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Another World Online(通称:AWO)  作者: バモス
第二章 CROSS社契約編

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第71話 西方交易路と新たな護衛依頼

青晶洞での一連の調査が終わり、俺たちは久しぶりに普通の冒険者として活動することにした。


蒼晶竜の幼竜は順調に回復し、九十年以上途切れていた魔力循環も安定している。バルガとの共同研究では《蒼月晶・漂着結晶》から新しい性質《魔力波長調律》を発見し、《蒼月調律構造》という研究課題も生まれた。


もちろん、研究そのものが終わったわけではない。


だが、急いで進める必要もなかった。


俺の本職は剣士だし、ミナたちも冒険を楽しむためにAWOを始めている。新しい素材や技術を研究するのも面白いが、未知の土地を歩き、知らない景色を見ることも、このゲームの大きな魅力だ。


そんなわけで、今回の目的は西方交易路の先にある交易中継都市《リーヴェル》となった。


昨夜、冒険者ギルドの公開情報に追加された街で、周辺の推奨レベルは十二から十六。現在の俺たちのレベルでも十分に挑戦できる地域らしい。


ただし、リーヴェルまでの街道には魔物が出現する区間もあり、商人たちが護衛冒険者を募集しているという。


どうせ新しい街へ向かうなら、護衛依頼を受けながら移動するのも悪くない。


そう考えた俺たちは、詳しい話を聞くためにシズナの冒険者ギルドへ向かうことにした。


◇◇◇


現実世界での仕事を終えた俺――上塚賢吾は、帰宅後の用事を済ませてからAWOへログインした。


銀麦亭の客室へ降り立つと、まず装備を確認する。愛刀《星月》の耐久値は九十六%。魔力経路も安定しており、青月石の調整核にも十分な魔力が残っている。


外部魔力制限弁についても異常はなかった。


青晶洞では高濃度魔力への対策として外部魔力流入を手動遮断していたが、今回は一般的な街道を移動する予定だ。とはいえ、安全性が確認できるまでは遮断状態を維持するつもりだった。


準備を終えて一階へ下りると、ミナ、カイト、レントがいつもの席に集まっていた。


俺に気づいたミナが笑顔で手を振る。


「ジョウゴ、おかえりなさい! 今日は新しい街の依頼を探すんですよね?」


俺が頷くと、カイトも楽しそうに笑った。


「ようやく普通の冒険だな。最近は工房か洞窟ばっかりだったから、そろそろ広い場所で戦いたかったんだよ」


その言葉に、レントが少し呆れたような顔をする。


「護衛依頼を受けるなら、戦わずに済む方がいいんだが」


「分かってるって。わざわざ魔物を探して戦うつもりはないさ」


カイトもそこは理解しているらしい。


護衛依頼の目的は、依頼人と荷物を無事に目的地まで送り届けることだ。魔物を何体倒したかではなく、どれだけ安全に移動できたかが重要になる。


俺も二人の話を聞きながら椅子に腰を下ろした。


「まずは依頼内容を確認しよう。リーヴェルまでの距離も分からないし、途中で何日かかるかによって準備も変わるからな」


するとミナが少し考え込む。


「途中に宿屋ってありますかね?」


「それも確認する必要があるな」


AWOでは街や宿屋を利用してログアウトするのが基本だ。野営そのものは可能だが、護衛中に長時間ログアウトするわけにはいかない。


現実世界での生活がある以上、依頼の拘束時間も重要だった。


特に俺は銀行員として働いている。ゲームのために翌日の仕事へ影響を出すわけにはいかないので、長距離移動の依頼を受けるなら、途中で安全に休める場所が必要になる。


四人で相談した結果、まずは冒険者ギルドで詳細を聞き、無理なく進められる依頼があれば受注することに決まった。


◇◇◇


シズナの冒険者ギルドは、今日も多くの冒険者で賑わっていた。


依頼掲示板の前では数人のプレイヤーが討伐依頼を確認しており、受付にはNPC冒険者たちが列を作っている。


俺たちも掲示板へ向かい、西方交易路に関係する依頼を探した。


すると、予想していたよりも多くの護衛依頼が掲載されていた。


小規模な商隊の護衛。


薬草や食料を運ぶ荷馬車の護衛。


交易商人の移動支援。


さらに、リーヴェルまでの街道状況を確認する調査依頼もある。


その中で、レントが一枚の依頼書を指さした。


「これがよさそうだ」


俺たちは依頼内容を確認する。


《護衛依頼:シズナ―リーヴェル間交易商隊護衛》


《依頼主:交易商人ローデン》


《依頼ランク:C》


《推奨レベル:12~16》


《目的地:交易中継都市リーヴェル》


《護衛対象:商人および荷馬車三台》


《予定移動日数:ゲーム内二日》


《護衛人数:四名以上》


《報酬:一人あたり18,000G》


《追加報酬:商隊損害なしの場合、成功報酬加算》


《備考:途中の街道宿泊施設を利用可能》


条件は悪くない。


護衛人数も四名以上なので、俺たちのパーティだけで最低条件を満たせる。


それに、途中の宿泊施設を利用できるという点が大きかった。


「ゲーム内二日か」


俺が呟くと、レントが頷いた。


「街道途中に《エルム宿場》という小さな宿場があるらしい。そこで一泊する予定になっている」


「ならログアウトの問題もなさそうだな」


ただし、依頼を受ける前に確認しておきたいことがある。


ゲーム内二日という表記が、現実時間でどの程度の拘束になるのか。


そして、途中でログアウトする場合に護衛契約がどう扱われるのか。


俺たちは受付へ向かい、詳しい説明を受けることにした。


◇◇◇


受付の女性職員へ依頼書を見せると、彼女は内容を確認してから説明を始めた。


「こちらは交易商人ローデン様からの依頼ですね。現在、護衛冒険者を募集しております」


俺は移動日程について尋ねた。


「ゲーム内二日とありますが、途中のエルム宿場で休憩する予定なんですよね?」


「はい。商隊は一日目にエルム宿場まで移動し、そこで宿泊します。二日目の朝に出発して、夕方までにリーヴェルへ到着する予定です」


さらに受付職員は、プレイヤー向けの護衛契約について説明してくれた。


護衛依頼は基本的に商隊の行動時間に合わせて進行するが、途中の宿場では宿泊施設を利用してログアウトできる。ただし、出発時刻までに戻らなければ契約違反になる可能性があるという。


なるほど。


現実世界の予定を確認したうえで受ければ、問題なく進められそうだ。


俺がそう考えていると、受付職員が続けた。


「また、今回の依頼では商隊長のローデン様が護衛冒険者との事前面談を希望されています」


「面談ですか?」


「はい。商隊の安全に関わる依頼ですので、受注前に簡単な打ち合わせを行うことになっています」


それは当然だろう。


商人からすれば、自分たちの命と商品を預ける相手なのだから、事前に確認したいこともあるはずだ。


俺たちは面談を希望すると伝え、ギルド内の応接室へ案内された。


◇◇◇


応接室で待っていたのは、四十代半ばほどに見える男性だった。


茶色い髪を後ろへ撫でつけ、落ち着いた色合いの商人服を着ている。腰には小さな帳簿入れがあり、机の上には交易路の地図と荷物の一覧が並べられていた。


男性は俺たちを見ると立ち上がり、丁寧に頭を下げた。


「初めまして。交易商人のローデンと申します。今回は護衛依頼に興味を持っていただき、ありがとうございます」


俺も軽く頭を下げる。


「ジョウゴです。こちらはミナ、カイト、レント。四人でパーティを組んでいます」


それぞれが挨拶すると、ローデンさんは椅子を勧めてくれた。


「早速ですが、今回の商隊について説明させていただきます」


ローデンさんが地図を広げる。


シズナから西へ延びる交易路。


その途中にエルム宿場があり、さらに西へ進むとリーヴェルへ到着する。


道の大部分は整備されているが、途中に森へ接する区間があるらしい。


「今回運ぶのは、主に食料品と織物、それからシズナ周辺で採れた薬草です。危険物や特別な魔導具はありません」


その説明を聞いて、俺は少し安心した。


特殊な魔導具や高価な鉱石を運ぶとなれば、それを狙う盗賊などの危険も増える。


しかし今回は一般的な交易品が中心だ。


もちろん、それでも危険がないわけではない。


ローデンさんは地図の一か所を指した。


「問題はこちらです。《西方樹林帯》と呼ばれる区間で、最近、街道付近に魔物が出没することが増えています」


レントが身を乗り出す。


「どんな魔物ですか?」


「主に《フォレストウルフ》と《ホーンボア》です。どちらも街道周辺では珍しくありませんが、最近は少し活動範囲が広がっているようです」


フォレストウルフは森に生息する狼型の魔物。


ホーンボアは額に大きな角を持つ猪型の魔物らしい。


どちらも単体なら俺たちのレベルで十分対応できそうだが、群れで出現する場合は注意が必要だ。


ローデンさんは続ける。


「もちろん、護衛の皆さんには無理な戦闘をお願いするつもりはありません。危険を回避できるなら、それが一番です」


俺はその言葉に頷いた。


「俺たちも同じ考えです。護衛対象の安全を優先します」


「それを聞いて安心しました」


ローデンさんが穏やかに笑う。


その後、荷馬車の配置や移動速度、休憩地点について説明を受けた。


荷馬車は三台。


一台目には食料品。


二台目には織物。


三台目には薬草と日用品が積まれている。


商隊にはローデンさんのほかに御者が三人、荷物管理を担当する従業員が二人同行する予定だ。


つまり護衛対象は合計六人。


荷馬車三台を含めると、それなりの規模になる。


俺たちは四人で護衛を担当するため、配置を考える必要があった。


◇◇◇


ローデンさんとの面談を終えると、俺たちはギルドの休憩スペースで護衛方法を相談した。


まず前方の警戒。


次に側面と後方。


そして商隊の中央で、緊急時に回復や支援を行える位置。


四人の役割を考えれば、自然と配置は決まってくる。


俺が地図を見ながら提案する。


「前方は俺が担当する。カイトは先頭の荷馬車付近で護衛。レントは弓で周囲を警戒しながら、必要に応じて後方も確認してくれ」


するとミナが尋ねた。


「私は中央ですか?」


「ああ。荷馬車の間なら前後どちらにも移動しやすい。何かあった時は回復を頼む」


ミナが頷く。


「分かりました」


レントは少し考えてから意見を出した。


「俺は最後尾寄りの方がいいかもしれない。弓なら前方にも対応できるし、後方からの接近にも気づきやすい」


「そうだな。じゃあ基本は最後尾。見通しが悪い場所では前へ出て偵察を頼む」


俺たちは役割を決めた。


もちろん、実際の移動中には地形や状況に応じて変更するつもりだ。


固定した配置にこだわりすぎると、かえって対応が遅れることもある。


特に森に接する区間では、魔物がどの方向から出現するか分からない。


俺たちが話し合っていると、カイトが楽しそうに笑った。


「久しぶりにちゃんとしたパーティ戦闘になりそうだな」


俺は苦笑する。


「戦わずに済むなら、それが一番だぞ」


「分かってるって。でも、もし出てきたら任せろ」


カイトが胸を叩く。


盾役としての自信は十分らしい。


実際、これまでの戦闘でもカイトの防御力には何度も助けられている。


俺が前衛で敵の攻撃を受け流し、カイトが盾で味方を守る。


レントが遠距離から敵の動きを制限し、ミナが回復と支援を担当する。


基本的な連携はすでにできている。


あとは、護衛という状況でどこまで落ち着いて対応できるかだ。


◇◇◇


依頼内容と日程を確認した俺たちは、正式に護衛依頼を受注することにした。


受付へ戻り、四人の名前を登録する。


《護衛依頼を受注しました》


《依頼名:シズナ―リーヴェル間交易商隊護衛》


《依頼ランク:C》


《依頼主:交易商人ローデン》


《護衛人数:4/4》


《出発予定:翌ゲーム内朝》


《集合場所:シズナ西門前》


《目的地:交易中継都市リーヴェル》


《予定移動日数:2日》


《基本報酬:一人あたり18,000G》


《依頼状態:受注完了》


これで正式に依頼を受けたことになる。


ただし、出発は翌ゲーム内の朝だ。


現実時間の予定も確認したところ、四人とも問題なく参加できる。


今日は必要な消耗品を買い足し、装備を整えてからログアウトすることにした。


ギルドを出ると、まず道具屋へ向かう。


回復薬。


魔力回復薬。


携帯食料。


飲料水。


さらに、街道での野営に備えた簡易照明具も確認する。


今回はエルム宿場へ泊まる予定だが、何らかの理由で到着が遅れる可能性もある。


備えがあるに越したことはない。


俺が消耗品を確認していると、ミナが別の棚を見つめていた。


「ジョウゴ、これも買っていいですか?」


ミナが手に持っていたのは、果実を使った携帯菓子だった。


乾燥した果実を蜂蜜で固めたもので、長距離移動中の軽食として販売されているらしい。


「携帯食料ならいいんじゃないか?」


俺がそう答えると、ミナは嬉しそうに二袋を買い物かごへ入れた。


しかし、その様子を見ていたレントが静かに指摘する。


「食べ過ぎには注意しろよ」


「分かってます!」


ミナが即答する。


カイトは横で笑っていたが、俺は念のため自分の分も一袋購入した。


ゲーム内とはいえ、長距離移動中に食事を楽しむのは悪くない。


ただし、満腹度の管理は忘れないようにしよう。


◇◇◇


買い物を終えた俺たちは、銀麦亭へ戻った。


夕食の時間には少し早かったが、マリアさんが俺たちに気づいて声をかけてくれた。


「今日は早いのね。もう冒険は終わり?」


俺は明日からリーヴェルへ向かうことを伝えた。


するとマリアさんは少し驚いたような顔をした。


「リーヴェルへ行くの? あそこは商人さんが多くて賑やかな街よ」


ミナがすぐに反応する。


「おいしい料理もありますか?」


マリアさんが笑う。


「もちろん。いろんな地方の食材が集まるから、シズナでは見かけない料理もあるわよ」


「楽しみです!」


ミナの目が輝いた。


俺も少し興味が湧いてきた。


交易中継都市ということは、様々な地域から人や物が集まる場所なのだろう。


新しい素材や鍛冶技術に出会える可能性もある。


ただし、今回はあくまで護衛依頼が優先だ。


街へ到着して依頼を完了してから、ゆっくり見て回ればいい。


マリアさんはさらに、リーヴェルについていくつか教えてくれた。


西方交易路の要所であること。


大きな市場があること。


商人ギルドの支部が置かれていること。


そして、街の西側にはさらに別の地域へ続く街道が延びていること。


その話を聞きながら、俺はAWOの世界の広さを改めて感じていた。


シズナを中心に活動してきた俺たちだが、まだ知らない街はいくらでもある。


これからどんな場所へ行くことになるのか、少し楽しみになってきた。


◇◇◇


夕食を終えると、俺たちは翌日の集合時刻を確認した。


護衛依頼は翌ゲーム内の朝に開始される。


出発前にはローデンさんから荷馬車の最終確認があり、護衛配置についても再度打ち合わせる予定だ。


俺は仲間たちへ声をかける。


「じゃあ、明日は西門前で集合だな」


カイトが頷く。


「了解。久しぶりの遠出だな」


レントも地図を確認しながら答えた。


「西方樹林帯の手前までは比較的安全らしい。問題は森に接する区間だ」


「そこは慎重に進もう」


俺がそう言うと、ミナも笑顔で頷いた。


「みんなで無事にリーヴェルへ行きましょう!」


その言葉に、俺も自然と笑みが浮かんだ。


そうだ。


目的は魔物を倒すことではない。


商隊を守り、全員で無事に目的地へ到着すること。


それが今回の依頼だ。


俺は最後に装備と持ち物を確認し、銀麦亭の客室へ戻った。


星月の状態は良好。


回復薬も十分。


携帯食料と飲料水も問題ない。


仲間たちとの役割分担も確認できた。


あとは明日の出発を待つだけだ。


ベッドへ腰を下ろし、冒険者ギルドから受け取った西方交易路の地図を開く。


シズナから西へ延びる一本の街道。


途中にあるエルム宿場。


そして、その先に記された交易中継都市リーヴェル。


俺たちにとっては、まだ訪れたことのない新しい街だ。


青晶洞では、失われた魔力の流れを取り戻すために長い時間を費やした。


今度は、自分たちの足で新しい土地へ向かう。


剣士として。


冒険者として。


そして、AWOというもう一つの世界を楽しむ一人のプレイヤーとして。


明日から始まる西方交易路の旅が、どんな出会いをもたらすのか。


そんなことを考えながら、俺はログアウト操作を行った。


次にログインする時、俺たちはシズナの西門から新しい冒険へ出発することになる。


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