第70話 蒼月晶の新たな可能性
《青晶洞》で発生していた魔力循環の異常は、俺たちが製作した《蒼月安定導路》によって解消された。
九十年以上前の地震で途切れた二つの主鉱脈をつなぎ直した結果、《蒼月泉》から流れる安定した魔力が蒼晶竜の幼竜まで届くようになり、長い間衰弱していた幼竜も自分の脚で走れるほど回復した。
特殊クエスト《蒼晶竜の願い》も無事に達成し、総合評価はSS。さらに俺たちは《蒼月の架け手》という称号まで獲得している。
そして何より驚いたのは、蒼晶竜から直接贈られた《蒼月晶・漂着結晶》だった。
蒼月泉の中央に存在する《蒼月晶》は、泉や青晶鉄鉱脈と完全につながった特殊な結晶であり、無理に持ち出せば魔力循環そのものへ悪影響を及ぼす可能性がある。
しかし、今回もらった漂着結晶は違う。
遥か昔に蒼月晶本体から自然に分離し、長い年月をかけて周囲の環境へ適応したことで、泉から離れても特殊な性質を維持できるようになった結晶らしい。
その性質が、俺たちの研究してきた《星蒼導流鋼》や《青月導流構造》にどのような影響を与えるのか。
昨日のバルガは今すぐ研究を始めたそうだったが、俺は翌日の仕事を理由に断ってログアウトした。
そして今日、ようやくその研究を始めることになった。
◇◇◇
現実世界での仕事を終えた俺――上塚賢吾は、帰宅してから夕食と風呂を済ませ、洗濯物を片付けた。
翌日の出勤準備を終えたところで時計を確認すると、まだ十分にAWOを楽しめる時間が残っている。
銀行員としての本業がある以上、ゲームのために生活を崩すつもりはない。CROSS社との契約でも本業優先を明確にしているし、睡眠不足で仕事に影響を出すことだけは避けたいところだ。
それでも、今日は少し楽しみだった。
蒼月晶・漂着結晶。
あの結晶がどんな可能性を持っているのか、俺自身も興味がある。
VR機器を装着し、システムの身体状態確認を終えてからログインする。
視界が切り替わり、いつもの銀麦亭の客室へ降り立った。
装備を確認して一階へ下りると、ミナ、カイト、レントの三人がすでに集まっていた。
ミナは焼きたてのパンを食べており、カイトは果実水の入った木製のカップを片手にくつろいでいる。レントは冒険者ギルドから届いたらしい資料を確認していた。
俺が声をかけると、ミナが顔を上げた。
ミナ「ジョウゴ、おかえりなさい! 今日は工房ですよね?」
ジョウゴ「ああ。バルガも待ってるだろうしな」
するとカイトが苦笑した。
カイト「待ってるどころじゃないぞ。さっきからメッセージが来てる」
俺も通知を確認してみる。
バルガ『工房!』
バルガ『結晶を忘れるな!』
バルガ『試験台は完成した!』
バルガ『今日は絶対に研究するぞ!』
最後の通知は、つい五分ほど前に届いていた。
ジョウゴ「……相変わらずだな」
レント「昨日から準備していたらしい。ギルドにも測定器を借りに行ったそうだ」
ミナ「楽しみにしてたんですね」
カイト「楽しみすぎだろ」
俺たちは軽く食事を済ませると、バルガの工房へ向かった。
◇◇◇
工房の扉を開けた瞬間、いつもとは違う光景が目に飛び込んできた。
作業台の中央には、小型の魔力測定装置が設置されていた。その周囲には青晶鉄鉱、星蒼導流鋼、青月石がそれぞれ別の容器に収められ、細い導線のような加工材まで用意されている。
さらに奥の机には、以前《蒼月安定導路》の開発に使用した模擬試験台が置かれていた。
バルガ「来たか!」
ジョウゴ「来たけど、随分準備したな」
バルガ「当たり前だ! 蒼月晶の性質を持った結晶なんぞ、そう簡単に手に入るもんじゃねぇ!」
バルガは興奮した様子で作業台を指した。
バルガ「まずは鑑定だ。それから魔力蓄積、放出、安定化、波長保持の順に調べる。いきなり武器に組み込むようなことはしねぇから安心しろ」
ジョウゴ「それならいい」
俺がインベントリから《蒼月晶・漂着結晶》を取り出すと、工房の中に淡い青白い光が広がった。
掌に収まる程度の小さな結晶だが、その輝きは青月石よりも落ち着いている。強い魔力を感じるにもかかわらず、周囲へ無理に放出しているような気配はない。
バルガは結晶を専用の台座へ載せると、慎重に鑑定を始めた。
《蒼月晶・漂着結晶》
《品質:希少》
《分類:特殊結晶素材》
《魔力蓄積性:高》
《魔力安定化:極高》
《安定波長保持性:高》
《魔力伝導性:高》
《環境接続:なし》
《状態:安定》
《特殊性質:未解析》
前回よりも詳細な情報が表示された。
バルガ「やっぱり安定化が極高か……」
ジョウゴ「青月石との違いは?」
バルガ「青月石は魔力を溜めて、一定の速度で放出するのが得意だ。だが、こいつは魔力そのものの乱れを整える性質が強いらしい」
バルガは青月石を一つ取り出し、漂着結晶の隣へ置いた。
バルガ「例えば青月石が水を溜める貯水槽だとすれば、こいつは流れてくる水の勢いを整える装置に近い」
ジョウゴ「魔力の流れを安定させるための素材か」
バルガ「そういうことだ。ただし、まだ仮説だ。試験してみねぇと分からん」
その言葉に頷き、俺たちは最初の実験を始めた。
◇◇◇
最初に行うのは、単純な魔力蓄積試験だった。
バルガが用意した測定装置へ漂着結晶を置き、ミナが一定量の魔力を送り込む。
魔力の供給量は少量から始め、結晶内部の変化を観測する。
ミナ「それじゃあ、流しますね」
ミナが両手を結晶へ向けると、淡い光がゆっくりと結晶の中へ吸い込まれていった。
《魔力蓄積試験を開始》
《入力魔力量:10》
《蓄積効率:96%》
《魔力漏出:微弱》
《内部魔力安定度:99%》
バルガが測定器を覗き込む。
バルガ「……ほう」
続いて入力魔力量を二十、三十と増やしていく。
《入力魔力量:30》
《蓄積効率:95%》
《内部魔力安定度:99%》
《異常発熱:なし》
さらに五十まで増やしても、結晶の状態はほとんど変わらなかった。
《入力魔力量:50》
《蓄積効率:94%》
《内部魔力安定度:98%》
《異常発熱:なし》
ジョウゴ「かなり安定してるな」
バルガ「ああ。ただし蓄積量だけなら青月石でも近い結果は出せる。問題は次だ」
バルガが測定装置を切り替える。
次は、わざと魔力の流れを乱した状態で結晶へ送り込む試験だった。
もっとも、危険なほど強い魔力を使うわけではない。装置側で波長を僅かに変化させ、通常なら不安定になる程度の揺らぎを再現するだけだ。
《魔力波長変動試験を開始》
《入力魔力安定度:68%》
《蒼月晶・漂着結晶を通過》
《出力魔力安定度:96%》
ミナ「すごい……」
ミナが思わず声を上げた。
入力時には六十八%だった安定度が、結晶を通過した後には九十六%まで改善している。
続けて別の波長でも試験する。
《入力魔力安定度:61%》
《出力魔力安定度:94%》
《特殊性質を確認》
《魔力波長調律》
その表示を見た瞬間、バルガが大きく目を見開いた。
バルガ「出たぞ!」
ジョウゴ「新しい性質?」
バルガ「ああ。《魔力波長調律》だ。魔力をただ蓄積するんじゃなく、乱れた波長を一定の範囲へ整えている!」
俺も表示を確認する。
《蒼月晶・漂着結晶》
《特殊性質:《魔力波長調律》》
《外部から流入した魔力の波長変動を緩和する》
《特定の安定波長への同調を補助する》
《魔力生成能力:なし》
《過剰魔力入力時の安全性:未確認》
最後の二項目が重要だった。
この結晶は魔力を無限に生み出すわけではない。
また、どれだけ大量の魔力を流しても安全というわけでもない。
あくまで流れてくる魔力を整えるための素材なのだ。
ジョウゴ「便利だけど、万能じゃないな」
バルガ「当たり前だ。万能素材なんて言い出したら、鍛冶師が考えるのをやめちまう」
それには同感だった。
◇◇◇
次に行ったのは、星蒼導流鋼との相性試験だ。
俺たちが開発した星蒼導流鋼は、魔力を効率よく伝えるだけでなく、内部に形成した魔力経路を維持する性質を持っている。
その性質を利用して製作したのが、俺の主武器である魔導刀《星月》だった。
しかし星月にも限界はある。
魔力を流し続ければ調整核の蓄積量は減るし、高濃度魔力環境では外部から意図しない魔力が流入する可能性もある。そのため、外部魔力制限弁や魔力遮断刻印を組み込んで安全性を確保していた。
今回の漂着結晶を利用すれば、魔力経路そのものの安定性を高められるかもしれない。
ただし、俺は現在使っている星月を実験台にするつもりはなかった。
ジョウゴ「試験材で確認しよう。星月にはまだ手を加えない」
バルガ「分かってる。まずは小型の導流試験片だ」
バルガが星蒼導流鋼の細い試験材を取り出す。
その中央へ漂着結晶を接触させ、ミナが一定量の魔力を流す。
《星蒼導流鋼・単体試験》
《魔力伝達効率:91%》
《魔力経路安定度:93%》
続いて漂着結晶を組み合わせる。
《星蒼導流鋼+蒼月晶・漂着結晶》
《魔力伝達効率:90%》
《魔力経路安定度:98%》
《波長変動抑制:有効》
伝達効率は僅かに下がった。
しかし、魔力経路の安定度は九十八%まで上昇している。
レント「安定性を優先するなら有効だな」
ジョウゴ「ああ。でも伝達効率が下がる理由も調べたい」
俺がそう言うと、バルガが満足そうに頷いた。
バルガ「いいところに気づいたな。おそらく結晶が魔力の乱れを整える時に、少しだけ流れを抑えている」
ミナ「急いで流すより、ゆっくり整えて流す感じ?」
バルガ「そうだ。だから魔力を一気に放出する武器にそのまま組み込めば、逆に邪魔になる可能性もある」
つまり、使い方を間違えれば性能が下がる。
単純に珍しい素材を組み込めば強くなるわけではないらしい。
その事実に、俺は少し安心した。
素材の特性を理解し、用途に合わせて構造を考える。
それこそ、バルガと一緒に続けてきた鍛冶研究の面白いところだからだ。
◇◇◇
その後も小規模な試験を続けた結果、いくつかの特徴が分かってきた。
漂着結晶は、魔力を一気に流す用途よりも、一定の魔力を長時間安定して供給する用途に向いている。
さらに、青月石と組み合わせた場合、青月石から放出される魔力の揺らぎを抑える効果も確認できた。
《青月石単体》
《魔力放出安定度:92%》
《青月石+蒼月晶・漂着結晶》
《魔力放出安定度:98%》
《継続放出試験:正常》
この結果には、バルガもかなり興味を示した。
バルガ「……なるほどな」
ジョウゴ「何か思いついた?」
バルガ「ああ。こいつは刀身に直接組み込むより、魔力調整核の手前へ置いた方がいいかもしれねぇ」
バルガが紙を取り出し、簡単な構造図を描き始める。
星蒼導流鋼の魔力経路。
青月石の魔力調整核。
そして、その間に配置する小型の波長調整部。
バルガ「魔力を青月石へ送る前に波長を整える。そうすれば、調整核へ入る魔力の乱れを減らせる可能性がある」
ジョウゴ「外部魔力を取り込む時にも使える?」
バルガ「理屈の上ではな。ただし、外部魔力制限弁と遮断刻印は絶対に残す」
そこは重要だ。
漂着結晶がどれだけ優秀でも、安全装置の代わりにはならない。
高濃度魔力環境で大量の魔力が流れ込めば、結晶そのものが処理しきれなくなる可能性もある。
だから新しい素材を使う場合でも、従来の安全機構は維持する必要がある。
俺たちが話していると、新しいシステムメッセージが表示された。
《特殊研究条件を達成しました》
《蒼月晶・漂着結晶の特殊性質を確認》
《魔力波長調律:解析完了》
《星蒼導流鋼との適合性:高》
《青月石との適合性:極高》
《新規研究候補を解放しました》
《《蒼月調律構造》》
《分類:特殊魔力制御構造》
《目的:魔力波長の安定化および調整核への負荷軽減》
《主要素材候補》
《蒼月晶系素材》
《青月石》
《星蒼導流鋼》
《設計進行度:0%》
《注意:実用化には追加試験が必要です》
バルガ「……来たな」
バルガがにやりと笑った。
バルガ「新しい研究だ」
ジョウゴ「また増えたな」
カイト「刀一本作るのに、どれだけ研究が増えるんだ?」
レント「もはや刀の研究から魔力工学の研究になっている気がする」
否定できない。
最初はただ、日本刀に近い武器を作りたかっただけだった。
それが今では、魔力を蓄積する結晶や、魔力を流す特殊合金、さらには天然鉱脈の修復技術まで研究している。
どうしてこうなったのか。
いや、原因は分かっている。
目の前の鍛冶師だ。
バルガ「何だ、その目は」
ジョウゴ「いや、何でもない」
俺が視線を逸らすと、ミナが小さく笑った。
◇◇◇
新しい研究候補が解放されたところで、俺は作業台に置かれた漂着結晶を見つめた。
ここで一つ、気になることがあった。
ジョウゴ「なあ、バルガ」
バルガ「何だ?」
ジョウゴ「この結晶、研究で使い切るつもりはないよな?」
バルガは少し驚いたように俺を見た。
バルガ「当然だろ。これほど貴重なものを、最初から削ったり溶かしたりするわけねぇ」
ジョウゴ「それならいい」
今回の結晶は、蒼晶竜から直接もらったものだ。
素材として貴重なのはもちろんだが、俺にとってはそれ以上の意味がある。
幼竜を助けた礼として贈られた、蒼晶竜とのつながりを示す品でもある。
だから、性能を調べるためだけに使い潰したくはなかった。
バルガ「今は測定用の基準結晶として使う。こいつの波長を記録して、別の素材で再現できるか調べるんだ」
ジョウゴ「再現できるのか?」
バルガ「分からん。だが、青月石や青晶鉄鉱の性質を利用すれば、完全ではなくても似た働きを持たせられる可能性はある」
なるほど。
蒼月晶・漂着結晶そのものを加工するのではなく、その性質を参考にして新しい構造を開発する。
それなら俺も賛成だ。
ミナ「蒼晶竜さんからもらった大切な石ですもんね」
ジョウゴ「ああ。できればそのまま残したい」
バルガも頷き、結晶を保護用の台座へ戻した。
◇◇◇
それから俺たちは、今後の研究方針について話し合った。
まず《蒼月調律構造》の基礎設計を進める。
漂着結晶の魔力波長を記録し、青月石と星蒼導流鋼だけでどこまで似た性質を再現できるか確認する。
もし一定の効果が得られれば、小型の試験用魔力調整核を製作する。
そして安全性を確認した後、星月への応用を検討する。
もちろん、現在の星月をすぐ改造するつもりはない。
あの刀は、すでにシズナ鍛冶師ギルドから正式な技術認定を受けた魔導刀だ。
今の性能でも十分に使えるし、無理に新機能を追加して安定性を損なう必要はない。
ジョウゴ「まず試験品を作って、それが成功したら考えよう」
バルガ「ああ。俺もそのつもりだ」
するとカイトが腕を組んだ。
カイト「ところで、俺たちの冒険は?」
ジョウゴ「……ん?」
カイト「最近ずっと洞窟調査と工房だろ。そろそろ普通に冒険したくないか?」
言われてみれば、その通りだった。
青晶洞の調査が始まってからというもの、探索、測定、素材集め、鍛冶研究の繰り返しだった。
戦闘もあったが、基本的には必要な場合だけだ。
冒険者として活動しているはずなのに、最近は研究者のような時間の使い方になっている。
レント「ギルドの依頼も少し確認したいところだな」
ミナ「私は新しい街にも行ってみたいです」
カイト「そうそう。そういうの!」
ミナが嬉しそうに頷く。
ミナ「新しい街なら、おいしい料理もありそうですし」
ジョウゴ「結局食べ物か」
ミナ「旅の楽しみです!」
まあ、それも間違いではない。
AWOは剣と魔法の世界であり、冒険だけでなく生活そのものを楽しめるゲームだ。
新しい街へ行けば、知らない料理や文化にも出会える。
それに、俺自身もそろそろ刀の実戦経験を積みたいと思っていた。
《星月》を完成させてから、魔力経路の試験や安全確認は何度も行ってきた。
しかし、剣士としての技術を磨くための戦闘はそれほど多くない。
ステータスは動きを助けてくれる。
だが、実際の技術まで自動的に身につけさせてくれるわけではない。
だからこそ、今後も実戦経験は必要だ。
ジョウゴ「分かった。次はギルドで普通の依頼を探してみよう」
カイト「よし!」
ミナ「新しい街!」
レント「まだ街へ行くとは決まっていないぞ」
ミナ「可能性はあります!」
相変わらず前向きだ。
◇◇◇
その後、バルガへ研究データを預け、俺たちは工房を出た。
《蒼月調律構造》の研究は始まったばかりだが、今日のところは基礎的な性質を確認できただけでも十分な成果だろう。
工房を出る直前、バルガが俺を呼び止めた。
バルガ「ジョウゴ」
ジョウゴ「何?」
バルガ「その結晶、大事にしろよ」
珍しく落ち着いた声だった。
バルガ「素材としても貴重だが、古竜が自分から人に贈ったものなんざ、そうそうある話じゃねぇ」
ジョウゴ「ああ。分かってる」
俺はインベントリに収めた結晶の情報を確認した。
《蒼月晶・漂着結晶》
《状態:安定》
《所有者:ジョウゴ》
《蒼晶竜からの贈与品》
《特殊研究基準素材として登録済み》
最後の表示が少し気になった。
単なる採取素材ではなく、蒼晶竜からの贈与品として扱われている。
AWOのシステムは、こういうところまで記録しているらしい。
◇◇◇
銀麦亭へ戻ると、マリアさんが温かい夕食を用意してくれた。
今日は研究ばかりだったため、ゲーム内での身体的な疲労はそれほどない。
それでも、細かな魔力調整を続けていたせいか、精神的には少し疲れた気がする。
席へ着くと、カイトが果実水を飲みながら言った。
カイト「次こそ冒険だな」
ジョウゴ「ああ。研究は一度区切りにしよう」
レント「明日、ギルドの依頼を確認するか」
ミナ「その前に、新しい街の情報も見たいです」
ジョウゴ「両方確認すればいいだろ」
ミナが満足そうに頷く。
俺も料理を食べながら、これまでの出来事を振り返った。
最初は普通の剣士としてAWOを始めた。
そこで仲間と出会い、バルガと刀を作り、CROSS社の公式配信者になった。
ルクを助けたことをきっかけに黒鎖商会の事件へ関わり、灰色谷で多くの人々を救出した。
その後は刀の研究を進め、星月を完成させた。
そして青晶洞では、蒼晶竜と幼竜に出会い、九十年以上途切れていた魔力循環を修復した。
気づけば、ずいぶん遠くまで来たものだ。
とはいえ、AWOの世界はまだ広い。
俺たちが知っているのは、シズナとその周辺、それにこれまで訪れた一部の街や地域だけだ。
東方諸国もまだ見ていないし、黒鎖商会の本拠地も明らかになっていない。
それ以外にも、知らない土地や冒険がいくらでもあるはずだった。
《新規研究《蒼月調律構造》》
《設計進行度:0%》
《基礎性質解析:完了》
《基準波長データ:取得済み》
《次の推奨行動:模擬調律構造の設計》
研究はバルガと相談しながら、少しずつ進めればいい。
何も急ぐ必要はない。
俺は研究画面を閉じ、代わりに冒険者ギルドの依頼情報を開いた。
討伐依頼。
護衛依頼。
採取依頼。
調査依頼。
様々な依頼が並ぶ中、ひとつの情報が目に留まった。
《シズナ冒険者ギルド・新規公開情報》
《西方交易路の通行状況が更新されました》
《新規移動先候補:《リーヴェル》》
《分類:交易中継都市》
《周辺推奨Lv:12~16》
《街道護衛依頼:受付中》
《詳細情報:冒険者ギルド窓口にて確認可能》
リーヴェル。
聞いたことのない街の名前だった。
ジョウゴ「……西方交易路か」
俺が呟くと、レントが画面を覗き込んだ。
レント「リーヴェル?」
ジョウゴ「ああ。新しく公開された交易中継都市らしい」
カイト「お、いいじゃん。護衛依頼もあるのか?」
ミナ「交易都市なら、いろんな地方の料理が集まってそうですね!」
反応するところは相変わらずだった。
ただ、俺も興味がある。
新しい街へ向かうなら、護衛依頼を受けながら移動するのも悪くない。
冒険者としての経験を積めるし、道中の安全情報も得られる。
もっとも、依頼内容を確認するまでは何とも言えない。
ジョウゴ「明日、ギルドで詳しく聞いてみよう」
そう言うと、三人も賛成してくれた。
青晶洞での大きな仕事が終わり、蒼晶竜と幼竜の命を守ることができた。
蒼月晶・漂着結晶という新しい研究素材も手に入った。
そして今度は、西方交易路の先にある未知の街。
俺たちのAWOでの生活は、まだまだ続いていく。
次はどんな景色が待っているのか。
そんなことを考えながら、俺は銀麦亭の夕食をゆっくりと味わった。
明日は久しぶりに、純粋な冒険者としての依頼探しになりそうだった。




