並んでいる。
その中で、俺たちは西方山地に関する依頼書を見つけた。
《調査依頼:西方山地採掘道の安全確認》
《依頼ランク:C》
《推奨レベル:12~16》
《依頼内容:採掘道周辺の魔物分布調査》
《目的:鉱石輸送路の安全確認》
《報酬:一人あたり15,000G》
《備考:異常を発見した場合は無理に交戦せず報告すること》
どうやら、俺たちのレベルでも受けられる依頼らしい。
ただし、気になるのは最後の注意書きだった。
「異常を発見した場合は報告か」
俺が呟くと、レントが頷いた。
「単純な討伐依頼じゃない。何か原因があると考えているのかもしれないな」
詳しい話を聞くため、俺たちは受付へ向かった。
受付の女性職員は依頼書を確認すると、少し真剣な表情になった。
「こちらの依頼ですね。実は最近、採掘道周辺で通常より多くの魔物が確認されています」
「具体的には、どんな魔物ですか?」
俺が尋ねると、職員は資料を取り出した。
「主に《ロックリザード》と《ストーンウルフ》です。どちらも西方山地に生息する魔物ですが、最近は採掘道の近くまで下りてくるようになっています」
ロックリザードは岩場に生息する大型の蜥蜴型魔物。
ストーンウルフは岩のように硬い皮膚を持つ狼型魔物らしい。
どちらもレベル十二から十五程度が中心で、通常なら採掘道まで頻繁に現れることはないという。
「原因は分かっているんですか?」
「いいえ。現在調査中です。ただ、採掘場の奥で何らかの環境変化が起きている可能性があります」
その説明を聞き、俺は青晶洞での出来事を思い出した。
あの場所でも、魔力循環の異常が周辺環境へ影響を与えていた。
今回も同じとは限らないが、魔物の行動が変わる背景には何らかの理由があるのかもしれない。
◇◇◇
受付職員から詳しい地図を受け取った俺たちは、休憩スペースで相談した。
今回の目的は魔物の討伐ではなく、採掘道の安全確認だ。
街道の状況を調べ、魔物の出現位置や数を記録する。異常を発見した場合は無理に奥へ進まず、ギルドへ報告することになっている。
「俺は受けてもいいと思う」
俺がそう言うと、カイトが頷いた。
「推奨レベルも問題ないしな」
レントも地図を見ながら答える。
「ただし、採掘場の奥には入らない方がいい。今回は調査範囲が決められている」
「もちろんだ」
ミナも賛成してくれた。
「ハロルドさんたちも困っていましたし、少しでも役に立てたらいいですね」
四人の意見が一致したので、俺たちは正式に依頼を受注した。
《調査依頼を受注しました》
《西方山地採掘道の安全確認》
《依頼ランク:C》
《推奨レベル:12~16》
《調査対象区域:西方採掘道第一~第三区間》
《依頼状態:進行中》
準備を整え、俺たちはリーヴェルの西門から出発した。
◇◇◇
西方山地へ向かう道は、シズナからリーヴェルまでの交易路とは少し雰囲気が違っていた。
街を離れると草原が続き、やがて地面に大きな岩が目立ち始める。
遠くには灰色の山々が連なり、その斜面には採掘場へ続く道が細く延びていた。
俺たちは周囲を警戒しながら進む。
しばらくすると、レントが足を止めた。
「ジョウゴ、右側に反応がある」
俺も《索敵》を使用する。
《ロックリザード Lv13》
岩陰に大型の蜥蜴が一体潜んでいた。
しかし、こちらへ襲いかかる様子はない。
「位置だけ記録しておこう」
俺がそう言うと、レントは地図へ印を付けた。
調査依頼では、魔物を倒すことよりも分布を把握することが重要だ。
俺たちは刺激しないよう距離を取り、その場を通過した。
さらに進むと、今度は岩場の奥でストーンウルフ二体を確認した。
どちらも採掘道から少し離れた場所にいたため、戦闘にはならなかった。
「確かに魔物が多いな」
カイトが呟く。
レントも周囲を見渡した。
「まだ第一調査区間なのに、すでに三体確認している。報告書にあった以前の目撃数より多い」
俺たちは警戒を強めながら、第二調査区間へ進んだ。
◇◇◇
第二調査区間へ入ると、道幅が少し狭くなった。
左右には岩壁が続き、所々に採掘用の古い標識が立っている。
その時、前方から低い唸り声が聞こえた。
岩陰から現れたのは、灰色の毛皮を持つ狼型の魔物だった。
《ストーンウルフ Lv14》
続いて二体が姿を現す。
合計三体。
しかも、こちらへ敵意を向けていた。
「カイト、前へ!」
「任せろ!」
カイトが盾を構える。
俺も星月を抜き、魔物の動きを確認した。
先頭のストーンウルフが地面を蹴り、一直線に飛びかかってくる。
俺は半歩だけ身体をずらし、攻撃を受け流した。
硬い皮膚を持つ相手だが、関節部分まで岩のように硬いわけではない。
着地した瞬間を狙い、脚の付け根へ斬撃を放つ。
魔物の動きが鈍ったところへ、レントの矢が突き刺さった。
一方、カイトは別の一体を盾で受け止めていた。
「こいつ、結構重いぞ!」
カイトが踏ん張りながら押し返す。
その隙にミナが支援魔法を発動した。
「《プロテクション》!」
淡い光がカイトを包み、防御力が上昇する。
俺は残る一体の攻撃をかわし、星月を振るった。
数度の攻防の末、三体のストーンウルフを討伐することができた。
《ストーンウルフ三体を討伐しました》
《経験値を獲得しました》
俺たちは周囲を確認し、追加の魔物がいないことを確かめた。
「全員、大丈夫か?」
ミナが頷く。
「はい。怪我はありません」
カイトも盾を確認していた。
「こっちも問題なし。ただ、普通の狼より硬いな」
レントは討伐地点を地図へ記録している。
「第二調査区間で三体。これも報告しておこう」
俺たちは短い休憩を取ってから、第三調査区間へ向かった。
◇◇◇
第三調査区間へ入ると、周囲の様子がさらに変わった。
岩肌が露出した斜面が続き、古い採掘設備らしい木製の足場が見えてくる。
その一角で、俺は妙なものに気づいた。
「……ん?」
道端の岩に、細い亀裂が入っていた。
ただの亀裂なら珍しくない。
しかし、その隙間から僅かな魔力が漏れ出している。
俺は《魔力感知》を使用した。
《微弱な魔力反応を検知》
《魔力属性:不明》
《魔力波長:不安定》
その表示を見て、思わず眉をひそめた。
「レント、ちょっと来てくれ」
レントが近づき、岩の亀裂を確認する。
「魔力が漏れているのか?」
「ああ。ただ、青晶洞で見たものとは違う」
あちらは魔力循環が途切れたことによる異常だった。
しかし、ここでは地中から不安定な魔力が漏れ出しているように感じる。
俺たちは周辺を調べたが、亀裂の奥までは確認できなかった。
無理に掘り進めれば、崩落を引き起こす可能性もある。
「今回はここまでにしよう」
俺がそう言うと、三人も頷いた。
依頼の目的は安全確認だ。
原因の分からない異常を見つけた以上、まずはギルドへ報告するべきだろう。
俺たちは亀裂の位置と魔力反応を記録し、リーヴェルへ戻ることにした。
◇◇◇
夕方、冒険者ギルドへ戻った俺たちは、調査結果を受付へ提出した。
魔物の目撃地点、討伐したストーンウルフの情報、そして第三調査区間で発見した不安定な魔力反応。
受付職員は報告書を確認すると、真剣な表情になった。
「第三調査区間で魔力の漏出を確認されたのですね?」
「はい。原因は分かりませんが、岩の亀裂から不安定な魔力が漏れていました」
俺が説明すると、職員は頷いた。
「重要な情報です。担当者へ報告いたします」
その後、依頼の達成判定が表示された。
《調査依頼:西方山地採掘道の安全確認》
《依頼達成》
《基本報酬:15,000G》
《異常発見追加報酬:5,000G》
《合計報酬:20,000G》
《冒険者ギルド評価が上昇しました》
どうやら今回も無事に依頼を達成できたらしい。
ただし、気になることが残っていた。
あの不安定な魔力は、いったい何なのか。
そして、魔物が採掘道へ近づくようになった原因と関係しているのだろうか。
俺は仲間たちと顔を見合わせた。
リーヴェルでの新しい冒険は、思っていたよりも早く、次の謎へつながり始めていた。




