第53話 蒼晶竜の願い
《特殊クエストが発生しました》
《蒼晶竜の願い》
《詳細条件:未開示》
《受注選択:保留》
青晶洞の第一分岐。
その右側の暗闇から姿を現した古竜――《蒼晶竜》は、俺たちへ一つの願いがあると告げた。
その巨大な身体には蒼黒い鱗が並び、ところどころに青い結晶が混じっている。
そして、その傍らには一頭の小さな幼竜が横たわっていた。
《蒼晶竜の幼竜》
《Lv:1》
《状態:重度魔力欠乏》
《生命力低下》
これまで青晶洞で発生していた魔力濃度の異常上昇は、この幼竜を生かすためだった。
親である蒼晶竜が大量の魔力を洞窟へ放出し、《青晶鉄鉱》の鉱脈を通じて幼竜へ魔力を送り続けていた。
その結果として洞窟内の魔力濃度が上がり、さらに地下水を通じて下流にまで影響が広がっていたらしい。
ただし、この方法ではもう限界が近い。
幼竜だけではない。
親である蒼晶竜にも《魔力大量消耗》という状態が表示されている。
俺――ジョウゴは、腰の《星月》から手を離したまま蒼晶竜を見上げた。
ジョウゴ「頼みというのは、その子を助けることですか?」
蒼晶竜「……そうだ……」
低い声が洞窟へ響く。
しかし、最初に聞いた時ほど強い圧迫感はなかった。
弱っている。
そう思って見ると、巨大な身体も呼吸のたびに僅かに揺れていることが分かる。
ミナ「どうすれば助けられるんですか?」
ミナが心配そうに幼竜を見る。
幼竜は顔を上げる力もほとんど残っていないらしい。
幼竜「……キュゥ……」
小さな声。
それを聞いたミナの表情がさらに曇った。
カイト「これは放っておけないよな……」
レント「ああ。ただ、方法を確認するのが先だ」
その通りだ。
助けたいという気持ちだけで動いて、逆に悪化させたら意味がない。
ジョウゴ「その子は、どうして魔力欠乏になったんですか?」
蒼晶竜はすぐには答えなかった。
ゆっくりと幼竜へ視線を向ける。
蒼晶竜「……この仔は……生まれながらに……魔力核が弱い……」
ジョウゴ「魔力核?」
蒼晶竜「……我ら竜種が……力を巡らせる……命の核だ……」
人間でいう心臓と同じものかと思ったけど、たぶん少し違う。
魔力を生み出し、蓄え、全身へ循環させるための器官。
そんなところだろう。
蒼晶竜「……本来ならば……成長とともに……安定する……」
レント「安定しなかった?」
蒼晶竜「……ああ……」
蒼晶竜の目が細くなる。
蒼晶竜「……この仔の核は……力を留められぬ……」
なるほど。
魔力を与えても、保持できない。
だから親が周囲の魔力濃度そのものを上げ、常に供給し続ける必要がある。
ジョウゴ「魔力を直接与えるだけでは駄目なんですね」
蒼晶竜「……一時は……満たせる……だが……すぐに……失われる……」
ミナ「だからずっと魔力を送り続けてたんだ……」
蒼晶竜は小さく頷いた。
◇◇◇
そこで俺は、一つ気になった。
ジョウゴ「助ける方法があると言いましたよね?」
蒼晶竜「……ある……」
巨大な頭がゆっくりと動く。
視線が洞窟のさらに奥へ向いた。
蒼晶竜「……この洞の……さらに深き場所に……《蒼月泉》がある……」
「蒼月……」
昨日。
ギルド。
古い。
記録。
見た。
この一帯。
昔。
《蒼月の谷》。
呼ばれていた。
偶然。
では。
なさそう。
蒼晶竜「……かつて……この地に満ちていた……魔力が……集う泉だ……」
レント「その泉の魔力なら幼竜を助けられる?」
蒼晶竜「……泉のみでは……足りぬ……」
まだ。
何か。
必要。
らしい。
蒼晶竜「……泉の底に……《蒼月晶》が眠る……」
聞いたことのない素材名。
システムが反応する。
《未知素材情報を取得しました》
《蒼月晶》
《詳細情報:未開示》
《青晶洞深部に存在するとされる特殊結晶》
カイト「また石?」
ジョウゴ「バルガが聞いたら喜びそうだな」
レント「今は言うな」
同感。
この場。
バルガ。
いなくて。
良かった。
いたら。
蒼月晶。
聞いた。
瞬間。
奥。
走って。
行きそう。
◇◇◇
ジョウゴ「その蒼月晶を持ってくればいいんですか?」
しかし、蒼晶竜は首を横へ振った。
蒼晶竜「……違う……」
ジョウゴ「違う?」
蒼晶竜「……蒼月晶は……泉より離せば……力を失う……」
持ち帰れない。
つまり。
幼竜。
泉。
まで。
連れていく。
必要。
ある?
ミナ「じゃあ、その子を蒼月泉まで連れていけば?」
蒼晶竜「……今の仔には……耐えられぬ……」
さらに。
問題。
ある。
蒼晶竜「……泉へ至る道は……長く閉ざされている……」
ジョウゴ「閉ざされている?」
蒼晶竜「……地の揺れにより……岩が崩れ……我の身体では……通れぬ……」
巨大。
だから。
通れない。
俺たち。
なら?
そう。
考えた。
直後。
システム。
鳴る。
《特殊クエスト《蒼晶竜の願い》の詳細が開示されました》
《目的:青晶洞深部《蒼月泉》への経路確認》
《目的:特殊結晶《蒼月晶》の状態確認》
《目的:幼竜の魔力核を安定させる方法の調査》
《蒼晶竜との関係:中立》
《推奨Lv:不明》
《制限:蒼晶竜および幼竜への敵対行動禁止》
《期限:未設定》
《注意:深部未調査区域》
俺。
表示。
読む。
討伐。
ない。
採取。
ですら。
ない。
まず。
調査。
しろ。
クエスト。
らしい。
◇◇◇
カイト「推奨レベル不明が怖いな」
レント「今すぐ行くべきではない」
ジョウゴ「俺もそう思う」
蒼晶竜。
見る。
ジョウゴ「一つ確認してもいいですか?」
蒼晶竜「……何だ……」
ジョウゴ「蒼月泉までの道に危険な魔物はいますか?」
重要。
そこ。
蒼晶竜。
少し。
考える。
蒼晶竜「……かつては……いなかった……」
カイト「かつては?」
蒼晶竜「……だが……我は長く……奥へ行っていない……」
やっぱり。
保証。
ない。
しかも。
崩落。
ある。
地形。
変わってる。
新しい。
魔物。
住み着いてる。
可能性。
ある。
ジョウゴ「分かりました」
ここ。
勢い。
受ける。
違う。
まず。
ギルド。
報告。
必要。
特殊クエスト。
発生。
した。
から。
プレイヤー。
勝手。
進める。
こと。
できる。
かもしれない。
でも。
青晶洞。
ギルド。
管理。
始めた。
場所。
しかも。
立入禁止。
中。
勝手。
深部。
行く。
わけ。
いかない。
◇◇◇
ジョウゴ「俺たちは、その子を助けたいと思っています」
ミナ。
すぐ。
頷く。
ミナ「うん」
カイト「俺も」
レント「可能な範囲で協力したい」
俺。
続ける。
ジョウゴ「でも、今すぐ奥へ行くことはできません」
蒼晶竜。
黄色。
目。
俺。
見る。
ジョウゴ「俺たちはこの洞窟を管理している冒険者ギルドから許可を得て入っています。深部へ行くなら、まず情報を持ち帰って準備する必要があります」
しばらく。
沈黙。
怒る?
分からない。
でも。
嘘。
言って。
今。
行く。
方。
駄目。
やがて。
蒼晶竜「……それでよい……」
少し。
安心。
する。
蒼晶竜「……急ぎ……命を捨てる者に……我が仔を……託すことはできぬ……」
「……」
なるほど。
試された。
わけ。
では。
ない。
だろう。
でも。
この竜。
ちゃんと。
分かってる。
無謀。
勇気。
違う。
ジョウゴ「ありがとうございます」
《特殊クエスト《蒼晶竜の願い》を受注しました》
《第一段階:蒼月泉への探索準備》
《ギルドへの情報共有を推奨します》
システムまで。
準備。
しろ。
言ってる。
◇◇◇
そこで。
ミナ。
一歩。
前。
出る。
ミナ「あの」
蒼晶竜。
見る。
ミナ「その子に《ヒール》を使ってもいいですか?」
俺。
ミナ。
見る。
勝手。
使わない。
ちゃんと。
聞く。
それ。
正しい。
蒼晶竜「……人の癒やしでは……核は治らぬ……」
ミナ「それでも、生命力が下がってるなら少し楽にできるかもしれません」
蒼晶竜。
幼竜。
見る。
そして。
蒼晶竜「……許す……」
ミナ「ありがとう」
ミナ。
ゆっくり。
近づく。
俺たち。
その場。
待つ。
幼竜。
少し。
顔。
上げる。
ミナ「怖くないよ」
幼竜「……キュ……」
ミナ「《ヒール》」
柔らかい。
光。
幼竜。
包む。
《ヒール》
《HP回復》
《生命力低下を一時緩和》
《重度魔力欠乏:変化なし》
やっぱり。
根本。
治らない。
でも。
幼竜。
呼吸。
少し。
落ち着く。
幼竜「……キュゥ……」
ミナ。
笑う。
ミナ「少し楽になった?」
幼竜。
頭。
僅か。
動かす。
ミナ。
顔。
完全。
緩む。
カイト「これはもうミナが絶対助けるやつだ」
レント「最初からそのつもりだっただろう」
ジョウゴ「だな」
ミナ「聞こえてるよ!」
◇◇◇
そして。
俺。
ふと。
気づく。
幼竜。
近く。
青晶鉄鉱。
壁。
ある。
そこ。
青い。
光。
ゆっくり。
明滅。
している。
呼吸。
みたい。
でも。
蒼晶竜。
呼吸。
違う。
幼竜。
呼吸。
同期。
してる。
「……」
俺。
近づかず。
見る。
鑑定。
《青晶鉄鉱脈》
《魔力流動:確認》
《流動方向:幼竜》
やっぱり。
ジョウゴ「魔力が幼竜へ流れてる」
レント「鉱脈から?」
ジョウゴ「ああ」
蒼晶竜。
魔力。
洞窟。
満たす。
青晶鉄鉱。
吸う。
鉱脈。
伝える。
幼竜。
送る。
まるで。
洞窟。
全部。
巨大。
生命維持装置。
みたい。
だ。
◇◇◇
その時。
俺。
腰。
星月。
微か。
震える。
《星蒼導流鋼芯》
《外部魔力反応》
《外部魔力流入:手動遮断中》
反応。
する。
でも。
遮断。
効いてる。
そして。
もう一つ。
《青晶鉄鉱脈との魔力波長類似を確認》
「……え?」
新しい。
表示。
《星蒼導流鋼》
《青晶鉄鉱》
《魔力伝導波長:部分一致》
俺。
止まる。
ジョウゴ「レント」
レント「どうした?」
ジョウゴ「星月と青晶鉄鉱の魔力波長が一部一致してる」
蒼鉄。
星蒼導流鋼。
青晶鉄鉱。
どっち。
蒼鉄系。
成分。
ある。
だから。
似る。
可能性。
ある。
でも。
それだけ?
俺。
星月。
抜かない。
状態。
鑑定。
続ける。
《特殊条件を確認》
《生産技能《槌打ちLv.1》》
《称号《刀の先駆者》》
《称号《魔導刀開拓者》》
《特殊鍛冶技術《星蒼導流鋼芯刀剣構造》》
《青晶鉄鉱研究情報》
《条件の一部を満たしました》
「条件?」
でも。
その先。
出ない。
《情報不足》
また。
これ。
ジョウゴ「何かありそうだ」
カイト「何が?」
ジョウゴ「まだ分からない」
だから。
今。
決めつけない。
バルガ。
見せる。
必要。
ある。
◇◇◇
帰る。
前。
俺。
蒼晶竜。
見る。
ジョウゴ「一つだけ聞いてもいいですか?」
蒼晶竜「……よい……」
ジョウゴ「蒼月晶は、どんな結晶なんですか?」
古竜。
答える。
蒼晶竜「……月の光を宿し……魔力を蓄え……巡らせ……安定させる石……」
「……」
魔力。
蓄える。
巡らせる。
安定。
させる。
青月石。
似てる。
でも。
もっと。
上?
蒼晶竜「……我ら蒼晶竜は……生まれし時……その力を受け……核を育てる……」
幼竜。
魔力核。
弱い。
なら。
蒼月晶。
力。
必要。
でも。
泉。
道。
塞がってる。
だから。
行けない。
それ。
今回。
問題。
か。
ジョウゴ「分かりました。必ず戻ります」
言ってから。
少し。
思う。
必ず。
軽く。
言う。
言葉。
じゃない。
でも。
今回は。
言いたかった。
蒼晶竜。
静か。
俺。
見る。
蒼晶竜「……待とう……人の剣士よ……」
《蒼晶竜との関係が変化しました》
《中立→友好》
「……」
俺。
少し。
驚く。
でも。
嬉しい。
戦って。
上がった。
関係。
じゃない。
話して。
信用。
少し。
得た。
結果。
だ。
◇◇◇
青晶洞を出る。
外。
待っていた。
調査員。
俺たち。
見る。
調査員「無事ですね」
ジョウゴ「はい。それと、かなり重要な情報があります」
調査員「すぐギルドへ?」
ジョウゴ「お願いします」
シズナ。
戻る。
冒険者ギルド。
会議室。
グレイス副支部長。
待っている。
俺たち。
全部。
報告。
する。
幼竜。
蒼晶竜。
魔力核。
蒼月泉。
蒼月晶。
崩落。
塞がった。
経路。
そして。
特殊クエスト。
《蒼晶竜の願い》。
グレイス副支部長は最後まで黙って聞いていた。
グレイス「……なるほど」
地図。
見る。
グレイス「つまり、魔力異常は攻撃や災害の前兆ではなく、幼竜を生かすための行動だった可能性が高い」
ジョウゴ「はい」
グレイス「ならば対応方針を変更する必要がある」
レント「討伐対象には?」
グレイス「しない」
即答。
グレイス「少なくとも現時点で蒼晶竜はシズナにも冒険者にも敵対していない。事情が判明した以上、こちらから敵対する理由はない」
ミナ「良かった……」
ミナ。
本当に。
安心。
する。
グレイス「それどころか、幼竜を救うことで魔力異常そのものが収まる可能性がある」
ジョウゴ「俺もそう思います」
幼竜。
安定。
すれば。
親。
大量。
魔力。
放出。
必要。
なくなる。
青晶鉄鉱。
通じた。
魔力。
拡散。
減る。
周辺。
魔物。
活性化。
問題。
改善。
可能性。
高い。
つまり。
幼竜。
助ける。
こと。
シズナ。
安全。
繋がる。
◇◇◇
グレイス「ただし深部探索となれば話は別だ」
ジョウゴ「はい」
グレイス「推奨レベル不明。地形不明。生息魔物不明。崩落箇所もある」
危険。
多い。
グレイス「まずギルド側で古い記録をさらに調べる」
レント「蒼月泉の記録?」
グレイス「それも含めてだ」
そして。
俺。
見る。
グレイス「君たちは準備を整えてくれ」
ジョウゴ「分かりました」
《特殊クエスト《蒼晶竜の願い》》
《第一段階が進行しました》
《冒険者ギルドとの情報共有:完了》
《蒼月泉への探索準備:開始》
進んだ。
◇◇◇
ギルド。
出る。
そのまま。
銀麦亭。
ではなく。
行く。
場所。
一つ。
ある。
バルガ。
工房。
扉。
開ける。
ジョウゴ「バルガ」
バルガ「おう! どうだった!」
ジョウゴ「色々分かった」
バルガ「鉱石か!」
ジョウゴ「竜の子供」
バルガ「……は?」
そこから。
説明。
する。
蒼晶竜。
幼竜。
魔力核。
青晶鉄鉱。
鉱脈。
そして。
蒼月晶。
バルガ「蒼月晶……」
やっぱり。
そこ。
食いつく。
ジョウゴ「取りに行く素材じゃないからな」
バルガ「分かってる!」
ジョウゴ「本当に?」
バルガ「今回は分かってる!」
今回は。
って。
言った。
でも。
まあ。
いい。
ジョウゴ「それと、これ」
星月。
表示。
見せる。
《星蒼導流鋼》
《青晶鉄鉱》
《魔力伝導波長:部分一致》
バルガ。
顔。
変わる。
バルガ「……待て」
作業台。
青晶鉄鉱。
持ってくる。
星月。
隣。
置く。
測定。
する。
数秒。
《波長類似率:63%》
バルガ「高ぇ」
ジョウゴ「やっぱり?」
バルガ「ああ。蒼鉄系だからってだけじゃ説明しきれねぇ」
ミナ「じゃあ?」
バルガ「この辺りの蒼鉄そのものが、青晶洞の魔力の影響を受けてる可能性がある」
南洞窟。
蒼鉄。
月影渓谷。
青月石。
北東。
青鉄砂。
青晶鉄鉱。
地域。
違う。
素材。
性質。
違う。
でも。
魔力。
鉱物。
影響。
する。
世界。
なら。
あり得る。
そして。
バルガ。
次。
言う。
バルガ「もし《蒼月晶》が青晶鉄鉱の元になる魔力特性を持ってるなら……」
途中。
止まる。
ジョウゴ「なら?」
バルガ「星月の安全機構を完成させるヒントになるかもしれねぇ」
俺。
星月。
見る。
幼竜。
助ける。
ため。
探す。
蒼月晶。
でも。
それ。
同時。
星月。
新しい。
安全性。
繋がる。
可能性。
ある。
ただ。
ジョウゴ「優先順位は間違えない」
バルガ「ああ」
珍しく。
真面目。
返事。
バルガ「まず竜の仔だ」
俺。
頷く。
次。
目的。
決まった。
未知。
青晶洞。
深部。
その先。
眠る。
《蒼月泉》。
そして。
幼竜。
命。
繋ぐ。
《蒼月晶》。
今度。
俺たち。
洞窟。
入る。
理由。
素材。
ため。
でも。
レベル上げ。
ため。
でもない。
一つ。
小さな。
命。
助ける。
ため。
だった。




