第73話 交易中継都市リーヴェルへの到着ーヴェルへの到着
西方交易路の護衛依頼を受けた俺たちは、シズナを出発して一日目の行程を無事に終えた。
途中、西方樹林帯で四体のフォレストウルフに襲われたものの、商隊や荷馬車に被害を出すことなく撃退できた。現在は街道沿いの《エルム宿場》で休息を取り、翌朝の出発に備えている。
そして現実世界でも翌日。
銀行での仕事を終えた俺――上塚賢吾は、帰宅後の用事を済ませてからAWOへログインした。
宿場の客室へ降り立つと、装備を確認して一階へ向かう。食堂ではミナ、カイト、レントが朝食を取っていた。
「ジョウゴ、おはようございます!」
ミナが笑顔で手を振る。俺も挨拶を返し、空いている椅子へ腰を下ろした。
「おはよう。みんな、準備は大丈夫か?」
カイトはパンを頬張りながら頷いた。
「問題なし。今日はいよいよリーヴェルだな」
レントも地図を閉じながら答える。
「昨日ほど森に接する区間は長くないらしい。ただ、街道の分岐が多いから注意した方がいい」
俺たちは朝食を済ませ、商隊の待つ停留所へ向かった。
◇◇◇
ローデンさんたちは、すでに荷馬車の準備を進めていた。
三台の荷馬車には異常がなく、馬たちも十分に休めたようだ。
「皆さん、おはようございます。本日もよろしくお願いいたします」
ローデンさんが丁寧に頭を下げる。
「こちらこそ。昨日と同じ配置で護衛します」
俺が答えると、ローデンさんは安心した様子で頷いた。
今日の目的地は交易中継都市。予定では夕方までに到着する。
荷物の固定を確認し、俺たちは宿場を出発した。
朝の街道には爽やかな風が吹き、遠くには緩やかな丘陵地帯が広がっていた。昨日のような深い森は少なく、見通しのよい草原が続いている。
俺は先頭を歩きながら周囲を警戒し、時折《索敵》で魔物の反応を確認する。
しばらく進んだところで、レントが声をかけてきた。
「ジョウゴ、左前方に反応がある」
「魔物か?」
「ホーンボアが二体。ただし街道からは離れている」
視線を向けると、草原の奥で角の生えた猪型の魔物が地面を掘り返していた。
《ホーンボア Lv14》
《ホーンボア Lv13》
幸い、こちらへ近づく様子はない。
「刺激しないで進もう」
俺の指示に三人が頷く。
商隊も速度を変えずに進み、ホーンボアたちの縄張りを無事に通過した。
護衛依頼だからといって、すべての魔物を倒す必要はない。危険を回避できるなら、その方が安全だ。
◇◇◇
昼前になると、街道を行き交う荷馬車が増えてきた。
シズナ方面へ向かう商隊や、リーヴェルから出発したらしい旅人たちとすれ違う。
道沿いには小さな休憩所もあり、商人たちが情報交換をしていた。
俺たちもそこで短い休憩を取ることになった。
ローデンさんが馬の状態を確認している間、俺たちは周囲を見渡す。
「交易路って感じがしてきたな」
カイトがそう言うと、レントも頷いた。
「リーヴェルが近い証拠だろう。複数の街道が合流しているらしい」
ミナは休憩所の売店を見つけ、興味深そうに覗き込んでいた。
「ジョウゴ、見てください! シズナでは売っていなかったお菓子があります!」
どうやら蜂蜜を使った焼き菓子らしい。
「買うのはいいけど、食べ過ぎるなよ」
「分かってます!」
昨日と同じ返事だった。
カイトが笑い、俺も苦笑する。
そんな穏やかな時間を過ごしてから、商隊は再び出発した。
◇◇◇
午後になると、街道の先に大きな石橋が見えてきた。
橋の下には幅の広い川が流れており、川岸には荷物を運ぶ小舟が何隻も停泊している。
ローデンさんが前方を指した。
「あの川を越えれば、リーヴェルまでもう少しです」
橋には商人や旅人が行き交い、通行を管理する衛兵の姿もあった。
俺たちは荷馬車を誘導しながら順番を待つ。
衛兵はローデンさんの通行証と積荷の記録を確認すると、通行を許可してくれた。
石橋を渡り終えたところで、カイトが前方を見つめた。
「おお……見えてきたぞ!」
俺も顔を上げる。
遠くの丘の向こうに、高い城壁といくつもの塔が見えていた。
その周囲には広い農地が広がり、街へ続く街道には多くの荷馬車が並んでいる。
交易中継都市リーヴェル。
ようやく目的地が見えてきた。
◇◇◇
夕方が近づく頃、俺たちはリーヴェルの東門へ到着した。
石造りの城壁はシズナよりも高く、門の周辺には商隊専用の検査場まで設けられている。
ローデンさんが商人ギルドの登録証を提示し、衛兵による積荷の確認を受けた。
俺たちも冒険者カードを提示する。
「シズナからの護衛冒険者か。ご苦労だったな」
衛兵がそう言って通行を許可してくれた。
門を抜けた瞬間、賑やかな街並みが広がった。
石畳の大通りには商店が立ち並び、様々な地方の服装をした人々が行き交っている。香辛料の匂いや焼きたてのパンの香りが漂い、遠くからは商人たちの呼び込みの声が聞こえてきた。
「すごい……!」
ミナが目を輝かせる。
カイトも周囲を見渡しながら感心したように呟いた。
「シズナとは雰囲気が違うな」
確かに、リーヴェルは交易を中心に発展した街らしい。
大通りには荷馬車が行き交えるだけの広さがあり、商人ギルドや倉庫らしい建物も多い。
俺たちはローデンさんの案内で、商人ギルドの荷受け場へ向かった。
◇◇◇
荷受け場では、商人ギルドの職員が積荷の確認を行っていた。
ローデンさんが帳簿を提出し、三台の荷馬車から商品が順番に運び出される。
俺たちは最後まで周囲を警戒し、すべての荷物が引き渡されるのを見届けた。
やがてローデンさんが戻ってくる。
「皆さん、お疲れさまでした。おかげさまで商品を無事に届けられました」
「それならよかったです」
俺が答えると、ローデンさんは深々と頭を下げた。
「途中のフォレストウルフへの対応も見事でした。ぜひ、また機会があればお願いしたいものです」
その言葉と同時に、システムメッセージが表示された。
《護衛依頼:シズナ―リーヴェル間交易商隊護衛》
《依頼達成》
《護衛対象:全員無事》
《荷馬車損害:なし》
《積荷損害:なし》
《基本報酬:18,000G》
《無損害達成追加報酬:5,000G》
《合計報酬:23,000G》
《冒険者ギルド評価が上昇しました》
四人全員に報酬が支払われた。
「やった! 無事に終わりましたね!」
ミナが嬉しそうに笑う。
俺も頷いた。
「ああ。全員無事で何よりだ」
報酬もありがたいが、今回の依頼では護衛対象に一切の被害を出さずに済んだことが一番の成果だった。
◇◇◇
ローデンさんと別れた俺たちは、まず冒険者ギルドの場所を確認することにした。
リーヴェルの冒険者ギルドは、大通りから少し離れた広場に面していた。
建物はシズナのギルドよりも大きく、入口には複数の依頼掲示板が設置されている。
中へ入ると、受付の女性職員が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。リーヴェル冒険者ギルドへようこそ」
俺たちはシズナから来たことを伝え、冒険者カードを提示した。
受付職員はカードを確認すると、にこやかに説明してくれた。
「リーヴェルでは、交易路の護衛依頼や周辺地域の討伐依頼が多く発行されています。初めての方には街の案内図もお渡ししていますよ」
「ありがとうございます」
案内図を受け取ると、新しいシステム表示が現れた。
《新規都市を発見しました》
《交易中継都市》
《都市情報を登録しました》
《冒険者ギルド利用可能》
《宿屋利用可能》
《各種商店利用可能》
《転移門:利用条件確認中》
これでリーヴェルが正式に訪問済みの街として登録されたらしい。
俺たちは案内図を確認し、今夜泊まる宿屋を探すことにした。
ミナは早くも市場の位置を気にしていたが、まずは宿を確保するのが先だ。
そのことを伝えると、ミナは少し残念そうにしながらも頷いた。
「じゃあ、宿を取ったら市場に行きましょう!」
「時間があればな」
俺がそう答えると、カイトとレントが笑った。
こうして俺たちは、無事に新しい街へ到着した。
護衛依頼は完了し、リーヴェルでの冒険はこれから始まる。
新しい土地、新しい人々、そしてまだ知らない依頼。
交易都市ならではの出会いが待っていることを期待しながら、俺たちは夕暮れの大通りへ歩き出した。




