第67話 最大断裂部へ架ける橋
青晶鉄鉱の主鉱脈に存在していた二つの断裂地点。
そのうち、幼竜に近い《第二断裂部》への《蒼月安定導路》設置は無事に成功した。
伝達損失率は三十一%から四%まで低下し、それまで横になっていることが多かった幼竜が、ほんの僅かな時間とはいえ自分の脚で立つことができた。
蒼月晶の安定波長は、確かに届いている。
だが、最大の問題はまだ残っていた。
約四・一メートルにわたって主鉱脈が断裂し、流れてきた魔力の七十八%を失わせている《第一断裂部》。
そこを修復しない限り、蒼月泉から幼竜まで続いていた本来の魔力循環は取り戻せない。
ただし、第二断裂部をつないだ直後に続けて作業することはしなかった。
天然の魔力循環経路へ直接手を加えた以上、時間を置いて異常が起きないことを確認する必要がある。
そして翌日。
その結果が届いた。
◇◇◇
現実世界。
銀行での仕事を終えた俺――上塚賢吾は帰宅すると、いつも通り夕食と風呂、家事、翌日の準備まで済ませた。
AWOへログインする前にCROSSから届いている通知も確認する。
契約関連の連絡が一件あったが、急ぎではない。配信回数についても今月分は問題なく、今日の青晶洞調査を配信へ切り替える必要はなかった。
むしろ今回は配信しない方がいい。
蒼晶竜と幼竜のことは、必要以上に公開したくない。
特に幼竜は弱っている。
視聴者を集めるための材料にするつもりはなかった。
VR機器を装着する。
《リアルコンディションチェックを開始します》
《睡眠状態:良好》
《栄養状態:問題なし》
《水分状態:問題なし》
《体温:正常範囲》
《フルダイブ可能》
ジョウゴ「ログイン」
視界が切り替わる。
銀麦亭の客室へ降り立ち、一階へ向かうと、ミナ、カイト、レントがすでに待っていた。
ミナ「ジョウゴ、おかえり!」
ジョウゴ「ただいま。観測結果は?」
レント「問題なしだ」
レントが冒険者ギルドから共有されたデータを表示する。
《第二断裂部・継続観測結果》
《観測時間:24時間》
《蒼月安定導路:正常》
《魔力伝達損失率:3~5%》
《青月石中継核:正常》
《異常発熱:なし》
《魔力逆流:なし》
《周辺魔力濃度:安定》
《岩盤変動:なし》
《総合判定:安定》
カイト「一晩どころか、丸一日問題なしだ」
ジョウゴ「なら、次へ進めるな」
ミナ「第一断裂部?」
ジョウゴ「ああ」
ついに最大の断裂地点へ手を入れる。
ただし、第二断裂部と同じつもりで作業することはできない。
距離は約五倍。
中継核も三つ。
しかも崩落した岩盤の向こう側へ導路を通さなければならない。
今日が、この一連の調査で最も難しい施工になるはずだった。
◇◇◇
冒険者ギルドへ到着すると、グレイス副支部長だけでなく、記録管理官のエドガーさんも待っていた。
机の上には第一断裂部周辺の古い坑道図と、俺たちが前回測定した現在の地形図が重ねられている。
グレイス「第二断裂部は安定している。第一断裂部への施工を許可する」
ジョウゴ「ありがとうございます」
エドガー「ただし、施工方法について一つ確認しておきたい」
エドガーさんが図面の一点を指した。
第一断裂部。
そして、そのすぐ横。
エドガー「前回の調査後、古い図面をさらに照合した。ここに小規模な作業用通路が存在していた可能性が高い」
ジョウゴ「作業用通路?」
エドガー「主坑道から鉱脈の状態を確認するための横道だ。当時の表記では《第三坑道・側路二》となっている」
レント「今も残っているんですか?」
エドガー「分からん。ただし完全に崩れていなければ、使えるかもしれない」
現在の第一断裂部は大量の岩で塞がれている。
その中を真っ直ぐ掘り進むのは危険だ。
しかし側路が残っているなら、崩落部分を迂回して断裂面AとBの近くまで導路を通せる可能性がある。
ジョウゴ「無理に崩落部分を掘らなくて済む?」
グレイス「そのために調べる価値はある」
ギルドから追加の探査器具も借りる。
今日の目的は導路設置だが、側路が危険なら無理には進めない。
その場合は施工そのものを延期する。
そこも全員で確認した。
◇◇◇
最後にバルガの工房へ立ち寄る。
第一断裂部用の《蒼月安定導路》は、すでに運搬できる状態へまとめられていた。
四つの導路ユニット。
三つの青月石中継核。
接続固定材。
仮設魔力遮断具。
さらに今回は、現地で角度を調整するための可動接続部品も追加されている。
バルガ「第二断裂部の結果は見た」
ジョウゴ「問題なし」
バルガ「ああ。だから基本的な接続方法は前回と同じでいい」
バルガは中央に使う青月石中継核を持ち上げる。
月影渓谷でミナが見つけた、最も適性の高かった青月石だ。
バルガ「ただし第一断裂部は長い。三つの中継核を全部同じように開くな」
ジョウゴ「順番に?」
バルガ「そうだ。泉側から少しずつ流せ。一号まで確認。次に二号。最後に三号。その後で断裂面Bへ流す」
ミナ「一気に幼竜側まで流さないんだね」
バルガ「途中で問題が起きた時、どこが悪いのか分からなくなるからな」
確かに合理的だ。
四メートル全部を一度に開放して異常が起きれば、原因の特定に時間がかかる。
区間ごとに確認した方がいい。
ジョウゴ「了解。段階開放で行く」
バルガ「あと、中央の二号中継核は特に見ろ。距離的にも一番負担がかかる」
ミナ「私が見つけた石だから大丈夫です」
カイト「そこに根拠はあるのか?」
ミナ「運の良さ十九」
ジョウゴ「そこは否定できないのが困る」
少しだけ緊張が和らいだ。
◇◇◇
青晶洞へ入る。
すでに何度も通った道だが、今日は今まで以上に荷物が多い。
導路ユニットは分割されているとはいえ、四本ある。
俺とカイトが主に導路材を運び、ミナとレントが中継核や測定器を担当する。
第一分岐を越え、蒼晶竜のいる場所へ到着した。
昨日より、周囲の青晶鉄鉱が僅かに明るい。
第二断裂部を修復した影響だろう。
幼竜も起きていた。
幼竜「キュ!」
ミナ「あ、昨日より元気」
幼竜はまだ走り回れるような状態ではない。
それでも昨日より頭の位置が高く、こちらを見る目にも少し力がある。
鑑定する。
《蒼晶竜の幼竜》
《Lv:1》
《状態:重度魔力欠乏》
《生命力低下》
《蒼月晶安定波長:微弱受容》
《魔力核安定度:緩やかに上昇中》
状態異常そのものは残っている。
しかし《魔力核安定度》は上昇を続けている。
蒼晶竜「……泉の声が……昨日より……続いている……」
ジョウゴ「第二断裂部は丸一日、問題なく動いています」
蒼晶竜「……そうか……」
ジョウゴ「今日は大きい方を直します」
俺が導路ユニットを見せると、蒼晶竜は静かにそれを見つめた。
蒼晶竜「……あの傷は……深い……」
ジョウゴ「分かっています。危険なら途中で止めます」
蒼晶竜「……それでよい……」
蒼晶竜がゆっくりと頭を下げた。
蒼晶竜「……命を急ぐために……命を捨てるな……」
ジョウゴ「はい」
最初に会った時とは随分印象が変わった。
巨大な古竜。
正体不明の高レベル存在。
初めはそれだけだった。
今は、弱っている自分の仔を必死に守り続けている親として見えている。
だからこそ、失敗したくない。
◇◇◇
旧採掘坑道へ入り、第一断裂部へ向かう。
途中の魔力伝達率を測定すると、第二断裂部を修復した影響はここにも出ていた。
ただし、第一断裂部より泉側では当然ながら大きな変化はない。
問題の崩落地点へ到着する。
《青晶鉄鉱主鉱脈・第一断裂部》
《断裂距離:約4.1メートル》
《伝達損失率:約78%》
《物理接続:断絶》
《魔力接続:微弱》
以前と同じだ。
レント「側路を探す」
古い図面と現在地を照合する。
崩落地点から少し戻り、右側の岩壁を調べる。
一見するとただの壁だ。
しかし探査器を使うと、その奥に空間反応が出た。
レント「ある」
カイト「埋まってる?」
レント「入口だけだと思う」
周囲を調べる。
積み重なっているのは比較的小さな岩だ。
主坑道の崩落部分とは違い、天井まで完全に潰れているわけではない。
ジョウゴ「岩盤状態は?」
レント「安定。少なくとも今すぐ崩れる反応はない」
慎重に入口付近の岩だけを取り除く。
カイトが大きな石を動かし、俺が細かな瓦礫を外へ出す。
十分ほどで、人一人が通れる隙間が現れた。
《旧採掘坑道・第三坑道側路二》
《状態:一部崩落》
《岩盤安定度:注意》
《進入可能》
カイト「残ってたな」
ジョウゴ「ああ。でも慎重に行こう」
中へ入る。
通路は狭い。
カイトが盾を背負ったままだと、場所によっては横向きにならないと通れないほどだ。
カイト「俺だけ難易度高くないか?」
ミナ「大きいから」
カイト「装備がな?」
レント「身体もだ」
カイト「どっちだよ」
こんな場所でも、いつものやり取りができる程度には余裕がある。
数十メートル進むと、側路が二つに分かれていた。
片方は完全に崩れている。
もう片方は、第一断裂部の裏側へ回り込むように続いている。
そして、その壁に青い光が見えた。
ジョウゴ「青晶鉄鉱……」
探査器を向ける。
《主鉱脈断裂面Bを検出》
《距離:1.2メートル》
レント「当たりだ」
さらに調べると、側路から断裂面Aの近くへも接近できることが分かった。
つまり、崩落した四メートルを真っ直ぐ掘る必要はない。
側路を使って迂回し、その壁沿いへ蒼月安定導路を設置すればいい。
《《蒼月安定導路》推奨設置経路を検出》
《直線接続:約4.1メートル》
《側路迂回接続:約4.6メートル》
《岩盤掘削量:大幅低減》
《安全性:上昇》
ミナ「少し長くなるね」
ジョウゴ「でも、崩落部分を掘るよりずっといい」
レント「導路は四・二メートルだ」
ジョウゴ「可動接続部で足りる?」
確認する。
《第一断裂部用《蒼月安定導路》》
《基本全長:約4.2メートル》
《可動接続部調整可能範囲:+0.5メートル》
《最大設置長:約4.7メートル》
カイト「ギリギリ入るな」
ジョウゴ「ああ」
バルガが可動部を追加してくれていなければ、作り直しだったかもしれない。
◇◇◇
設置作業を始める。
まず断裂面A側へ定点魔力観測器を置く。
《観測器A》
《基準流量:100》
《蒼月晶安定波長:強》
次に断裂面B側。
《観測器B》
《基準流量:22》
《蒼月晶安定波長:弱》
七十八%の損失。
ほぼ計算通りだ。
ジョウゴ「まず一号導路」
第二断裂部で経験した手順を繰り返す。
天然鉱脈を傷つけないよう表面だけを整え、内部の魔力脈に合わせて導路の角度を調整する。
ミナ「魔力流します」
弱い魔力が一号導路へ入る。
《現地同調率:38%》
少し右。
《現地同調率:51%》
下へ。
《現地同調率:66%》
導路全体を僅かに回転。
《現地同調率:82%》
レント「天然鉱脈側の流れが少し左へ寄っている」
ジョウゴ「了解」
数ミリ調整する。
《現地同調率:95%》
《断裂面Aとの接続が可能です》
ジョウゴ「固定」
一号導路を固定する。
次に一号中継核。
さらに二号導路。
側路の壁へ沿わせながら、少しずつ角度を変えて設置していく。
そして中央。
ミナが見つけた、最も性能の高い青月石を使った二号中継核。
《青月石中継核・二号》
《導路接続適性:96%》
《状態:正常》
ミナ「お願いします」
ジョウゴ「何でミナが緊張してるんだ」
ミナ「私の石だから」
カイト「もう所有物みたいになってるな」
少し笑いながらも、作業は慎重に進める。
二号中継核を固定。
三号導路。
三号中継核。
最後に四号導路。
ここで断裂面Bへ届く。
《現地同調率:44%》
低い。
ジョウゴ「やっぱり最後が難しいな」
レント「断裂面Bは地震でかなり位置がずれている」
探査結果を見る。
天然鉱脈は途中で斜め上へ折れている。
導路をそのままつなぐと、魔力脈同士が正面からぶつからない。
ジョウゴ「可動部を少し伸ばす」
接続部を調整。
《現地同調率:58%》
角度を上へ。
《現地同調率:71%》
左へ。
《現地同調率:84%》
ミナ「もう少し」
ジョウゴ「ああ」
最後に導路先端を僅かに回転させる。
《現地同調率:93%》
《断裂面Bとの接続が可能です》
ジョウゴ「固定する」
カチリ、と接続具が噛み合う。
《《蒼月安定導路・第一断裂部用》》
《物理設置:完了》
《総設置長:約4.6メートル》
《中継核:3/3正常》
《断裂面A同調率:95%》
《断裂面B同調率:93%》
《仮設魔力遮断具:全閉》
《魔力流入:停止中》
設置できた。
ここからが本番だ。
◇◇◇
ジョウゴ「バルガの指示通り、区間ごとに開ける」
最初は断裂面Aから一号中継核まで。
《第一遮断具:10%開放》
青い光が導路へ入る。
《一号導路:正常》
《一号中継核:魔力流入》
《異常発熱:なし》
ジョウゴ「二十五%」
《第一遮断具:25%開放》
《一号中継核:正常》
五十%。
七十五%。
そして百%。
《第一区間:正常稼働》
問題なし。
ジョウゴ「次、第二区間」
中央へ進める。
魔力が二号導路を通り、中央の青月石へ入った。
《二号中継核:魔力流入》
《蓄積量:12%》
《放出安定性:正常》
徐々に開放する。
《魔力流入率:25%》
《魔力流入率:50%》
《魔力流入率:75%》
その時。
《二号中継核温度:微上昇》
ミナ「温度上がった」
ジョウゴ「止める?」
レント「警告域ではない。上昇も止まりつつある」
数秒待つ。
《二号中継核温度:安定》
《状態:正常範囲》
ジョウゴ「……続ける」
百%。
《第二区間:正常稼働》
ミナ「大丈夫」
次に第三区間。
三号中継核。
こちらも問題なく通る。
《第三区間:正常稼働》
残るのは最後。
断裂面Bへの接続だけ。
ジョウゴ「ここを開ければ、向こう側につながる」
カイト「いつでも止められるぞ」
ミナ「こっちも大丈夫」
レント「観測器、正常」
俺は最後の遮断具へ手をかけた。
十%。
《断裂面Bへの魔力伝達開始》
《観測器B:基準流量28》
二十二から二十八。
二十五%。
《基準流量:41》
五十%。
《基準流量:59》
七十五%。
《基準流量:76》
導路全体が淡い青色に輝いている。
三つの青月石が順番に光り、流れてきた魔力を受け止め、整え、次へ送る。
異常発熱なし。
逆流なし。
波長乱れも許容範囲。
ジョウゴ「全開にする」
最後の遮断具を開いた。
《魔力流入率:100%》
一瞬。
洞窟が静かになったように感じた。
そして。
ドクン――。
地面の奥から、巨大な鼓動のような響きが伝わった。
ミナ「……!」
青晶鉄鉱の主鉱脈が光る。
断裂面A。
蒼月安定導路。
三つの中継核。
断裂面B。
さらに、その先。
青い光が洞窟の壁の中を走っていった。
《大規模魔力循環を検出》
《蒼月晶安定波長:流入》
《第一断裂部《蒼月安定導路》:正常稼働》
《一号中継核:正常》
《二号中継核:正常》
《三号中継核:正常》
《異常発熱:なし》
《魔力逆流:なし》
《断裂面A:正常》
《断裂面B:正常》
レント「観測器B!」
数値を見る。
《基準流量:94》
《波長保持率:88%》
《第一断裂部伝達損失率:6%》
カイト「七十八から六?」
ジョウゴ「ああ……」
大幅に改善した。
だが、まだ喜ぶのは早い。
ジョウゴ「十五分見る」
誰も反対しなかった。
◇◇◇
五分。
問題なし。
十分。
二号中継核の温度が僅かに高いが、正常範囲。
十五分。
《連続稼働時間:15分》
《第一断裂部魔力流量:安定》
《伝達損失率:5~7%》
《安定波長保持率:87~90%》
《中継核:全基正常》
《岩盤異常:なし》
《魔力逆流:なし》
《総合判定:安定》
そして。
《青晶鉄鉱主鉱脈・第一断裂部》
《魔力循環経路の再接続に成功しました》
《第一断裂部修復:完了》
《第二断裂部修復:完了》
《主要魔力伝達障害:解消》
《特殊クエスト《途切れた蒼月の流れ》が進行しました》
《第三段階進行度:97%→100%》
《第三段階《途切れた蒼月の流れ》達成》
続けて、新しい表示が現れた。
《蒼月泉から蒼晶竜の幼竜までの魔力循環経路が再形成されました》
《安定波長伝達率を再計測しています》
ジョウゴ「幼竜のところへ戻ろう」
俺たちは急いだ。
ただし走りすぎない。
洞窟内で転ぶようなことだけは避ける。
◇◇◇
蒼晶竜のいる空間が近づいた時点で、変化が分かった。
明るい。
周囲の青晶鉄鉱が、今までとは比べものにならないほど強く、それでいて柔らかな青い光を放っている。
そして洞窟全体を、一定のリズムで魔力が流れていた。
トクン。
トクン。
まるで山そのものに心臓があるような感覚だった。
《青晶洞・魔力循環状態》
《蒼月泉》
《↓》
《青晶鉄鉱主鉱脈》
《↓》
《第一断裂部《蒼月安定導路》》
《↓》
《第二断裂部《蒼月安定導路》》
《↓》
《蒼晶竜生息域》
《魔力循環:再形成》
《安定波長伝達:大幅改善》
蒼晶竜は立ち上がっていた。
巨大な身体を起こし、洞窟の奥を見つめている。
蒼晶竜「……聞こえる……」
その声が震えていた。
蒼晶竜「……泉の声が……」
九十年以上。
途切れていた声。
蒼晶竜「……あの日より……失われていた……蒼月の声が……」
その足元。
幼竜の身体を淡い青白い光が包んでいた。
《蒼晶竜の幼竜》
《Lv:1》
《蒼月晶安定波長:受容中》
《魔力核安定度:上昇》
《重度魔力欠乏:改善中》
《生命力:回復傾向》
ミナ「……届いた」
ジョウゴ「ああ」
幼竜が目を開ける。
ゆっくりと前脚を床へつけた。
昨日のように震えながらではない。
身体を起こす。
立ち上がる。
そして。
幼竜「キュッ!」
一歩。
小さな脚が前へ出た。
もう一歩。
さらに一歩。
ミナのところまで歩いてくる。
ミナ「来た……!」
ミナがしゃがみ込む。
幼竜はその目の前まで来ると、小さな頭をミナの手へ押しつけた。
幼竜「キュゥ」
ミナ「よかった……」
まだ完全回復ではない。
状態表示にも《改善中》とある。
だから、これで全部終わったとは言えない。
それでも、昨日まで自分の身体を支えるだけで精一杯だった幼竜が、自分の意思で歩いた。
蒼月泉の力は確かに届いている。
俺たちが架けた橋を通って。
九十年以上途切れていた、蒼月の流れが戻ってきたのだった。




